【取材】みねぎしくみ氏 モダンリビング・スタイリング賞ファイナリストに選出 ~桜梅庵を紐解く~ 空間は記憶を編む器

インテリアデザイン設計事務所Luxe Designの代表を務めるみねぎしくみ氏は、モダンリビングのスタイリング・デザイン賞2025でも再びファイナリストに選出された。今回は同氏のアトリエ兼民泊施設へのリノベーション案件である「OME桜梅庵(以下、桜梅庵と表記)」で応募を行い、一次選考を勝ち抜いた。同賞は今回で10回目の開催。同氏にとっては今回で7回目の応募となる。精力的な活動が垣間見える。

アワードの様子

同氏は過去に勤務してきた建築設計事務所やリノベーションを手掛ける大手企業での勤務経験を通じて、建築設計とインテリアが切り分けられていることに違和感を覚えるようになった。顧客が空間に不釣り合いな家具を購入してしまう状況を解決したいと願い、独立後はインテリアから考える空間設計をモットーに日本全国のリノベーションやリフォーム案件を手掛ける。一件ごとに時間とエネルギーを注ぐため、近年は年間3、4棟を手掛ける。2025年はその中でも、自身の創作活動拠点と、airbnbを通じた旅行者への宿泊施設提供を兼ねたこの桜梅庵は印象深かったという。

「この青梅の案件は、“空間は記憶を編む器である”という私の考えを最も素直に形にできたプロジェクトでした」と語る。桜梅庵は、約15坪の古い平屋の日本家屋をリノベーションしたものだ。設計から施工まで自身で手掛け、地元の職人と共に再生作業に取り組んだ。

インタビューの冒頭、みねぎし氏は「デザインで特に意識したのは、光の質、余白のデザイン、ローカル性と普遍性のバランスです」と話す。

各部屋、外構に至るまでまず照明にこだわった。ランプシェード、ガラスの質など細部に気を配り、また、一部の壁面にあえてなにも飾らないことで空間に静かな質感を与えた。同氏はこれにより、「空間が呼吸をし始める」と話す。青梅の伝統品を取り入れ、そして創作活動や旅行者の宿泊に困らない空間づくりも意識した。日本家屋の良さを引き出した点も本件の大きな見どころの一つだ。

まず目をひくのは、調和のとれたリビングだ。壁面は白の土佐漆喰を使用した。質感の残る壁面にかけられた金屏風が目をひく。歴史を感じさせる木と鉄でつくられた、経年変化の美しい箪笥も印象的だ。そしてそれらのすぐそばには、レ・クリントのフロアスタンド「スノードロップ」が、差し込むようにフォーカルポイントとして使われている。

背の低いブラウンのソファは空間に落ち着きを与えている。そのソファの上には西陣織の鮮やかな橙色と、麻の素材感が感じられる素朴なクッションが並ぶ。窓回りはシンプルな白のバーチカルブラインドが設置され、空間にスタイリッシュさを与えた。金屏風や西陣織のクッションは光沢感も相まって目を引くデザインだが、背の低い家具や素材の質感、そして柔らかい照明のおかげで、静けさと落ち着きを感じさせる空間だ。和と洋が見事に融合された、静かな和モダンと呼べそうだ。

リビングに隣接する和室には、イサム・ノグチデザインの和紙でつくられたペンダントライトに目がいく。和室の奥と入口にはジャポニズムに影響を受けたアンリ・マティスやフェリックス・ヴァロットンの絵を飾った。ここもまた、和と洋の融合が試みられた空間と言えそうだ。洋画だが、色数をおさえたデュオトーンのデザインで派手さはない。和の空間と調和するアートを慎重に選定するなど、みねぎし氏のこだわりが随所に見受けられた。また、畳の縁には江戸時代から青梅で使われてきた伝統の縞柄である「青梅縞」を採用。みねぎし氏は、「日本家屋の文化や美しい素材を採用し、日本文化を大切に継承していきたいと考えました。地域の文化や手仕事を未来につなぐことも、私にとって大切なデザインの一部です」と話す。

寝室の壁紙にはマナトレーディングのサンダーソンSilvi Clouds216601を採用。爽やかな雲をモチーフにしたデザインだ。照明はここでもレ・クリントとイサム・ノグチのランプを配置、マットレスはフランスベッド。随所に、良質なインテリアが散りばめられ、心安らぐ空間が設えられた。

ダイニング・キッチンには、北の住まい設計社の小さなスツールと、イギリスのアーコール社のアンティークチェアを選定した。壁面は広島の歴青社の小さな箔アートや唐調の職人だった野田プリントのアートが飾られた。キッチンの小さな白熱ランプを1つ備えた、小ぶりなペンダントライトは、空間に合わせて素朴なデザイン。キッチン本体は造作だが、ステンレスと木製の台のみのシンプルなものだ。「情報量の多い装飾を避け、静かなミニマリズムを意識する」とみねぎし氏はインタビュー中に語った。この空間もまた、同氏の感性が強く発揮されている。

庭園は枯山水を設け、照明は太陽光で充電できる蓄電池式のミニ灯篭を設置した。幻想的な和の雰囲気を演出しており、滞在客に印象深い記憶を与えられそうだ。

みねぎし氏は、「家具や照明、アートはそれぞれが“役割”を持っています。ソファの高さは視線を考慮し、テーブルは木の表情があるものを選び、空間に生命のリズムを加えています」と話す。空間の付加価値について、「静かな物語をつくること」とも語った。青梅の本件は、まさに静けさを感じさせるもので、自身の創作拠点として集中力を与える場に、旅行で訪れる人には、思い出づくりを支える「器」となりそうだ。

(長澤貴之)