【インタビュー2024】カヴァースジャパン 代表取締役 青木康裕 氏

――3月に行われたマレーシアの国際家具見本市「Malaysian International Furniture Fair(MIFF)」へ初出展されましたが、まずは出展に至った背景などを教えていただけますか。

青木 海外の展示会であるMIFFに出展した背景は、日本の家具業界は今後もまだまだ成長していけるのではないかということが挙げられます。特に日本のメーカー、日本で作られた家具という観点では今後も成長の余地がまだまだあると私はみています。何十年か前は婚礼家具の文化があり、海外からの輸入家具もそこまで多くなく、そして住生活も戸建て住宅が多くあり、現在のマンションのように据え付けのクローゼットなどはありませんでした。このように、日本の家具は黙っていても売れていた時代がありました。「作れば勝手にどんどんと売れていく」という時代があったのです。

しかし、そのような時代は終わり、海外で作られた安価な製品がどんどんと日本の生活空間の中で使用される時代になりました。日本製の家具はコストが高いので、価格競争力をつけることは難しい状況です。そのような中で日本の家具メーカーや家具販売店の数はここ数十年でだいぶ減ってきていると思うのですが、ものづくりの業界にかかわる者として、日本のものづくりは高品質で丁寧ですから、この文化や技術は違う観点からまだまだ進化していき、再成長していけると良いなと思っています。

ただ、それを考えた際に、今後の日本の市場のみでは難しいだろうとも思います。今の日本は安い家具を使い、使えなくなったら買い換えるという流れが一般的になってきています。良い家具を買って、それを長く使おうという方は、どちらかというと少ない。今後、若い世代の方々の考えが、良いものを長く使っていくという方向に向くことは難しいだろうと、私はみています。

――難しいと思われる要因には、どういった要素があるのでしょうか。

青木 見た目での判断がしづらいからです。一般的な方から見ると、家具というものはぱっと見で、価格感の判断がしづらいのです。例えば、ぱっと見で10万円のベッドを見ても、20万円のベッドを見ても、違いはよくわからないと思うのです。

マレーシアと中国の展示会の出品製品をみたとき、「とても良い家具だ」と思った製品があったのですが、価格がとても安かった。したがって、消費者の方々が見た目で家具の価格の判断ができるのかというと、それは難しいだろうというのが私の考えです。価格が高い家具について、価格が高い理由がわかりにくい。対照的に安い家具でも、品質が悪いわけでもなさそう。このように、消費者の方々がその判断をしづらいのです。5万円の家具と10万円の家具を比較して、10万円の家具が、5万円の家具の倍の値段になっているその理由がわかりづらいのです。だから、「安い家具でも、品質はそこまで変わらないだろう」ということで、そちらを選んでいかれる傾向になるのだと思います。消費者の方々が「この違いを見つけたい」ということで、木材や製造の仕方などの知識を得る、リテラシーを高めるという流れを期待するのも、難しいと思っています。

――価格の差がつく理由が、消費者にはわかりづらいというお話でしたが、海外の中国や東南アジア製の家具の品質は、海外の家具展示会などをご覧になっても向上してきていると見てとれるのでしょうか。

青木 そうですね。中国やマレーシア、ベトナムで作られた家具の品質が悪い、というのはもう一昔前の話だと感じています。近年は品質が向上してきているため、なおさら日本の製品との価格差を説明することが難しいと思います。「日本では職人が丁寧に作っているから、品質も良くて価格が高い、そこを認めていただいて高く買ってください」というのでは、難しくなってきていると思っていますね。

あとは人口面の問題もあります。日本の人口が減り、日本の家具の供給量を認めてくれるだけの需要量が下回っているから、国内のメーカーなどの数が減っているわけで、今後も日本の家具メーカーの供給に見合うだけの需要量になっていくことは望めそうにありません。日本でその需要を見込むことは難しいのであれば、活路は海外に求めるしかなさそうです。海外へ販売してそのお金を供給側に渡してあげないと、日本の家具業界を今後さらに成長させるのは難しそうです。日本の家具を海外に売っていかないと、今から50年後には日本製の家具はもしかしたらなくなってしまうかもしれません。

