【インタビュー2023】東京インテリア家具 会長 利根川弘衞 氏

当社の店は快適なお客様の住宅

 ――日本の家具販売店は構造的に厳しく、全国でその数を減らしてきました。島忠、大塚家具といった1960年代に躍進した大手は、ニトリ、ヤマダデンキに各々吸収されました。相乗効果も期待されましたが、業界の視点では国内家具メーカーにとり、大口の取引口座が減少した感じでちょっと寂しい状況です。

 利根川 ヤマダデンキさんは、やはり再来事業の家電が目立っていますね。あのようなお店、売る場の中では、なかなか家具は目立ちにくいのではないでしょうか。やはり「家電量販店」イメージが店頭でも主流で「家具屋」という業態展開まではいかないように思いますね。

 ――本題に入りますが、昨年1年を振り返って、市場やユーザーのニーズといったものは、コロナ禍初期の2020年と比べどのように変化したでしょうか。

 利根川 私は現場の最前線には立っていないのですが、当社の場合はコロナの影響、コロナに対してのお客様の来店頻度が落ちることは特にありませんでした。コロナ禍の影響で世間は大変だといっていましたが、当社の状況はさておき、逆に他社はどのような状態であったのかなと思っています。実際に数字に響いてくるようなコロナ禍の影響は、当社ではあまり受けませんでした。

 ――日日の生活行動や休日の生活行動も変わったなと感じる出来事がありました。自治体からの休業要請で、町場の飲食店が閉じ、いまは解除となっても、お店に再び来店するお客さんがくる店と、そうでない店があるそうです。戻った店も客層が少し変わったといいます。お客さんが暮らしを見つめ直してきているのか、テレワークなどによる家での生活に慣れてしまったのかもしれませんが。

 利根川 暮らしというものは、人間にとって一番大事なことなので、家の中をいかに快適な環境にするということは、お客様は真剣に考えていらっしゃると思います。家の中にいる時間が増えたこと、その時間が濃くなったことで、家の中の空間を充実させたいと思う状況が増えてきています。それは、我々にとってはプラスに動いているということでもあります。

 ――利根川会長も縁のある栃木県の鹿沼へ行き、商工会議所で建具業者へ事業再構築の話をしたことがあるのですが、そこで「あなたたちは建具を作っているのではない。暮らしを創っているんだ」と話しました。大手のハウスメーカーやゼネコンの下請けとなっている企業が多く、ホームユースを手掛ける所は少なくなっていました。

 利根川 建具系は、下請け商売が多かったのでしょうね。その影響もあってか、自分で開発し切り拓き、新たな生活産業を担っていくという発想をすることが難しかったのかもしれません。

 ――その点、東京インテリア家具は、大規模な幕張店を開設するなど、市場の開拓に努めてこられました。

 利根川 現在、金沢店のリニューアルを済ませましたが、これには最前線の現場の従業員が取り組んでいます。当社の店舗では、5年から10年の間に、必ず内装のリニューアルを行います。お客様にとって、常に「快適な」店でなければいけないと思うからです。いつも綺麗にし、快適な状態でお迎えする。

これは「住宅」の基本的な考えでもあります。住まいを大事にしようとする方は、家の中の掃除も行き届き、常に綺麗な状態にあるはずです。そして快適な生活をするのです。

 ですから「店は住宅」なのです。店は、お客様が快適な住生活を守り、そして楽しむことができるようにサポートし、そしてそのモデルをご提案する役割があります「住宅」と考えながら運営にあたることが、当社の店舗の在り方の基本だと考えています。

 ――提案、提供、サポートしていくということですか。しかし、ユーザーのニーズは多様になってきています。

 利根川 お客様に提案する場である「店」が、散らかっていて汚ければ、お客様は醒めてしまいます。当社の店舗では基本的に、まず広い敷地と店舗面積が特長です。そしてカフェを設けていますので、来店されたお客様にゆっくりと商品をご覧いただき、休息し、場合によってはお食事をとっていただける環境を整えています。家族で来店された場合は、家族同士できちんと相談することが必要になりますからね。家族それぞれの居室は、個々で思い思いの好きなものを揃えればよいのですが、家族全員が使う空間は、家族全員の思いを持ち寄って生活を整えないといけません。

