一般社団法人日本フリーランスインテリアコーディネーター協会(JAFICA)
江口惠津子 氏(㈱ヴェルディッシモ代表、JAFICA会長)
五位渕富子 氏(オレンジデザイン、JAFICA理事)
大河原さおり 氏(㈱クレアデザイン代表、JAFICA理事)
林 美和子 氏(フリーランス、JAFICA理事)
――お忙しい中お集り頂きありがとうございます。家具業界を担うインテリアコーディネータ様に注目し、普段のお仕事や役割、お考えを聞かせて頂きたく今回のインタビューを設定しました。まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。
大河原:私は株式会社クレアデザインを運営しています。当社はインテリアデザイン事務所で、2年前に法人化しました。主にマンションや戸建てのモデルルームのデザインと設計、企画、コーディネート、スタイリングを請け負っています。また、個人の店舗や企業のショールームを請け負うこともあります。家具、照明、カーテン、壁紙は一式コーディネートして、提案しています。
江口:株式会社ヴェルディッシモを運営しています。会社を始めて30年になります。当時、リフォームはまだニッチな産業でした。提案型リフォームとして設計からインテリアコーディネートまで担っています。スケルトンからインテリアコーディネートまで幅広く手掛けています。家具、壁紙、床材、カーテンなどを中心にコーディネートしてきました。
林:フリーランスでインテリアコーディネーターをしております。新築の木造住宅が活動の中心です。プランの段階からお客様と、キッチンや水回り製品の選定、色決め、照明計画、床壁天井の色、物決めを行っています。カーテン・窓回り、家具も手掛けます。造作家具の導入も業務範囲です。ハウスメーカーより業務委託契約を結んで活動しています。
五位渕:オレンジデザインという事務所を運営しております。私の職務は住宅以外が中心です。展示会、イベント、ショールーム、店舗、商業施設に向けた空間デザインを主としています。基本設計から入るときもあれば、実施設計から入ることもあります。最後のコーディネートまでやるときもあるなどパターンは様々です。図面、デザインなど一通りのことを請け負えると自負しております。最近は事務所改装も増えており、家具は事務所のリノベーションで関わることが多いと感じています。発注はしませんが、主に選定を担います。
――数多ある製品からベストの選定、コーディネートが業務の中心であると思いますが、仕入れ自体にご興味はないでしょうか。例えば海外のコーディネータは仕入れも兼ねると聞きます。
林:私はハウスメーカーで専属契約をしており、その関連会社が仕入れ・販売を担っています。私の選定により家具やカーテンが決定すると何パーセントかフィーがいただけますので、仕入れに関わる必要性を感じていません。もっとも私はフリーの立場ですので、実際に仕入れから関われる案件があればそうしたいと思いますし、実際そういう経験もあります。ただ、私自身仕入れられる家具メーカーは限られるので、選択肢は限定的かもしれません。
五位渕:私の分野でも、デザイナーの人々は仕入れに携わることは少ないでしょう。施工会社が一括して仕入れます。案件の規模が小さいときは私も仕入れますが、だいたい商業施設関連は規模も、金額も大きくなりがちなため自身で仕入れることは少ないです。
――基本的な業務は、建築設計事務所が建築図面を起こしてきた中に、デザインを落とし込むことが多いのでしょうか。
大河原:その通りです。デザインを落とし込むことが基本で、時に設計変更も担います。一方、モデルルームをつくる場合は、モデルルームだけの間取りを作ります。指定された大きさの範囲内ではつくりますが、3LDKを2LDKに変えるなど柔軟に対応し、そこに造作家具を入れるなどデザインして、施主から承諾を頂きます。一方、事務所や企業のショールームは設計事務所が大枠をつくり、コーディネートから入ることが多いです。
マンションのモデルルームは、棟内、棟外あわせて年間20~30件やっています。大きな棟外モデルは期間も長いため、年に2~3件です。棟内モデルは、2か月程度でつくるため、一気に2~3件手掛けることもあります。
