【インタビュー2025】島忠 代表取締役社長 窪田光与之(くぼたみつよし) 氏 タスクフォースでチェーンストアオペレーションへ

質の高い水準を、いつでもどこの店舗でも、を目指す

――本日はありがとうございます。早速ですが、窪田様はもともとニトリにおられて、島忠に移られました。そこから取り組まれたことを教えてください。

窪田 私は、2021年の10月に島忠に着任し、それまではニトリに在籍しておりました。着任当時は店舗運営部のゼネラルマネジャーというポジションで、執行役として参りました。それ以降取り組んだことは、大別して2つあります。

はじめに、現場の調査です。本心としては、島忠に勤める全従業員とコミュニケーションを取りたかったのですが、時間的な制約もあり、まずは店長を中心にヒアリングを実施しました。100名以上の店長の皆さんと一人当たり一時間以上設けて会話しました。

その目的は、事業規模の拡大に向けたビジョンの共有、そしてこれまでの「支店経営」から「チェーンストア経営」に移行するにあたって現場で起きている問題点を確認するということでした。多面的に、率直に、店長の皆さんには、オペレーションや教育の問題など、いろいろな角度から教えてもらいました。約2か月かけて、このようなコミュニケーションを取り続けました。

2つ目は、これを受けて14のタスクフォースと1つのプロジェクトを立ち上げたことです。これは、現場コミュニケーションから発見された問題について、社内の基準や仕組み作りに焦点をおき、新しいオペレーションづくりを行っていきました。

――「支店経営」から「チェーンストア経営」への移行についてもう少し具体的に教えてください。

窪田 はい、島忠とニトリの大きな違いは、これまでの島忠は「支店経営」で、ニトリは「チェーンストア経営」だという点です。

「支店経営」は本部をコンパクトにして、各店舗に決定権を委任して、店舗ごとに仕入れ・商品構成を決めていく体制です。一方、「チェーンストア経営」は本部が主導で仕組みをつくり、地域戦略、全体戦略、グループとしてのシナジー効果を加味しながら各店舗の商品構成や棚割も本部が決定するものです。

私はニトリに2000年に入社し、それ以降チェーンストア経営を学んできました。島忠社員にとってはこれまでのやり方と異なる体制ですので、どのようにチェーンストア経営にシフトしていくかが課題としてありました。

そこで、前述のタスクフォースメンバーで協議を行い、新しいオペレーション体制への移行に伴い、業務上で必要な数値管理の設定をしていくということを行いました。

――なるほど、では14のタスクフォースと1のプロジェクトを立ち上げたということですが、より深堀して教えて頂けますでしょうか。

窪田 はい、まず行ったのは、「人時計測」という実態調査です。これは店舗運営において、どんな作業がどれくらいあるのかを計測し、明らかにするものです。ニトリでも定期的に行っていますが、新たにこれを島忠でも実施するようにしました。現場でよく聞こえる声が、「人が足りない」というものです。これは現場の疲弊を招くものですのでチェーンストアオペレーションにおいては必ず対処しなければなりません。どの作業にどれくらい時間がかかっているのか、調査し、それに基づいた作業割当を行います。

以前の島忠ですと支店経営の体制でしたので、このような人時計測や作業割当が店ごとに行われ、統一された基準・規格がなかったため、かなり苦労していた実態が見えてきました。タスクフォースメンバーとの活動を通じて、共通で把握できる数字、基準を設けることが新体制の島忠の出発点だった、と言えます。

――そのような取り組みは結果的にどのようなカスタマーエクスペリエンスに繋がるのですか。

窪田 大切なことは、どの店舗においてもお客様にとって同じ水準で、質の高いサービスを提供し続けることだと私は考えており、この取り組みはそういったサービスのご提供につながります。例えば、自転車の修理について例を挙げてみます。過去の当社ですと残念ながら、担当が日によっては不在で、(修理を)お請けできないということがありました。これは根底にシフトの組み方、スタッフの配置や教育の仕組みに問題がありましたので、改善して参りました。この店舗には専門的な技術をもったスタッフが何名必要か、といったことをクリアにすることで、営業時間であればいつでも「即日修理」ができるという環境整備が行われました。

地域でお客様に選んで頂けるお店というのは、いついってもすぐやってくれる、営業時間のいつ行っても木材を切ってくれる、サービスにムラのない店舗だと私は考えています。このような取り組みは既に効果も見えてきており、ありがたいことにお客様からご好評頂いております。

メーカー、島忠、ニトリ、全てが揃う家具の総合店を目指す

――続いて、インテリア提案について教えてください。ニトリさんとどのような差別化を行っていますか。

窪田 ニトリ商品の価格レンジと、島忠のそれとは、重なる部分もありますが、基本的には島忠が右側(高額)の価格帯を占めることになるかと思います。ニトリが、比較的お求めやすい価格帯、私たちは左側の価格帯と呼んでおりますが、その左側から中価格帯を担っているわけですが、一部中価格帯のゾーンで重複しつつ、反対の右側価格帯を島忠が担うということで、グループ全体であらゆる価格帯においてお客様のニーズにお応えし、ご支持頂けるよう目指しております。

