オーダーメイド家具ブランドを展開するKIJIN(東京都墨田区、石川玄哉代表)が、2023年8月8日(火)より、手軽に木のオーダー家具が購入できる「イージーオーダー」を同社のECサイトで販売開始した。代表の石川氏は家電・家具の専門商社に入社後、独立したという経歴の持ち主だ。「一枚板の家具などをより身近に」、と取り組みを進めるKIJINのこれまでと今後の展望について、同社代表の石川玄哉氏に話を聞いた。
KIJIN代表の石川玄哉氏は2008年に明治大学を卒業後、家具・家電の総合商社である山善に入社。「もともとインテリアについて、特に興味や関心をもっていたわけではないのです」という石川代表は学生当時、通学ルートに山善の東京本社が在ったことから興味がわき、就活時に応募すると合格したという。しかしながら当時は、山善が家具も手掛けていることすら知らなかったそうだ。
山善では量産家具の商品企画部に配属され、ホームセンターに並ぶカラーボックスなどの商品企画を主に手掛けた。「大量生産・大量消費」のモノづくりの環境で数年間、家具に携わってきた。そのような日々を過ごす中で、次第に石川代表の中に疑問が浮かぶようになってきたという。
「カラーボックスを10年使っていただいたお客様から、商品部に『棚がたわんできた』というクレームが入ったというケースに対応する中で、“家具が消費されていく”ことに疑問を感じたのです」と石川代表は述懐する。「家具というものは、もっときちんとした役割があるのではないか。家具は人間の一生以上に生きるものであり、大切に使い続けられるような家具は、その家具をもつ人の心も豊かにできるものだと考え、独立を決めました」。
KIJINの設立は2016年だが、個人事業としての創業自体は2013年からスタートした。主に木材を使った製品を軸として展開しているが、木にこだわった理由は「想いが込められているものを使っている人は、心が豊かになる」という信念によるものだ。木を使った製品には人それぞれの「想い」が込められやすい。例えばKIJINでの過去の納品事例の中で、最もユーザーの感動が高かったのが、桐箪笥を修理し納品した事例だ。
その桐箪笥は約80年前に製造され、家族で代々使用し続けてきたものを、修理してこれからも使い続けたいといったものだった。「”カッコイイ”ような家具を納品させていただいたときとは全く異なる、深い感動がありました。テーブルやチェアは人の肌に触れるものであるから、そのようなものの方がより想いを感じやすいのではないでしょうか」と石川代表は語る。このように、木を使い、想いを形にできる自然の素材を使った家具作りをしていくことがKIJINのモットーだ。
KIJINへのオーダー依頼は、事業を立ち上げて以降、コントラクトと一般ユーザー案件の割合がおよそ半々だという。営業はフリーランスの営業スタッフに委託。工務店や建築設計事務所からの依頼も多い。家具のデザインは石川氏が手掛け、製造・修理については国内の工房などと連携しながら取り組んでいる。工房ならではの、一つ一つの家具に対する細かな対応力が高い点が、案件の受注・製作および信頼関係にもつながっているようだ。板の在庫なども、連携している企業からの在庫情報を得ながら発注。ゼロから事業をスタートしたKIJINだが、人づてに様々な企業を紹介してもらうことで、関係構築を拡大してきた。
家具のデザインについては、前職での経験のもと、仕事を重ねながら覚えてきたという石川代表だが、事業を始めた当初はネクタイや名刺入れなどの小物雑貨の開発を手掛けていた。事業を積み重ねるにつれ「他の企業などにオーダー依頼したけれども、難しくて断られたようなケースの案件が、当社にやってきました」(石川代表)。ツリー型の本棚など、難しい案件でも顧客のニーズに対応して製作できることが、KIJINの最大の強みであるといえるだろう。
KIJINはこの8月に「イージーオーダー」のサービスをスタートさせたが、ユーザーの潜在的なニーズ向けて、分かりやすくオーダー家具を提案していくことが、同サービスの特徴である。「” 一枚板のテーブルって、どこかで見たことがあるし、憧れるけど、高そうだし、どうやって頼んだら良いか分からないのでちょっと縁遠いよね”と思っている方に、当社のサービスを知っていただくことで、家具に触れていただくきっかけになれば良いなと思っています」と石川代表。一枚板のテーブルを、個々のユーザーの好みに合わせ、「簡単に」「ステップが少なく」「値段もそれなりにリーズナブルに」提供するサービス展開だ。
今回発表した一枚板テーブルの「イージーオーダー」サービスにおいて、安価なものは10万円台から購入可能だ。「天板の材料・加工費」「脚の費用」「送料」の項目で、経費をシンプル・明瞭に提示することで、ユーザーの心理的負担を軽減している。「諸経費」などの項目でさらに費用がかかることはない。加工費などは、サイズごとに金額をWEB上に明記しているため、ユーザーが購入前に費用のイメージを持ちやすく設定している。「どのような費用がかかるか、全体としての価格のイメージがしっかりとわかることが大切なのです」と石川代表は説く。
そもそも「オーダー家具」の認知度について、一般ユーザーにおける認知はまだ低いのではないかというのが、石川代表の考えだ。家具をこだわりたいユーザーにとって、家具を「どこに見に行けばよいかわからない」「何を決め、どんな要素を考えなければいけないのか」「値段がどれほどかかるのかわかりにくい」といった諸要素が、購入を検討する際に立ちはだかる。石川代表いわく「KIJINでオーダー家具を案内する際、お客様の認識として『オーダーでテーブルを作ると、100万円ほどかかるんですよね?』といった声が、実は多いのです」。つまり、”オーダー家具は高価”というイメージが、ユーザーに浸透しているということだ。”一枚板のテーブルをオーダーで”という、ある種の「憧れ」も、その価格イメージを強くさせているのかもしれない。
石川代表は「現実には、オーダーの一枚板テーブルは100万円などの価格ではなくても、もっと安くで手に入るものです。しかし、家具の購入について、業界各社のサービスとしてきちんとお客様へその流れをしっかりと説明できていない状態が多くあったことが、実際に家具をオーダーし、購入へ進むことへの障壁になっていたと思います」とした上で、海外旅行を例に出した。「海外に旅行するとして、例えばウガンダという国があります。アフリカの国ですが、多くの人はどのような国なのか、よく知りませんよね。”よく知らない国”に行くぐらいなら、”よく知っていて調べやすいアメリカや韓国に行こう”、もしくは”パッケージツアーで行こう”というようなマインドになるのと、似ているのではないでしょうか」と話す。つまり、「家具を購入すること」の流れについて、「これまでの既存の店舗やサービスなどが、ユーザーにわかりやすく周知を図ることができていなかった」ことが、家具購入にあたっての障壁の根源にあるのではないかと指摘する。
KIJINでは「イージーオーダー」サービスについて、今回リリースした第1弾の一枚板テーブルの推移をみながら、今後のサービス拡充も視野に入れている。石川代表は最後にこう語った。「我々は”ストーリーをデザイン”し、お客様の想いを形にすることに注力しています。お客様には”想い”があり、家具には”形”があります。それがそれぞれ単体であるだけでは、”想い”としてつながりません。その間をつなぐのが”ストーリー”であり、我々の役目なのです」。
「オーダー家具をもっと身近に」。石川代表の挑戦は続く。
(佐藤敬広)