1年間かけて、業界で活用方法を模索
日本ベッド製造(東京都港区、宇佐見壽治社長)は、このほど池上事業所の大規模改修を行い、ショールームと多目的スペースを兼ねた事業所を完成させた。
同事業所の歴史は古く、竣工は1965年。6階建てで、2019年までは本社兼物流事務所として使用していた。同年から青山に本社機能を移転し、2年にわたる耐震診断・設計、改修工事を経て、営業部門や商品開発、物流部門などオフィス機能の一部を4階に集約。2階と3階を同社のショールームとして使用開始した。
今回の改修の主たる目的には、5階、6階部分をイベントや常設展示場としての外部開放がある。建物の延床面積は約2800平米だが、そのうち5階、6階部分は計450平米で、5階は約380平米に及ぶイベントホールとしての利用を想定している。6階は会議や食事等をとれる多目的スペースとして活用予定だ。
今回のリニューアルでは、耐震補強工事や、アスベスト検査、フローリング・壁面の刷新、また、手すりも一部自社工場で新たに製作し、背丈を高いものにするなど、59年の歴史を支えた建物を2年の改修期間を経て、時代に合わせた用途へ変換させた。歴史ある建物であるため、耐震設計、工事には長期の検査や工事を要したという。日本ベッド製造三代目社長の宇佐見壽治氏は、「先代から受け継いできた資産を、時代に合わせてもっと有効に活用しようという狙いがありました」と改修の意図を語る。
同社が池上事業所を催事活用するのは、初めてのことではない。これまで地場販売店に呼びかけ、販売会会場として使用することもあった。しかしスペースが限られていたためその都度展示品の入れ替えや、自社製品の移動に多大な作業時間を要したという。今回の改装を経て以前より広いスペースへ生まれ変わったことで、イベント活用に特化した建物に進化した形だ。
また、青山本社にもショールーム機能を持たせたことで、池上の展示エリア(2・3階)では最新の製品だけに捉われず、アウトレット販売を行うなど柔軟な運用も視野に入れる。具体的な運用もすでに開始している。7月11日には自社新製品発表会を実施した。8月にはハウスメーカーを集めて販売会を行うなど予定が入ってきている。
耐震診断、アスベスト検査等経て、多くの来場者を
宇佐見社長は、「この池上という地は、城南エリアの一部をカバーし、また神奈川からもお客様を招待できるエリアだと思います。新宿や渋谷には多くのショールームがありますが、城南は案外少ない。是非、弊社と一緒にこの地域でインテリア提案をしてくださるパートナー企業様を探したく考えています。」と地域戦略における同事業所の利点を強調した。池上事業所から西に向かって進むと、10分未満で東急池上線の池上駅が現れる。さらに西進すると国道一号線に繋がる。反対に東に向かうと、JR京浜東北線の大森駅に辿り着く。これまでの同事業所での販売会を振り返ると、品川区、大田区、目黒区、一部世田谷区などの城南エリアと神奈川県からの来場実績があるという。
建物の竣工当初、すなわち昭和40年当時はオーダーベッドの物流倉庫としても活用していたため、1階は一般的なビルより天井高がある。10トン車などの大型トラックが進入できる珍しい構造だ。搬入も可能なエレベータの真横に車両を停車可能で、イベント時の搬入も容易だ。入口のそばには、新たに電気自動車用の急速充電器も用意した。今後プロユーザー、エンドユーザーを多数招くことを想定して、建物の裏手も整備し、25台が駐車できるスペースに作り替えた。周辺地域は比較的幅の広い車種を有する住民が多いため、これに配慮して駐車場の幅も3mに拡張したという。
1階の建物内部には同社のフラッグシップモデルである「シルキーマットレス」を展示。同社で約90年使われてきた金庫や、昇降装置の展示も見られ、製品だけでなく歴史にも触れることのできる空間に生まれ変わった。
2階、3階は自社ショールームとしての利用を予定しており、2フロアにわたって同社の様々なベッドが並ぶ。現時点で展示台数は相当多く、自社新作展などの特別な時期を除いて、3階の一部も他社のリビング、ダイニング用の家具を置くなど、総合的なインテリア提案ができる空間に作り替える計画もあるという。
5階はメインのイベントスペース空間で、特筆すべきは、広い面積のわりに柱の数が少ない点だ。建築当初より建物の外殻部分を強化することで耐震強度を確保しており、結果として柱の本数が少なくなり、空間を広く使うことができるという。催事スペースの奥には従業員や催事参加者が休憩できるスペースも設けている。
6階は屋上だが、奥には68平米の会議室がある。中には、会議用の机、椅子、モニターなどもあり、最大40名で会議も可能だ。屋上とあわせて、飲食をするなど多目的スペースとしての活用も想定しているようだ。
お客様、他社様、自社の三方良しを目指したい
宇佐見社長は、「今回の改装、そしてイベントスペースの運用開始は、弊社が貸しスペース事業を始めたいということではありません。他社さんと手を組むことでシナジー効果を発揮し、最終的に弊社の製品の魅力も伝わり、販売につなげたいのが本音なのです。取り組みの根底には、お客さん良し、他メーカーさんも良し、そして私たちも良しといった『三方良し』の原則があります。1つの方法に捉われず、これから1年くらいかけて有効な活用方法を業界のみなさんと模索していきたいと思っています。まずは、こんなふうに使いたいというご相談を気軽に頂けると嬉しく思います」と語った。
(長澤貴之)