【LIVING&DESIGN2023 特別インタビュー】プロダクトデザイナー/LIVING&DESIGN総合プロデューサー 喜多俊之 氏

日本の暮らし産業と未来を語る

 ――リビング&デザインとギフトショーのイベントとして、セミナーやコンペが企画されています。まずは総合プロデューサ―でもある喜多さんに、そのあたりのコンセプトをお話しいただき、本展の意義を広く知っていただくためインタビューを行うことにしました。
 まず、講演セミナーで〈暮らし産業 未来〉というタイトルで喜多さん自らお話することになっています。その内容はどのような点にポイントを置かれているのか、お聞かせください。
 喜多 まず講演のタイトルですが、今、欧米をはじめとした諸外国、特にアジアにおいて、ここ数十年の間、暮らしの復興がとても注目されてきました。素敵な暮らしを創造してゆくこと、さらにライフスタイルへの関心を深めて取り組む。そうした基本的な理由があるとともに、人とのコミュニケーションが増すということがあります。大切なことは、それによる産業経済の発展と業界の活性化があります。
 自宅で家族以外の人たちとコミュニケーションできるチャンスがある。かつて日本もそうでした。第二次世界大戦を境に、自宅に人を呼ぶことが減り、日本独特の減少になってきました。
 受験地獄と言われる時代がありましたけれど、結局、家に人が来ないということは家が家族だけの住まいになり、自分たちの暮らしで用が足りればいいということになります。実はそうではなく、家に人が訪れることで、掃除や片付けが行き届き、快適な雰囲気や楽しいインテリアをしつらえることで、人生が豊かになり、産業経済が発展する。多くの国々では、暮らしの専門メディアが存在して大いに人気があります。
 そういう面で、アジア諸国は今、量質共に大きく発展していて、そして自分たちの感性を磨こうというような飛躍が始まっている。自分たちのセンスや暮らしの質を磨いていく。
 最近、外国の方から「日本では、人を自宅にあまり呼ばないみたいですね」と何人かの方が言われていました。住まいというのは素敵な人生、素敵な暮らしと共に、それを背景にして経済産業の成長に貢献しています。

 ――喜多さんは人を家に呼ぶことの大切さを長く伝えてこられました。
 喜多 以前のように、家具の主なマーケットである自宅をもっと活用し、家族以外の人とのコミュニケーションの場ができるようにする。戦後、ドイツやイタリアでは既に、1960年代に住まいや暮らしを戦前並みに復興しました。ドイツやイタリアのミラノで開かれる家具の国際見本市の盛況は、それらの土壌の上に成り立っている。正に暮らしの産業があっての国際見本市として定着しています。その他にも主婦を対象としたインテリアの雑誌があり、一般の多くの主婦たちは自分の家を素敵にしてきたのです。それらは、それぞれの家庭の経済範囲のなかで培ってきたもので、結果の一つであり、今のミラノ・サローネというものも存在しているのですね。

 ――それぞれの家庭で、人を招き入れるために、部屋を独自のセンスでまとめているということですね。
 喜多 そういった素敵な暮らしを目標にする。近年、アジア諸国の人達はそれに気づき、法律を策定したり、業界が動いた。ですから、今では、60年代のドイツやイタリアの様子に似て、家具、インテリアを中心に主婦や一般の人が、良いものに関心を持ち始めています。アジアのインテリア、家具の国際家具見本市に行くと、ミラノ・サローネと変わらない内容になってきている。

コミュニケーションのある住まい空間へ

 ――日本がそのあたりをレベルアップさせていくためには、どのようなことが必要でしょうか。
 喜多 まずは素敵な暮らしを目標に、業界全体が動かないといけない。以前は、経済はともかく、家に来客があって、サロンになっていたのが普通の暮らしだった。戦後は大都市が戦争で焼け野原になって、復興する迄、ずいぶん時間がかかっています。とにかく家の中は寝泊りだけでいいというのでは、素敵な家具も行き場がない。

 ――今、一般的な家庭ではマンションを買おうということになると、だいたい平均70平米〜80平米くらいを買う人が多いと思うのですが、おもてなしを彩るような場は作れるものでしょうか。
 喜多 リノベーションも含めて、狭小住宅でも充分に素敵なインテリア空間が作れます。パリやミラノでも50㎡や70㎡と広くない住まいを見事に素敵な空間をつくられている。人をもてなす主婦の方達が夢を大切にしていることが分かります。ちなみに現在、シンガポールでは120平米、中国は100~120平米、韓国は100平米以上と云われています。この30年程でアジアは暮らしに力を入れる国が増えました。それは何かといったら、必然的に経済産業の発展の土台であるということがベースにあります。

