【インタビュー/オルガテック東京2023】一般社団法人日本オフィス家具協会(JOIFA) 専務理事  貫名英一 氏

オフィスは変革期、需要は旺盛

――オルガテック東京といえば、家具業界でも話題になっております。開催を楽しみにしております。
貫名 今年も昨年と同時期で、4月26日から3日間開催です。本音を言うと、違う時期にずらしたいと思っております。理由は、イタリアのミラノサローネとも日程が近すぎますし、何よりオフィス家具メーカーは2月から4月にかけて一番忙しいのです。3月末、すなわち多くの会社にとって年度末までに新しいオフィス家具を入れるのが通例になっていて、4月は、3月までに入りきらなかったもののアフターフォローに追われます。オルガテック東京の大きな魅力の一つには、設計者やデザイナーが数多く訪れるという点がありますが、彼らもまた、同時期は忙しいことも多いのです。ですので、次回は5月以降にしたい、と東京ビッグサイト側とも会話をしています。


――オルガテック東京は海外からの出展企業も多いですね。
貫名 今回は120社以上が出展予定で、そのうち3割は海外からです。前回は約60社の出展企業のうち2割が海外企業でした。コロナの影響が大きかったのですが、来年になれば状況はより落ち着くため、展示面積も海外出展もさらに増えていくのは間違いないと思います。
オルガテックをアジアでやるとなった時、シンガポール、上海、東京といった候補地が検討されました。シンガポールもオフィスの集まる魅力的なエリアではありますが、同国に大きなオフィスメーカーはありません。上海は去年ロックダウンもあり、候補地としては難しかった。一方、東京というこの大きな都市は特別でした。潜在的なマーケット需要もそうですが、なにより、コクヨ、イトーキ、オカムラ、内田洋行、プラスといった大手オフィス家具・関連メーカーの活動拠点が集まっています。この規模のメーカーが一つの都市に集まっているのは、世界的に見ても珍しいことなのです。


――今年のテーマはShift Designということですが。
貫名 前回はRise of hybryd work(ハイブリッドワークの夜明け)でした。当初は、今回もそれでも良いかと思っていたのですが、思っていた以上にハイブリッドなワークスタイルが社会に定着した感があり、シフトデザインをテーマとしました。
例えば今やその事業所に100名いたら、100の椅子と机があればいいわけではありませんね。どのように働くか、環境からデザインする必要があるわけです。ですので、そのデザインを学べる場としたいと思っています。


――今回展の特徴となる点、知って欲しい点などお教えください。
貫名 前回を受けて、他の展示会と雰囲気が違うという声も多くいただきました。来場者の多くが長時間滞在するので、疲れにくい展示会にしたいと考えています。ビッグサイトで出展して、チラシをひたすら配ってヘトヘトになるといったことは、なるべくなくしたいと思っているのです。また、ブースをしっかり作りこんで欲しい、当日ブースに立つスタッフも、プロの対応をして欲しい、と出展各社にお願いをしました。当日はカーペットもひきます。物産展ではなく、ラウンジのイメージです。業界の人が集まって深く話し合える、それに見合ったクオリティの空間を創り出したいと思っているからです。
また、1日目、2日目は、17時以降入場を止めますが、いわゆる追い出しは行いません。オルガテックナイトといって、現地でアルコールも出したいと思っています。場内を暗くして、来場者と出展社のソーシャライジングを促す時間を設けます。ただし、出展企業に強制はしません。その後別の仕事がある人もいるでしょうから、あくまで自発性に任せます。ケルンで行うオルガテックでは、ハッピーアワーといって、午後4時くらいからブースがバーになり、同じく交流イベントとなります。ヨーロッパではそのようなスタイルが見本市であり、これをオルガテック東京でも取り入れたいと思っています。出展企業各社には、オルガテックを自社ブランドの浸透・ファン化の場にして欲しいと思います。製品の詳細は各企業のウェブやショールームでも学べます。