となると、それぞれの思いを持ち寄って内容を整え、合意が必要になります。合意形成を図っていくことが、快適な暮らし、住空間を作り上げるということであると私は思います。そして、その合意形成を具現化するためには、時間と費用がかかります。

スーパーなどでの買い物とは異なり、大きな規模での買い物になるわけですから。従って、お客様に商品を見ながらしっかりと休んで食事をしていただきながら、快適な住空間を考えてその構築をサポートする。お店とはそのようなものであるべきだと考えています。

 ――最近は少子高齢化で、暮らし方を自分たちなりに展開しようという流れにもなってきています。

 利根川 例えば家族で来店なさったとき、親が「こうしよう、あれがいい」といっても、その子供は「いや、これの方がいい、今の時代はこれが流行だよ」などと意見を出すといったように、家族ひとりひとりが個性を主張する時代にもなってきています。昔のように「父親の考えが絶対」というものではなくなり、「家族の合意」というものが非常に大切になってきているのです。

当社が店舗にカフェを設けているのも、「家族がゆっくり、そしてきちんと話し合う場」が必要と考えているからです。その場を設けることで、少しでも家庭の空間を良くしていただけるようにするためです。

 例えば、午前中に来店していただいたとして、一生懸命に商品を見ていると、時間はあっという間にお昼を過ぎてしまいます。おそらく店内にカフェが無ければ、外の他の飲食店に食べに行かれるでしょうし、食べにいったその後に、また家具を見に戻るとしても、効率はあまりよくありません。従って、少しでもそのようなロスを無くすために店内のカフェを設けたおかげで、食事後にまたすぐに商品を見ていただき、場合によってはまたカフェでお茶をしていただくといったことができるようになっています。

 ――その考えは長年店舗運営をされてきた経験から発想を得られたものですか。

 利根川 経験値でもありますが、結局は「我々はなんのために商売をし、なんのためにこの店を開いているのか」に行きつきます。それを考えているうちに、お客様にとって「来店した目的を達せられ、そして喜んでいただける」店にしなければという結論になり、その結果が先ほど申したような内容となったのです。

コロナで閉鎖中ですが小さなお子様連れの方でも気軽に来店できるよう、キッズスペースも設けています。やはり「お客様にとってどうあるべきか」を真剣に考えながら、お客様の住居の在り方を提案しなければいけません。ですから「物売り」というよりも、生活の「ソフト面」を充実させていくことが、我々の基本的な考えであるわけです。

 ――金沢の店舗もリニューアルされました。それについても、出店してからある程度年月が経ったので、改装されたということですか。

 利根川 出店やリニューアルをしてから3年~5年が経つと、店に来ていただく家庭・ご家族も当然、年齢がその分だけ上がります。そうすると、家族の中における子ども、つまり若い世代の発言力や影響力が強くなってくるのです。ですから、我々のお店もある時期には必ずリニューアルをします。

3年に1回ほど、お客様のニーズにより応えるために商品の配置替えを行い、そして5年に1回は大きなリニューアルを行っています。他社との競争に目を向けるというよりも、「お客様を中心に据えた」店舗運営を心がけている結果です。

 ――それが商業の基本であり、原点でもありますね。ところで、公正取引委員会の一件は、その後どうでしょうか。

 利根川 その点はずっと社長に任せているのですが、はっきりはしていません。しかし、さほど大きな問題にはならず、収まっていくのではと思っています。

 ――業界において販売大手は、多かれ少なかれ公取のお世話にはなってきました。ですから、基本的に法的適合の商法を整備しておくことが必要だと教えられました。

 東京インテリア家具ではPB商品も導入がかなり進んでいるようですが、そのPB商品導入のためにはメーカーと一体となって作り上げていく必要がありますね。

 利根川 私どもは全国に店舗を展開していますが、「他社・他店と競合することで、お客様に迷惑をかけてはいけない」と常々伝えています。それもあって、メーカーと共同で独自のPB商品を開発し、価格設定を行って展開しているわけです。PB商品はお客様に「他社店舗ではこの値段だったから、値引きをしてほしい」といわれることが無いですから。私どもの価格設定、そしてオリジナルの商品ですから、比較のしようが無いわけです。