――そのようなお考えのもと、MIFFへと出品されたわけですが、出展製品は日本の国内で製造されたカヴァースジャパンのオリジナル製品だそうですね。

青木 はい。当社オリジナルのダイニングセットを出品しました。今後は、当社が出品製品に採り入れた西陣織など、日本の伝統技術をわかりやすく織り交ぜた商品を生産していきたいと考えています。たとえば、伝統工芸品の西陣織、南部鉄器などは、今後も光り輝いていくと思っています。これは日本の技術がわかりやすく発揮されているものですし、仮に中国でこの技術によって作られたとしても、それは差別化できる技術です。

したがって、わかりやすく日本の伝統技術などを使った家具で、海外の富裕層などに受け入れてもらえることを増やしていくことができればさらに日本の商品は海外の目に留まるのではないかと思っています。コストを落として数を売っていくというパワーゲームは日本にとっては分が悪く、これは家具以外のアパレルなど、他業界にも言えることで、我々が着ている洋服のほとんどは海外製なのではないでしょうか。

――中国やアメリカが、量を売るという手段をとっていますね。

青木 国内企業で海外に打って出ることができているのは、ごくごく一部の大企業だけです。家具業界は中小企業が多い業界なので、この中小企業が残っていくためには、先ほど申しあげたやり方があり得るのではないかとみています。そこで当社も、東南アジアで最も大きい家具の見本市であるMIFFに出展してみることにしたのです。

――海外の富裕層をターゲットとして出展されたわけですね。実際に来場者からの反応はいかがでしたか。

青木 マレーシアや中国など、アジアの大きい展示会は、その中の多くが価格も訴求した商品です。デザインももちろん考慮されているのですが、「こんなに安いの?」という商品が非常に多いのです。その中で、当社の商品はずばぬけて高価でした。おそらく全ブースの中でも最も高価であったのはないかと思いました。したがって、多くのバイヤーからは「高い」というイメージを持たれていたと思います。

しかしながら、一部のバイヤーからは「確かに、この商品であればこれぐらいの高価な価格になって当然だ」という反応もいただきました。この違いは何かというと、後者の反応を示したバイヤーは、主にドバイやシンガポールといったエリアの富裕層むけ商品を取り扱っているバイヤーだったのです。その場で見ていただいて「良いもの」だとわかっていただけて、「全然高くないよね」と言っていただけました。対照的に中国やマレーシアのバイヤーの方々は、「これは高すぎる」と。したがって、富裕層向けの家具を扱っているバイヤーの方々からの反応は良かったです。

――今回のMIFFについて、展示会全体の感想などについても語っていただけますでしょうか。

青木 安くてよいものがとても多く出品されていました。見た目や触れた印象では、マレーシアや中国製の家具は日本の家具とそう変わらないと思いました。先ほども申しましたが、消費者の方々が判断できないだろうと思われるほど、レベルは日本のものと変わらなくなってきています。しかもそれでいて、価格は非常に安い。つまりここと同じ土俵、市場で、日本の家具は戦うのは益々難しくなっている、という印象を持ちました。

あとは、日本の家具見本市と比較して、ひとつひとつのブースがとても広く、かつ非常に作りこまれたブースになっていることが印象的でした。「このブース設営にはかなりの金額がかかっているのに、展示会が終われば解体するのか」と思わせられたブースが多かったです。マレーシアや中国は、家具に関しては輸出産業で、欧米に輸出している企業がとても多いですが、つまりブースにコストをかけてもペイできるだろうと考えている。しかも家具は安いわけですから、安い家具を大量に売っていこうと考えている出展社が多かったということだと思います。したがって、日本の家具メーカーが東南アジアなど海外の展示会にそれだけのブースを構えて、展示会で幅広く売っていくことは、製品のコスト面のことも考えると、なかなか難しいのではないかと思います。

