2017年 新春特別インタビュー:西垣淳子 氏

西垣淳子 氏
経済産業省商務情報政策局クリエイティブ産業課長

西垣淳子

聞く人
長島貴好(本紙社長)

課に隣接してクリエイティブルーム設置

長島 新年のインタビューですが、実は西垣さんにお会いし、話を伺うのを楽しみにしていました。オフイスの木製化など考えているということですが。

西垣 そうなんです。予算の関係で、できる範囲のところからと、小さいのですがクリエイティブルームを設営しました。この部屋は、ウチの役所の中では特別な場になっていて、働き方改革の表彰で受賞し、それで予算を付けてもらって床とか、机とか椅子を買うことができたのです。しかし、予算上少額のため木製にできなかったんですね。それでオフィス家具を、しっかりとしたいいものにしていきたいと考えてこの前に電話をいただいたときに話しました。今後はさらにオフイス環境という視点で考えていきたいと思います。クリエイティビティを発信しやすくて、オフィスの効率化に資するというようなことをやりたいということです。

長島 オフィス改革の話は古く、記憶は定かではありませんが既に20年ほど前から議論され、デザインも進んできていました。人生の三分の二を過ごす場です。

インタビュー時

西垣 元々私たちの発想は、いま「デザイン・シンキング」とか、「デザイン経営」とか言っているように、やっぱり物事の考え方を、顧客が何を求めているかという発想の方向にシフトしていかなければいけません。いままではとかく「いいものを安く作って」という価格競争ばっかりやってきたわけです。では顧客はどのように考えるかというと、多様性が必要なんですね。対して役所とか大企業は、わりと意思決定が硬直化していると思うんです。そこでもっと自由な発想で、議論ができる場を作っていくことが必要だろうと考えたわけです。そういう発想でいうと、「デザイン・シンキング」とか、ホワイトボードに自由に各人が考えたこと、提案などを書いたメモを張り付ける。手法から入るのも良くないけれども、こういうポストイットで貼ることを何でやっているのかというと、要は議論の流れが途中から来た人にも見えるよう、どういう議論をしているかというのを「見える化」するということができる。それによって、修正もしやすいし、参入もしやすいわけです。

結論を出すことを大事にするのではなく、結論を出す過程を大事にしましょう。こういう「デザイン思考」を、我々政策立案に活かしていこうという主旨です。こういうコンセプトが表彰された理由で、だからホワイトボードから我々は始まってるんですね。オフィス家具から始まったのではありません。

こういうホワイトボードをベースとした思考過程を進めていこうとしていて、そういう中でいろいろデザイン・シンキングを導入しているような企業のオフィス訪問をさせていただきました。皆さんがこういうホワイトボードなど持っているのですが、合わせて、例えば席も自由になっていたり、それこそ「フリー・アドレス」といって、引き出し一個だけ持ち歩くとか、全部自分のPCの中に入れていれば、引き出しも持ち歩く必要がありません。

自由に動き回れる、発想がし易くなるとか、あるいはオフィス環境に温かみがあったり、くつろぐことができたり、ストレスがないっていうなかで、木製家具を使っているオフィスも多いと思います。

経産省のオフイスも生活文化創造産業課が推進しているようなものにしていきたい。例えばこの棚に飾ってあるデコは当課の施策に絡んだ日本のいいものです。とある会社では、社員のアートのコンペティションをやって、そこの優秀な作品を置いてみたりとか、色々なことを企業の皆さんがされています。

働く人が心地よいと感じるようなオフィス作りが、従業員一人ひとりのインセンティブを高めて、「会社に行きたい」と思い、会社で自分の考えが、自由に引き出せるような雰囲気づくりに繋がっていく、そういうところからオフィス家具の方向に入っていったわけです。

職場環境にもいろいろな環境があると思うのですが、物事の発想を自由にする。自由に議論ができるような「場」づくり、そういうコンセプトから始まってるんですね。そういうなかで、いま取り組みをはじめている企業はいくつか目立ってきていて、そうすると、わりと皆さん行き着いたところが木製家具に行ってるのかもしれないという感じはしています。

