【インタビュー2024】タンスのゲン 代表取締役 橋爪裕和 氏

メーカーから小売り、そしてネット通販へ

――創立60周年を迎えられましたことをお祝い申し上げます。早速ですが、現在のネット通販事業が主体となる以前の歴史についてお教えください。

橋爪 今から60年前にタンス・婚礼家具のメーカーとして私の祖父、橋爪健治が「九州工芸」を創業しました。当時は、大量生産、大量消費の時代で高額な商品が売れ続けましたが、時代の変化と共に婚礼家具はだんだん減少していきました。また、当時は手形取引が主流で、半年に及ぶ支払いサイトが重くのしかかり、回収できなかった事も度々ありました。これら二つの理由、つまりライフスタイルの変化と支払い条件の点から、弊社は1991年より製造業から小売業へ転換の道を歩み始めました。

その後、弊社は大川市と筑後市に約100坪の小売店舗をそれぞれオープン、家具の販売とオーダー家具の受注・取り付けを主体としてきました。しかし今度は、大規模店舗法の法改正により大型店の進出がはじまり、私たちの運営していた100坪規模のお店ではお客様のニーズを満たしきれなくなってきました。事態を受けて現会長の橋爪福寿は、他の道を模索する過程でネット通販に出会い、そのポテンシャルに目を付けたのです。そして2002年の7月15日、楽天市場にタンスのゲンの店舗を開設するに至ったのです。

振り返ればメーカーから実店舗での小売り、そしてネット通販へと業態転換してきたわけですが、各時代で起きた変化に対応してきて今の会社がある、と受けとめております。

――様々な試練を乗り越え、変化されてきたわけですが、ネット通販に特化しようと考えたのはどうしてですか。

橋爪 楽天市場店をオープンした初月の売上は二十万八千円でしたが、その次の月は百万円を超えました。そこから売り上げは右肩上がりに飛躍していきました。専業化したのは、オープンしてから約2年後のことです。

実はオープン当時は、ネット通販そのものがあまりエンドユーザーに信頼されていない時代でした。ちゃんとした製品が届くのだろうか、配送の過程で傷がつくのではないか、なにかあってもちゃんと対応してくれないのではないかという漠然とした不安が皆様の中にあったのだと思います。その中で、私たちのように実店舗を持つ会社がネット通販をしているというのは、信用、信頼の獲得に一役買っていたのだと分析しています。もともと家具を製造していたというメーカーとしての経験と、接客という小売りとしての経験があったことも活きたのでしょう。過去の知識・経験の蓄積をホームページ上の商品説明等に活かせた点が信用を獲得し、売り上げにつながったのではないかと思います。

また当時は、パソコンも今ほど普及していませんでしたので、ネット通販をやられていた競合他社様もあまりいなかったのも、その分野への専業化を後押ししました。

資源の選択と集中、そして競合がその時点では少なかったという環境から、ネット通販を開始してから2年後には、専業に舵を切りました。

――即日出荷体制の強化が度々行われたようですが、そこに注力された理由を教えてください。

橋爪 世の中のニーズの変化が背景にあります。Amazonが日本に進出して以来、消費者層の間で「都心エリアでは遅くとも明日には届くものだ」という感覚がスタンダードなものとして定着しましたね。弊社もこれに対応すべく、運送会社と手を組み、配送品質の向上に乗り出しました。例えば売れ筋商品の在庫の確保や、正午までのご注文で当日出荷に対応できるよう社内整備をする、といった取り組みです。また当時、ご注文の約7割は関東圏から頂いていましたので、関東に新たに拠点を設けて配送体制も強化しました。

――コロナを通じて、ECの利用は一層進みましたが、現在のお客様の傾向やニーズについてお教えください。

橋爪 全体傾向としては、SNSの普及により様々な情報を取得しやすくなり、これにより個人の趣味嗜好がはっきり分かれてきたと感じます。また、人々の興味も広がりやすい傾向にあります。そのためアンテナを張り、取り扱いカテゴリを積極的に拡大していっています。そのように常にトレンドを観測し、新商品、サービスをご提供していく必要があると感じています。

――エンドユーザーの皆様は、家具・寝具をECで買うことのメリット、デメリットをどうとらえているとお考えですか。また今後ECでの購買動向はどうなると分析されますか。

橋爪 日本のEC化率は全体で9%程度ですが、家具インテリアは30%近いと言われています。EC業界とインテリア業界は親和性が高いのです。その要因は、家具や寝具がかさばりやすく、直接持って帰りにくいことが挙げられるでしょう。近年は消費者の皆様がネット通販に慣れてきました。また、人々にコストの意識が芽生えており、家具や寝具を見に行く時間もある種のコストとして捉えられているのかもしれません。そういった意識がある方にはネット通販はベストな選択となってきているのです。デメリットとしては直接見て触れない、座り心地、寝心地を実感できない点でしょう。この点をカバーするために動画の活用やライブコマースの導入を強化したいと思っています。

――ライブコマースは海外で進んでいるイメージですが、効果としてはどうですか。

橋爪 はい、中国はライブコマースが進んでおり、彼らはこれをうまく活用しています。同国マーケットでは、実に半数近くがライブコマース経由での購入です。「誰から買うか」が重要視されているといるのだと我々は分析します。例えば、「この人がいうなら間違いない」といった感覚です。ただ、(ライブコマースは)効果的な製品カテゴリとそうでないカテゴリに分かれています。食料品や化粧品と異なり、我々の扱う家具インテリアは、誰かにおすすめされたからといってすぐに買えるものでもありません。例えばベッドにせよ、既存のベッドの処分をどうしようといった悩みがついてまわりますから。ただ、ライブコマースを活かして当社のファン化を進めるなどコミュニケーションツールの一環として活用することはできると考えています。

2040年までに売上高1000億円へ

――中国を中心に海外事業も展開されていますが、どのような点を海外で学び国内に生かせそうですか。

橋爪 中国と日本ではマーケットも考え方も、そして国民性も異なります。中国に出店した当初は日本のやり方をそのまま持って行ったのですが、結果は芳しくありませんでした。そのため改めてマーケットを調べなおし、中国でのやり方を少しずつ確立していきました。「どういう会社から、そして誰から買うのか」というブランディングは大切ですので、社内のどういった人が開発した商品だ、という紹介を行うようにしています。

――60周年を迎え、今後御社が掲げる目標、そしてそれに向けてどう取り組んでいるのか教えてください。

橋爪 2040年までに1000億円達成という目標を掲げています。そのために既存事業の拡大は必要ですが、日本のマーケットは人口減少により縮小も懸念されますので、追加的な事業も必要でしょう。現時点では、その1つが海外展開です。中国はすでに軌道に乗っており、去年からアメリカでもネット通販をスタートしました。今後は東南アジア、ヨーロッパにも進出したいと思っています。

また今まで、BtoCでやって参りましたが、BtoBも視野に入れたいと思っています。専門人材を幅広く採用し、新規事業にチャレンジしていきたいと思っています。

――攻めの姿勢を堅持し、売り上げ拡大に向かわれるということですね。橋爪社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)