2017年 新春特別インタビュー:由木文彦 氏

由木文彦 氏
国土交通省住宅局長

由木文彦

聞く人
長島貴好(本紙社長)

住宅供給は量から暮らしの質へ

長島 国民の住宅政策を担うトップである由木局長さんは大変なお立場にあると思います。生活環境という面からみると非常に住宅政策は幅広い。まさに国民の暮らしにとって重要な、衣食住をも絡んだ大変なポジションだと思われます。

由木 私一人で仕事してるわけではありませんから(笑)。

長島 行政の方向舵ですね。政治関係というのはまさに大筋を決めて、落とし込むわけですが、官庁は行政所管の現場に対応しつつ政策を進めるところですね。現在、住生活の面では特に転換期が来ているのではないでしょうか。国土交通省住宅局として、今大きな課題面では、どのような取り組みをされているんでしょうか。それから今後どのような政策志向をされておられますか。

由木 政策における大きな転機というのは、平成18年に住生活基本法が制定され、以前からの「住宅建設五カ年計画」を中心とした、量的供給政策から「質」への転換を図りました。

住まいの箱を作ることから、その中での住生活、消費者の暮らしの質というものを正面に据えて政策を進めていこうという大転換を18年にやったわけです。この法律に基づき、昨年の3月に新しい住生活基本計画を閣議決定しました。18年に大転換してちょうど10年目ということで、第1期を終えて第2期計画というところです。

長島 第2期の時限立法ですか。

由木 方向性は変えてないんです。基本的には「質」を考えるということと、加えて住生活の面で消費者サイドに立った政策をやっていこうということです。今回の計画の特徴ですが、従来の政策の流れを主に3点ほど強化しています。一つは住む人に重点を置いて、今までの高齢者とか障害者とかに加えて、特に「若者」、それから「子育て世代」を視点に入れたことです。いま若い人たちの所得が下がっていたり、あるいは非正規が増えていたりしています。昔は若者は放っておいてもちゃんと職を得て、住宅も最初独りのときには何処かアパートに入っていて、結婚して少しづつ大きな住宅に移っていく。所得がだんだん右肩上がりになっていく前提がありました。

しかし、今は非常に若者が将来不安を抱えています。若者自身が傷んでいるものですから、そこに「住まいの支援」という面で、若者という視点を入れたということです。若者と子育て世代という視点です。

インタビュー時

次に二つ目の特徴としては、従来の流れを強化しつつ特に既存住宅を対象に、その流通促進を計ることです。ご案内の通り住宅の数そのものは6000万戸超えています。世帯数は5200万戸ですから、800万も住宅が余っています。一方、その中ではまだ耐震性に問題がある住宅等がたくさんあります。

省エネなども含め質の悪いものもありますし、それなりにストックは手を入れていかなければいけない。やっぱり今あるストックを上手にまた十分に使って、住生活を充実させる。そういう方向に、基本的には舵を切らなければいけないという方向性を明確に打ち出したということです。

それから三つ目は、今まで住宅産業は住宅を作ることばかり追求してきたきらいがあります。しかし、住生活という観点からすると、ものすごく幅は広いんですね。まさに長島さんの業界の家具インテリアもそうですし、あるいは健康産業も、エンターテインメントまで含まれます。

さらに生活文化という面で考えると、例えば伝統工芸、芸術の分野まで含まれますね。あるいはIoTみたいなこれからの可能性から考えるとAIまであって、住生活産業はできるだけ広く捉えて、それらをできるだけ活性化していく方向を打ち出していく、それが三つ目のテーマです。

特に三つ目については、今まではエコとかはありましたけれど、健康とか文化などの関連で住生活を捉え、ただ住むだけではなくて、何か「価値を実現する」という方向を目指して、これから具体的な施策を展開していこうと思います。

