今年1月、「より快適な毎日を、より多くの方々に」をビジョンとするスウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー イケア の北関東初イケアストアが群馬県前橋市にオープンした。開業から約半年が経過したIKEA前橋の近況に迫った。
IKEA前橋は、1階と2階の2フロアで店舗空間を形成している。1階が倉庫エリアとインテリア雑貨エリア、2階が家具展示エリアとなっている。この2フロアに、約9500種類の商品を取り扱っている。
同店はイケアの大型店のなかでは、比較的店舗の規模はコンパクト。
しかしながら、全体の面積のうち倉庫の面積を広くとっており、当日来店したユーザーがそのまま商品を持ち帰ることができるという、イケアの世界観を他店同様に体感できる。 同店では来店したユーザーにフルスケールのイケア体験を楽しんでもらうことに加え、北関東エリアの物流拠点として、オンラインで買い物をするユーザーのニーズにも寄り添いたいと考えている。
ユーザーの子どもを一時預かりするスモーランド(キッズプレイルーム)なども設けており、来店客の多様なニーズに応えることが可能な店舗となっている。「フルスケールのイケア体験をしていただくことができると思っています」と、同店店長の野山和美マーケットマネジャーは語る。
これまでのところ、訪れるユーザーは群馬県内の高崎市や前橋市、伊勢崎市や太田市をはじめ、近隣の埼玉県北部の熊谷市や深谷市、栃木県、そして高速道路を使って長野県や新潟県からも訪れるという。平日に訪れる近隣ユーザーも一定数存在するようだ。週末や大型連休などは、長野・新潟など遠方からのユーザーが増加するようだ。
イケアでは、豊富なインテリアスタイルを各店舗で表現している。IKEA前橋ではさまざまなスタイルでコーディネートされた41のルームセットで、イケアの考える空間の在り方をユーザーに訴求する。
それぞれのルームセットには細かくペルソナを設定しており、「どのような人が住んでいるか」「どのような家族構成か」「どのような趣味があるか」などをそれぞれのルームセットで想定しながらコーディネートしている。これはIKEA前橋だけでなく、他のイケア店舗でも同様だ。それぞれの店舗ごとに、その店舗の商圏ユーザーを想定したペルソナ設定を行っているルームセットがある。
そのためにイケアでは「ホームビジット」という名称での市場調査も行っている。近隣等のユーザーを訪問し、どのような生活をしているか、生活の中での困りごとは何かといったことを定期的に調査している。これは国内のみならず全世界のイケア店舗が行っている。IKEA前橋では、訪問やオンラインでの調査などを事前に行い、多くのデータを収集したという。
前橋エリアは持ち家、一軒家が比較的多いといい、部屋の面積も首都圏と比較すると広いため、それに合わせて広めの部屋を想定したルームセットを設けた。また、子どもがいる世帯、家族構成員が多い世帯などに向けたルームセットなども備えており、壁掛けやガーデニング用品なども取り揃えるなど、地域の需要に合わせた商品の見せ方にこだわっている。
キッチン空間のレイアウトなども地域の住宅の暮らし方に合わせた構成としながら、コーディネートを行っている。
畳の部屋の住宅も多いことから、畳のある空間へのソリューション提案も行う。幅広いニーズを見据えることによって、空き家活用やリフォームなどの需要にも応えられるという。
日本人が親しみやすいような、ナチュラルな空間提案のバリエーションも取り揃えている。商品も同一シリーズで統一感をもたせている。
年に約4回、季節ごとに商品の入れ替えを行っており、年間で約2000商品ほどの新商品を導入するという。入れ替えにより、いつ来店しても新たなインテリアスタイルが楽しめる店舗空間づくりを行っている。
前橋エリアでは、都心などと比較して、ソファなども2人掛けや3人掛けなど、大きめのものが売れる傾向にあるようだ。したがって、都内のイケア店舗とは異なる見せ方で来店客にアプローチしているという。
イケアのインテリアアイテムの人気アイテムのひとつ「POÄNG(ポエング)」シリーズのチェア。日本人デザイナー中村昇氏がデザインを手掛け、発売以来世界中でベストセラーとなっている。
