【インタビュー2022】関家具 代表取締役社長 関文彦 氏

「創業者」から「事業者」、そして「経営者」へ

福岡県大川市に本社を構える関家具は1968年の創業以来半世紀以上、黒字経営を継続している。社員数は500人を超え、年商も200億に迫っている。関文彦社長に、経営者として心掛けていることについて、お話を伺った。(聞き手 佐藤敬広 2022年1月実施)

関家具 関文彦社長

すべては社員のアイデアから
 ――関社長は「関家具経営の13箇条」として、多くの言葉を掲げていらっしゃいますが、その中でも特に大切にされている要素について、まずはお聴かせいただけますか。
 関 どの項目も大切なのですが、やはり座右の銘の「社員は社長の先生である」ですね。全国紙にも広告を掲載させていただきましたが、今年もたくさん「社員の先生」から私自身が学ぶことができますようにと思っています。この言葉はとても評判になりましたし、「楽しくなければ仕事じゃない」という意識も当社の社員全員に浸透していると思います。
 ――斬新なアイデアで、常識を覆すようなアイテムも販売されています。最近の売れ筋商品はどのようなものになりますか。
 関 まずは「NIPPONAIRE(ニッポネア)」シリーズが好評です。日本らしさを追求したブランドで、大川や飛騨高山が産地です。それから「ANGLIGHT(アングライト)」シリーズもとても面白い商品です。釣り人用の収納家具になっていまして、釣りの専門誌からの取材もありました。これが最近の売れ筋ですね。
 ――このような釣り具用の収納家具という製品の開発を進めようとされた、きっかけなどはあったのでしょうか。
 関 釣り用の「アングライト」シリーズに関しては、当社には釣りが趣味の社員が16名ほどいまして、その社員たちが「開発に取り組みたい」と言ったので、プロジェクトを進めることになったのです。私は社員が「やりたいことをできる」ように任せています。たとえ社員が失敗しても文句は言いません。「責任は全て社長がとるから思い切ってやってほしい」と伝えているのです。
 ――社員の方々のアイデアを最大限活かしてらっしゃるのですね。
 関 東京の青山にショールームを出したいといったのも、ある社員の発案でした。「ニッポネア」シリーズの開発にしてもそうで、とにかくすべてが社員のアイデアから生まれ出たもの。私が「ああしたほうがいい、こうしたほうがいい」とは言わないでいるのです。

「トップ」としての在り方とは
 ――そのように、社員の方々のアイデアを活かすことというのは、創業当時からモットーとされていたのでしょうか。
  いいえ、創業当時は私のワンマン経営でした。超がつくほどのワンマンでしたね。今から54年前、25歳の時にひとりで会社を始めたのですが、歴史を重ねてきたうえで考えたことがあります。それは「創業者」と「事業者」と「経営者」、この3つは全くの別物だということです。
 私は「創業」をしたあと「事業」をやり、今は「経営」をしています。経営者というものは創業者とは異なります。創業は社員が行うものですからね。ですから、経営者が創業しているのでは、それは経営者とは呼べないと思います。経営者がずっと創業していると、会社が後々に続かなくなってしまうのですよ。
 ――トップに立つ者は、マネジメントをする立場のステップアップをしていかなければならないということですね。
  「創業者」は「事業者」に成長し、「事業者」は「経営者」に成長しなければなりません。そして「経営者」の下に「社長」というものがきます。この「社長」には「雇われ社長」といったように、ひとくくりに社長と言えども様々な形態がありますが、最終責任を持たない社長と最終責任を取るオーナー社長のみが「経営者」と呼ぶにふさわしいと私は考えています。やはりその立ち位置というものをきちんと理解しないといけないと思います。
 ――そのように4つの柱というものの認識や区別をされている企業と言うのは、まだ日本には少ないのではないかと思います。
  最近は経営に関する講演依頼も全国各地から増えてきました。ありがたいお話ですし、当社としてのPRにもなりますので積極的にお受けするようにしています。

