――社長就任の抱負や方針についてお教えください。
春田 結論から申し上げますと、社長が変わっても会社の方針が大きく変わることはありません。元々わが社の方針は、社員、社長、会長含め一緒につくってきたのです。私は3代目の社長となりましたが、取り組みを変えるかというとその必要はないと思っています。なぜなら、そもそも私たちがつくった方針なのですから。今までどおり方針は、「企画力・品質・技術の向上」を念頭に取り組んでいきます。そしてこの実現のために、会長の関が常々申してきた「楽しくなければ仕事じゃない。やりたいことを任せる。失敗しても文句は言わない、責任は社長が取るから思いっきり楽しんで仕事をしてほしい」という信念があります。私はこの今の方針と信念が気に入っています。ですから、抱負や方針は何かと問われれば、「踏襲」だと言えましょう。
――やりたいことを任せる等のこれら信念を貫くために最も大切なことは、具体的にどのようなことだと考えますか。
春田 オープンなコミュニケーションが鍵だと思います。上の立場になればなるほどこれを実感し、そして心がけるようになりました。具体的には、弊社には社長室も役員室も用意していません。社員と一緒の空間で仕事をして、時には一緒にご飯を食べに行きます。そのようにいつも一緒にいますから、相談しやすい環境がつくられ、社員からの提案が素早く伝わります。また、経営側もスピード感をもって決裁ができるのです。この距離の近さが弊社の文化だと思っています。
オープンなコミュニケーションの具体例をもう一つ述べますと、今日もこのあと会議があるのですが、そこでは会議とブレスト(ブレインストーミング)を分けて実施します。会議では広く知恵を集めて、細かいことを決めていく、頭を使う難しい作業を行いますが、ブレストの場では食事を通じて気兼ねなくみんなで意見を交わすのです。そうすることで気づくのは、前者と後者では情報の集まり方が違うという事です。会議の場でも議論はできますが、ご飯を食べながらの場面で出る意見とは内容が異なるのです。後者は社員の本音もたくさん出ます。ですので、両軸でやるのです。今日の会議はコントラクト市場へのアプローチがテーマですが、テーマに沿って、これをやりたいという意見が社員から持ち込まれることでしょう。その中で、一番熱の感じられたプランをみんなで見つけて、掘り下げていくという(コミュニケーションの)やり方をします。当然私自身もプランを持って参加します。
私が入社したころ関家具の売上は約60億円で、今は200億円の企業となりました。しかし、こうやって振り返ると、今もあの頃と企業風土は変わらないですね。
【経営層の指示なし、全ブランドが社員発】
――やりたいことをやらせる、オープンなコミュニケーションといった方針により、具体的にこんなブランドが生まれたといった経験があれば教えてください。
春田 やりたいことをやらせて生まれてきた直近の例でいえば、ノヴァフレックスというブランドのソファです。これはなんと20代の社員が手掛けたものです。一回のクローズドの展示会で、500近い台数を展示品として購入頂きました。来場者の数より多い成約数だったので、1社あたり複数本売れたことになります。
また、「クラッシュゲート」も当時平社員だった森君が立ち上げたものです。関正前社長と共に、彼がアジア中を一緒にまわって実現したプロジェクトです。
私自身について話せば、そのような自由な環境でしたから、26歳のころからヨーロッパに約70回も通って色々なブランドの仕入れに携わることができました。その経験を通じて「レザーテックスソファ」が生まれました。
現在弊社にはブランドが30ありますが、この中で役員や社長の指示でつくったものは1つとしてありません。まるで湧き上がるように、社員の中からブランドが生まれてくるのです。
――若い人といえば、毎年新入社員が入社されていますね。今後どういう人材が御社の力になってほしいですか。
春田 なんといっても、「家具好き」です。これだけは譲れません。社員は家具好きばかりで構成されているからです。当社は他社の製品含めて、家具に関係する話をずっとしているような環境です。例えば飲み会に行っても、家具の話で数時間盛り上がることも多々あります。
また、このミーティングルームから見えるあの一角はゲーミング事業部ですが、(ここから見える)彼はゲームの選手です。あの空間で、社員同士でレースゲームが始まることもあります。そもそもゲームが大好きな人があの椅子とテーブルを作っているのです。ゲーム環境に強い興味を持っているからモチベーションをもって開発ができるのです。
同様に、デンマーク家具が好きな人はそこからエッセンスを取り入れた家具ブランドを立ち上げますし、イタリアのソファが好きな社員はまたそういうブランドを立ち上げてくれるでしょう。人間、好きなことにはこだわりますし、集中力も続きます。何より楽しいじゃないですか。
また、勉強好きであってほしいです。学歴が良いとかテストの点をとれるということではなく、好きなことなら必要な勉強も続くでしょう。そこから開発や販売に関して、新しいアプローチを生み出すことができます。総じて、私たちは応募してきてくださるその人の熱量を知りたいのです。
そして弊社の場合、最も家具が好きな人、最も勉強が好きな人、数字をあげている人がリクルーターとして活動します。最後の面接の時までその人たちが付き添います。ちなみに私や会長は、募集の段階で出ていきます。こちらも仕事に対する想いがありますので、こういう人が欲しいですという想いを伝えたいのです。しかし、最終面接ではあえて立ち合いません。最終面接では、一緒に働きたいかを社員に決めてもらいたいからです。
