アメリカ広葉樹輸出協会 Walnut(ウォールナット)懇談会開催 8名のパネリストが広葉樹の価格変動をディスカッション

アメリカ広葉樹輸出協会(日本代表:大阪市北区、辻隆洋代表)は、東京国際家具見本市の開催に合わせて、Walnut懇談会を東京都江東区のヒルトン東京お台場で開催した。懇談会には米国ウォールナット製造者協会や、日本の木材製造業者などが集まり、パネルディスカッションを行った。

辻隆洋 アメリカ広葉樹輸出協会日本代表
米国大使館農務部 クレイグ・エリオット氏

冒頭では、アメリカ広葉樹輸出協会日本代表の辻隆洋氏が、懇談会の趣旨を説明。そののち、米国大使館農務部のクレイグ・エリオット氏が開会の挨拶を行った。


米国ウォールナット製造者協会 ブライアン・ブルックシャイヤー氏

次に、「米国のWalnutの歴史、資源状況と輸出の現状」と題して、米国ウォールナット製造者協会の ブライアン・ブルックシャイヤー氏が報告を行った。米国ウォールナット製造者協会は北米のブラックウォールナットを製造している米国の製造業者25社以上で構成されており、ウォールナット業界のためのマーケティングや、種の管理、スチュワードシップの状況についての監督などを手掛けている。

まず、アメリカから日本向けに輸出した広葉樹材およびウォールナットの数量については、広葉樹全体の輸出量は2022年は6万8787㎥だったが、23年は5万5453㎥と、前年比で19%減少した。このうちウォールナットは、22年は1万4005㎥だったが、23年は8977㎥と約36%減少した。ドル立て輸出額では22年に約3400万ドルだったものが、23年には約2000万ドルにまで落ち込み、前年比で41%減となった。

ウォールナット以外の主要な材の日本への輸出量およびドル建て輸出額をみると、最も日本への輸出量が多いホワイトオークは22年が1万6886㎥、23年は1万4834㎥(前年比12%減)、ドル立て輸出額は22年が約1060万ドル、23年が960万ドル(前年比10%減)。ホワイオーク、ウォールナットの次に輸出量が多いレッドオークは、22年は約1万1000㎥、23年が約8300㎥(前年比22%減)、ドル立て輸出額は22年が約880万ドル、23年が約640万ドル(前年比28%減)。4番目に輸出量が多いアッシュは22年が約9400㎥、23年が約6300㎥(前年比32%減)。ドル建て輸出額は22年が約570万ドル、23年が約400万ドル(前年比30%減)。アメリカからの日本へ輸出される全広葉樹輸出量のうち、約7割を占めるこれら4種の木材すべてが、輸出量とドル建て輸出額について前年比を下回っている。

なお、アメリカのウォールナット製材における全世界への輸出量は、2017年が約21万5000㎥、22年が約24万㎥、23年が約22万4000㎥と、20万㎥台前半で推移している。したがって2023年の日本向けのウォールナット輸出量は、全世界への輸出量全体からみると約4%にすぎない。

日本向けのウォールナット価格が高騰している原因には、まず円安の為替問題がある。円安で3割ほど価格が上昇したことに加え、ドル建てでのウォールナット価格も3割ほど高騰していることで、トータルで6割ほど価格が上がっている。これに加え、世界中でウォールナットに対しての需要が非常に高い点も、価格高騰に拍車をかけている要因だ。原木に関しても米国産のウォールナットは世界中で需要があり、特に中国向けに関して需要が強くなっている。

コロナ禍においては、中国はウォールナットの買い付けをあまり行っていなかったが、コロナ禍が終わったのち、中国はウォールナット購入を拡大させた。そのため、この期間において供給をはるかに上回る需要があった。2017年におけるウォールナット製材の対中国向け輸出量は約9万㎥。22年は8万5500㎥、23年は11万3222㎥、と、全世界へのウォールナット輸出量のうち、約50%以上を中国向け輸出が占めている。輸出量が22年から23年で増加していることも、日本向け輸出量の変化との大きな違いだ。等級の良し悪しに関わらず、大量に丸太を買い付けて中国に運ばれている影響が、価格にも表れていると推察される。

