【インタビュー2024】ウィドゥ・スタイル 代表取締役社長 丹治朋之 氏 大阪・関西万博に出展、ストーリー性と高機能性をもたせた製品開発の充実へ

――旧、「大塚家具製造販売」から「ウィドゥ・スタイル」へと社名を変更されて約7年が経ちましたが、まずは改めて、ウィドゥ・スタイルとしての強みなどをお教えいただけますか。

丹治 当社の特徴としては、アイテムの品揃えが豊富なことが訴求ポイントとして挙げられます。マットレスからダイニングセット、ソファや鏡台など、様々な製品開発を手掛けているので、取引先様に対してワンストップでのご提供が可能です。お蔭様で多くの取引先様と取引を継続させていただいておりますし、今後も品揃えの豊富さをベースに、当社ならではの空間全体や住環境全体での提案ができればと考えています。

――製造の拠点はアジア各国に設けられています。地政学リスクなどもあるとは思いますが、この点についてはいかがお考えでしょうか。

丹治 製造拠点のメインは中国で、その他の国ではタイ、ベトナム、インドネシアなどで製造しています。海外での製造については、例えば地政学的なリスクが顕在化した際において、経済よりも政治が優先になってしまいますし、サプライチェーンが寸断されるなど、ビジネスへの影響は甚大なものになります。当社としてはそのようなカントリーリスクに備えて製造国を分散しています。

また、当社は海外工場との信頼関係を大切にしています。当社は長きにわたり、中国企業の工場をはじめ、海外工場への品質管理指導を行う中で、取引工場との信頼関係を構築していくとともに、品質向上を目指してまいりました。この点は今後も変わることなく重視していく所存です。一方で、各国の政治・経済状況は注視しながら、様々な製造技術を持つ海外の企業の探索は怠りません。

――昨年の7月にウィドゥ・スタイルの代表取締役社長に就任されましたね。

丹治 私はもともと、家具インテリア業界一筋といった経歴ではなく、金融、観光関連、ソフトウェアといった業界、そして食品関係や工作機械などの製造業など、幅広い業界に携わってきました。当社には2016年から3年ほど関わっていたのですが、家具に関する経験値はまだ多くはないのです。今回は前社長の井上秀逸現会長の事業承継といった立ち位置で就任させていただいたというのが経緯です。

――多くの業界を経験されたことから、広い視野を持たれた経営を行われるのではないかという印象を受けます。これまでのご経験をこの家具インテリア業界でどのように活かしていけるとお考えですか。また、社長就任後に特に注力されている点について、どのような要素が挙げられるでしょうか。

丹治 経営に近い立場で多くの業界に携わってきましたので、やはりそこで得たものは多かったと思っています。家具インテリア業界のなかでも、その面では異色ではないでしょうか。

これまでの経験で得た知見としては、業界に関わらず共通的な“強い”企業というものは、やはり“人材が強い”ということです。したがって、当社でもまずは内部的な改革を優先的に取り組んでいます。結局のところ、どのような業界・企業においても必ず“課題”はありますし、反対に“可能性”もあります。それは成長業界であろうが、成熟業界であろうが変わりません。

そのような意味で、昨今“自律型組織”や“学習する組織”といった言葉がありますが、やはりそのような課題とか可能性というものについて、社員が環境変化を柔軟に読み取り、主体的にソリューションを実行し、やりきることができる組織風土を作り上げることを目指しています。

――具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

丹治 主に3つの要素を意識して取り組んでいます。一点目は、いわゆる次世代の社員を中心に、インプット(情報・体験)を増やすこと。他部門との連携を強化したり、異業種などの外部の方とのコミュニケーション、ネットワークを増やす。そして現場を見るということですね。外へ出て行動量を増やし、様々な体験をする、情報収集も含めてインプットをどんどんと増やしていく。そうすると、それが発想や思考の枠を広げて、新たなアイデアや可能性に繋がるということです。

