【インタビュー2024】島忠 代表取締役社長 岡野恭明 氏

――島忠では近年、プライベートブランド(PB)商品にも注力され、さまざまな商品開発を手掛けていらっしゃるとうかがっています。日本には家具メーカーが多くあり、そのメーカーによるナショナルブランド(NB)商品と比較して、島忠PB商品、そして島忠で扱っているニトリPB商品の位置づけや差別化のポイントを、まず教えていただけますか。

岡野 当社は、現在ニトリグループの一社ですが、そもそも経営統合しようと考えはじめたきっかけがPBなのです。その当時は、ホームセンターにPB商品がなかったため、まずはホームセンター用のPB商品の開発・導入を進める必要があるというのが経営統合の一番の理由でした。

以前の島忠で扱う家具は、ストアブランド(SB)商品とメーカー(NB)商品の集合体でした。まずホームセンターのPB商品開発を中心に進めるために経営統合をしましたが、家具もPB商品を開発していく必要がありました。メーカーさまと作るストアブランド(SB)商品だと、仕様、機能などに制限があります。また「この売価でやりたい」という価格設定もなかなか難しい。もちろん、多くのメーカーさまにご協力をいただいていますので、関係は今後も大切にしていきたいと考えています。

ただ一方で、島忠としては「お客様が望んでいるもの」そのままを作ることこそが、PB商品のあるべき姿であると考えています。売価の観点からも、やはりPB商品の導入を進めていて良かったと思っています。例えば、物価上昇により30万円以下の価格だった商品が40万円近くに高騰すると、やはりお客様の手が届きにくくなってしまいます。したがって、20万円前後の価格帯など、本来提供したい価値のものを、お客様が望む売価で提供できるようにするには、やはり島忠としてのPB商品は必要だと考えています。

――島忠として、物価の変動を注視しながら、きちんと中価格帯をなるべく守っていくというコンセプトで作っている、ということでしょうか。

岡野 島忠がニトリと経営統合して起きた良い変化をお客様に伝えるには「安くなった」と思っていただくことが必要だと私は考えています。ただ、家具は「このソファだと値段はこれぐらいだろう」という判断がお客様にとっては難しい。したがって、まずはホームセンターで扱う、日々の生活用品である洗剤、ティッシュ、トイレットペーパーなどの日用品で島忠PB商品を開発し「島忠のPB商品は安いし、品質も十分」と思っていただくことで、お客様に「島忠は安くなった」と感じていただきたいです。

そして「島忠に行くと、安く買える」ということを実感し、信頼いただけた暁には、「家具も安く買えるのだろう」と思っていただけると考えています。同じ木材や素材からなる商品を比較したときに、例えばNB商品だと25万円のところが、島忠PB商品だと20万を下回る価格で買うことができるといったように、昨今の値上がりで中価格帯のものが無くなってしまったところを島忠PB商品でカバーできるようにすれば、価格ラインも階段をきちんと踏んでいくことができます。

もちろん、ブランド価値にこだわるお客様も当然いらっしゃいますから、NB商品は今後も大切です。各メーカーさまと協力して取り組んでいきます。

――ニトリとの経営統合後、ニトリのPB商品も島忠で扱われることになりましたが、この相乗効果などについて、どのような好影響があるとお考えでしょうか。

岡野 経営統合した当初、ニトリPB商品を一気に導入しましたが、結果として家具・ホームセンターの売上が落ち込みました。ニトリ店舗で売れていても、島忠店舗では売れ行きが好ましくない商品もあります。また、一気に多数、大量のニトリPB商品を取り扱うとなると、売場の物理的なスペースの都合上、それまで販売していた商品の中から、販売を止めなければいけない商品が当然に出ます。そうした「販売を止めたもの」を支持していただいていたお客様がいかに多かったかを、客数や売上が減ったことで実感しました。

その後、必要である商品を再び店頭に戻したり、展示スペースをとりすぎたニトリPB商品を減らしたりと、ラインナップの改善を図りました。もちろん、島忠でも必要としていただいているニトリPB商品はそのまま残しましたし、「これは島忠でも支持していただけるはずだ」といった新たなニトリPB商品は導入しています。
NBの高価格帯の商品も引き続き販売していきます。したがって、価格帯や機能・素材という面で、ニトリPB商品では埋めきれない、しかしNB商品だと価格が高すぎるという空白のゾーンがあります。その空白に落ちたニーズをカバーするのが島忠PB商品だと思っています。ニトリPB商品と島忠PB商品、そしてNB商品を取り揃えて、多くのお客様に満足していただける、そのように豊富な品揃えにしていきたいと考えています。

――ニトリのPB商品導入時に一旦外した商品を、また店頭での販売に戻した商品もあるということですが、家具に関してはそのことによって、それまでのお客様は戻ってこられたのですか。

岡野 その点については、分野によって異なります。家具についてはお客様への影響が少ないと考えています。なぜかというと、買上げ頻度がホームセンター品と比較すると低いからです。家具については、店舗にご来店いただいたその時に、お望みの商品が有るか無いか。家具は単価が高いので、お客様は他社も含めて見て回られます。ご購入していただいたその1年後に、またソファを買おうかというと、なかなかそうはならないためです。