――今後の島忠さんの家具におけるプライベートブランド(PB)の目指す方向性について教えてください。

窪田 弊社プライベートブランドの方向性は以前より変わっておりません。PBは自社で展開の責任を持ち、お客様にお買い得感且つ、価値を感じていただける商品という位置づけですので、引き続き拡大を目指します。これは家具に限らず、ホームセンター、ホームファッション分野においても同じです。今後、PBの比率をもっと増やしていこうと考えており、最大40%までは目指したいと考えております。

またこの比率には、我々が「ストアブランド」と呼ぶ、弊社がメーカーさんのお力を借りながら協同開発したものも含まれます。ストアブランドはメーカーさんのオリジナル品をベースに、仕様や価格に変更が加えられています。

――PBには競合を避ける狙いがあると言われています。実のところそのような効果はお感じになりますか。

窪田 そうですね、PBの一番の特長はトレードオフをしていることです。本当に必要な機能以外をそぎ落とすことで、価格に還元することができるのです。PBイコール、あるお店にお越しになるお客様に合わせて開発できるため、最適な品質と最適な価格をご提供できるという強みがあります。

――店舗展開について今後の展望を教えてください。

窪田 (2025年1月時点で)弊社は53店を展開しています。社内では、5か年計画を立てております。可能性としてはホームセンターフォーマットでの出店パターンと、場合によってはニトリを含めた総合フォーマットでの出店もあるかもしれません。

どちらかというと、現段階は店舗拡大というよりも、今申した「フォーマットづくり」、言い換えれば「プロトタイプづくり」に重点を置く段階です。このプロトタイプがしっかりできれば、チェーンストア経営における同じスタイルの店舗を水平展開できるようになるからです。家具、ホームセンター、ホームファッションの全事業で体制を強化したいと考えており、今はまさにその基礎作りの最中なのです。

――フォーマットをつくっていくということですが、家具においてはどのようなことを考えていますか。

窪田 品揃えの課題に取り組みたいと思っています。中高価格帯についてPBの拡大をしたいと思っています。しかしもちろん、お客様から強い支持をうけていらっしゃるカリモクさんやシモンズさんを始めとし、各メーカーさんのブランド商品があるのも島忠の強みです。各メーカーさんのお力を借りながら、家具を選ぶなら島忠が一番だ、と言っていただけるようにしたいとも思っています。お客様からすると、ニトリ商品も島忠商品もメーカー商品も全部買えるという家具の総合店を目指したいと思っています。お客様にとって、便利で選択肢が豊富、且つ選びやすい店づくりを目指します。

――ニトリさんの商品ですが、これはどれくらいの割合を置くなど決めているのですか

窪田 割合を決めてはおりますが、定期的に見直しをかけております。例えばニトリがTVCMをスタートさせた商品については取り揃えるようにしますし、ニトリの店舗展開も影響しております。例えばある店舗の近隣にニトリがない場合は、ニトリ商品の比率を上げるように調整しています。このように、ある程度型は決まっていますが、地域性や市場性など柔軟に加味しながら変えております。また逆に、島忠で展開しているような商品もニトリで展開が始まっているのです。

インテリアコーディネーターにも島忠を活用してほしい

――インテリアコーディネーターが家具を見る場として、エンドユーザーを連れて来店するという店舗の活用についてどのように思われますか。

窪田 是非お越し頂きたいと思っております。その時点で家具を当社で買うおつもりがなくとも、その先に、私たちの展開するあらゆる商品と出会う可能性もございます。また、プライベートブランドやストアブランドは当社でしかお求めできませんので、それらの商品をご検討頂くチャンスでもあります。

――2025年はどのような年になると思いますか。

窪田 円安の状況はグループ全体としても影響がありますが、必ず状況は好転していくと考えております。また、私たちのようなチェーンストアを展開する企業としては、単年に捉われず、5年、10年というスパンで物事を判断しております。もちろん単年ごとにも営業政策は組んでいきますが、基本はロングスパンでのビジョンを定めて逆算してスタートを切っています。それを実現するために今、足元を固める「プロトタイプ」づくりに尽力しております。

具体的に家具のセクションで言えば「品揃え」「サービス」「教育」この3つが重要なテーマです。他社様、市場について考えると2025年は大きな変化を迎えそうです。私たちも昨年度より自社催事の開催を新たに始めました。大型店を旗艦店としてショールーム化し、お客様をお招きしています。

――催事開催の頻度はどれくらいなのでしょうか。
 
窪田 元々は3か月に1度のペースでしたが、ご好評を頂き、現在は2か月に1度開催しています。厳密には、旗艦店と衛星店舗でやっており、場合によっては従業員が衛星店舗から旗艦店へお連れするようなこともしています。例えば東京では中野本店で、埼玉だと草加舎人店で開催しています。

――催事の時の限定特価など、特別な施策もあるのでしょうか。

窪田 はい、お客様のご期待に応えられる特別品などをご用意しています。弊社の来場者さまですと、基本的には新築のお客様が多いですが、買い替えのお客様もいらっしゃいます。買い替えのお客様は、まとめて複数の家具を更新されたい方が多い傾向にあるため、いずれのお客様のニーズも満たせるよう島忠独自の施策として60回まで金利無料といった販売プランもご用意しました。

――プロトタイプによる地固め、社内教育、そして催事開催など、様々な施策について教えて頂き、御社の挑戦の姿をお教え頂きました。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)