二点目は、社員のアウトプット(意見・参画)の強化です。一段上の目線を意識してもらい、社員の意見を促し、経営や事業に積極的に参画してもらえるような職場環境作りです。“フラットな組織を目指す”ということになりますが、これは必ずしも“職階をフラットにする”ということではなく、心理的安全性も含め、自身の考えていることが言いやすい職場環境作りです。私自身も社員とのコミュニケーションの場を増やすことを意識していますし、定例会議などにより、次世代リーダーを中心に各自がそれぞれの意見をしっかりと発言し行動していけることを目指して取り組んでいます。

三点目は、データの活用、ファクトベースでの組織経営です。私見ですが、家具インテリア業界は、過去の業界の成長プロセスにおいて、それを牽引してきた企業や人々のリーダシップ、実行力、経験値、感性というものが大きかったのではないかと考えています。この点は今でも重要な要素であることに変わりませんが、一方で業界の潮目が変わる中では、過去からの業界慣習や経験則から一歩離れて、客観的にデータで経営する必要性も感じています。

当社は今年、基幹システムを刷新する予定であり、他のDX系ツール導入も併せて、データベース活用の環境整備を進めています。この取り組みは当然、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の側面もありますが、ファクトベースでの経営を根づかせるといった要素も大きいです。

――大きく3点に取り組まれているということですが、どれぐらいの時間をかければ、組織は変わっていくのでしょうか。

丹治 これは明確なゴールがあるわけではなく、また長期間を要しますので、愚直にやり続けるしかないのです。その意味でも始めるのは早い方が良いですので、代表に就任してから最優先で継続して取り組んでいます。これらの取り組みを通じて、知見や経験値を持つベテラン社員と次世代社員で良い”化学反応“が起きてほしいと願っていますし、組織が強くなることを望んでいます。

――取り組みを継続されているなか、社内の意識の変化などは感じていらっしゃりますか。

丹治 私は、徐々に成果は表れてきていると感じています。社内での部門間のコミュニケーションは増加しており、特に次世代リーダーの目線は変わってきていると実感しています。
チャレンジングな業務を行う中で経験値も上がってきていると思いますので、ステップバイステップで進めていければと考えています。

――社員の方々の目線が変わってこられたということですが、具体的にどのような変化があったのでしょうか。

丹治 会社全体の視点での発想や、更には業界全体での物の見方が増え、そして今後このようにしていくべき、といった意見について、社員の考え方が明確になってきました。そのような発想に基づいての発言が増えています。自分の担当や領域を中心とした目線から、少しずつですが、経営層が考えるような目線や考え方というのが、会話を通じて見えてくるようになりつつあります。次世代リーダーが中心となってそのような目線へと変わっていくと、やはり会社全体にも浸透していきます。したがって、今後も継続していきたいと考えています。

――販路などの戦略についてお聞かせいただけますか。

丹治 家具インテリア業界は高度経済成長期に端を発して先人たちが牽引され、多くのユーザーの皆さんにより良い住環境を提供しながら成長してきました。しかしこれからの日本は人口減少に伴ってマーケットも縮小していきます。マーケットが縮小していく中で、シェアの奪い合い、そして一部再編が進んできている状況です。業界としては今後自然発生的にマーケットが増えることはないため、今は業界全体の次の成長に向けた取り組みにおいて、非常に重要な局面だと考えています。

――どのような力が今後求められることになるでしょうか。

丹治 自らの力でマーケットを作り出していくことが必要ではないでしょうか。業界全体でも、企業としてもその努力を重ねていくことが不可欠だと認識しています。その中で当社がどのような形で今後の成長を思い描いているかというと、大きく“2軸”で考えています。

一つ目の軸ですが、当社は多くの取引先様に支えていただいています。このことについて常に感謝の気持ちを持ち続け、さらに良い品質・デザインの商品、新たな機能も含めて取引先様に提案していくことを積み重ねながら、取引先様と共に成長していくことです。当社として、この点はコア事業であり、今後も最優先で磨きをかけていきたいと考えています。

