【インタビュー2024】iwakagu 代表 岩﨑翔氏 確かな自社技術を活かし、オーダー・別注家具まで幅広く対応 「木のぬくもり」伝わる木工品も

静岡市で、主にオーダーメイド・オリジナル家具や別注家具製造を手掛けるiwakagu(イワカグ)は、家具から木工品まで、「木のぬくもり」を大切にした様々なプロダクトを製作している。同社代表の岩﨑翔氏に、静岡市葵区のiwakaguショールームで、家具・木工品づくりについての想いを訊ねた。

――まず、岩﨑さんが家具づくりについて興味をもたれたきっかけをお伺いできますか。

岩﨑 私は地元が静岡で、高校生の頃、芸術系や美術系の大学への進学を考えていたのですが、当時の学校の美術の先生から、「それならばシズオカ[KAGU]メッセなどの展示かも見に行ったほうがよい」と言われ、その頃から家具の展示会を見に行っていました。その当時は、「家具を作る」というところまでは考えていませんでしたね。

しかし、大学でものづくりを学ぶうちに、木材で何かものを作りたいという思いが芽生えていました。4年生の頃には「家具を作りたい」と考えるようになっていたのですが、当然まだ技術もなかったので、大学院に進んで作る技術と表現方法を身につけたのです。

――デザインではなく、作る側に進もうとされた理由には、どのような理由があったのでしょうか。

岩﨑 大学はデザイン学部で4年間を過ごしましたが、家具は最終的に人が使うものですから、私の場合「触ってみたり、作ってみたりしないとわからない」という要素が多いと思っています。作っているときに気付く要素も多いですからね。

最終的には、良いものを作りたいというところで、完成度の高いプロダクトができればよいのですが、デザイナーとして私自身がそれをやっていくのは難しいなと感じたのです。もちろんデザイナーの方々もそうですが、使っていただく方々に喜んでいただけることが一番です。私の場合は、作り手として物を作ったという実感が得られると考えて、家具作りの道に進んでいきました。

――大学院を出られてからすぐに独立されたのですか。家具メーカーに就職などはお考えになられたのでしょうか。

岩﨑 独立したのは、大学院を出て1年半ほど経ってからになります。家具メーカーへの就職も考えはしていました。当時の県内有数の無垢家具専門の製作会社に面接を受けることになったのですが、私の一つ前の方が採用となったのか、私の面接は無しになったのです。大学院を卒業すると、半年後かに個展を開けるのですが、その機会も期間と回数が限られていました。東京の青山で5、6人のグループ展を開くことになり、とりあえずそこに向けて作品を作ろうと考え、自宅の一室で作品を作っていましたね。

大学院の卒業生は、教員になるなど自ら行動を起こされる方が多かったので、そのような姿を見て「自分の工房を持ちたい」といった気持ちが芽生えてきました。一度はどこかで、ものづくりができるような環境を持ちたいと思ったのです。

ただ最初は当然、仕事の案件はありませんでした。当時は26歳で、独立して20年近くも家具作りを職にするとは思っていなかったですし、同じような方が周りにいるのかなどもわかりませんでした。若かったですし、貯めていた資金が底を尽きた段階で工房をやめようという気持ちで当時はいたのです。しかしながら、運よく工場も見つかり、タイミングよく仕事の案件もいただけました。

――今現在、スタッフの方は何人ほどいらっしゃるのですか。

岩﨑 私を含めて4人ですね。私自身も工場に行って、朝はメールのチェックから始まり、その合間に図面を書くこともあります。8時からはスタッフに仕事の段取りを説明して、従業員の作業指示を行い、それぞれ分業しながら製造しています。

――今現在、手掛けていらっしゃる仕事は、コントラクトがメインになるのでしょうか。

岩﨑 当社は昨今、建築設計事務所さんからの図面・納期のある仕事を多くいただいています。それは静岡のみならず、東京など、静岡県外に出ていくことも多いです。家具メーカーさんのOEM、保育園などに設置する什器なども手掛けさせていただくことはあります。コロナ禍前の5年ほど前までは、シズオカ家具メッセで新作を出すメーカーさんの展示用試作品なども製造していましたが、最近はぴたっとそのような依頼が止まってしまいました。

様々な仕事をさせていただいてきた中で、建築設計事務所の設計士さんとの繋がりができて、造作の一点もの的な家具作りが多くなってきました。静岡県内だけでなく、都内など大きな施設に納めることができないと、生き残っていくことは難しいと考えています。コントラクト案件は商業施設や事務所など、そこまで景気に左右されずに案件はありますから、現状ではそのような建築設計事務所さんの案件を手掛けていくことで、利益も出していくことができます。

――オーダー家具については、昨今のユーザーさんからのオーダー数の推移はいかがですか。

岩﨑 オーダー家具については、当社はそこまで営業販促をかけているわけではないのですが、ここ2、3年で非常に需要が落ち込みました。ここ1、2年で材料の価格も高騰しましたし、建築の方もさまざまな価格が高騰している状況下で、家具にまでお金をかけていられない、というのが現状なのではないかと思っています。

コロナ禍による助成金が出た時期やコロナ禍前の時期は、今よりはもう少し受注はありました。オーダー家具の受注というのは、静岡以外の県外から依頼があるというケースはやはり少ないのです。ただ、小物雑貨についてはコロナ禍に関係なく需要はあります。