関家具本社屋上から、有明海、遠くに雲仙普賢岳を望む。
「この大川の地だからこそ、経営ができている」と、関社長は語る。

【時流の変化を掴む、社員一丸での情報収集】
 ――コロナ禍になり、社会の情勢や暮らし方も変化する中で、関家具としてどのような対応をされてこられたのでしょうか。
  特段、変わったことはしていません。そもそも「事業」というものは常に変化しなければならないものです。当社は創業して今年で54年目になりますが、一期も赤字が無いことが誇りです。どうしてそれができたのかと言いますと、それは「時流の変化に適切に対応してきたこと」に尽きると思っています。
 ――その「時流の変化への対応」に向けて、どのようにアンテナを張って情報を察知されてこられたのでしょうか。
  私がベースにしているのは「社員からの情報」と「新聞の切り抜き」です。新聞は7紙ほどとっているのですが、例えば「コロナ禍による消費の変動」「衣料と家具と自然との融合」「自動販売機から腕時計の入った時計缶の販売」などの記事といったように、とにかく気になったものは保存しているのです。このように様々な記事を見ていると、世間の動きがよくわかるんですよ。
 ――家具関連の記事のみに捉われず、「これは」と思った記事を保存していらっしゃるというわけですね。
  そうですね。新聞からも集めますし、外部の会議などに参加して集めもします。政治経済や文化といったことや、「子どもの不登校対策に関する情報」「駅のスマート化」などの資料を、新聞やテレビ、そして現場に行って情報を集めるわけです。
 ――関社長自身がそのように情報を収集されているわけですから、社員の方々もその意識は徹底されているのですね。
  初めに申した通り「社員は社長の先生である」から、私自身の力だけでは学べないことを社員から学ぶわけです。社員から学ぶのが、一番いい。第二は新聞です。創業当時は私しか社員がいませんでしたから、自分自身でなんとか勉強していくしかありませんでした。ですが今は518人の社員が在籍していますし、その社員たちがネットなどでの情報収集をしていますからね。
 ――そうして、社員の方々がアイデアを生みだして行きやすい環境を整えていらっしゃるというわけですね。
  オンラインでの会議などを通して、何かアイデアが出れば都度会議を設けています。社員から私に「こういうものを作りたいのですが」と要望が来るときもありますが、私は「あなた自身が図面などを描いてやってみなさい、そうすれば開発してすぐ製作にかかりなさい」と返すこともあるのです。
 ――具体的な案を出せばすみやかに開発に反映されるとなると、社員の方々の意欲もより高まりますね。そのように、社員の方々の声をすぐに反映するようになった、きっかけというものは何かありますでしょうか。
  先ほども申した通り、創業者から事業者、そして経営者となった段階でそれは考えました。多くの社員を抱えていますが、私はその社員全員が「開発者」であると思っています。正社員だけでなく、パートの方々も含めて皆がです。大事なことは「気づき」ですからね。ひとりで気づくよりも、518人が気づく方が、より情報のアンテナは多くなり、気づきも増えますから。「社員は社長の先生である」というのは、「様々な物事に気づくための先生である」ということなのです。それがあるからこそ、54年の間一期も赤字なしでやってこれたと思っています。

本社玄関に展示されている「神代欅(じんだいけやき)」の一枚板テーブル。
関社長が「一枚板の価値をより高められるように」と話す象徴だ。

【「今の業態」だけに捉われすぎないように】
 ――「社員は社長の先生である」ということを企業のトップが宣言するというのは、なかなかできないことだと思います。その上で、これからの日本の家具業界はどのように変化していくと見ていらっしゃるかをお伺いできたらと思います。
  家具は日常生活にとって必要なものです。生活必需品なわけですから、やりようによってはどんどんと伸びます。AIの進歩によって、この先10年のうちに今ある職業、仕事の半分ほどは無くなってしまいますが、家具は必需品ですから、家具そのものが無くなることはありえません。
しかし、これからは家具だけにこだわるのではなく、様々なアイデアをもとに商品の販売をしていかなければいけないと思っています。一例を挙げると、当社ではウェルネス事業を展開し、東京支店ではウィッグやサプリメントを販売しています。これも社員から「売りたい」という声が挙がったので「じゃあ、やろう」ということになったのです。
 ――家具だけに捉われず、「これは」と思った事業は展開されていくということなのですね。
  衣食住、どんなサービスでも良いのです。かつて世界最大の写真用品メーカーと言われたコダックは、時流の変化に合わせたサービスの転換を行わなかったから倒産してしまった。その時のコダックのライバルであった富士フイルムは、時代の流れに対応して変化し、化粧品や医薬品の業界にまで進出し、今も業績は良好です。ですから、「今やっていること」に捉われずに変化していくことが大切なのです。
 ――そのような、事業の柱というものを持っていくことが大切になってくるわけですね。
  当社はその柱を何十本も持っています。これも他社の話になりますが、サントリーにしても、もともとのウイスキーやビールといった酒類の販売はもとより、清涼飲料水や健康食品の事業にも進出して大繁栄していますからね。
 ――ではそのような柱を立てていくという点で、今年新しく取り組んでいくことなどはございますか。
  その芽は全て社員から出てきます。ですから、何が出てくるか私もわかりません(笑)。私が考えて、社員にやってもらうわけではないですからね。「社員が取り組むのをサポートする」ことが「経営者」の役目です。社長がとやかく言うと、社員が育ちません。社員の芽、アイデアを活かしていくことで、社員と会社全体が成長していくことになるのです。ですから、今年も今まで通り、社員から新しい芽がたくさん出てくるだろうと楽しみにしています。
 ――関社長のお話を伺っていますと、アイデアを出していくことができる社員の方々の力というものが大切なのだと、考えさせられます。新卒採用などの人材募集でも、そのようなアイデアを生み出せる人材を重視し、面接で社長も眼を光らせていらっしゃるのですか。
  アイデアを出せる人材の登用はとても大切な要素の一つです。私の採用基準は、先ほどお話した「4つの柱」を軸に、当社にふさわしい社員を選考しています。最近では、私は基本的には関与せず、「4つの柱」をコンセプトとして社員たちが考査しています。今年4月に入社する新卒社員は約160名の応募者の中から選考し、11名を採用しました。
 ――採用を担当される社員の方々を信頼していらっしゃるからこそ、できることですね。
  「社員は社長の先生」ですからね。先生というものは、信頼し、尊敬できる立場にある方ですから、当然私も社員のことを信頼しています。「時流の変化を捉える力」を一番持っているのは、若い世代の人たちなのですから。その「時流の変化を捉える力」を持つ若い人たちに、いかにして当社に来てもらえるか、ということを考えているのも、また社員であるわけです。もちろん、なんでも任せきりというわけではありません。しかし最終責任は私がとるわけですし、それをとる覚悟も常に持っています。

 ――お忙しい中貴重な時間をいただき、ありがとうございました。様々なお話を伺う中で、私自身も「本当に伝えなければいけないこと」をきちんと伝えていけるよう精進せねばと、改めて身が引き締まる思いでした。日本の家具産業に少しでも力添えができるよう、これからも尽力していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。