【インタビュー2024】独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外展開支援部主幹 髙塚一 氏

――海外の展示会のジャパンパビリオンなど、多岐にわたって貿易の振興に取り組んでいらっしゃるジェトロさんですが、まず事業の概要を簡単に教えていただけますか。

髙塚 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)は、70カ所を超える海外事務所ならびに本部(東京)、大阪本部、アジア経済研究所および国内事務所をあわせ約50の国内拠点から成る国内外ネットワークをフルに活用し、対日投資の促進、農林水産物・食品の輸出や中堅・中小企業等の海外展開支援に機動的かつ効率的に取り組むとともに、調査や研究を通じ我が国企業活動や通商政策に貢献しています。インテリア、家具のみならず、幅広い分野の輸出振興などを手掛けており、国内外に幅広いネットワークを有しています。海外には2024年4月現在で55カ国に75の事務所を構えています。日本企業様のニーズ等に沿って、現地にて市場・産業動向に関する情報収集をしているほか、海外側のバイヤーのニーズを把握した上で、バイヤーと輸出したい日本企業様をマッチメイクするようなイベントも開催しています。

国内にも全都道府県にジェトロの事務所があります。例えば、家具メーカーさんが海外展開されたいといった場合には、家具メーカーさんが所在するジェトロの事務所でお話をお伺いした上で、海外の事務所に繋げることが可能です。海外だけに事務所を構えているのでは、やはり日本国内のニーズがなかなか掴めない可能性がありますので、国内・海外双方にネットワークを有しているのは、大きな強みではないかと考えています。

本年1月には、ジェトロ福岡が福岡県大川市で、大川インテリア振興センターと共催で「貿易実務/EPA 活用セミナー・個別相談会 in 大川」を開催しました。このように家具産地でも、貿易実務やEPA(経済連携協定)活用の流れの講演、個別の相談会を行っています。

――事業の柱はどのような点になるのでしょうか。

 ジェトロは、貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目指しています。現在重点を置くのは以下4点です。一つは対日直接投資や国際協業連携、スタートアップの海外展開支援、高度外国人材の活躍推進等を通じた、イノベーションの創出支援です。二点目は、日本の農林水産物・食品の輸出支援です。三つ目は、中堅・中小企業など日本企業の海外展開支援です。そして、四点目は、調査や研究を通じた、日本企業の活動や通商政策等への貢献です。私は海外展開支援部に所属し、三点目の、中堅・中小企業など日本企業の海外展開を支援しています。具体的には輸出と海外での拠点設立を支援させていただいています。情報提供や商談会支援、越境ECなどのデジタル化にも対応する支援なども行っています。

――新たな支援プログラムなども取り組まれているとお伺いしましたが、具体的な内容をお教えいただけますか。

 国内マーケットは今後の人口減少により、多くの分野で市場が収縮していくことが予想されます。一方、海外市場に目を向けますと、今後も拡大が予想されています。したがって、どの分野の企業であっても、海外市場展開への取組を検討する必要があるということになるかと思います

しかし、海外市場展開に踏み切れない、ハードルが高いとおっしゃる企業様がいらっしゃるのも間違いありません。このような中、新しく輸出を始める事業者さんを支援していこうということで、「新規輸出1万者プログラム」が2022年12月からスタートしました。輸出したい企業様がこのプログラムに登録いただきますと、原則として、3営業日以内にジェトロからご連絡をさせていただくことになっています。

例えば、北海道の企業様に登録していただきますと、ジェトロ北海道から原則として、3営業日以内にご連絡させていただきます。その際、現状のビジネスでどのようなことをされているのか、今後どのような商品・製品を、どの国に、どのような形で輸出したいのかいった点をヒアリングさせていただきます。そのうえで、それにできるだけ合ったサービスご提案をさせていただくということになります。

――「新規輸出1万者」ということですが、すでに海外に輸出をしている事業者は、登録できないのですか。

 いえ、そうではありません。例えばある企業様で、A商品はもう輸出しているのるだけどB商品を輸出したい、といったケースや、A商品をこれまで米国に輸出していたけれども、アジアにニーズがありそうなのでアジアにも輸出したい、といった形でも、それは「新規輸出」ということになります。したがって、既に輸出に取り組まれている事業者様にも、「新規輸出1万者支援プログラム」へのご登録をご検討いただければ幸いです。

――ビジネスマッチング商談のサポートについては、オンラインなどでも可能なのですか。

 リアルでも、オンラインでも可能です。まずリアルでは、海外の展示会にジェトロとして、ジャパンパビリオンを出展しています。中小企業の方々に出展していただきますと、リアルで海外企業と企業さんができるということになります。一方でオンラインでは「Japan Street(ジャパンストリート)」という取り組みも行っています。