長島 家具の流れが「モノ・コト・シーン」って言って、戦後、単にモノとして充足し、モノとして使用されてた時代から、次にモノからコトという機能を持つことによって便利さや家庭生活の豊かさを創る。現在はさらに安らぎや健康、家族のコミュニケーションという暮らし方、高齢者の癒し生活などのシーンを創造提供する、という段階に来ています。

由木 昔から何となく家具ってイタリア風とか北欧風とか、そういうのがありましたね。でも本当は「何とか風」というんじゃなくて、その背後にある生活文化というか、どういうことをこの世の中に生きていく上で実現したいのかというのがあって、それを形としてしつらえていくということなんだと思うんですね。

「和」も同じです。家、族が大きなテーブルで団欒をしたり、勉強したりするっていうスタイルは昔からのままですね。それから食事でも和食に適したしつらえと、そうでないものがあるはずです。そういうベースの生活文化があって、そこから来るものがインテリアとか、家具だとかになってるはずなんです。なのに何か「風」という雰囲気だけを売るというのは、どうなのかなっていう感じで私自身はずっと思っていました。

長島 おっしゃる通り、衣食住のうち最後に大事なのは「住」で、衣食足りて礼節を知るのが住生活です。私自身も年齢を重ねてきて、基本的な自身の居場所というか、暮らす場として考えるようになりました。

住生活は家具から芸術文化まで

由木 その通りだと思います。やはり一番には、実際に住んでおられる方のニーズを直に感じられるところではないでしょうか。介護でも、高齢者の健常化維持の接点も、やっぱり家具が担う役割は大きいんですね。そこから例えば間取りの提案などが、あって然るべきです。

長島 いまのお話を伺って、非常に重要なポイントですが、住宅政策面でやっぱり都市とか生活環境とか、町の機能、そういったことも非常に重要になりますね。アクセスだとか、商業地域、医療地域、あるいは、もし二世帯であるならば、学校だとか、地域のコミュニケーションの場とか、そういう観点です。

インタビュー時

由木 今までは住宅地とか、まあどちらかと言うと「住宅をきちんと造る」という方向でモノを考えてきたんですね。まあ、そこも大切なんですが、これから昔造った住宅地をどうしていこうかという問題です。

団地は空き家もどんどん増えていますし、高齢化も進んでます。そこが今後の大切なテーマです。もう一つに、太田前国土交通大臣が21世紀のグランドデザインで広められた、コンパクトシティという非常に大切なコンセプトがあります。要は郊外に住宅団地を作るよりは、むしろ都市の中にコンパクトにいろんな用途が整備されている、生活機能が発揮できるように密度を高めていく、そういうコンセプトです。

住むということ、生活がまず中心にあって、そこを支えるのは衣食住ですけれども、それ以外にどこで働くか、どこで余暇を過ごすのか。また買い物をするのか、何を求めるかなど全てトータルで捉えていく、そういう意味で総合的な住生活を形成していくということが、すごく大切だと思います。

特に既存住宅の活用は場所がある意味選択しやすいわけです。できるだけ希望する場所にある住宅という視点で探しますから。新築住宅はどちらかというと、どこに新しいのが建つか分かりませんし、マンションが一棟建ってもそこのマンションでしか選べませんね。でも既存住宅の良い所は、例えば「この場所に住みたい」と思えば、すぐに住めるか分からないけれども、そこで物件を探すことができます。要は一件良い物件が見つかれば良いわけであって、丸々一棟新しいマンションを建てて頂く必要はありません。

多様化するニーズ選択は、既存住宅流通にマッチするのではないかと思っています。まさにコンパクトシティのあり方です。もう一つ考えなければいけないのは、郊外に今までローンを組んで、一生懸命働いて家を買っても、その人たちがそこに住んでるうちはいいけれど、お子さんも独立し自分もそろそろ歳をとってきたので、もうちょっと便利な、病院も近い、買い物も近いところに移りたいというニーズが必ずあると思うんです。

