
――まず初めに、簡単に北谷さんの略歴についてお伺いできますか。
北谷 インテリアコーディネーターになるまでは、実は全く違う業界で働いていました。インテリアコーディネーターというと、デザイン系や建築系の学校出身の方が多いと思うのですが、私は法学部の政治学科を卒業し、政府系の金融機関に勤めておりました。中小企業への融資審査業務など大変やりがいのある仕事に携わることができましたが、全国各地への転勤の可能性もある中で、自らの将来像を具体的にイメージできないという悩みを持つようになりました。
そのように考えていた当時、結婚した主人の実家が家具メーカーだということで、工場やショールーム、展示会などを見学する機会が増え、インテリアやものづくりへの関心が高まって、インテリア業界への転身を決意しました。長女を妊娠中にインテリアコーディネーターの資格を取得したのが、この業界での第一歩です。
――ご結婚後に、会社を立ち上げられたそうですね。
北谷 主人と東京で会社を立ち上げました。主人の家は地方の家具メーカーで、皇室に家具を納めているような企業ではあったのですが、やはり地方に本拠がある以上、首都圏・東京などの情報にはどうしても疎い面がありましたので、東京の当社で独自に集客してお客様のご要望を伺い、オーダーで製作していくというところから事業を始めていきました。
今現在は、前述の家具メーカーは無くなってしまいましたが、我々の会社はそのまま東京で、インテリアコーディネートやリノベーションなどを手掛ける業態に方向転換をして、事業を続けてきているという形です。
――インテリアコーディネーターの方々においては、いわゆる大手のハウスメーカーの業務委託として仕事をされている方が多く見受けられますが、北谷さんはこれまでどのようなスタイルでコーディネート業に携わってこられているのでしょうか。
北谷 私は長年、自社でWEBページを作って集客をしてきました。このWEBページ経由で直接、一般消費者の方からインテリアコーディネートやリノベーションのご依頼をいただいています。また、それとは別の形として、当社と同じ世田谷区にある注文住宅の設計施工会社で、その立ち上げ当時から案件に携わっています。間取りプランや内外装仕上げデザイン全般について、お客様との打ち合わせから現場の納まり指示や確認まで担当しており、以上が今の仕事の2本柱です。
会社設立からは20年以上経つのですが、その当時はインテリアコーディネーターが自身でWEBページを持つことがさほど多くない時代だったので、比較的集客しやすい環境だったと思います。しかし昨今は変化が激しい時代で、WEBページだけでなくインスタグラムなどのSNSも合わせて活用するのがよいのかどうかなど、私以外の他のインテリアコーディネーターの皆さんも試行錯誤していらっしゃると思います。幸い弊社では、長年の実績やお付き合いで、リピーターのお客様やご紹介の案件が増えていることもあって、途切れることなく充実したお仕事をさせていただいているのはありがたい限りです。
――事業を始められた当初から造作家具を手掛けられてきたということで、現在もやはり造作家具のコーディネートが強みということですね。
北谷 そうですね。やはりこのような経歴ですので、造作家具デザインは強みであるととらえています。今現在はハウジングエージェンシーで造作家具の講座をもたせていただいています。つい先日その講座の際にお聞きしたところによると、造作家具の要望は増えているがその対応がしきれないと感じている工務店などが多く、何とかしたいというのが講座を受けに来られる動機になっているようです。SNSなどの普及により、エンドユーザーの知識が増え、それに関連してご要望のレベルも変わってきています。
――どのような要望が多く見受けられるのでしょうか。
北谷 一般的に多いのは、造作で洗面台をつくりたいという声や、壁掛けのテレビボードのご要望でしょうか。洗面に関しては、SNSなどで素敵な事例写真をご覧になったり、ホテルの水廻りを参考になさったりして、「こんな風にしたい」と理想のイメージをもつと、設備メーカーの洗面化粧台セットではご要望に合わないケースが多いのです。洗面台を造作で作り、水栓金具やボウルもひとつひとつ選んで組み合わせることができると、お客様の満足度も高まります。また、テレビを壁掛けにしたいという方がとても多いので、そうなるとテレビボードもフロートさせて壁に設置し、合わせて配線計画も検討してすっきり納めたいということがよくあります。
――北谷さんがコーディネートされる案件は、やはり強みとされる造作家具を多く取り入れられていらっしゃるのでしょうか。