我々の場合はどうしても、備品を買うのに、政府の予算だと、すごく限定された予算しかないので、そこの部分を大幅に見直さないと、木製家具導入には行き着けないんですね。そうなると、働き方改革のなかで、働く環境を良くするのというのは、生産性が上がり、効率的になることとの合わせ技で、他の予算をそういう備品に振り分けていく。そうした動きにしていく必要があるなと、感じています。

インタビュー時

人が主役のオフイスで創造的ワークを

長島 なるほど。大きなテーマがいきなり蘇ってきた感じです。オフイスの進展した要素やレイアウト、デザイン面で推定するのは機能的な部分だと思います。合理化を基本に据えて、あとはITの問題ですね。かつてなかった機器類が入り、情報伝達、あるいは仕事の仕方とか、システムなどかなり変わって来たと思います。

西垣 IT化の役所としてはできる限りハードは使わないっていう。みんなでPCを持ち込んで、ペーパーレス会議って結構最近増えています。あと紙にすると、ファイリングが大変なので、それこそ共有ドライブの中で、どれだけキレイに書類が見えるようにするかというところをやっておかないといけません。働き方改革にも関わるんですが、要は人が休みで不在の時に、相手の机の中のファイルを探すわけにはいきません。そこでデジタル上での共有を進めていくとか、そういうことはわりと進んできているかもしれませんね。ウチも進んでいる企業さんからするとまだまだですが、霞ヶ関の中では進んでいる方かもしれません。

長島 予算の問題もありますが、同じ予算の中で出来ること、出来ないことがありますね。だからある種の無機質な冷たさみたいなモノは全て排除していく。我々の業界で言うと、少なくとも木目というか、木質系です。温かみのある感じで構成する。人間も自然の動物だから、自然環境的な中で働くとリラックスしたり、チャレンジ精神も湧いてきます。

西垣 仕事で地方に行った際に、役場とか村役場など訪ねると木材で建築した中心に建築した役場だと入った瞬間から温かみがあるんですね。いいなあって普通に思いますよ。クラフトデザイン賞とかデザインの関係で様々な制度をやってますが、去年のクラフトデザインの優秀作品が木のスツールなんですね。それはもう飾っておいても素敵だし、人が座ったり、座ってないときでもオブジェとして使われる、そこの風景に馴染むことで、入賞されているんですけども、そういう作品に大臣賞とか出しておきながら、何故課の中で使えないんだろうという素朴な疑問もありますね(笑)。

長島 予算の問題もあるでしょうけれど、所管省庁がそうした作品の発信はしていただきたいと思います。ところで生活文化創造産業課という名前なんですが、本当に我々の業界を表してくれている課名だと感心しています。西垣課長さんの課が志向する政策課題についてお話しいただけませんか。

デザインや日本の技術で海外へ国産品発信

西垣 我々はクールジャパンというものをアニメ、コンテンツといったエンタメ系だけだとは全く思っていないんです。ウチの役所のなかでも、隣に「コンテンツ課」というものがあります。本当の名前は「情報文化関連産業課」ですけれども、所謂エンタメ系はそこでやっているんですね。でも我々クールジャパン担当課としては幅広く、いろいろな産業を一緒になって見ていこうとしている課で、そうするとクールジャパンっていうのは「日本のいいもの」っていうことを意味すると思っているんです。

日本の良さって何かって言うと、今であれば「日本食」だったり、「日本のファッション」だったり、ファッションには当然「繊維の産地」がバックに付いているし、地域産品、伝統産業的な技術を活用した工芸品だったり、家具も含めて諸々あります。こういったものを日本の良さとして発信しようとしたときに、日本は高度経済成長期などに技術先進国としてやってきましたけれども、技術だけではない日本のよさって何だろうって考えていくと、地域ごとに多様性があって、その地域での暮らしから育まれてきた技術に基づいて作られたものが伝統的にありますね。

それが日本の地域産品の多様性に繋がってきていると思います。そうするとこの多様性を、しっかり発信していくことが、日本の良さを伝えていくことだろうと。

去年のThe Wonder、日本のいいもの500っていうのを選んだんですね。それを世界に発信する。手元にあるのは英語バージョンですが、地域産品のいろいろなものを掲載しています。これはモノを発信するんじゃなくて、何で一つひとつに文章が書いてあるのかというと、その背後にあるストーリーを理解していただく意図があります。