【直売がリアルなアドバイスを生む】
――ありがとうございます。次に御社の戦略について現況を教えてください。
春田 今、弊社は売上の約30%が家具店様向けです。残りをコントラクト、直営店で占めていて、3つの軸でほぼ等分しています。
また、直営店の実践は困難も多いですが、大変勉強になっていると思います。なぜならそこから得たものは多く、成功例、失敗例として社内に蓄積していますので、それを家具店様へ共有するなど、活きた情報として活用できるからです。
今その3軸ですが、現状はどこかに集中して取り組むというよりは、均等に取り組んでいく予定です。
――住宅の着工戸数の伸び悩みが取りざたされますが、事業に影響などありますか。また、海外展開について展望などあれば教えてください。
春田 肌感覚として、現状はマーケットがシュリンクしていると感じていません。会社全体の感覚として、仮にマーケットが縮小したとしても、シェアを拡大させよう、という意識が強く働いています。そのため、あまり悲観的な印象はありません。
海外は少ないながら実績があります。特に「木馬」については国内にギャラリーが10店舗あり、海外から店舗に直接買い付けがあります。
また、同ブランド(木馬)についてはアジア・欧米への直営店出店も検討しています。現場側で出店したいという声が強まっているからです。私の経験として、このように現場側からの強い要求がある場合、成功することが多いと思っています。
他にも色々なプランがあります。私自身も社長でもありプレイヤーでもありますので、プロジェクトを立ち上げていきたいと思っています。
――社長自らプロジェクトをやることもあるのですね。
春田 はい、26年そうしてきましたから。今でもソファのデザインをディレクションしています。事実、このインタビューの直前もソファについて考えていました。もう体質になっているのですね、私はソファでの成功があって今のポジションにいると思っていますし、ソファのおかげで色々な戦略を覚えたり、お客さんと知り合ったり、経営を覚えていくことができたと思います。一つの武器をずっと磨き上げるのが大切だと気づかされました。私も最後の最後まで磨き上げていきます。やはりソファにはこだわりがありますので、社長になっても手掛けていきたいと思います。
【ソファマーチャンダイザーの経験で、経営を学ぶ】
――それほどまでにソファに思い入れがあるのは、どのようなキャリアが影響しているのですか。
春田 初めて行った海外出張は26歳の時で、行先はミラノサローネでした。先輩に連れて行ってもらったのですが、当時衝撃を受けました。会場の花形はソファだったのです。ミノッティもカッシーナもB&Bもソファを出していて、素晴らしかった。営業担当者もみな格好良かったのです。
その後私は、仕事で南イタリアのソファ産地であるバーリに行きました。決して裕福な街ではなかったのですが、本当にきれいな街でした。そしてそのソファ産地で、買い付けの交渉を続けました。
この産地との付き合いはとても長いものになりました。今、私は50歳ですから、その産地の人々との付き合いも24年になります。多い時は年に7回は行きました。夜行列車に乗って、日本から片道30時間もかかるなど、苦労もありましたが楽しかったです。
当初はイタリアのありものをリサイズし輸入するといったスタイルだったのですが、やがて当社や私もノウハウを獲得し、デザインについても社内で十分な知見が蓄積され、各国の提携工場で、オリジナルデザインをOEM生産するようになりました。しかし今でもイタリアのデザイナーにデザインを頼むこともあります。イタリアはデザインの天才だと思います。
また、私自身、ソファのマーチャンダイザーとして一つのソファをデザインから製造、販路を開拓してエンドユーザーへお届けするところまで全部手掛けてまいりました。マーチャンダイザーとはそういう仕事ですが、これは経営と同じだと学ぶことができました。こういった仕事に四半世紀携わることができた私は幸運でした。おかげで、レザーテックスソファにおいて、ロングランで10年近く売れている多くのソファを生み出すことができました。
――ソファの座り心地などについても、研究してこられたのですか。
春田 はい。しかし座り心地についてはマニュアルにするのが難しいです。ソファはとっつきやすくていろいろな人が取り組んでいるのですが、もしかすると一番奥が深いのではないかと思います。大ヒット商品は、論理だけでもダメですし、アート感覚だけでもダメです。色々なことを知り、アートな要素と論理の融合が大切です。私も、売れるソファの作り方というマニュアルを作れるものならつくって、後輩に共有したいところですが、色々な要素がありすぎて難しいのです。感覚による面が無視できません。だからこそソファは面白いです。そもそも木工家具とソファは大きく違うと私は思っていまして、ソファは図面で表せません。ちょっと職人が絞ったらRが変わってきます。結局手作りに行き着くのです。そのため、色々なことがわからないといいソファは作れないのです。こんな家具は、ソファだけなんじゃないでしょうか。
――関家具さんの経営姿勢、そして春田社長のソファへの想いについて有意義なお話を頂くことができました。本日はありがとうございました。
(聞き手 長澤貴之)