――マレーシアのMIFFに出展されたほか、ベトナムや中国の家具見本市も視察されたとのことですが、その感想もお聞かせください。

青木 ベトナムについては、規模はマレーシアのMIFFほどは大きくなかったのですが、とにかく世界中からバイヤーが集まってきていました。展示している家具もバラエティに富んでいました。中国の見本市はとにかく規模が大きく、「このブース設営には相当な金額がかかっているな」といった出展ブースが多かったです。まさにパワーゲームで勝っていく、といった様相でしたね。

――今後はアジア市場で戦っていくための準備が、より必要になってきそうだということですね。

青木 日本国内の家具の展示会は、私も視察したり、実際に出展もしたりしたことはあるのですが、一小間が3m×3mといった規模です。それで、一小間~三小間だけの出展企業も多く、内装も壁にシートを張ってといった簡易的なものも多いです。しかし中国の見本市では本当に規模が大きく、小間数でも約50小間などの規模も多く、「家を建てている」ほどの勢いなのです。これを展示会のために一日で建てて、四日間ほどの展示会のあとにはまた撤収するという、この規模と勢いには目を見張るものがあります。これは日本の企業には難しく、同じ土俵に立つのは難しいと思います。

――今述べていただいたような、日本の家具見本市と中国・東南アジアなど海外の家具見本市の差異について、なぜこのような違いが起こってきているか、青木代表はどのように捉えていらっしゃりますか。

青木 一つは、人件費の違いはあると思います。市場構造として、安いものは大量に売れ、高いものは数が絞られていきます。安いものを作るためには、人件費も安くないといけません。したがって、日本に比べて中国やベトナムのほうがその点では有利といえるでしょう。しかしそうはいっても、日本の企業でも中国国内での製造に移せば、コスト面では当然ですが有利になるとは思います。

見本市の差がつく要因については、これは完全な私見ではあるのですが、日本人は石橋を叩いて渡るという気持ちが少しだけ強いのかなと思います。特に家具業界でも、新しいことに取り組もうとしても、協力して手掛けていく人たちは少なく、「これはペイするのか、費用対効果はあるのか」と、尻込みしてしまったりもします。しかし、他の企業の製品が売れ出すと、同じようなことに取り組みだす、ということが往々にしてあります。

対照的に、中国の企業と取り組む際は、物事の進捗スピードが非常に速いのです。「これをやろう」と相手に提案すると、すぐさま工場に電話をし始めるなど、とにかく実行に移すスピードが速い。また、中国やマレーシアの方々のほうが「絶対に成功する」という気持ちと行動力、ハングリー精神が強いのかなとも思います。もしかしたらそのようなマインドやキャラクターの違いが展示会にも表れているのかもしれません。

また、中国はわかりやすいといえばわかりやすいのですが、「売れているものを参考にして、自社でも売り出す」ということについて、抵抗がなさそうです。売れているものを、労働力を活かして安く売っていくことを、迷わずためらわずに取り組んで稼いでいくということです。対照的に日本人は模倣する、参考にする(される)ことについてやや抵抗がありそうです。

――最後に、カヴァースジャパンとしての事業の今後の展望についてお聞かせください。

青木 イメージとしては、「よりおしゃれな商品を、高すぎない価格で販売していく」ことを目指しています。当社はネット通販を手掛けていますが、大きなECモールにはできるだけ頼らずに、自社サイトに自分たちでコンテンツを設け、自分たちで集客をしていくことを軸にしているので、価格競争になるべく陥いらずに、当社の扱っている商品を好んでいただけるようなお客様に、より注目していただけるようなサービスを展開していきたいと考えています。

――ありがとうございました。今後のオリジナル商品の展開拡大にも期待しています。

(聞き手 佐藤敬広)