【JAFICA インテリアコーディネーターインタビュー】一級建築士事務所コムスペース株式会社 チーフデザイナー 永島美与子 氏

店舗設計からはじまり、新築住宅も手掛けるCOMSPACEの永島氏にインタビュー。店舗と住宅の違い、葛藤、JAFICAとの出会い、そしてインテリアコーディネーターについて独自の視点で語る。また、インテリアコーディネーター活躍の場について、業界への提言も行われた。

――はじめに、永島様の会社について教えてください。

永島 コムスペースは2006年に創業した会社で、主に飲食店とカフェを中心とした店舗のコンサルティング、デザイン、設計、施工を主たる業務として行い、その他、飲食店を経営する法人様の出店計画に携わる業務、ビジネススクールでの開業サポート等を行っています。私自身は、主にデザインと設計業務を担当しています。

――飲食店をメインとするコーディネーター様のインタビューは初となります。コーディネートの話と、永島様の経歴についても教えてください。

永島 飲食店やカフェは、客席数が売上に大きく関係します。客席のレイアウトとインテリアコーディネートはとても重要です。最初のご提案時に平面プランと3Dパースを作成するため、かなり詳細にインテリアの仕様、造作家具、既成家具を選定していきます。家具は主にテーブルと椅子、ソファやチェスト等ですが、お店のコンセプトや業態、予算、インテリアに合わせて様々なメーカーから選びます。依頼はメーカーを横断して取り扱い、注文造作等も対応して頂ける家具屋(木工所)さんにお願いしています。一方、店舗でも家庭用を使いたいというご要望がある場合は、オンラインショップなどからも選びます。

実は私の経歴は今の仕事とは全く畑が違っていて、もともとはシステムエンジニアとして勤務していました。そのあと、ソフト関連の会社に勤務していたとき、縁があり、店舗づくりの世界に飛び込むことになり、仕事に魅力を感じ、もう少しこの世界を知ってみようと思い、インテリアコーディネーターの資格取得を目指したのです。

CAFEデザイン事例

――店舗デザインがきっかけだったわけですが、インテリアコーディネーターから着手されたのですね。

永島 そうなのです。勉強して知ってみたら、もっとこの世界の事がわかるかな、という想いからです。(インテリアコーディネーターの資格が)学校に行かず、独学で取れる可能性がある点も大きかったです。結果、取得に3年かかりましたが、ちょうど合格した頃から、今のコムスペースで仕事をはじめました。店舗の設計業務はCADが主流でしたので、システムエンジニア出身ということもあり、私がデザインと設計業務を行うことになりました。
 
しかし仕事を進めていくうちに、インテリアコーディネーターの資格だけでは(私の仕事に)不足はないのだろうか、と悩むことも増えました。

店舗は、外観を含めたプランニングが売上に左右されることも多く、設計でも気を使わなければならないシーンが多々あります。また、設備が大きな要素を占めます。換気や空調もそうですが、飲食店では火気を伴います。そのため消防法についても気を配る必要があります。そうなると、インテリアコーディネーターの知識からさらに踏み込んだレベルを求められることが増えてきたのです。デザイン以前に、そのような設備的・法律的要件が立ちはだかるのです。またテナントが入る商業ビルの内装監理室に設備資料を求められるケースもあります。そのため、建築士の資格が必要なのではないか、と感じるようになりました。

大型商業施設に出店するようなときはビル自体の図面を読み解き、防災設備設計や搬入ルートまで考えなければいけません。電気、空調などの設備図面も読み込む必要があります。大きな商業ビルに出店するお客様と一緒に、ビル側と打ち合わせする際、大手ディベロッパーさんやビル管理の設備担当者さんたちがいる中で、説明を求められて大変苦労したこともあります。お客様も隣に同席しているのに。その時、ビルの事、建物についてもっと知らなければいけない、と痛感して、一級建築士の資格について学ぼうと思いました。

――なるほどそのようなことがあって、一級建築士を目指された事に繋がっているのですね。

永島 はい、しかし目指したのはいいものの、私もある程度の年齢に達しているのに、これはなにか意味があるのだろうか、という葛藤もありました。一方、私はインテリアコーディネーターの資格を取って、すぐ、JAFICAに入会したのですが、二級建築士、一級建築士の資格を持っている方々と出会い、幅広くお仕事をされる姿にとても感銘を受けました。

そこで、仕事をしながらまず二級建築士を40代で取得しました。その後、50代で、一級建築士の資格を取得しました。(合格するのに、4年かかりましたが)

設計事務所登録をして、新築戸建て住宅の設計者としての仕事も受けられるようになった今、あらためて、インテリアコーディネーターを最初に取得してよかったな、と思っています。

――それはなぜですか?