収納アイテムも、全世界的に需要がある。屋内空間をどのように構築していくかというニーズは存在する。特にコロナ禍ではいわゆる「おうち時間」が長くなったため、どのように屋内を効率的に整えるかといった要素から、収納アイテムに注目が集まったようだ。
IKEA前橋には、法人向けの提案スペースも設けている。カフェや陶芸教室向けのソリューションなども提案しており、大量発注などにも対応しているという。なお、取り扱っているアイテムは一般ユーザー向けと同一とのことだ。パブリックユースを保証されている商品もラインナップしている。群馬県は草津や伊香保などの著名な温泉地が多数あることから、旅館などの改装にあたってのオーダーが入ることもあるようだ。
法人向け提案では、オフィス空間を想定したルームセットも整えている。
デスク・チェア等も、大人から子どもまであらゆる層が使用できるラインナップを整えている。
ゲーミングチェアを配置したルームセットの提案も行う。
ベッド・マットレスの提案も豊富なラインナップで訴求する。
照明についてもこだわっており、ルームセットでの空間提案を見ることによって、照明を単品で購入するといったユーザーもいるようだ。
チェストについても、ライフステージが変わるタイミングで購入するユーザーが多いという。
キッズ、ベビー用品も充実している。店内は通路を広くとり、ベビーカー等を押しての買い物にも配慮。
子ども用の商品については、特に安全を考慮したつくりとしており、同社独自の基準をクリアしたもののみが販売されている。
「初めて当店に来られたお客様が店内に滞在していらっしゃる時間は、レストランの滞在時間を除いても、約2~3時間とみています」と野山マーケットマネジャー。2階の家具展示フロアだけでも、約1時間を見込んでいるとする。もちろん、ユーザーによって滞在時間は異なるが、長くじっくりと店内を見て回るというイケア体験が、滞在時間にも表れているといえるだろう。
1階は、インテリア雑貨・用品がメインとなっている。
イケアでは今年度、「眠り」にフォーカスした商品展示にも注力している。良い暮らしには良い眠りがあることで、明日につながるという考えのもとだ。「快適で良質な睡眠環境を提供するための6つの良い眠りのヒント(心地よさ・光・温度・音・空気・ホームファニシング(整理整頓))を提案しており、ベッドやマットレスだけでなく、カーテンやライトなど、様々な商品を上手く使いながら眠りの空間をいかに作り上げるかといった点をユーザーに訴求する。
家電、照明もラインナップ。生活を豊かにするためのソリューションとして提案する。
デザイン性にもこだわった同社のアイテムが並ぶ。家具・家電を組み合わせたアイテムなども開発している。サステナブルに考慮し、かつ貢献できる商品開発も同社ならではだ。
店内には至る所に、サステナブルに貢献するテーマを提示して展示を行っている。イケアは2012年に、2030年を見据えたサステナビリティ戦略をたてた。トータルソリューションとして、グリーン(観葉植物)・フェイクグリーン(造花)商品も人気だ。
イケアのアイコニックな場所ともいえる商品倉庫。
在庫のある家具については、ユーザーがこの倉庫から商品をピックアップすることで、そのまま当日に持ち帰ることが可能。トータルコストの低減にもつながっている。約7割~8割のユーザーが、そのまま持ち帰るという。
季節商品やおすすめ商品を展開するエリア。(取材時はアウトドア商品を展開)
サーキュラーマーケットエリア。ここに並べられた商品は、ディスプレイ用として使用した商品や、ややパッケージに傷みのある商品などをディスカウントして提供する。
ユーザーから買い取ったイケアの家具なども、メンテナンスして再販している。
メンテナンスはインハウスで手掛ける。IKEA前橋でも、サーキュラーマーケット内にメンテナンススペースを設けている。
レジは3種類。有人レジ、無人レジ、そしてアプリを用いているユーザー専用のエクスプレスレジだ。アプリを用いると、買い物しながら商品を事前にスキャンする「IKEA Scan & Pay」というサービスを利用でき、待ち時間が短く素早い会計が可能。アプリを用いる来店客は徐々に増加しているといい、今後もアプリユーザーの拡大に注力するという。