一方で、米国ウォールナット製造者協会の会員企業の間では、価格高騰に頭打ち感が見られるようだ。ブルックシャイヤー氏は

「今までは非常に強い値上げトレンドがあり、需要も非常に強くありました。しかしこの傾向が、最近では少しゆるんできているという兆しがあると、当協会員が報告しています」と語る。
そのうえで同氏は今後のウォールナットの供給について言及。

「今は世界的に、需要と同じレベルの供給になってきています。価格はこれからも上昇し続けるということではなく、より横ばいになりはじめるとみています」とし、2024年のウォールナットの供給が良好に進むこと、協会としてアメリカ広葉樹の需要をしっかりとトラッキングしたうえで、アメリカの広葉樹製品に対して需要が拡大する局面に至れば、生産を拡大し供給するという柔軟な対応がとれる点を強調した。


その後、ブルックシャイヤー氏を含めたパネリスト8名によるディスカッションが行われた。以下、パネリストの意見要約。

▽桜製作所 永見宏介氏

日本がウォールナットに使う金額ベースは3割4割減っているということですが、当社がこれまでの2倍や2.5倍の価格で購入しているわけですから、日本への輸出量はかなり減っている、ということだと思います。

今は、ブラックチェリーが安いです。安い材料が流行っていくでしょう。そうすると、今高騰しているウォールナットも少し価格は下がっていくのではないかと思います。

ディスカッションのなかで、ウォールナットの代替材、レッドオークを使う議論を聞いて感じたことですが、当社は約60年、ウォールナットばかり使ってきており、オークは使っていません。ホワイトアッシュは椅子の背に使っており、用途用途で材を使い分けてきました。

ウォールナットは、アメリカの現地挽きの製品材は使わないようにしています。なぜかというと、乾燥させるためにスチームをかけて、赤身と白太がわかりにくくなって送られてくるからです。昔から使っていたウォールナットの色つやではありません。最近の既製品材はみな、そのようなウォールナットになっており、悪い使い方だと思っています。はんなりとしたウォールナットの風合いのものが愛されていたのに、値段だけ高騰している。それならば、レッドオークの良さをきちんと利用するほうが良いのではないかと思います。レッドオークは白も赤もあります。木は自然ですから、あえて使うように工夫をすることが、今後のテーマではないでしょうか。

メープルもアルダーも当社では通常は使っていませんが、IFFTで初めてアルダー材を使ってみて、非常に良い材料だと思いました。ウォールナットは市場価値が上がっていますが、個人的には品質が下がっていると感じています。手に入らない、品質も下がっている。等級ルールを一般化させて、業界でウォールナットの価値を高めていけるようにしないといけないでしょう。


▽北三 樽井康弘氏

ウォールナットは、コロナ禍が始まる前は、ホテルなどの建築内装に非常に多く使われていました。従って、当社へのご注文も多く、仕入れについても多く仕入れていました。

アメリカ材において、突板の注文で多かったのはウォールナットという状況が続いていました。しかしコロナ禍が始まって以降、ホワイトオークの人気が高まりました。大きなホテルで採用される材は、ほとんどホワイトオーク。ブランドショップや空港の免税店なども、今はホワイトオーク一色というのが日本の現状でして、国内の企業からの注文はホワイトオークが多くなってきています。

しかしそれでも、ホワイトオークに対して4割ほどのウォールナットの需要はあります。値上がりはあくまで、為替で1年2年で30%ほど円安に振れたので、それに伴い30%ほど価格が高くなるのは分かります。しかし私どもは現地で買い付けをしており、現地のドル価格においても、ウォールナットは過去5年、6年はベニヤ用のグレードについては安定していたのですが、この1年で一気に3割4割ほど価格が上がりました。為替に対する30%増の価格増は、当社のお客様にも理解していただけるのですが、現地の価格も30%ほど増となると、トータルで60%近く価格は上がることとなり、今年度は建築内装にウォールナットがほとんど採用されない状況となってきています。