北谷 必ずしもそうではないです。お客様ごとにご要望の優先順位が異なり、ご予算もそれぞれなので。もちろんお客様側から造作家具のご要望があれば喜んでご提案しますし、そのような明確なご希望がなくても、造作家具を採用することが機能的にもデザイン的にも効果的だと考えるときには積極的に提案します。完成イメージの伝え方や打ち合わせの進め方など、造作家具を苦手とされているインテリアコーディネーターの方は、不安に感じて二の足を踏んでしまうようなので、そう考えると取り扱うケースはやはり比較的多いのかもしれないですね。
――ここからは日本インテリアコーディネーター協会(icon)についてもお伺いします。北谷さんはiconの会長も務めていらっしゃりますね。
北谷 元々はインテリアコーディネーター東京(IC東京)に所属していました。icon立ち上げの準備メンバーに入り、2012年に最後の会長としてIC東京を発展的に解散後、iconに合流した流れです。iconは、インテリアコーディネーター団体初の一般社団法人として、また全国組織の職能団体として設立しました。インテリアコーディネーターという職能の質的向上と社会的な地位確立のためには、出来るだけ多くの人数がまとまり、ひとつの大きな声で発信していくことが重要だと考えておりました。
――協会の特長などを教えていただけますか。
北谷 様々な制度を整えています。ひとつ例を挙げると、テクニカルアドバイスシステム(TAS)という制度があり、これはリフォームやリノベーションなどの業務で、施工や納まり、その他技術的な質問を各ジャンルのアドバイザーに相談できるサービスです。不安を軽減しながら様々な現場に挑戦できるようにすることを目的としています。
当団体は、インテリアコーディネーター自らが立ち上げた職能団体です。インテリアコーディネーターのプラットフォームとして、仕事をしやすい環境を整えることにも力を入れています。会員区別はA会員とB会員に区分しており、A会員はインテリアコーディネーターの資格を保有していることが加入条件で、企業に所属している方が多いです。
B会員というのは、例えば当協会へ仕事の依頼が来た際など、その会員自身でビジネスを受注でき、インテリアコーディネートの仕事を請け負える方としています。したがってB会員の加入申請時にはプロフィールや施工事例などを提出していただいています。フリーランスやご自身で会社を運営されていらっしゃるような方がB会員には属しています。区分の比率としては会員約300名ののうち、約3分の1がA会員、約3分の2がB会員といった現状です。
当協会の独自の取り組みとして、保険の制度があり、B会員の個人事業主は文芸美術国民健康保険組合に申請が可能です。賠償責任保険はB会員に入会すると自動付帯され、保険料は年会費に含まれます。万が一トラブルが起こった際にも、補償範囲であれば保険でカバーできます。また、CPD制度など、実務に即したセミナーを行いながら、研修活動も充実を図っています。
当協会は全国300人以上の会員が在籍しています。ありがたいことに賛助会員も増えており、共同で新しい事業取り組みができないかといったお声がけをいただくことが多くなりました。そのような状況の中、いわゆるビジネスの種のようなものを、いかにビジネスとして形にしていくかが課題のひとつとなり、ビジネス創出チームを立ち上げて取り組みを始めたところです。
インテリアコーディネーターのこれまでの歴史を振り返ってみると、時代の流れに応じて仕事のスタイルや領域を変えながら、その可能性を広げてきたことが分かります。時代に対応する仕事の在り方を追求し続けなければいけないという観点から、当協会でもビジネス創出チームの役割が重要になると考えています。
――インテリアコーディネーターのビジネス拡大という点において、例えば地域の工務店などと連携した取り組みなどについては、どのようにお考えですか。
北谷 一部の工務店と当協会とで、数年前まで協力体制ができていた時代があったのですが、様々な事情もあり、現状は協会としての取り組みが出来ていません。我々も工務店とタッグを組むことで、お互いの強みを活かしたビジネス展開が出来ると考えておりますので、また改めて工務店と協業できる仕組みづくりに力を入れていく予定です。
工務店の方々や一般生活者からすると、インテリアコーディネーターという職種は「色や柄を選ぶ人」という認識をお持ちの方が少なくないようです。実際はそれだけではなく、お客様の暮らし方や住まい方に合わせて、またその方の嗜好やバックボーンを踏まえて、建築や設備、内装材などに関しても専門的な知識と情報を元に検討やご提案を重ね、お客様の憧れや理想を形にするために尽力します。インテリアコーディネーターが出来る仕事の範囲を理解してもらうということは、工務店との関係性を築くという観点でも重要なことです。