――オーダー家具の依頼をされるユーザーは、どれぐらいの年齢層の方が多いのでしょうか。

岩﨑 当社の場合ですと、40代から50代の方が多いですね。クルミ材を用いた家具も製造しているのですが、割と中間的な色味が最近は好まれます。以前はオークなどが多かったですね。

ウォールナットやチェリーも好まれるのですが、ショールームにクルミ材の家具を多く置いていることもあってか、割とこのような色合いのものが最近は選択肢に入れていただくことが増えています。しかしながら、床材にナラ材やオーク材が多く使用されることもあり、それに合わせてオーク材での家具を作ってほしいというオーダーもやはり多いです。

――iwakaguとしての歴史の話に戻りますが、これまで事業を立ち上げてやってこられた中で思い入れのあるプロダクト、思い出などはありますか。

岩﨑 静岡駅近くにある浮月楼さんという料亭・催事場があるのですが、2017年にその浮月楼さんからの依頼で、天皇皇后両陛下(現・上皇上皇后両陛下)とスペイン国王ご夫妻がいらっしゃることになり、静岡行幸啓記念として4脚の椅子の製造を請け負うことになりました。このような機会は今後もあるかないかという非常に光栄なことでしたね。象徴的な椅子で製作も非常に難しかったのですが、「作ることができない」というわけにはいきませんでしたので大変でしたが、使命感と共に非常にいい経験をさせていただくことができました。

――家具作りにおいて、静岡という場所の強みについてはどのように捉えていらっしゃりますか。

岩﨑 まず、静岡というところは「分業制」が発展している地域だと思っていまして、例えば当社はNCルーターを保有していないのですが、代わりにそれを持っている企業さんに外注することができます。塗装や張りにしてもそうで、自社にない技術を補完し合いながらものづくりをしやすい地域です。

そのような意味でも、「なんでも作ることができる」ことが静岡の特徴だと思っています。近隣の車で10分~15分の範囲にそのような工場が多くあって、材料を持って行ってスピーディーに打ち合わせ、製造をしていくことができます。このように関係性を構築できることがまず静岡の強みであり、このような環境は全国でも少ないのではないかなと思います。私としても、非常に仕事がしやすい環境だと思っています。

小物の木工品などのiwakaguオリジナル商品。ギャラリーなどでも展示販売している

――改めて、iwakaguの強み、アピールポイントを教えていただけますか。

岩﨑 造作家具については、当社でしかできないようなものもあります。無垢材とフラッシュ材の組み合わせで製作するなどは当社の強みだと思います。オーダー家具を手掛けていると、当社でしかできないようなこと、というのもだんだんと分かってくるようになりました。

強みを活かした家具作りというのが、お客様にとっても一番喜んでいただけるものだと思います。良い意味で、「当社ではなくてもよいかもしれない」という依頼もいただきますので、そのような場合ではお客様とお話をさせていただきながら、作り手としての知識や考えなどをきちんとお伝えして返します。それは個人のお客様もそうですが、コントラクト案件でも同じです。

このような仕事を多く手掛けていると、建築設計事務所さんが当社の噂を聞いて、新たな案件のお話をいただくこともあります。コントラクト案件は設計事務所さんの間での紹介で知り合うことが圧倒的です。もちろん、ネットの情報などを見てお話をいただくこともあるにはあるのですが、紹介で知り合ったケースと比較すると、あまり関係性が長続きしないのです。

――最後に、岩﨑さんが事業に取り組まれている中で、特に大切にしていらっしゃるお考えについて教えていただけますか。

岩﨑 作り手として、図面をいただいて下請けとして作る場合と、個人からオーダーをいただいて作る場合と、当然物を作るという意味では同じです。製造していく中で「最後のここの部分は、もう少しこうしておこう」といった意識が必ず働きます。下請け業者は、納期も金額も決まりがあるので「ここまでやればこれで十分かな」と、最低限のことはもちろんこなすのですが、やはり「ここはこのような仕上がりがよいかな」といったことを、作りながら気づくことがあります。特に知り合いの企業などに依頼されている場合は責任がより一層強まりますので、最後のその気遣いができるということは非常に大きいと思っています。

コントラクト案件での家具は、「採寸」するとすべて私の責任になります。測った時点で、図面通り作ったとしてもその家具が空間に入らなかったような場合、作り手である私の責任になるのです。家具作りのためにその現場に行って採寸した際のシビア感・責任感、そして最終的にうまく納品できたときの達成感は、建物と共に家具ができたという意味でも非常に説得力があり、強いものです。そのような形でのものづくりは、私個人としてもしっくりくる在り方ですね。

オーダー家具もそうで、椅子などのオーダーをお客様からヒアリングして作るということは、お客様のニーズを聞いて形にしていくということです。そのうえで、そのオーダー家具が置かれる建物とセットできちんと考えた方が、様々な意味でのおさまりが良いと考えています。私自身も家具を作っている人間としてそのような考え方が、本来家具を作っていくうえでも筋が通っているのではないかと思っています。

(聞き手 佐藤敬広)

https://www.instagram.com/iwakagu