先ほど長島さんから我々の産業志向にぴったりの課だといわれましたが、生活文化創造産業課というのは、ひとつのできあがったものには、それぞれのストーリーがある。そのストーリーに合わせて発信することを、やっていくことが、私達クールジャパン政策として取り組む中心だと思っています。日本のコンテンツが世界で評価されるのと同じように、一つひとつのストーリーを添付して、日本の良さを発信していくことが、世界で評価される仕組みに繋がっていく、そういうサイクルにしたいと考えています。

そういう意味では、我々のところで見ている、官民ファンドのクールジャパンファンドなどありますが、そこからも日本の技能と伝統文化の付加価値を出していく。海外でのプラットフォームになっていくことを考えたいと思います。先月、マレーシアのクアラルンプールに、三越伊勢丹さんと組んで、全館日本製品のショーケースである「ジャパンストア」ができました。そこに日本のライフスタイルというフロアを作っていて、江戸切子が置いてあったり、日本酒とかも振舞いながら、江戸切子の良さを味わってもらう。例えば1階には、漆の人間国宝の方の作品に合わせて、ブローチ等の商品を置いていただいています。また、西川産業さんにも入っていただき、日本の寝具を売っていますが、寝具に合わせて寝具の快適さの背景を、しっかりとしたデータをもとに、人体に合ったものを作り上げていくわけです。睡眠がどれくらい取れているかというのをセンサーで測定しています。

インタビュー時

長島 マットレスや寝具はセンサー測定が進んでいるんですね。

西垣 合わせ技で日本の良さっていうのを発信したりする、そんなショップができましたが、そういうところが、我々と一緒にクールジャパンをやっている理由は日本の良いものを売る、良いものの背景をしっかりと伝えるというコンセプトによるものです。そういう中に、生活文化っていうものを、埋め込んで発信するのが、いま我々の課の一番の課題になっています。

長島 我々の世界でいうと、やはり住生活、暮らし産業としてのビジネス要素が必要です。生活文化創造産業の最後の部分で、工芸や伝統文化との線引きで、やはりそれなりの広がりと普遍性が必要です。西川産業さんも同様です。

西垣 海外のフェアに日本の製品を出展する場合、産業としての海外市場アプローチには、ジャパンパビリオンとしてのコンセプトをどう作り上げて、何を発信するのかが課題です。

長島 そのための行政のサポートをどうしていただけるのか、その辺りで産業自体が自主性でテーマ、コンセプトをもって取り組んでいく必要があると思うんです。西垣さんにも是非ご支援をいただきたいところです。

西垣 それに関連して最初にデザイン・シンキングって言いましたが、そのデザイン思考をなぜ皆さんが注目してるかっていうと、顧客価値をどういう風に取り組んでいくか、というところにデザイナーの視点が使えるからです。そういう発想で、改めて自らの企業の経営のあり方とか、重点分野とか、強みを考えていく。そういう意味でデザイン思考っていうことを言われるわけです。

そのときによく我々が話をするのは、結局「顧客は何を欲しているのか」という「場」なんですよ。さっき「シーン」ていわれましたが、机を作っている人は机だけを見るんじゃなくて、その机を買う相手が、どういう場でその机を使い、何に活かそうとしているのかを想定する。どういうふうにしたらその人の欲している机になるかという、この発想をもっともっと受け入れていかないと、付加価値が産業になくなっていきます。

我々は経済産業省の伝統な手法としては、技術の後継者を雇えるような、環境を作りましょうとか、そういうところに入っていたんだと思います。

だが実際は後継者が来るか来ないか、育つかどうか、子供たちが継ぐのかという、その企業の行く末に対する将来性が非常に大きい所だと思っていいます。だから優れた技術を持っていますということだけで、後継者が集まらないのは、その優れた技術で作り出す製品の市場性が、将来に渡って見えないからだとも考えられます。

とすれば、むしろしっかりと市場で売れるものに製品を変えていく。何が市場が求めているものなのかっていう発想に基づいて、その技術を使って作っていく。無印さんがいわれたのも、やはりその世界で無印良品が受けている理由は、シンプルさもさることながら、使う側が、いろんなものを並べて使ったとき、そのシーンを浮かべた時に、日本製品らしく機能もいい、安全安心なものにできている。使う側に立つとそう思うんですね。