永島 まず、JAFICAをきっかけに全国各地で活躍されているインテリアコーディネーターにたくさん出会えたからですね。

皆さんインテリアコーディネートが好きで、好奇心をもってお仕事をされています。このことが私の仕事のよい刺激になってきたのは間違いありません。また、今の時代は、インテリアコーディネートの中心である「住まい」に店舗、カフェ、オフィスなどが併設されるなど、建物の有りようも多様化してきました。「住まい」を中心にお仕事をしている方とつながっていることは、とても心強く、ありがたいと思っています。

次に、インテリアコーディネーターは、エンドユーザーの「住まい」だけでなく「暮らし」の身近に関われるお仕事だからです。

少し話は飛びますが、実ははじめて新築住宅にかかわった時、私は少々とまどいを覚えてしまったのです。お客様が何千万円というお金をかけて住宅を購入されるにもかかわらず、その費用対効果を店舗の収益のように明確に意識していないように感じたからです。

住宅の「購入」を決めているものの「住まい」への望みを、言葉にするほどはっきりとさせてないように感じました。

店舗の場合はビジネスの場であり、当然のように収益性に重点がおかれ、例えば飲食店やカフェでは席数や一定時間で何食分作って売れるか、といった点が重視されます。お店が収益をあげて繁盛するかどうかの未来がその空間で決まってしまいます。ですからオーナーさんも必死に自身の要望を出しますし、私たちも要望に基づいてニーズやイメージを探ります。店舗デザインの世界では、こういったイメージの提案、模索、プランニング等に収益が絡むのが当たり前なのですね。

ところが住宅になると、予算が決まっているものの上限に対して曖昧になったり、好みに左右されたり、お考えになられている未来も漠然としたイメージで迷われていることが多々あります。数値的に明確な収益に該当するものを見つけるのが難しいのです。

しかし、そういったお客様との関わりを通じ、私も徐々に、漠然としたイメージの中にこそご自身や家族が豊かな生活を送り、健康に暮らすオンリーワンの願いが込められているのでは、と、考えられるようになりました。「住まい」は、収益という観点に置き換えれば、人生のパフォーマンスをあげて幸福を生み出す空間だと考えることも、できるかもしれませんね。

エンドユーザーに対し、空間について知識のある私たちは、迷いの中からその人の内側にある「住まい」が生む幸福の答えを一緒に探していきましょう、とご提案することができます。情報過多の今日こそ、コミュニケーションをとりながら一緒に空間づくりをしていくということが求められているのではと、ライフワークとして感じられるようになりました。

建築士になり業務の幅は広がりましたが、エンドユーザーに意識が向かうのは、インテリアコーディネーターがスタートだったからに他なりません。生きがいや強みを同じようなお仲間と共有でき、本当によかったと思っています。

――新たにはじめた新築住宅のお仕事について教えてください。

永島 カスタマイズ住宅(※編集注:施主は間取りを決められるが、限定された仕様・メーカーの範囲で外壁、内装、設備、建具等を選定する住宅)を手掛ける企業様から外注設計の業務委託を受けるようになりました。どのような住宅が建つかモデルプランがある土地を購入した方から、実際に住宅を建てる際のニーズをヒアリングして、モデルから変更を加える基本設計と実施設計、インテリアコーディネートに該当する仕様決め等を行うお仕事になります。

――カスタマイズ住宅は増加傾向にあるのでしょうか。

永島 工務店さんが建築家の設計した注文住宅だけを受注するようなことは控えている流れはあるのかもしれません。時間がかかり、コストは上がり、お客様の御要望も複雑化するからでしょうか。それよりも、工務店さんが主体となりお客様の要望を取り入れながらも、自分たちのわかりやすい仕様で設計して建てた方が短い工期で建築できて、多くの案件を手掛けられる。そういった理由でカスタマイズ住宅に注力するところは増えているように思います。

建築家が設計する注文住宅は、外装等も様々な仕様から選べますし、ドアやサッシを特注で作ることもできます。しかしそれはコストや時間がかかりますし、さらに省エネ計算や構造計算等も複雑化していきます。