ところがそういう流通ができる値段がつかないんですね。そうするとお年寄りがせっかく一生かけて作ったその資産が活かせません。そのため施設に入るのに貯蓄を別途にしなくてはいけなくなります。そういう話が今起こっているんです。いま在る資産というものがきちんと評価されて、市場の中で回していけることが、お年寄りの為にもなるし、かつそれを欲しがる若い層も、新築住宅は高いですから、なかなか手が出ない。もう少し既存住宅が手頃な値段で流通するようになれば、全体としてうまく回るようになるんじゃないでしょうか。

長島 それと局長さんの所管とはちょっと離れますが、どうしても欠かせないのが、経済ですね。私の若い時代はまともに働けば、3回くらい家を買い替えると身分不相応な家でも買えたんですよ。

既存住宅の活用で若者と子育て支援

由木 一つはさっき話した手頃な既存住宅が回ってくれることです。それなりの所得で次の住宅が手に入れられるという循環です。ただこれは持ち家が買える層なので非正規労働の人達はなかなか手が出ないと思います。それで次の国会で我々が考えようと思っているのは、先ほどちょっと申し上げました空き家がいっぱいあるわけです。特に賃貸アパートですね。そういうものをできるだけうまく使って、高い家賃は取れないけれど、空かせておくよりは若者とか、高齢の単身世帯がこれから増えるので、そういう人たちをできるだけ入居に結びつけて入って頂ける仕組みを、次の通常国会に出そうと思っています。

大家さん側の心配の一つは家賃の取りはぐれの問題、それから若い人たちは子供さんが来るとうるさくなってしまう。近所に保育園が建てられない時代ですから。あとお年寄りについては孤独死とかの心配です。その辺りを払拭してあげられるように、バリアフリーや防音への改修費用や、家賃を若干支援する。若者については、頑張れば出口がありますから、入り口での家賃債務保証をつける際の支援を行うことも考えています。

長島 確かに賃貸の大事な促進要因ですね。

由木 家賃債務保証は、入る時に例えば0・7カ月分とかお金が要るので、そういうところを公共団体が支援しようというところもあります。そこを少し国も応援してあげられないかということですね。あるいは改築しないといけないとか、バリアフリーにしないといけないなど、また子供さんを入れるには防音工事しないといけない。そういうところを少し助成してあげる。

入居者の状況よっては福祉と連携して、見守りについてもNPO的なところがたくさんありますから、そういうのをご紹介する。厚労省とも連携してそういうような仕組みができないだろうか、と思って、いま制度改正の検討と予算要求をしているところです。

長島 そうですか、それは非常に重要な事ですね。お話を聞いていて、官の領域で住宅活用、コミュニティシテイなど官の主導分部がかなりありますね。

由木 少し橋渡しをしてあげたり。何かあったときにはバックアップできるような仕組みを作っておけば、住宅市場を活用して、うまく回って行くんじゃないかと思うんですね。

長島 地方行政というと私のところでは市町村、つまり春日部市になりますね。

由木 そうです。市町村の力だと思います。

一方で行政がどうするということよりも、一つは市場、先ほど言われたように、住宅というのはまさに経済との関わりが大きいのですね。湾岸に高いマンションが建って億ションみたいな部屋を買う人がいます。それも需要があるから建てるのであって、経済との関係が無視できないわけです。個人的な想いで言うと、造っては壊すということではなくて、時間の経過が価値になる、エイジングというか、やっぱり良いものが残っていって、それの価値が評価される。やっぱりそういう町が私は理想だと思うんです。欧州のように石でできていても良いとは思いますが、日本の場合は木造ですね。やっぱりこれだけの木材がある国で、その資源を十分に活用して、基本はやっぱり良いものを作って長く使う。そういう価値がきちんと評価される。そういういう世の中が、私はベストだと思っています。

インタビュー時

一方で、高層の分譲マンションをどんどんと造成することには、100年後に管理のことを考えると、問題意識をもっています。例えば建て替えなきゃいけないとか、大規模修繕しなくちゃいけないということです。果たして合意ができるんだろうかなど、今後、老朽マンション対策として考えていかなければいけない問題だと思っています。

