【取材】家具EC企業、既存小売店と提携へ 家具店と競合せず共栄 EC他企業との差別化を志向

家具EC実施企業の間で、ここにきてリアル店舗などを増やす動きが目立つ。こうした中、中国製家具全般を展開するEC専業のCAGUUU(本社・東京都港区、中村勇輝社長)社が今秋、自社ECに次ぐ成長戦略として、家具小売業との連携を打ち出した。同社他社に比して高い価格帯を展開する同社は、他社のように店舗などの拠点を自ら増やす代わりに、既存の小売店とパートナーシップを組み共存共栄を図る。当初2社と取り組みを開始。さらに連携先を増やしていく。同社が得意とするミドルエンド以上の商品カテゴリーは特に、長年にわたり商圏や顧客を抱え販売や接客のノウハウを有する小売店と連携するのが得策と判断した。

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家具EC実施企業ではここにきて、ベガコーポレーションが直営店の出店を加速するほか、イケア・ジャパンでは商品受け取りセンターを急ピッチで拡大。リアルの拠点を設けることが「顧客との関係性の強化に結び付く」(家具EC実施企業の幹部)ためだ。また、ECとリアル店舗の連携により、上位顧客を中心に1人あたりの年間売上高が総じて増加する傾向にあることも最近徐々に知られるようになってきた。こうした背景から有力メーカーではECとリアル店舗の連動によるスムーズなサービス提供を進めるためのシステム開発が相次ぐ。この分野で先行するニトリホールディングスでは最近アプリやウェブの開発を通じて関連サービスを強化。

こうした中、自前リアル店舗路線ではなく小売店との連携を選んだCAGUUU社は、日中のベンチャー業界で有名な存在だ。理由は代表の中村氏が、中国のファッションEC大手として知られるSHEIN社の出身であるためだ。ここで日本市場参入の責任者だった同氏がSHEIN社をやめ、家具EC企業であるCAGUUU社を起業したことは、ベンチャー企業関係者の間で注目を集めた。

SHEIN社はOEMとは異なる「ODM」と呼ばれる手法で業績を急拡大させた。OEMが生産の委託であるのに対し、ODMは生産だけでなく商品開発まで協力工場と連携する。開発のスピードアップが期待でき、同社だけでなくファッション分野でも導入企業が増えつつある。中村氏はこの手法の考え方を参考にすることにより家具EC企業を立ち上げた。

同社では協力工場が持つ中国市場における商品開発や販売の実績を参考とし、日本市場向けの特注商品を工場との連携により開発して販売。ODMのメリットであるコスト効率面の優位性も活かし、アッパーミドルゾーンにおいてクォリティとコストパフォーマンスのバランスが良い商品を重点展開している。

本田圭佑氏(左)、CAGUUUの中村勇輝社長(右)

自社ECで業績を伸ばしてきたこともあり、ここにきて同社への出資企業も相次いでいる。主なところはジャフコグループや元プロサッカー選手として知られる本田圭佑氏が手掛ける投資ファンド「X&KSK」などで、累計調達額は9・5億円に達している。

相次ぐ出資、小売店の協力で「第2の成長戦略」

こうした出資を得て自社ECに次ぐ施策として打ち出したのが、小売店舗との連携・共存を図る施策だ。第一弾となったのが大川家具(本社・大阪府八尾市、浅川耕平社長)の小売部門店舗のビッグハート(所在地・福岡県大川市)と、野中企画(本社・福岡県大川市、野中康之社長)が運営するOffer9(所在地・同)。

これらの2店舗は売り場にCAGUUU社の売れ筋などを展示。来店客の買い上げ時には店舗で店頭決済を行うと同時にその商品を同社へ発注する流れだ。商品は同社から顧客へ直接届けるか、小売店舗の指定倉庫に納める。

店頭に展示しない商品も同社のサイトを使って来店客へ提案できるようにした。この場合顧客は同社のウェブで商品を注文するが、クーポンコードを使って紐づけるかたちで受注を特定し、売り上げを同社と小売店で分配。それだけではなく自社ECの顧客に向けパートナーである小売店舗を告知し集客に協力する。

ビッグハートは現在、3フロアある店舗(総面積約5300㎡)の1階エントランス付近の100㎡近くを使い同社商品を展示。運営する大川家具では、自社オリジナル製品などでカバーしきれていないゾーンをすみ分けるかたちで、同社商品を展開。「当社MDにないテイスト(の商品)も多く、店舗の認知度アップや集客面も含めて期待している」(大川家具の浜本直也常務)。

一方で同社に対しては「SHEIN社のイメージがかぶってみえる部分がある」(通販企業幹部)との指摘も。中村氏は、ODMの考え方が同社の重要部分であることは認めつつ、その違いを強調する。SHEIN社はローコストを武器にしたファストファッション市場のシェア拡大が基本戦略だが、同社は「あくまで家具小売市場との共存共栄が重要。小売店とのレベニューシェア(売り上げ分配)が基本的な考え方」(中村社長)。同社が狙うアッパーミドルのゾーンにはリアルな店舗と来店客への提案力、ノウハウや知見が重要だと考えていることにも理由がある。

同社では東名阪などのエリアを中心としてさらにパートナー企業を増やす計画。すでにいくつかの企業と検討を行っているという。従来ライバル関係にあったリアル店舗とECの融合を試みる同社の施策は、これからその真価が試されようとしている。

(縄田昌弘)