近年の工務店さん向けセミナーでも、カスタマイズ住宅がいかに利益的に優れているか啓発するものが多くみられます。大手建材メーカーさんが、工務店さんをサポートしているのも、そういった、スピーディでコストに優れたカスタマイズ住宅のトレンドを後押ししているのかもしれません。

――そのような、工務店による家づくりの効率化、高速化が進む中、インテリアコーディネーターの役割についてどうお感じになりますか。

永島 工務店に限らず、多くのハウスメーカーが採用してきているように、インテリアコーディネーターがお客様にヒアリングを行い、お客様の好みの「住まい」に仕上げるニーズや重要性は、ますます増えてくるのではないでしょうか。

設計士がインテリアコーディネートを担う場合もありますが、設計も高度化、専門化していますので、設計士とは別にインテリアコーディネーターがそういった部分を担うメリットも大きいと思います。
消費者の感度は非常にあがっています。若い方々は、受けてきた教育が昔と異なり、SDGsや環境保護の視点への関心が高いです。「住まい」に対し、個々の「暮らし」や「消費者の感性」を組み合わせることはますます難しくなっており、私たちを含めて誰にとっても課題です。 

お客様の未来に大きくかかわる「住まい」への想いを丁寧に引き出し実現化する担い手として、ぜひ、インテリアコーディネーターに相談していただければと思っています。私個人としては、インテリアコーディネーターとしての意識をベースに、業務の範囲については状況に応じて柔軟に対応していきたいと考えています。

――家具メーカーや、インテリア業界へお伝えしたい考えなどあれば、是非教えてください。

永島 私たちインテリアコーディネーターはあらゆる製品について勉強し、インプットを行う必要がありますが、そもそもコーディネートの技術はアウトプット(実践)することでしか培うことはできないのです。そこでもっと実践する、研究する、試行錯誤する場のようなものがあればよいと思います。

JAFICAとメーカー協賛のコンセプト展示

JAFICAで数年前、メーカーの協力を得ながら自分たちでエコ関連の展示をするというイベントに参加しました。インテリアコーディネーターの立場で、いろいろな製品を組み合わせ、コンセプトをつくり、見せていくという活動ができたと思います。その展示自体もご覧頂きたく思いましたが、それ以上に私たち自身も制作のプロセスを通じてメーカーの方々と学ぶことがとても多かったのです。製品のことはもちろん、未来についても考える機会になりました。

そういう、インテリアコーディネーターの未来をサポートするような場が普通にあって欲しい、と願います。例えば展示会で、1つのコンセプトを複数のメーカーでブースをつくり、そこでインテリアコーディネーターの力を活用するというような場ですね。

――以前、IFFTでは、ジャパンプレミアムファニチャー・コレクションという展示企画があり、近い取り組みがありました。

永島 ありましたね。とても興味深かったです。さらにオープンに、家具一社だけではない見せ方はどうでしょうか。

例えばIKEAさんやアイリスオーヤマさん、ニトリさんといった素晴らしい企業様は総合力があり、家具も照明も家電もトータルで提案することが可能で研究やマーケティングも自社で幅広くできますね。
一方インテリアの世界には、特定の製品に強みを特化する企業もたくさんあります。一部の家具だけとか、内装材とか、照明のみを扱う企業です。そういった企業が展示会に出展すると、例えば自社の得意な家具だけに力がかかりすぎて、付帯する照明はおまけのようになってしまい、結果的に単体売りのような表現になりがちのように感じます。

様々な分野のメーカーさんが協力して1つのコンセプト空間をつくるという場がもっと増えてもよいのではないでしょうか。そういった機会に私たちの力を活かせるシーンがあるのではないかと考えています。

また、こういう取り組みは、オンラインで何でも購入できる今だからこそ、リアルな店舗(百貨店や家具店)にももっと広がってほしいと願っています。例えば洋服には、セレクトショップがあって、あらゆるものを組み合わせて個性を表現しますね。いろいろなものから本当に良いものをセレクトして表現して、こんなにいい「住まい」の未来ができる、というのを伝える場が、新築のモデルルームやモデルハウスだけでなく、身近に生まれると「住まい」がもっと楽しくなるのではないかなと思っています。

――永島さまから素敵なインタビューをいただく事ができました。お時間を頂戴し、ありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)