例えばリノベーションに関して当社のケースでは、プランを作成してお客様と契約し、当社から各施工業者に施工をお願いするというケースが多いですが、場合によってはデザイン設計とその監理を当社が受託して、工事契約は工務店とお客様が結ぶということもあります。インテリアコーディネーターがどのような立ち位置で案件に携わることが出来るのかを理解してもらうことも、工務店との連携においては大切なことだと思います。
――定期的に会合等も開かれているのでしょうか。
北谷 毎年、年に一度の総会を6月頃に開催しています。また毎月、理事会や支部役員会を開いているほか、各ディビジョン運営、研究会や活動グループによる活動が随時行われています。
――2025年度、このようなことを手掛けていきたいなどの展望をお教えいただけますか。
北谷 設立からこれまでは、一般社団法人としての組織づくり、保険制度の整備などに力を入れてきました。この先重点的に取り組んでいくこととしてひとつ目は、一般生活者の方々に、インテリアコーディネーターの職能をより積極的にアピールしていくこと。昨年、BtoCの展示会であるGOOD LIFEフェア2024にiconとして出展したのもその一環です。
2つ目は、先ほどもお話ししましたが、賛助会員とのコラボレーションなど、新たなビジネスを創出すること。これからのインテリアコーディネーターは、自ら仕事を生み出していくビジネス感覚が無くてはならないと思っています。3つ目は、会員一人一人が責任をもって仕事に取組み、質の高い仕事を全うできるだけの力を付けること。そのことがiconそのものの信用力に繋がると考えています。
――ここ最近のインテリアのトレンド、一般ユーザーのニーズの傾向などについて、北谷さんの視点からお話いただけますか。
北谷 これについては、非常に多様化していると感じています。私自身を振り返ってもそうなのですが、皆さん何かを調べるときに、必ずWEBで検索をしますよね。アプリケーションによっては、検索を繰り返すうちに、関連する多くの情報が勝手に次々と表示されるような仕組みになっていることもあり、そのような過程を経て、ユーザーの方々の好みやニーズもより一層細分化、多様化しているように思います。
例えばお客様から、「このような空間にしたい」というご依頼があった際、参考のイメージとして見せてくださるのは、家具メーカーなどがイメージとして出されているコーディネート画像ではなく、実例としてSNSなどに投稿されている部屋の画像が多いですね。海外の住空間などの写真を参考例として出される方も多くいらっしゃいます。
――最後に、家具インテリアメーカーなど、業界への要望やご提案がございましたら、お教えいただけますか。
北谷 インテリアコーディネーターとして作りたい空間イメージにぴったりの家具を提案するために、例えばサイズとかデザイン、張地についてカスタマイズができることは非常にありがたいので、そのような対応をしてくださるメーカーがより増えると嬉しいです。インテリアコーディネーターによってカスタマイズできる点が、特別感・付加価値としてご提案できることにつながります。一般ユーザーが購入できる商品ラインと、我々のようなプロを通してでないと購入できない商品ラインなどのように、プロ向けにはオーダー面のサポートを手厚くしていただけると、ご提案の幅も広がり且つプロに依頼することのメリットが明確になるので、是非ご検討いただきたいと思います。
例えば「室内空間のこの個所の、この色に合わせた家具が欲しい」と考えても、なかなか条件に合う家具が見つからないケースがあります。しかしそのような際に、「塗装はこの色にオーダーできますか。サイズも少し変更できますか」と相談すると、対応してくださるメーカーもいらっしゃいます。生産体制にもよって対応の可否、難易度は異なると思いますが、インテリアコーディネーターのこだわりに付き合ってくださるメーカーの存在は大変心強く、頼りにしてしまいます。生地の持ち込みなども同様で、インテリアコーディネーターとしてのオリジナルの提案ができると、仕事の質も上がります。家具メーカーとインテリアコーディネーターとの繋がりが深くなることで、より多様なニーズに対応できる環境が整っていけると良いなと思っています。
――お忙しい中、多岐にわたりお話いただき、ありがとうございました。
(聞き手 佐藤敬広)