――家具の選定もその中で行うのですね。
大河原:はい、空間のイメージを先に考えて、そのイメージに合った家具を引き出しから出してくる感覚です。このイメージだとこのメーカーとこのメーカーだ、といった引き出しがあるのです。そして当該メーカーにお願いして、在庫があるか確認して納品になります。
――家具のメーカーはたくさんありますが。
大河原:非常に多いですね。モダンならモダンでたくさんあります。私のイメージに合うものを中心に選んでいます。
――またご存じないメーカーをもっと知りたいという思いはありますか。
大河原:もちろんあります。新しいメーカーも出てきて、スタイリッシュで斬新なデザインの家具をつくる企業も出てきています。そのため普段から積極的に調べていくようにしています。例えばミラノサローネに行ってみる、ショールームの展示会は必ずいく、新作発表会に極力参加するなど、新しい情報を得るべく絶えずアンテナを張っています。
――IFFTや飛騨の家具フェスティバルといった展示会も行かれますか。
大河原:毎年できる限り行っています。自前で展示会を開催しない、あるいは都内にショールームを持たないようなメーカー様とも出会う良い機会だと思っています。小物や照明も私の職務範囲ですので、そういった製品とも巡り会えるチャンスです、仕入れ値を積極的に聞くようにしています。
――江口様の業務範囲では、家具の扱いはいかがでしょうか。
江口:私は設計業務と請負業務両方に分かれてやっています。ただ、請負をするとかなり業務量が増えることもあり、近年は設計を中心にやってきました。大河原さんはどちらかというと設計が終わったあとのインテリアデザインが業務の中心でいらっしゃいますし、法人様がお客様であることが多いですが、私はその前段階に関わるほうが多いです。お客様もエンドユーザー様が多いです。JAFICAに入って強く感じたのは、このようにインテリアコーディネータはいろんな分野の人たちで構成されているのだな、ということです。
家具についても、私の担当するお客様は、お手持ちの家具にあわせながら空間をつくりたいという要望も起きます。新しい家具メーカーさんについて勉強しなければいけないのは共通していますが、私の場合、それ以外にもリペア方面についても熟知しておく必要があります。
――なるほど、新築でも家具のリペアや持ち込みは多いのでしょうか。
江口:新築住宅ですと買い替えが多いと思います。ただ、リフォームなどですとこれまで長らくつかってきたソファを使いたい、そのデザインに調和した空間に仕立ててほしいという要望も出てきています。サステナブルを意識したお客様も出てきました。
――リフォーム、リノベーションですとそういう流れが今後も増えてきそうですね。新築でいくと、どれくらいの人が買い替えを検討されますか。
林:一式全部買い替える人、あるいは部分的に買い替える人も全部ひっくるめて、体感的に半分くらいのお客様がハウスメーカー経由で家具を買い替えると思います。
新築のコーディネートをするときに、家具は最後に決める存在と捉えられがちですが、床、壁、天井、照明を決める段階、つまりコーディネートの初期段階から家具についても考慮していきます。すべてが調和して提案すれば、提案通りのものが購入されるケースはかなり多いです。ただソファは、最近は後ろに倒すことができるなど、付加的な機能がついていることがありますね。デザインは提案通りで気に入っているけど、販売会で他の機能について知って、他社さんのソファを買われるというケースもしばしばあります。
江口:これこそがインテリアコーディネータの強みだと思っています。空間を一から一緒に作り上げていき、空間と調和した家具提案ができますので、提案力、納得性がとても強くなります。