レジを終えた後にも、軽食をオーダーすることができる。IKEA前橋限定メニューのプラントベース(植物由来)のベビーカステラも人気とのことだ。
人気のスウェーデンミートボールなどの食材を販売しているコーナー。パンのメニューなども充実している。購入して持ち帰ることが可能だ。
出口には、群馬ならではのダルマと、イケアの看板が飾られている。この土地をイケア・ジャパンが購入したのは約10年前。それ以来開店まで、この土地に立ち続けていた看板だ。
イケア・ジャパンでは、全国に商品受取りセンターを開設している。これを活用することで、通常配送よりも手ごろな価格で商品を受け取ることができ、また好きなタイミングでセンターに商品を取りにこれるため、便利なサービスとして多くのユーザーが利用しており、よりイケアのソリューションに触れる機会の増加に貢献している。イケアのサービスの認知拡大にとっても、受取りセンターは重要な存在になっているという。
野山マーケットマネジャーは「当店はオープンして間もないので、来店されるお客様は”イケアとはどんなところだろう”と興味を持ち、来ていただく方が多いです。当社では北欧調の家具を多く取り扱っており、どのような商品があるのかを楽しみにして見に来られるお客様も多いと思います」と語る。ユーザーが店内を巡ることに楽しさを感じることで、来店後の評価で好感触を得ることにつながっているという。
オープンして間もないため、現在のところは家具とインテリア雑貨の売上では、インテリア雑貨の方が多いという。「インテリア雑貨をお買上げいただいたお客様で、徐々に”家具を購入しよう”と検討される方も増えてきています」(野山マーケットマネジャー)。傾向として、家具の売上割合も増加してきているようだ。商品のデザイン性などについても、ユーザーからの評価は高いようだ。
家具については、事前にアプリなどで商品を調べてから、実物を見に店に訪れるユーザーもいる。初めてイケアに訪れるユーザーは、ふらりと店内で買い物を楽しみながらイケアの世界観を知ることになる。そのため、その後のライフステージの変化に応じて、イケアで家具を購入することを検討するというユーザーも増えてきている。イケアの世界観をユーザーが体感することが、その後の家具の購買行動にもつながっているといえそうだ。
野山マーケットマネジャーは、「お客様に何回も店舗に足を運んでいただくために、季節で新たな商品を展示したり、フードやイベントを充実させたりして、来店していただくきっかけを作っていきたいと考えています。イケアは”人々の家での暮らし”に興味をもっている企業です。お客様にインスピレーションを与えられるようなトータルソリューションを提供していけることが強みではないかと思います。商品は”優れたデザイン”、”機能性”、”サステナビリティ”、”品質”、そして”低価格”の「デモクラティックデザイン」と呼ばれる5つの要素をクリアし、マーケットの中で打ち出していけるものしか扱っていません」とし、
「イケアはコワーカー(従業員)用のコミュニケーションスペースも充実しており、”働く場所”としても魅力であると考えています。来店していただくお客様には、商品、ソリューション、そしてコワーカーとのやり取りを通して、最高の体験をして帰っていただくことができることが、イケアの強みであると考えています。今後は地域の皆様や従業員にとって、何かポジティブな影響を与えていける店舗にしたいと考えています。生活を豊かにすることができるソリューションが詰まっている店なので、今後もイケアとはどのような企業なのか、この店でどのような体験ができるかなどをしっかりと発信していきたいと思います」と、今後の抱負を語った。
土地取得から約10年以上の年月を経て開店したIKEA前橋。サステナビリティにも特に重きを置いている同店では、最も環境への負荷が少ないイケア店舗であることも発信しながら、ユーザーが「また来たい」と思えるような店舗づくりが日々進められている。今後も、眠りのソリューション提案のほか、フードメニューなども新たな商品が発表される予定。季節ごとにイケアが表現する、新たな世界観に注目だ。
(佐藤敬広)