――ホームユースの家具メーカーがオフィス家具市場に注目しています。JOIFAとしてどう感じているのでしょうか。
貫名 私は歓迎したい動きだと思っています。プレイヤーが増えることで、市場が新しい刺激を受けるからです。オフィスは実に多様化しており、あらゆるプレイヤーによるアプローチが必要だと思っています。それが必ずしも対立を引き起こすものではありません。事実、オフィス家具業界には複数社大手が存在しますが、熾烈な価格の削り合い、利益の削り合いといった競争が起きているわけではありません。コロナに端を発してオフィスは今、変革期を迎えました。リモート会議に対応するだとか、在宅勤務を取り入れたワークプレイスにすべきといった、解決すべき課題は既に各メーカーは把握していて、どの会社も目指すゴールは同じなのです。しかし各社でアプローチが違う。それが興味深い点です。
例えば、社員間のコミュニケーションを促進する空間づくりがゴールの1つとしてありますが、そのために音を遮断する電話ボックスのような製品をつくるメーカーもいれば、ハイバックのソファをつくるメーカーもいる。従来のオフィス家具に変化を加えることで提案するメーカーもいる、といったことです。アプローチが違うので、同じタイプの製品で値下げ合戦になりにくいのです。事実、私たちの調査では各メーカーの利益率は向上しています。これが数年前、フリーアドレスが流行った時などは、皆いかに大きくて頑丈なテーブルをつくるかに終始していて、似たようなものばかり市場に出てくるのです。結果として利益の削り合いが起きるということが度々ありました。このようなことが起きにくい現在は、市場としてもとても魅力的なものと思います。


――在宅ワークでオフィスは縮小となり、需要も減りそうに感じますが、東京のオフィス需要について教えてください。
貫名 よく言われるのがオリンピックに向けた建設ラッシュが終わり、オフィスビル着工が増えるという話ですが、これに加えて、そもそも東京のオフィスはシンガポール等、他国と比べても安いのです。アジア全体を見ると、オフィスはまだまだ足りませんので、今後も需要は旺盛でしょう。また、興味深いことに近年はスタートアップが東京にオフィスを構えはじめました。一方、大手はテレワークが定着して分散に走り出しました。これによりサテライトオフィス需要が高まり、そして大手が退去したオフィスにはスタートアップが入居する、という構図が出てきました。総じて近年、リニューアル需要は旺盛です。


――JOIFAの活動について少し教えてください。
貫名 コロナ以降の3年間、一般ユーザーの間でオフィス環境、オフィス家具に対する関心が高まっているのを感じています。それに伴って当協会もオフィスの使い方について、在宅ワークの頻度、在宅ワークで困っていることはなんだろうといった調査研究を行ってきました。これらの研究はもともと協会の会員企業へ提供するために行ってきましたが、最近ではデータの使い方に変化が生まれました。


――どのような変化でしょうか。
貫名 これまでJOIFAはオフィスに関する情報提供やシンポジウム等の活動は各企業の総務部向けに行っていました。たいていの企業は、総務部に備品購入の決定権があるからです。しかし総務部はこれまでの慣行や、社内で目標の数値化や実績の提示といった背景もあり、イニシャルコストやランニングコストの削減といった、数値面に目が向きがちです。ところが数年前から現在に至るオフィストレンドは、いかに生産性やモチベーション、そして創造性、つまりクリエイティビティを向上させるかといった点が重視されていて、数値化が難しい側面があるのです。結果、経営者や人事や経営企画部の方にオフィス環境の意思決定を移していくべきではないか、となっています。協会としても、そういった人々に向けて情報発信をしていくようになりました。


――オフィスはまさに過渡期ということですね、オルガテック東京はそういう部門の方々をターゲットにしているのですか。
貫名 もちろんそういった方々にもお越し頂きたいのですが、この新しいトレンドを広めていくためには、単にオフィス用品や家具の見積もりを提示するのではなく、生産性を上げる提案等、コンサルを請け負えるプレイヤーが増えることを望みます。それには、設計事務所やデザイナーの方に来場いただき、最新のオフィストレンドや企業姿勢について知って頂きたいと思っています。


――貫名専務、お忙しい中ありがとうございました。(聞き手 長澤記者)

オルガテック東京 WEBサイト:https://www.orgatec-tokyo.jp/
一般社団法人日本オフィス家具協会 WEBサイト:https://www.joifa.or.jp/