例えば家具を輸出されたい場合に、家具の商品のデータなどをこちらのジャパンストリートというポータルにご登録いただきます。ジェトロは、日本の商品・製品を買いたいバイヤ―を海外で発掘しており、ご登録頂いたバイヤーは、このジャパンストリート上で、よい商品・製品を探します。バイヤーが買いたい商品・製品を見つけて引き合いがありましたら、ジェトロがこのバイヤーと日本企業様の商談アレンジを行います。ジャパンストリートには、バイヤーは約3,000人以上登録されています。

――様々な越境ECもあるなかで、ジャパンストリートの強みはどのような点になるのでしょうか。

 いろいろな越境ECの手段はあるとは思うのですが、このジャパンストリートの特長は、ジェトロが招待した海外バイヤー(海外に販路を持つ国内のバイヤーを含む)専用のオンラインカタログサイトであることです。すなわち、ジェトロが招待した3,000人を超えるバイヤーのみがサイトを閲覧できるのです。もう一つの特長は、ジェトロによる商談アレンジです。これまで海外ビジネスされたことない方にとっては、海外の企業さんから突然、英語のメールが届いただけで、困惑してしまう、という方もいらっしゃいます。ジェトロが商談アレンジを仲介しますので、安心してご登録いただけます。

例えば、海外バイヤーがジャパンストリート上に登録されている家具を見て、「この家具を買いたい」と思ったとします。その場合は、まずジェトロに連絡が入ります。そして、ジェトロから商品を登録した家具メーカーさんに商談への興味を確認し、双方のニーズが合えば、Zoomなどのオンラインツールで商談を設定するものです。また、1バイヤーあたり1回は、通訳も無料でご利用いただけます。

――海外のバイヤーの招聘にも力を入れているということですね。

 海外のバイヤーをリアルで日本に招聘するプログラムもあります。家具・インテリア、工芸品の世界などもそうかもしれませんが、成約を実現するには、その商品・製品が作られた背景・動機、作った方々の顔が見えるような「ストーリー」がとても重要かと思います。海外のバイヤーさんは、単に商品・製品の質やデザインもさることながら、ストーリーを大切にします。日本の商品・製品は比較的高い価格帯が多いですが、バイヤーが「ストーリー」を語れることで、その価値に見合った価格設定であることを現地の消費者にも納得していただけます。

そのためには、バイヤーが産地や企業を訪問して、実際に現場を見ることが、とても大事になります。

――国内の商社とのマッチングなども支援されているそうですね。

 商社さんが海外で売りたいと思うような製品を探していただくための、中小企業さんとのマッチングを支援しています。まずは国内商社さんとマッチングをして間接的ではありますが、商材を海外に出してみませんかというものです。

――海外の展示会にジャパンパビリオンに出展されているとお聞きしました。ジャパンパビリオンに出展するメリットは、どのような点がありますか。

 一概には言えないものの、中小企業の場合は、出展の費用負担について、単独で出展される場合に比べてお得になるケースがあります。また、大きな展示会ですとブースの出展場所によって、集客が難しい場合があります。ジャパンパビリオンは比較的目立つ場所に可能な限り構えていますので、そのような意味でも中小企業さんが単独で出展するよりも注目を集める可能性があります。

――新輸出大国コンソーシアムについても教えていただけますか。どのような活動を行っているのでしょうか。

 ジェトロの国内各事務所にコンシェルジュが在籍しています。「新輸出大国コンソーシアム」ハンズオン支援では、海外ビジネスの策定段階から、計画実行段階まです専門家が一気通貫でサポートするサービスです。産業は特に特定されていませんので、例えばインテリアや家具なども支援させていただけるということになります。支援にあたる専門家は、ジェトロが契約した専門家で、国・地域に強い専門家や、産業に強い専門家などです。

「新輸出大国コンソーシアム」にはスポット支援という支援メニューもあります。制度名前のとおり一時的に、専門分野におけるお悩みを、当該分野の専門家がアドバイスさせていただくというものです。例えば、海外で家具を作るため、拠点となる工場を作る場合、現地の法制度や税制、会計制度なども無料でアドバイスさせていただけます。この専門家には弁護士や公認会計士などの士業の方が多く、専門的なアドバイスを受けていただけます。

――多岐にわたりお話をいただきました。今後も輸出に関する様々な取り組みについて、業界と連携しながら進めていけますと幸いです。本日はありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)