――売上構成比は、島忠PB品、ニトリPB品、そしてNB品ですと、どれほどの構成比になっているのでしょうか。

岡野 現時点は、全体の売上のなかで、島忠およびニトリ品を含めたPB品で2割強です。それ以外がNB品です。PB品の売上のなかでも、まだニトリPBの方が売上は多いですが、今後はどんどんと島忠PBの売上の比率を増やすべく強化していきたいと考えています。PB開発の新規の取引先は、常に世界中の企業から探しています。ニトリの商品部と一緒に、もともとニトリの商品部が持っているノウハウや取引先を活用しながら進めています。ゼロから始めるよりも速く進みましたし、そのスピード感においてニトリの力は大きかったです。

――シマホネット(EC)と実店舗のシナジーはいかがでしょうか。

岡野 EC売上は家具売上全体の約4%です。他社さんとの比較、家具専門店の中でのECということでは、当社はまだまだこれからです。他社との競合の中から早く一歩抜け出すことが今後の最大の課題のひとつです。もちろん、実店舗があるから、ECで売れるという好循環はあります。実店舗で家具をご覧いただいて、その場では決めきれなかったとしても、帰宅後にサイズなどを検討していただいてECからご購入いただくケースはあります。逆に、ECサイトで家具を見てから、きちんと実物を実店舗で見て触ったうえでご購入されるお客様もいらっしゃいます。特に、家具については実店舗とECの相乗効果は大変大きいですね。

――家具インテリアの提案充実にむけて、今後どのような展開を図っていきたいとお考えですか。

岡野 一つは、トータルコーディネートです。家具単品の素材などにももちろんこだわっていきたいですが、それに合わせたラグや照明といったものを充実させ、コーディネートにこだわることで「島忠の店舗の展示を見て、イメージが湧いた」と思っていただけるような、「イメージして決断していただくことができる」売場にしていきたいと思っています。
お客様のニーズに沿って、家具のみならずカーテンやラグなどの提案もさせていただいています。

――今後のインテリア販売の方向性としては、全方位に強化していかれるということですね。テイスト面についても、幅広いテイストのものを取り揃えていくということでしょうか。

岡野 ワンテイストに絞る予定はありません。島忠として、主要なテイストのいくつかを提案するというスタンスです。例えば、モダンテイスト、ノルディックテイストなど、お客様がお望みになると想定されるテイストはきっちりと押さえながら提案していきます。価格帯も低価格帯から高価格帯までを取り揃えつつ、テイストも主要なものを押さえる、全方位的な品揃えを進めていきます。

――トータルコーディネートの充実にむけては、NB商品の品揃えの強化もされるということでしょうか。

岡野 品揃えの充実を図ることで、我々が取り扱う家具や照明などによって、空間全体をコーディネートしやすいようにしていきたいと考えています。したがって、家具に関してはNBの取り扱いメーカー拡充も図っていきたいです。これまでは、扱っている家具のほとんどがNB商品もしくは、メーカーさまと共同で作っているSB商品で構成されていました。今後目指していくイメージとしては、取扱い商品全体の50%をPB商品(ニトリPB商品含む)、50%がメーカーNB商品という構成を考えています。

我々がNBのメーカーさまに期待していただきたいのは「出店」です。今後も日本全国に新規出店をしていこうと考えています。仮に1店舗あたりの展示数が減ったとしても、売上を落とすつもりはありません。客数を増やし、売上を上げていきます。出店していけばメーカーさまも潤うと思いますので、出店による売上増で恩返しをしていきたい。そこに期待し、協力していただければと考えています。

――新規の出店についてですが、基準などはあるのでしょうか。

岡野 まずは、新規出店して店舗運営が成り立つことが大前提です。人口が多い政令指定都市などが、まず中心になると思います。理想は関東と関西からじわじわと広げていくことですが、物件は理想どおりには現れませんので、どこにどういった形で出店するかという詳細は決まっていませんが、予定はもちろんあります。

――インテリア部門の売上、利益の推移はいかがでしょうか。

岡野 統合後2年間は苦戦した面はありますが、前期については前々年を超えることができました。特に下期は取り組みの効果が現れ、前々年を大きく超えました。これまで品揃えを試行錯誤で探ってきましたが、あるべき品揃えが見えてきた結果だと考えています。また、店舗スタッフの個人の販売力も上がってきました。ニトリとの統合後は、評価制度を変え、研修教育制度も充実させて、モチベーションや販売技術が向上しました。

商品の価値を伝える力が島忠の販売力の強みの源泉です。島忠はもともと接客提案で「この家具を使うことで、このように生活が豊かになります。これらの商品は同じ価格でもこのように違った良さがあります」といった、価格以上の価値をいかにお客様に伝えるかを重視してきました。そのため、島忠は昔から特に素材や機能などの要素を研修で勉強してきた企業です。もちろんニトリの研修には、素晴らしいところがたくさんありますので、ニトリのノウハウも採り入れながら、島忠の良さとニトリの良さをうまく融合させて、接客に必要な知識や技術を一層強化するために勉強会や研修を積み重ねてきました。それが今成果となって現れてきています。

――最後に、エンドユーザーにむけて、メッセージをお願いいたします。

岡野 安くて満足していただける家具インテリアを、これからもどんどん提案していきます。ぜひ店舗にご来店いただき、気軽にご相談いただければ幸いです。お待ちしております。

(聞き手 佐藤敬広)