【インタビュー/オルガテック東京2024】ケルンメッセ日本法人 代表取締役社長  髙木誠 氏

ーー今年もインタビューをお請けいただき、ありがとうございます。昨年のテーマは「Shift Design(シフトデザイン)」でした。今年のテーマを教えてください。

髙木 昨年から掲げたシフトデザインを今年も継続して参ります。「デザイン」はオルガテック東京を語るうえでコアとなるテーマです。ワークスペースの時間や空間、働きかたのデザインについて、五感をフルに活用して各々が感じて頂き、そして皆で新しいアイデアを共有して頂ける空間を提供する、そんな願いもこのテーマには含まれています。

デザインという言葉の定義は、皆様が就いていらっしゃる職業やこれまでの経験により、そのとらえ方や意味合いは異なっていると思います。ですが、良い「デザイン」を見て体感した時に生まれる感情やインスピレーション、ワクワク感は誰しもが持ち合わせています。会場でいかに刺激を受けてお帰りいただくか、これを念頭においています。トレンドフォーラムやセミナー、企画エリア、デザインアワードに加えて、夕方5時からの交流を目的とした「オルガテックナイト」を行うことも、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚を刺激するひと時になりますし、仕事も娯楽もある国内ではあまりなかった様式の展示会を実行しているのはまさにそんな理由もあるのです。

ーーオルガテックナイトといえば、出展ブースパーティも予定されているのでしょうか。

髙木 そうですね。昨年は東京ビッグサイトの西館を使用いたしましたので、アトリウムに参加者が集合される傾向が強かったですが、今年はホール内全体が時間を問わず、お客様をもてなす空間となります。ですので、飲食の提供についても、あえて時間の制限は設けてはおりません。もちろん、ステージでは様々な出し物が予定されていますので、こちらもご期待頂きたいです。

ーー今年は出展約160社と聞いております。規模も拡大していますね。

髙木 今回は会場が東京ビッグサイトの東館4・5・6を使用いたします。出展者数も増えていますが、これまでにご出展頂いていた企業様の各ブースも大幅に拡大傾向にあります。見ごたえも十分だと思いますが、滞在時間が長くなる分、休憩スペースの確保についても多くの要望を頂いておりました。スペースが許す限り休憩・商談コーナーは随所に設けていく予定です。中には仮眠もできる休憩スペースも会場内に設置予定です。

ーー日本ではオフィスで仮眠はなかなか抵抗があると思いますが、ヨーロッパでも働き方に変化は出ているのでしょうか。

髙木 ドイツをはじめとしたヨーロッパのオフィスは、チームや部署ごとに個室で構成されていて、せいぜい3,4人でゆったりと仕事をしているのが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て出社率が下がると無駄なスペースが生じたため、目的に合わせたスペース構成に変えているところが目立ってきています。各大陸や国ごとにあった短所があぶり出されて、お互いに学べる土壌が生まれたという実感がありますね。

ーー日本では今後どのようなオフィスづくりが展開されていくでしょうか。

髙木 日本の場合は大手企業のオフィスを中心にフリーアドレスが採用されて久しいですが、コロナ禍を境にリモートワークも一部ではかなり浸透したことから、逆にいかにして社員をオフィスに呼び寄せるかという議論も活発ですよね。ここ数年ウェルビーングをテーマとして取り上げていて、いかにオフィスの空間を快適にして社員を呼び戻すかということに関心が集まっています。ある意味、この辺は日本にマッチしたコンセプトだと思います。諸外国では、最も快適に仕事ができるのは自宅だと答える人が相当の割合でいると聞きます。

一方で、日本では居住スペースに限りがあり、まともに仕事ができる空間を確保できなかったり、部屋の構造上遮音が難しかったりハードルが高いというのが実情のようです。ヨーロッパではコロナを機に、少なくない人々が自宅をリフォームして仕事をできるスペースに改造したようです。彼らによれば、自宅で仕事ができるのは最高だ、自宅に勝るウェルビーングはないとのことで、オフィスに求めるものの第一位には上がっていません。