レッドオークをたくさん売っていきたいというのは、当社でもここ1、2年のスパンではなく、20年ほどの課題ではあります。しかし、なかなかデザイナーさんが採用してくださりません。目がアメリカンで、ワイルドだからだ、という答えしかありません。私どもとしてはこうした状況ですから、ホワイトオークの代替として販売していきたいので、今年度は突板用の仕入れ量を4倍に設定しています。


▽昭和木材 八重樫尚史氏

ウォールナットについては、アメリカの現地での価格が非常に強すぎるのが現状です。原木に関しては非常に需要が強いです。我々としては、「シーズンにむけて、これぐらいの量を集めてください」という形でオーダーをしているのですが、集まったとしても6割ほど。値段をもっと上げないと材を集められないという報告がきています。コロナ禍が始まってから去年まで、ずっとそれは続いているのですが、今年に入ってよりその傾向が強くなりました。したがって、この値段で購入して製材しても、家具メーカーさんの立場からみれば「この値段に無理に付き合う必要があるのでしょうか?」ということになってしまいます。したがって今年は、どこでどのように折り合いをつけていくか、迷っているのが現状ではあります。

また、レッドオーク、ホワイトオークについてですが、建築はホワイトオークの需要が強いです。建築業界のお取引先さまは、ホワイトオーク、もしくはナラの色を求めていらっしゃります。レッドオークが入り込む余地は、基本的には無いのです。そうなると、ホワイトオークとミズナラは非常に需要が強いので、価格的になかなか対応できません。これは我々にとっても、オーク関係で大きく頭を悩ませている状況の一つです。レッドオークは供給量もあり、家具メーカーさまにとっては使いやすい樹種ですので、おそらく量産メーカーさまはそのレッドオークを使用する方向に舵を切られました。したがって、今後はレッドオークの需要拡大が続くと思われるのですが、今現在若手を含めて、設計やデザインを手掛けている方々は、オークのナラの色が欲しい。そうするとホワイトオーク、ナラの需要が中心となります。

ウォールナットについては、世界三大銘木の一つとして「特別な木」というイメージが持たれており、「このウォールナットの色が欲しい」という方は確実にいらっしゃります。しかしながら、「色の強い、安い木があるのであれば、それに代えてもいい」という誘惑も常に発生しています。ウォールナット、チークが今は同じくらいの価格ですが、しかしもっと安いグレードの木はないかという相談も受けます。その場合、アフリカンマホガニー、サペリマホガニー、アカシアといった樹種の値段の誘惑もあります。したがって、ウォールナットはそのような他の価格帯の樹種の誘惑を、いつまでも跳ね除け続けるということは、難しいかもしれません。


▽新宮商行 深澤賢一郎氏

ウォールナットとホワイトオークのターニングポイントは、コロナ禍とウッドショックの時期だったと考えています。ウォールナットもホワイトオークも、ウッドショック期には日本国内において非常に需要が高い樹種でした。しかし次第にアメリカからの供給力が落ちまして、日本でも品不足が発生しました。その後供給力が回復してから、現地での価格が毎月変わるという状況になり、そして現在に至っています。

そのような状況の中で、現地での値段が高くなるということで、西日本と東日本の製材の需要動向は少し異なりますが、この2つの樹種については、家具メーカーさんが「値段が高い樹種だ」という認識が、この1年~2年の間に刷り込まれてしまっています。特に、既成品の家具を作っていらっしゃるメーカーさんは、製品を作り続けていかないといけません。逆に、特注家具・コントラクト家具を製造されているメーカーさんは、「ウォールナットとホワイトオークは値段が高い」ということで、最初からその採用を避けるという傾向もみられています。我々にとって最も好ましくない状況は、ソリッドのウォールナットを止めてしまって、いわゆるプリントにしてしまう、といったことです。そのような事態を、我々の業界としても危惧しています。