長島 昭和43年にヨーロッパ7カ国を私が初めて取材しました。石造の高層住宅はゴシックの素晴らしい建物で、部屋は所有するか借りるかしてるわけです。中身に金をかけるんですね。日本は、まず外の上物から金をかけていかなければいけません。

ところで住宅行政におられる立場で、こういう点はちょっと家具インテリア業界に要望するとか、こういう点を考えてほしいという点はありませんか。

由木 先ほども申し上げましたように、皆さんの業界が一番消費者のニーズに対して直に接しておられる所だと思います。そこから少しウイングを広げて頂いて、例えば住宅行政の立場でいうと、既存住宅は評価されないのを理由に、あまり魅力的ではないんですね。もちろん質の心配はあるんですが、質はきちんとリフォームすれば良くなるんです。

例えばネットでクリックしてもですね、古い外観と間取り図が載っているだけで、とても奥さん方が、そんなところに住もうとは思わない。でも実際は上手にやるともっと魅力的な商品になるはずなんです。たとえばリフォームするときに、セットでステージングなんてやられてると思うんですけど、そういうものとコラボレーションする。あるいは家庭だけではなくて、オフィスなどもそうなんですが、いま創造性や生産性が問われてますから、どういったものなら創造性が上がる事に繋がるのか、ひょっとすると、それは家具だけじゃなくて、置き場所とか、全体の照明とか、あるいはその間取りとか、動線とかですね、そういうものとすごく絡んでくるような気がするんです。

例えばベッドであれば、医療と介護と生活とを繋ぐという、もの凄く大切な役割のはずなんですね。そういうウイングを広げて、コラボレーションして頂くということが、やっぱりこれから、どの業界でも必要だと思うのです。

特に皆さんのような業界は消費者の方のニーズにキチンと応え続けていかなくてはいけない業界ですから、ちょっと離れたところとコラボレーションして頂き、提案して頂くことが大事だと思います。そうすると、もっと多様で魅力的な商品が展開できるのではないかという気がしています。

例えばこういうスタイル、シーンで住むと子供が賢く育ちますよ、とかですね(笑)。健康寿命みたいなことは結構やられていますよね。お年寄りが、健康に住んでいくにはどうするかというようなコンセプトもありますね。

長島 家具業界で、名古屋に安井家具という大手販売店がありますが、最近大々的にリフォームに取り組んでいます。一階の売り場で大々的にリフォームのモデルルームを展開し、素材から提案をしています。今後、住宅関係とのコラボや顧客への暮らし貢献を深めたいと思います。

住宅産業関連のコラボで生活者のニーズを

由木 それは是非やって頂きたいんです。

リフォームする人があったとしても、皆さんのように常に顧客に接しているワケではないから。こういう風にやれば良いリフォーム、こういう風にやれば良い商品になるんだ、というね、商品性を高めるという視点を入れて頂くには、皆さんのような業界と対話しながら仕事していくというのは、もの凄く意味があると思っています。

長島 我々家具インテリア業界は住宅関係との提携など一体的な取り組みや、共に顧客への暮らしの提案はしてきていない現状です。局長さんの所感としては、どのような中小の工務店やハウスメーカーですか、行政と繋がりを持たれているか、お伺いしたかったんです。我々もまだそこには距離がもの凄くあるんです。

由木 地方で住宅を建てたり、リノベーションしたりしているのは、基本的には中小の住宅建築企業です。もちろん全住宅をとると過半数はハウスメーカーが建てています。一方で年間10戸以下しか建てないような業者が、業者数で言うと85%なんです。ですから、そういう人たちにキチンと仕事してもらわないと、地域経済がもたない。

経済の問題もあるし、かつやはり地域の人たちが良い仕事をしてもらわないと、地域の住環境とか住生活というのは豊かになりません。その意味でそういうところについても、できるだけ目配りできるようにと思っています。

長島 お忙しい中。有り難うございました。


この記事は紙面の一部を抜粋しています

国土交通省

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