では、オフィスの役割はなにかというと、やはりオフィスでしかできないものを追求していくということになる。つまりより活発なコミュニケーションや、インスピレーションの共有です。情報はネット環境さえあればどこでも取得、共有ができますが、インスピレーションは場を共有することで生まれます。テーブルを共にしたり、一緒に食事をしたりという、空間や時間が必要なのです。その有機的な空間がいま求められていると思いますし、効率が低いと言われる日本のサービス業においても、まだまだ改善の余地があり楽観視できると思っています。

ーーその他、オルガテック東京での見どころはありますか。

髙木 今年からセミナーや講演は大方バイリンガル発信を心がけています。最新のAI翻訳技術を導入することで、例えば日本語のセッションであっても、参加者の言語に同時翻訳をし、各々の端末で読んだりあるいは読み上げ機能を使って、あたかも同時通訳のように利用することができます。
また、ドイツケルン発の「インターツム」もショーケースとして引き続き設けますが、年々展示スペースを拡大していますので、是非ご覧になって頂きたいですね。家具の半製品や、素材、テキスタイル等が展示され、海外からの出展参加も増えてきています。

ーー出展者や来場者の声などあれば教えてください。

髙木 エクスペリエンスエリアのような交流の場について好評をいただきました。また、会場のしつらえについても高い評価を頂けたと思っています。日本の展示会では、出展者が通路に出てビラ配りをしたり、リード取得のためだけにノベルティの配布をしているケースが良く見られますが、来場者視点では、あまりうれしいものではありませんよね。やはりじっくり時間をかけて、快適に過ごしてもらうことで、人間はいい意味での刺激を受けると思います。そのため、主催者としては出展者の方々には自社ブース内での活動を当初からお願いしております。結果として展示会の品位について大変評価を頂いたと思っています。

このような評価を受けてか、多くのリピーターの出展者様から、出展スペースの拡大をいただきました。時間をかけてじっくりと見て頂き、快適な空間で商談ができると思いますし、来場者の体験もこれまで以上のものになると確信しています。

ーー今年は海外からの来場動員も行っているのでしょうか。また、全体の来場目標についてもお聞かせください。

髙木 弊社の海外ネットワークを駆使して、重点的にマーケティング活動を行っています。また、3月にマレーシアで行われたMIFFにてブース出展を行い、オルガテック東京のPR活動を行いました。今回の来場者数の目標は3万名としています。海外からの動員もできるだけ増やしたいと思っています。ただし、初回の立ち上げ時から、数字だけが先行することに警戒感を持っています。あくまでも、コア層となる建築家やデザイナー、ディーラー、ディストリビューターを確実に動員したうえで、目的意識の高い参加者とそのクオリティを維持しながら、徐々に拡大を狙いたいと思っています。

ーー各業界から期待が寄せられていますが、運営としてその理由をどう分析しますか。

髙木 このようなイベントは、誰しも単体ではできないものです。私どもは方向性を示し、賛同いただける企業の皆さまと一緒になってより良いプラットフォームを築いていきたいと考えています。ご参加頂いている企業様におかれましても、皆でベクトルを同じくすることで生まれるエネルギーに共感して、リピートして頂いているところが多いと思います。

当然、各社には共有しえない情報もありますが、それ以上に、人間の有機的に交流することで生まれるインスピレーションのチカラを実感して頂いているのではないでしょうか。主催者サイドとしては、これがマンネリ化しないように、様々な施策を考案していきたいです。そういう意味でも、お気づきの点、改善点がありましたら、読者の皆様からもどしどしご意見を頂きたいと思っています。

ーーオルガテック東京は今後、どのような展望を持っているのでしょうか。

髙木 現段階ではあまり多くを語れませんが、オルガテック東京のコンセプトは定期的にアップデートしていきます。また、プロモーションを拡大させて、動員対象を少しずつ広げていきたいと考えています。それは数だけを意味するのではなく、今のお客様にとっても最大限のメリットとなるような新しい分野への拡張も意図しています。あくまでプロ、セミプロを対象としたプラットフォームを根幹に据え、オフィスデザインと家具を中心としながらも、その枠を超えていきたいと考えています。

ーー今後が益々楽しみになるような、様々なビジョンをお聞かせ頂きました。本日はありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)