 ――話は変わりますが、我々の家具産業に欠かせないのが木材です。現在、この木材について、海外からの木材が合法であるかの証明を導入する動きが政府で進んでいると聞いています。しかし、ボルネオやアマゾンなど海外のどこの国から産出された木材でも、違法か合法かは、我々は掴みようがありません。流通業者もそれは同じですね。

 利根川 今はどこの国にしても、基本的に素材で輸出するのは付加価値がとれませんから、みな2次加工です。加工してから輸出をしないと、その国にとっての付加価値が取れません。しかし、今はどこのメーカーも、海外との取引関係が無ければ品物は作れません。

 ――国産材の使用を促進するために、様々な動きがあるようです。

 利根川 国産材はスギなどの針葉樹の世界ですよね。圧縮して、材を欧米並みのものにしようと取り組んでいるところもありますが、とにかくコストがかかりますし、そう簡単に取り組み始めることができるものでもありません。我々は暮らしを守る大事な産業なだけに、どうあるべきかを真剣に考えて、品揃えや政策を考えなければいけないのですが、様々な政策などへの対応に追われて大変な業界でもありますね。

 ――権益構造などが多くのところで起こって、官民で繋がってしまっているようです。そこを我々が交通整理をしながらいかに合法木材を入手し、使用していくか業界対応する必要があります。もちろん、行政の国際的法整備と合法木材産出、出荷体制が重要です。

 利根川 我々の業界は、新しい年を迎えるにしても、しっかりしていかなければいけませんね。いずれにしても家具業界は、お客様の住まいづくり、暮らしに対して本当に真剣に考えている人が、まだ少ないのではないでしょうか。いかに業界を活性化させて、若い方の要望に応えていけるかは、きちんと勉強していかないといけません。

 我々も、お客様の意見をきちんと吸収し、暮らしの役に立てるようにとは、常日頃から従業員に伝えています。もっと真剣に考え、暮らしの文化がいかに大事なものであるかを認識し、業界として役立てる存在にならないと、まずいのかなとも思います。

 ――私の知人が杉戸に住んでいるのですが、東京インテリア家具の杉戸店によく行くといっていました。杉戸の町ではご近所さん同士で話し合うような、社交の場というものがあまり無いそうなのです。そこで、東京インテリアの杉戸店に集まることが増えているようです。

 利根川 そのような場ができていることで、お客様にもとても喜んでいただいています。親戚の人が遊びに来ても「家で接待」ができないとなったとき、当社の店舗でゆっくり話しながら過ごしてくださるお客様もいらっしゃります。店舗にいらっしゃるお客様は、もちろん家具を買いにくるという思いもあるのでしょうが、それに加えて当社の店舗は「地域のコミュニティの場」としても成り立っているようですし、とてもありがたいことです。従って、新しく店舗を開設する際も、その点を十分に考慮しながら店舗づくりを進めています。

 時間のあるときに、ひとつの「憩いの場所」として、ゆっくり過ごしてくださる方もいらっしゃりますし、友人との集合場所、社交の場となっている面もありますから、そのような意味でも地域のお役に立てているのではないかと思っています。ビジネスというものは「物売り」だけではありません。狭い意味でのビジネスを考えるだけでは、「忘れ物」をたくさんしてしまいますから。

 ――改めて利根川さんの商売哲学を伺いました。店舗は住宅だという言葉は教えられます。また業界にとり、社会に貢献する新業態を祈念します。有難うございました。