家具産業の新方向と課題 熱海清談(下)

熱海清談(下)
一般社団法人日本家具産業振興会会長カリモク家具相談役

加藤知成

聞く人
長島貴好(本紙社長)

「家を持つ意味」の変化

長島 実はここ数年考えさせられてきたことに、日本の家具産地の存在があります。もともと、日本木工新聞編集長時代は「家具産地」といわずに「家具の生産地域」または「生産地」と書きました。理由は家具は農作物や自然産品ではないからです。工業製品ですね。その生産地の今後です。

加藤 私は家具メーカーが変わっていかなければならないと痛感しています。本当にお客さんのニーズが分かっているのか、と疑わざるを得ません。東北大震災の後、広島の山裾で起きた住宅地滑り崩壊、そして熊本地震、その前に茨城の大水害がありました。これだけ続いて起きると「家を持つ意味」が違ってきていませんか。

前に御社の記者にも話しましたが、小樽で鰊御殿に泊まったことがあるんです。道産材をナラ、カバ、セン、ほか5 樹種くらい使って、宮大工が豪壮に造った物です。ガイドさんが鰊で儲けたお大尽の家だ、というんですが、私はこれは「鰊の豊漁を願って建てた神殿ではないか」と思いました。豪邸の至る所に鰊の彫刻があるんですね。

かつての奥尻の地震にも影響はなかった、と聞きました。作ったのは宮大工だといいましたが、宮大工は徒弟制度だから親方が材料の全てを使用配分するわけです。

長島 一般的な私などが住む住宅の域外のものですね。いまの住宅イメージからはみ出します。

加藤 だから東京に大工は居なくなったといわれます。もっとも、地方の復興建設で大工は不足しているわけですが。で、そこで実はリノベーションは家具屋の役割になったと、これを東京都家具工業会がいうのです。

長島 ところで加藤さんは四国遍路を始めたそうですね。心境になにが起きました。

加藤 廻ると言ってもタクシーで、3月に始めて6月でもう終わります。60数カ所の寺を廻りました。四国は空海以前の行基という坊さんで始まるんですね。

長島 で、なにを悟りました(笑)。

加藤 「皆を喜ばせるということだ」ということですかね。昨年で喜寿を迎えて、他人を喜ばせることは、自分の喜びになると思ったわけです。まずは「相手に対する感謝、お礼の気持ち、いわば報恩だ」と。考えてみたら身近なところで、夫婦で旅もできない人もいるわけです。

しかし、四国を廻って実際に車いすで88カ所を、廻っている人がいるんです。健康が第一ですし、やはり日本は聖徳太子の「和を以って貴しと為す」で、仏教の教えに近いものが日々に生きているんですね。また、地域には地域の文化があります。それを一方で調べているわけです。そういう流れからすると、伝統産品イコール保護に回っていますが、実は革新・拡大が伝産品の骨子にあるのではないか、と思い至りました。

長島 先に鰊御殿は神殿だといいましたね。では一般の住宅はどういう位置づけでしょう。

加藤 家という字はウ冠に豚と書きますね。豚は神への生贄です。で、家は祈りの場所なんですね。だから「財」を捧げて「家具」という。家具とは人の想いというか祈りみたいのが込められているんです。

長島 またまた難しくなってきた(笑)。が、重大なことを語られているとは思いますよ。心理的な精神医学のような分野へも入り込みます。

ところで、これからの業界経済はどうなるとみています。とにかく消費税増税は延期になりましたが、個人消費が伸びませんね。

ユーザーが付加価値を付ける時代に

加藤 お客さんの価値観が変わりました。すると今いる社員の意識を変えないと如何ともし難い。大手企業の管理職が社員の生殺与奪権を握っていたがるようでは駄目です。だから変わってきたお客さんの意識にどう応えた製品を開発し、提供するかが、我々の事業責務であり個人消費の拡大になると思います。

長島 マネージメントとはなにか、加藤さんは「経営」と訳すようですが「道理」とか「継続」とかの世界が歪んでいくとおかしくなりますね。卑近な例ですが、家具店のバイヤーが満足する話では困るんです。そこにお客のニーズを据える話にならないとまずい。

加藤 個々のお客のニーズに応えることをトヨタは追求しています。そのお客の車を作り、ニーズに応える。従来、付加価値というのはメーカーや販売店が付けるという感覚だった。しかし、実はユーザーが付加価値をニーズ商品に付ける時代になったんです。

長島 トヨタは水素エネルギーを同業他社へも特許を開放しましたね。お客の付加価値に車業界として応えたわけです。三菱の偽装省エネなど論外の話ですね。

加藤 先の号で互いに話しましたが、大元の原理原則は不変です。目先のごまかしは所詮マイナスへ陥ります。鰊御殿はごまかしでは歴史上残せない。遍路をおもてなしする宿坊も、飲食を提供する人たちも、一貫して変わることのない「おもてなしの心を込めて」返礼を求めることなく歴史を刻んできたんですね。それが絶えることのない遍路さんを四国霊場へ招いているんです。

私達の事業も商売も同じではないでしょうか。お客さん一人一人の心に遍路さんと同じような、異なった悩みや祈りがあるわけで、そういう人達へおもてなしできるのか、そうした製品をお買い上げいただいているのかを常にどこかに持っている必要があると思います。

長島 商売は理屈ではないといいますが、お客さんのニーズに応えてこそ意義がある。お客の付加価値づくりですね。また来年、この会で清談しましょう。

(6月7日 後楽園ホテル、村内会・熱海にて)。


この記事は紙面の一部を抜粋しています

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