他の樹種の入荷状況については、コロナ禍以降、各樹種とも順調に入手できるようになっていますが、ホワイトオークだけは難しいというのが現状です。ウォールナットについては、各製材所で基本的にNHLAのグレーディングがされていますが、取引先さまによってはそれ以上のクオリティの材を要求される企業もいらっしゃります。オークルールでのグレーディングや、それぞれのメーカーの独自でのグレーディングなどです。したがって我々のような木材輸入販売業者としては、メーカーなどのお客様に対して説明がしづらいという状況もあります。


▽物林 丸上裕史氏

コロナ禍の期間、比較的調達が難しかったタイミングでは、比較的取引先のお客様からのご理解も得やすかったのですが、しかしさすがにウォールナットは価格が高くなりすぎて、商品に転嫁できないレベルになってしまいましたので、現地の価格を受け入れないという姿勢が強くなってきました。間に入っている私どもがなにができるか、という点については、最大限歩留まりを上げるといったことや、様々な商品の組み合わせを工夫し、最大限使い切る努力をしながら、可能な限り価格をお客様に受け入れていただく努力を致してきました。

日本では木目がいくら白いレッドオークでも、レッドオークはレッドオークに変わりない、という評価です。しかし中国の取引先では、価格面で白系のレッドオークに狙いをしぼって商品化している企業はあります。その中国のメーカーはカナダに販売しており、日本市場向け製品ではありません。ホワイトオークが高くなりすぎているので、他の樹種に切り替えるという動きは中国ではあります。


▽北日本木材 吉岡昌輝氏

今、日本も大変な経済状況であるなかではありますが、個人的に思うのは、ウォールナットに関しては代替材が無いこと、そして世界需要が強いなかで、日本だけが使わないというのは考えられません。日本の経済状況が回復していくことも、今後の一つのポイントになると考えています。今後も日本国内において、ウォールナットの需要は一定数継続していくと予測しています。

今の国産材はかなりニーズが高く、これはウッドショック以降の大きな流れです。広葉樹に限って見れば、国内のトータルなニーズについては、国産材だけでそのニーズを満たすのは不可能で、やはりアメリカ産材も必要となります。

国産材の需要については、ナラ材が一番の人気樹種です。ウィスキー樽用に加え、家具メーカーさまからのオファーもかなりいただいています。しかし我々も、工場の生産キャパが足りていません。国産広葉樹の量、そして製材所の数が、今のニーズに照らし合わせると足りていないのが現状です。


▽アメリカ広葉樹輸出協会 Tripp Pryor氏

ホワイトオークについても話題となりましたが、ホワイトオークはウィスキーの樽などにも使用されており、世界中でまだ堅調な需要が続いています。ホワイトオークに関しては、これから価格が下がっていくことは期待できないと考えています。ただ、オークに関してはレッドオークがあり、等級的にも色的にもホワイトオークと同じように扱えるので、ホワイトオークに代わってレッドオークを使っていただくことも可能です。レッドオークは広葉樹林のなかでも30%近くを占めており、豊かに生産されている樹種です。これはウィスキーの樽には使われないため、そのような意味でも手に入れやすいと考えています。

レッドオークは、アメリカではあらゆるところで生育しており、全ての製材所で扱っています。ただ、伐採される地域によって、色などに違いがあります。生育場所によってワイルドなものになるものもありますし、落ち着いた色になるものもあります。気候によって様々です。高い等級のものですと、ヨーロッパなどで好んで使われます。グレードの低いものは中国などに大量に輸出して使われることで、価格が低くなることもあります。2017年にさかのぼると、レッドオークの輸出の8割が中国むけでした。その後、米中関係の対立などで、中国向け輸出はかつての半分の量になっています。かつて、輸出量が良好だったときと比べると、レッドオーク材の中国への輸出は3億ドルで、以前と比べると状況は変わってきました。


(佐藤敬広)