林:お客様と相対して打合せを重ねると、お客様がどういう方向性のインテリアを好まれるかわかるようになります。家具もこういうテイストが好きなのではないかと思って提案すると、納得して頂け、満足度が高まります。この点では、私たちは家具店さんとはアプローチが逆なのだと思います。家具店さんは、多くの家具を展示して、膨大な家具の一個一個について深い造詣をお持ちです。お客様自らが選定するのを最大限サポートできる方々です。私たちは、(お客様が選定するというより)空間をつくって空間自体を気に入ってもらうというアプローチなのです。
【展示会を見て回るのは大切 ―多数のインプットが選定に活きることもー】
――ありがとうございます。展示会の話に戻しますが、林様もなるべく展示会に行かれますか。インプットは必要でしょうが、たくさんメーカーを見ているとどのメーカーにどんな家具があったか忘れてしまいませんか。
林:正直に申しまして、すべて覚えることは難しいです。しかしお客様からこういう家具はないかと言われることもあります。写真や情報を聞いて自分の記憶をたどると、ひょっとしてあそこの家具ではないかだとか、あのメーカーのテイストに似ているなとぼんやり思い出すことも。そしてわずかな記憶を頼りに探すと見つかることがしばしばあります。それは普段からインプットがなければできないことです。
大河原:すべて把握することは難しいですが、普段の生活でも家具を気にしてみています。ホテルで気になる家具を見ると、椅子の裏を見てでもメーカーを確認することもあります。
――商業施設ですといかがでしょうか。
五位渕:空間全体に合うイメージの家具の選定は必要です。私は皆さんのように実は家具は詳しくありませんでした。JAFICAに入ってから詳しくなれたと思います。私の場合は、家具自体と家具メーカーの社長さんが結びついているイメージです。メーカーの数は多く、テイストが似ているメーカーもあります。その中で顔の見えるメーカーさんから選びたくなりますね。なお、オフィス系はコクヨさん、オカムラさんが多いです。
――オフィスと言えば、家庭用家具の採用が増えたという声もありますが。
五位渕:オフィスのコミュニケーション・リラックススペースには、家庭用の家具が入ることもあります。コロナの時代から、オフィスだけでなく家で仕事をするなど働き方の選択肢が広がりました。そこで、せっかく用意しているオフィスに来たくなるという方向性の空間づくりが進んでおり、昔ながらのオフィス家具というのはほとんど姿を消しました。ご指摘のように住宅向けの家具の採用も増えましたが、一番顕著なのは昔あったグレーで、金属感の強い無機質な家具がほとんどなくなったことです。ワークスペースに置かれるデスクは電源まわりの設備等を兼ね備えながら非常にスタイリッシュなデザインや明るい色合いに変わりました。
――家庭用の家具も増えてはいますが、オフィス家具のほうが多いと。
五位渕:総じて、製品の強度やサイズ、機能面を評価されて従来のオフィス家具メーカーの採用が多いと思います。会社対会社の関係もあってオフィス家具メーカーの施主指定のあるケースも少なくありません。そのため、私の肌感覚としては家庭用の家具はまだまだ少ないです。ただ、こちらから粘り強くコンセプトを説明することで採用されるケースもあります。
――オフィス以外の非住宅ではどうでしょうか。
五位渕:ここはまた異なる世界があり、あまり家具に重点を置かない店舗などはコスト重視になります。IKEAやニトリで買ってきてほしいと指定されることもあります。ほかには、例えば椅子のデザインが重要な空間だと各メーカーの家具から選定をするのですが、店舗は、店舗用のメーカー・卸業者様から選ぶケースが多いです。選択肢も多く、張地や脚の形状も選べるためスムーズです。
――次に造作家具についてですが、モデルルームでも多いのでしょうか。また、どのようなメーカーに依頼されますか。
大河原:非常に多いです。モデルルームは一番造作が多いかもしれません。モデルルームは一年で終わってしまうのですが、それでも造作が入ります。デザインは私が起こし、造作家具メーカーが製作を担います。ソファのデザインをすることもあります。もう少しRを付けてほしいだとか、45度曲げてほしいといったお願いもします。ダイニングテーブルや椅子は既成品がほとんどですが、壁面の家具はほぼ造作です。個人の店舗でも造作家具をデザインし、コーディネート、提案をしております。