もう一つは、我々にとっての“チャレンジ”の領域を攻めていくことです。この“チャレンジ”も2つの方向性があります。一点目の方向性は、機能的な付加価値を有する製品開発の推進です。業界として足元では、電動ベッドのマーケットが拡大しています。元々は介護・医療を中心とした商品だったものが、実は一般ユーザーの方にもニーズがあったということ。潜在的なマーケットに訴求できるような製品開発は新たなマーケット開拓という面で知恵が求められる領域です。

当社は元々、大塚製薬を中心とする大塚グループの一員だったこともあり、機能性商品の研究開発という面で親和性のあるDNAを持っています。過去に開発した製品でも、異業種を含めた他社との共同開発品やコラボ商品を製品化してきました。

現在も複数の企業様と一緒に、コラボ商品の開発を進めています。若い世代の方々のライフスタイルや価値観も変化しつつあるなかで、機能面でユーザーの方々の心を惹きつけられるような商品開発を進めるには、当社単独ではなかなか難しい面もあります。したがって、他社と連携してアイデアなどをブレンドしながら、新たな機能性をもたせた商品開発を推進していく所存です。

――潜在的なマーケットの掘り起こしに注力されているということですね。もう一点の“チャレンジ”は、どのような取り組みに注力されるのでしょうか。

丹治 二点目の方向性は、海外をマーケットとして見ていくということです。当社では海外での販売ということで、2017年に“JAPANITURE”というブランドを立ち上げて家具の海外輸出を手掛けてきました。コロナ禍で足踏みした状態が続きましたが、もう一度このブランドを強化し、海外販売を加速させていきたいと考えています。個人的な感触ですが、日本に対する認知度やブランドイメージは全般的に、海外の方からも高まってきていると感じています。日本の良さが理解されてきて、日本のファンが海外の方々でも増えてきています。したがって家具の領域でも日本文化の象徴などを活かしたブランドとして海外に訴求していくことができれば、面白いのではないかと考えています。そういった意味でも“JAPANITURE”ブランドの展開をより拡大していきたいですね。

――海外展開は、具体的にはまずどのエリアへの展開をお考えですか。

丹治 まずはアジア市場です。やはり身近なアジアを一つのターゲットにしたいと考えています。東南アジアを中心に経済発展や個人の所得向上も見込まれますし、距離的にも近いですので。一企業としての努力は当然ですが、製販卸の家具インテリア業界が一体となって、海外で日本家具のブランドを高めていくプロモーションを行い、海外マーケットを増やしていければ面白いと思います。

――今後のブランディングなど、展望をお聞かせいただけますか。

丹治 ストーリー性のある製品展開を充実させていきたいと考えています。当社は2025年の大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに出展します。これまでにもコラボ商品を手掛けてきている積水成型工業様と共同で展示を行い、「和で創る健康寿命・間」をテーマに日本の木材を採り入れた「KOAGARI(こあがり)」と高機能の畳製品「MIGUSA」を用いた空間を提案します。万博のような場で、“日本らしさ”というものを、ストーリーをもって海外の方々にお伝えし、そして展開していきたいと考えています。

ブランディングについては、我々のブランドネームの認知度がさらに上がれば、取引店様経由でご購入いただけるケースも増えますので、この認知度の拡大はとても重要です。当社はまだ旧称の「大塚家具製造販売」の“大塚”のイメージが強く、新しい名前のウィドゥ・スタイルの知名度はまだまだこれからといったところです。機能性をもたせた商品開発、ストーリー性のある打ち出し方でブランディングしていきたいと考えており、まだまだ伸びしろはあると捉えています。

――お忙しいなか、社長就任後に取り組まれている重点事項や、今後の展望を語っていただきました。ありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)