デザインに求められる「テーマ性」と「ストーリー性」
――今年も、9月に開催されるリビング&デザインにおいて、家具デザインコンペの審査員を務められました。また、9月6日の14時より催される特別講演「建築というきっかけ」でもお話をされるということですが、その概要を教えていただけますか。
永山 基本的には、自身の仕事を通して、特に住宅だけにとどまらずにお話しをさせていただく予定です。住宅関係以外に手掛けている仕事も多く、大阪万博のプロジェクトなどにも関わっているので、そのような内容もお話ししたいと考えています。
来場者の方はおそらく、マテリアル系に興味をもっていらっしゃる方が多く来られるのだと思いますが、私自身、様々なプロジェクトで色々なマテリアルを使っているので、その点にフォーカスしたお話もできればと思っています。プロの方むけの目線での、濃い内容の話もあると良いかなと思っています。建築に限らずインテリア関係の方も多く来場されると思いますので、是非興味をもっていただければと思います。
――今回のデザインコンペは、169件の応募がありました。昨年と比べての、応募作の傾向の変化などの感想はいかがでしょうか。
永山 全体的に完成度が高く、このままプロダクトとして商品化がすぐできそうな作品が多くありました。また、コンピューターグラフィックス(CG)での表現力が上がっていた印象を受けました。CGでの応募から、実際に1分の1スケールで実物を作られている方まで、様々な応募がありましたね。「これを実際に作ることができるのだろうか」といったものもありました。
――実物を作ることが難しいのではないか、という応募作品は、応募全体の中でその比率も高くなってきていますか。
永山 私としては、毎年その比率は高くなってきているように感じます。受賞作品は9月6日に発表されますが、その受賞作の中にもいくつかそのような応募作がありました。したがって、それを実際に製作するとどのようなものに仕上がるのかについては、私自身も非常に興味があります。
もちろん、チェアであれば「きちんと座ることができる」ことが大切であり、座り心地が悪ければ用をなさないので、私の審査の観点としてはもちろんそのような「基本的」な要素をクリアしていることが前提です。そのうえで、「フォルムが美しい」「素材の使い方に発見がある」「ディティールがとても細やか」などの要素を大切にしています。
家具のデザインというものは、長年の積み重ねである意味出尽くしている分野でもありますし、例えば椅子であれば「座る」となると、ある程度は決まった形になります。したがって、応募者のみなさんもある程度、いろいろなデザインを試された上で、「ではどうするか」ということで、例えば材料にこだわった方や、サステナブルに関係したテーマを設定して応募された方などもいらっしゃりました。これからはそのような「テーマ性」や「ストーリー性」が、特に大切になってくると思います。
「伝統工芸とデザイン」で日本らしさを前面に
――どのような材料を使用しているか、どのようなことに意識を向けて製作しているかは、デザインコンペに限らず、ユーザーに向けて販売する家具においても重要となる要素ですね。建築家の視点から、これからの家具インテリアに求められる要素などについてお伺いできますか。
永山 私自身は家具について「空間の中にどう馴染むか」ということを意識しています。シチュエーションにもよるのですが、場を支配するような存在感ある家具というのも、場所によっては必要とされます。そのようなインパクトを求めるオーダーがあった場合は、デザイン性の強い家具をデザインしますし、スタンダードな空間を設計しているなかでは、どのように場所に馴染み、その場所のスケールと合っているかや、可変性をもって使うことができるなどを意識しています。
――この7月には、インテリアズから永山さんがデザインされた「Pソファ」がリリースされました。
永山 インテリアズさんには以前から、設計空間の中に配置する家具のセレクトなどを手掛けていただいていました。「Pソファ」は、私が設計している建物の中に「このような家具があればいいな」という思いから、そこにぴたりとはまるようなシチュエーション・スケールのもとデザインしたものです。私自身、個々のプロジェクトなどで使用する家具について、これまでもテーブル・スツールなどのデザインを手掛けてきましたが、単体で販売するための製品デザインは、「Pソファ」が初となります。
――今後も家具をデザインする上で、心がけ、こだわりたい面はありますか。
永山 先日、松坂屋さんのVIPサロンの設計をさせていただきまして、その空間にも多くの家具を配置したのですが、そこを利用されるお客様は「この家具はどこのメーカーのだろう、欲しい」といったように、サロンがショールームのような機能を持つようです。私がデザインした「Pソファ」は、家具としてディティールにもこだわりながら、どちらかといえば主張を持つよりも「場所に合わせた」ものであり、そのようなアイテムにも興味を持ってくださる方はいらっしゃります。一方で、難しい曲線を描きながら作られた、「クラフトマンシップが発揮されている」家具も、お客様の心をつかみやすいものなのだと思っています。
私自身は、その両面をとても大切にしながらデザインしたいと考えています。クラフトマンシップがどれだけ発揮されているかという点は、見る人から見ればとても分かるものなのです。イタリアの家具などは、革のクラフトがとても細やかですし、日本では木材を扱う技術がとても高く、触れた時の手触りなどに独特のやわらかさがあります。それぞれの国で、木の扱い方に違いが見られますから、扱う材料によってその国の文化的な背景が見えてくるのが、とても面白い要素ですね。
――海外からは「日本のデザイン」というものはどのように捉えられているのでしょうか。
永山 例えば建築では、日本人特有の傾向があるようで「日本人らしい建築だ」といわれています。日本では、国内建築の系譜が、戦後から脈々と作られてきているので、「日本の住空間から得た、中と外の曖昧な空間」「フレキシブルなインテリア構成」といったところが、海外の方にとって建築で「日本らしさ」を感じる要素になっているのでしょう。
家具に関しては、海外と使っている素材は同じであっても、国内のメーカーでは海外メーカーと表現が変わってくるのだろうと思っていて、伝統工芸的な技術や、木の扱いが日本はやはり独特のものがあると思います。国産材ですと、日本の木はやわらかいですので、それだけでも風合いが海外とは異なります。チェアなどでも、木地・曲線の扱い方などが柔らかく、とても素晴らしい製品がありますからね。デザイナーもそれらの良さを感じながらデザインしていると思います。
――最後に、日本のインテリアの発展にむけて、どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。
永山 家具コンペの内容でも触れましたが、これからの時代は、サステナブルな背景というものが非常に重要になってくると考えています。工場の廃棄物が少ないといったことや、それをどのように処理しているかなどです。リユース・リサイクルをどの程度まで意識しながら作られたかといった観点や、作っている現場の環境についても、もしかするとこの家具コンペでもよりサステナブルを意識している企業が選ばれるようになるでしょう。
日本のインテリアについてですが、昨今は日本の工芸が衰退しているといわれています。しかし時折、工芸の作家さんなどとお話をさせていただくと、脈々と続いている伝統をきちんと守りつつ、新しいエッセンスも採り入れながら伝統技術を活かして細やかな手仕事で製作されているので、これをどうにか守っていきたいという思いに駆られます。
例えば、京都の西陣織が、新しい車やホテルの内装に使わるといったケースは増えています。これからの時代は、日本が海外へ輸出できるものとして「デザイン」というものが非常に大切になってくると考えています。伝統工芸の中にある特有の技術とデザインを上手く融合して表現できると、海外にも「日本の唯一無二のもの」として押し出していけるのではないでしょうか。
(聞き手 佐藤敬広)