依頼先ですが、オーダーやっている、家具しかつくらない木工所などに頼みます。私も自分でデザインしてやりたいというのと、コスト的な面もあって、大手というよりよく知っているオーダー専門家具メーカーに依頼をしています。なお、棟内モデルルームの場合は、造作で作ってそのまま造作ごと(マンションを)販売することがあります。
江口:自分のデザインを一番出せるのが造作家具なので、私も取り扱います。ただし、大河原さん同様、脚物は既製品を買うようにしています。予算に余裕のあるユーザー様の場合は、壁面造作(収納やテレビ)に加えてキッチンまでオーダーメイドで提案することもあります。デザインからお客様と自由に決めていける楽しさもあります。この前もネイビーのキッチンを造作で作るということで話を進めたところ、大変お気に召して頂けました。そこからブラインドから何から何までネイビーにしていこう、と空間が決まっていったことがありました。そのように造作から空間が定まるという、逆の流れが起きることもあります。
林:壁面収納も、既製品だから安いかと思いきや、案外造作よりも高いことが多いと感じます。一般住宅ですと予算に重きを置くことが多いので、造作家具メーカーに頼ることが多いです。先方も、(物件の寸法に)収まるようサイズを微調整してくれますし、図面も細かいところまで制作して頂けますので、非常に付き合いやすいのです。
――なるほど、地場の昔から付き合いのあるところにお願いされているのですね。
江口:もっとも造作家具メーカーにも得意な分野がありますので、何社か付き合っている人が多いと推察します。
――コントラクトだといかがですか。
五位渕:コントラクトですと特注サイズが多いので造作が多いですね。既製品のほうが少ないです。ただ椅子や机は既製品が多いです。意匠図をデザイナーが書いて、彼らに現場調査してもらい、製作頂きます。
江口:棚物の家具というと、一般の人から出てくるのはキュビオスなど限られた製品名に留まります。実はインテリアコーディネータはそういった造作家具メーカーとつながりが深いので、全く角度の違う提案ができるという利点があります。
――皆様はどのように造作家具メーカーと知り合うのですか。
大河原:これは紹介のケースがほとんどです。会合などで他のメンバーに紹介頂くということが多いと思います。JAFICAならではの利点だと思います。
江口:紹介する側も自身の信用にかかわってくるため、紹介も信頼がおけるものになります。組織自体が情報交換を主とするものですので、メンバー同士で信頼関係のあるつながりを維持できていると思います。
――最後に、家具全般について、コーディネータとしてどんな情報を仕入れたいと思いますか。
大河原:家具メーカーの情報をもっと詳しく知りたいと思います。そのメーカーの特性や方向性を知ることにより、提案に活かせるようになりますので、そういった情報の発信は欲しいと思います。
江口:会社のヒストリーを知ることで私たちもそのメーカーのファンになれます。企業としてだけでなく、社長の人となりや社員の人となりを知り、ファンになりたいと思います。また、海外の先進的な取り組みをしているメーカーも紹介してほしいと思います。
林:新作情報が一番知りたいとおもいます。またこの業界を通じて、家具メーカーさんとコラボをするという取り組みを何度かしています。私たちインテリアコーディネータがいるとこのようなことができるので今後も取り組んでいきましょう、といった話になっているのですが、まだまだ一緒にできることは多いと思います。ぜひもっとメーカーと協業が進むようになっていければと思っています。
五位渕:インテリアコーディネーターのポジションを俯瞰してみると、家具メーカーさんは、空間提案が大切だと感じている会社さんもいらっしゃいます。やはり設計からちゃんと家具を入れこんでいけば、よりよい家具が売れるチャンスも広がりますし、もっとメーカーさんとそういった点をタイアップしていければお互いによりよい関係になると思っています。
――本日はありがとうございました。
(進行:長澤貴之)