そういうことに気がついてる企業さんの中では、デザインがものすごく重要視されていて、我々がよくデザイン思考を進めている企業さんと話をすると常に出てくるのは、デザイン思考で顧客の方と話をしていて、顧客の言ってることを理解しようとすると、実は顧客もダイバーシティーしているし、ワーカーもダイバーシティーしていかないといけない。

そうしないと皆さんの多様性のあるニーズを受けられなくなってくる。自社の企業内で、やっぱり画一的な人ばかり同じように働いているんじゃなくて、いろいろな人がいる職場にしていかなきゃいけない。結局いま言っているような産業が変わろうとしているのは、それを買う側の消費者の多様性もあれば、作り出す側の多様性もあるということなんですね。だから顧客と企業、労使などが一緒になって変わりつつあるんじゃないかなと思っています。

長島 話を伺っていて、行政の話になりますが、やはり民の自主的な努力がベースですね。新潟とか多く地方の家具生産地で活路開拓事業をやりましたが、行政主導ではうまくいきません。

市場と顧客ニーズに付加価値提供を

西垣 いま家具生産地の活路で新潟っておっしゃられて、思い出したのですが、燕三条にスノーピークっていうキャンプ用品の企業が昔からあります。1960年代くらいからですか。洋食器の燕三条の職人さんが集まっているところで、キャンプ用品で、グローバルに展開しています。いまニューヨークにも直営店があって、非常に世界でも売れている高額なキャンプ用品を作っているんですが、スノーピークの愛好者は世界にいるわけです。

社員もみんなスノーピーカーなんです。本当に素敵なオフィスで、まずキャンプ場が中にあるんですね、だだっ広い。で社員がみんなキャンプしながら、次のキャンプ用品の提案をしていて、自分たちがユーザーとして、使い手でもあり開発者でもあるんです。先ほど言ったデザイン・シンキングの顧客価値をどう理解するかっていうと、自分たちが顧客ですからよくわかる。

でその人たちがオフィスの中でフリー・アドレス的で何処に座ってもいい。中にテントとか色々なものがあるオフィスですけど、やっぱりスノーピークというキャンプ用品を作っている会社だからこうあるんだな、という姿なんですね。

やっぱり企業それぞれのオフィスの作り方があって、我々からモデルオフィスを出していくっていう気持ちが出ています。80年代か90年代にオフィス改革とかが流行った頃、それってある種の「絵」を描いていた気がするんですよ。むしろ今はそうじゃなくて、型にはめるのではなく、それぞれが自分たちの働きやすい場を提案しながら作り上げていくんですね。

私たちの課内会議でも、クリエティブルームで開いて、立ってる人もいれば座ってる人もいる。みんなバラバラでここに集まって何処に誰が座ってもいいんです。ある課はですね1日課長というのやって、課長が毎日交代して1日課長を務める。課長の気持ちを一回経験してもらうことで、自分が何をしなくてはいけないか皆が理解出来るわけです。

インタビュー時

長島 面白いですね。ね、1日課長という発想自体が官の世界でユニークです。

西垣 そこに集まっている人たちによって、やっぱり最適なオフィスのあり方って違うと思うんです。なぜ違うのかというと、やっぱり働いている人たちに居心地のいいこと、そこなんですね。ある意味オフィス家具屋さんが、画一的に「こういうものが便利でしょう」、「同じ型にハマっていれば並べやすいでしょう」、「机の入れ替えも便利でしょう」という。それを提案されることに対して、ある種のアンチテーゼになっているのかもしれません。繰り返しになって申し訳ないのですが、デザイン思考みたいな、その顧客の欲する場面を想像して、それに応えていくっていうのが望まれています。それに応える感受性というか自由力のある方向に向かって行かないと、市場で選ばれなくなっているシビアな環境です。そんな時代なんじゃないでしょうか。

長島 経営方向を考えるうえで、大変示唆を得る話をいただきました。


この記事は紙面の一部を抜粋しています

経済産業省

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