イーソーコグループのアルテスペース 家具のスペースプランニング事業でマスターリース提案 倉庫リノベ物件提案をワンストップに

 物流不動産ビジネスを展開するイーソーコ(東京都港区、遠藤文代表)は、2023年8月より新会社となるアルテスペース(東京都港区、千葉竜哉代表)を設立し、家具事業へ参入した。イーソーコグループとしてのサービス提案概要や、新会社のアルテスペース設立に至った背景などについて取材した。

 全国には多くの物流倉庫が存在するが、昨今は郊外に高機能の大型物流施設が増加。それにより、首都圏を中心に中小規模の倉庫の空きが増えており、倉庫オーナーにとっては悩みの種となっている。イーソーコグループは、そのような中小規模倉庫のリノベーションを手掛け、グループのリーシングおよび建築を連携した一体型サービス提案を図ることで、物流とは異なる用途のテナント入居を可能にしている。

 例えば、首都圏に存在する倉庫物件では、空きスペースをリノベーションしてオフィスやダンススタジオとして活用できるようにするなど、新たなテナントを募集することで、活用を図っている。倉庫物件は天井が高く、仕切りがないものが多いため、リノベーションすることで1フロア通した大空間となること。それによって風通しのよい、一体感をもった空間ができる。業務の活性化やコミュニケーションの活性化に期待して入居する企業も多い。オフィスに比べて低廉な賃料も魅力となっている。

 これらの内装・インテリアの提案を踏まえた「家具リノベ」は、倉庫リノベーションの企画・設計・施工・コーディネート業務を手掛けるイーソーコ総合研究所の出村亜希子代表が中心となって進めている。一般的な倉庫は、もともと窓を設置していない物件も多いが、イーソーコグループでは出村氏を筆頭に、一級建築士の資格をもつスタッフが在籍しており、リノベーションの際に窓を新たに開設するといったことも可能な点も、サービスにおける訴求ポイントの一つだという。

 家具関連業者などへも対応可能だといい、「倉庫兼ショールーム・ショップなどの機能を備えられるような物件を探していらっしゃる企業に対して、当社グループがもつ倉庫物件情報がお役に立てるのではないか」と出村氏は話す。

3Dシミュレーションの一例

 アルテスペースの設立までは、倉庫物件をそのまま案内して見せるのみで、契約後に家具を配置した空間イメージなどまでは提供することができていなかった。アルテスペースの設立で、3Dシミュレーションによる画像での提案が可能となった。このサービスは、顧客の要望に合わせて直接タブレット画面を示しながら提案するというものだ。壁面の色のイメージなどもその場で変えることができるので、即応性が非常に高い。顧客からもイメージが湧くと喜ばれている。

 3Dシミュレーション提案は現在のところ千葉代表のほか、数名のスタッフが対応可能で、今後も対応できるスタッフを増やしていくという。アルテスペース経由で、メーカーの家具を提案していくという契約も徐々に進みつつある。千葉代表は「提案の場や、ニーズに応えられる幅も広がることから、今後もより一層、家具メーカーとの契約を広げていきたい」と語る。


 このほかアルテスペースでは、電子商取引(EC)販売サイトを立ち上げ、日本各地の工芸品・逸品などの販売も行う予定だ。ECサイトのサービス開始は10月上旬を予定している。

 千葉代表は、2011年の東日本大震災による津波被害によって被災した宮城県の石巻市雄勝の出身。その雄勝では地場産業として、伝統的工芸品にも指定されている「雄勝硯(おがつすずり)」が盛んだが、千葉代表の父は雄勝硯伝統産業会館の館長を務めるなど、伝統工芸に長く携わってきた人物だった。

 父の影響を受けた千葉代表は、法政大学の文学部史学科に進学。伊達政宗の研究などにも取り組みながら、学芸員の資格も取得した。学芸員の道に進むかも迷ったというが、最終的にインテリアの道へ進むと決め、旧・大塚家具に入社することとなったという。「学芸員の道には進まなかったが、”いいものを説明して購入していただく”ということについて、学芸員の道とインテリアの販売の道とで、とても親和性があった」と述懐する。匠大塚へ移ったのちも、2017年に匠大塚春日部本店で開催された「World Interiors Week ㏌ Japan」の一環である「WIW(ワールド・インテリア・ウィーク) in 春日部」の運営にも深く携わるなど、家具以外の伝統的工芸品などのアイテムへの造詣も深めてきた。

 「いつか地元や、全国でいいものを作っている企業の力になりたい、職人たちの技術や伝統を絶やすわけにはいかない」とかねてから考えていた千葉代表は、その技術・技法・素材を生かした2次流通的なプラットフォームを製作することを決意。ただ闇雲に伝統的工芸品を売るのではなく、”伝統的工芸品を売ることの意味”雄勝硯の原材料(玄昌石)が職人の手で加工され、歴史的建造物である東京駅の屋根に使用されていることなどをきちんと理解している。率直に、「売る事が最大の支援である」と考え、ECサイトの立ち上げを決定したという。

太武朗工房
「江戸切子 流星オールドグラス琥珀ルリ」

 ECサイトで販売するアイテムは、経済産業大臣が指定した伝統的工芸品や、訳があって規程から外れてはいるが、それと同等の技術・技法・素材のアイテムをセレクト。アルテスペースは、この伝統的工芸品を管轄する、一般財団法人伝統的産業振興協会の賛助会員として、ECでの売上の一部を同協会へ寄付するというシステムだ。

「照明作家 谷俊幸:SEN HOKORE」

 ECサイトでの売価は、メーカー指定価格で設定する。「他のECサイトに出品し、値崩れを起こして結果的に撤退した企業も多い」(千葉代表)。少しでも伝統工芸に携わる職人さんたちに還元し、助けになりたいという思いを、売上の一部を協会へ寄付することで表している。販路に悩む伝統的工芸品製造企業を支えるべく、ECでの取り扱いを拡大していく予定だ。

 ECサイトではこのほか、SDGsに対応した家具アイテムなどもラインナップ予定。今年のオルガテック東京でも、SDGsに配慮したアイテムを出品したオフィス家具メーカーは多くみられたが、販売はどこも苦戦気味とのことだ。しかしながら大手企業では、「家具も、環境に配慮したものを使っていく」という動きが出始めているといい、環境に配慮した家具の問い合わせが、千葉代表へ舞い込んでくることが多くあったという。

 アルテスペースのECサイトは、その環境配慮家具アイテムのプラットフォームになるべく現在整備を進めており、すでにオカムラやイトーキ、アダルなどのメーカーと交渉を進めている。千葉代表は「当社のECサイトでは、環境に特に配慮した家具だけを掲載していきたいと考えている。こちらについても、より多くのメーカーの製品をラインナップし、プラットフォームを充実させていきたい。これはおそらく、日本初の試みだろう」と意気込む。家具業界を盛り上げていきたいという、千葉代表の姿勢が色濃く反映されたプラットフォームとなりそうだ。

 「”いいもの”を集め、インテリアコーディネーターの方々に見ていただけるようなリアルショップも、将来的に開ければと考えている」と思いを語った千葉代表。日本のインテリア産業界に一石を投じる、アルテスペースの今後に注目である。

(佐藤敬広)