 ――できれば100平米くらいあったほうがよいと。
 喜多 正確には言えませんが、新しいアパートなどの目標としては現在、そういう方向ですね。

2023年2月のLIVING&DESIGN会場より

 ――喜多さんは、日本の現状からみて、まず改良することで素敵な暮らしを取り戻すことも大切だと言われています。リノベッタというプロジェクトを推進されていて、そのあたりについてもお話していただけますか。
 喜多 既存のアパートや住宅を素敵にリノベーションできないかということで十数年程前に立ち上げました。家族が生活する空間の見直しを始め、建具や家具なども替えるなど、諸外国のように家が外との交流の場にならないかと。
 長年、ヨーロッパに住んでみて、当時、ミラノで受験生を抱えた家にも呼ばれましたが、それはそれで、小さいけれど受験勉強の場所を確保しながら人を呼んでいましたね。受験生がいるから人を呼べない、ということは言われなかった。一番大事なのは人との交流。家族も含めて楽しい暮らしの環境づくりは人生の大切なものとして捉えていました。

 ――受験生がいる家庭でも、人を招けるような、そうした提案もリノベッタということですね。
 喜多 ドイツ・イタリアがすでに1960年代にやったことですが、日本も遅まきながら取り組んでいきたい。そろそろ本来の住まいのあり方に戻さないと、間に合わなくなりつつあります。家に人が来られたらどうしたらいいかわからない、というのではなく、いつ、誰が来てもいいようにするということは大変ですが、常に世界の流れのようです。
 1970年頃、私のイタリア暮らしが始まり、日本も10年経ったらこういう暮らしになるのかと思っていたのですが、リノベーションするという一つの策として今必要かなと思い、「リノベッタ」を立ち上げました。

 ――今回のリビング&デザインでも人をおもてなしできるような空間づくりということが、テーマとして展示会で行われるんですね。
 喜多 その方向で、展示計画しています。大きなテーマとして、これからの日本の大きな成長産業となる可能性があると思います。欧米やアジア並みに日本でも家を少し工夫して、普通に社交の場として使えれば、これは大きな産業として発展が期待できそうです。特に家具業界は主役です。

 ――前の質問に戻りますが特別セミナー〈暮らし産業 未来〉なのですが、特にどのような方に聞いてほしいと喜多さんは思っていますか。
 喜多 やはりインテリア家具業界、それから家庭用品、暮らしに関わる産業の方なら誰方でも参加していただきたいと思っています。

デザインコンペ、ハイレベルな作品が集結

 ――次に「木材を使った家具のデザインコンペ2023」について伺いたいと思います。前回は素敵な作品がありました。今回はどのような作品が評価されるのか、その点を教えていただけますか。
 喜多 主催者側としてはこれからの暮らし、インテリアや家具産業を考え、機能性からの製品デザイン。デザインコンペである以上、オリジナルを求めています。審査を終え、今年もなかなか素敵なものが出てきていました。楽しみです。

 ――出展される方というのは若い方が多いのでしょうか、それとも老若男女問わずでしょうか。
 喜多 男女問わず、若い人を始め、幅広い年代の方に応募いただいたようです。どの作品も力の入ったもので、主催者側が希望しているものに応えてくれている感じです。日本の次なるパワーとなる人たちが、世界に目を向けつつ、日本のマーケットを見ながら発展してくれると、コンペの目標の一つが達成できると思います。

 ――デザインコンペは多数の応募があるのでしょうか。
 喜多 多いですね。そして、やるぞ、というメッセージが込められた作品が多く、審査員一同、感心しました。

 ――世界的なレベルのものが集まったということですね。
 喜多 世界レベルになってきました。どこへ持っていっても恥ずかしくないようなものになりつつあります。

2月のLIVING&DESIGNで公開された、前回家具コンペの受賞作

 ――過去の受賞作もありますが、そういうものが世の中に出て販売されるというケースもあるのでしょうか。
 喜多 本来はやって欲しいんです。外国のメディアからの取材にも応えて、広く世界に向けて発表するということも大切です。応募者の希望に添えるように、と考えています。家具は国際マーケットも重要です。

 ――デザインコンペでは木材を使った家具が集まったと思うのですが、これに限らず、日本の木材を使った家具は、世界的に見てレベルとしてどういう風に思われますか。
 喜多 これから日本の木材は世界に出ていけると思います。マーケットを高めていく、レベルを上げていくことが重要です。それが消費者の暮らしに結び付くわけです。私たちの暮らしの質を上げていくことが重要です。

 ――暮らしの質や家具・インテリアの興味というのが高まってきたら、それは必然的にマーケットの向上にもつながるということですね。
 喜多 アメリカやヨーロッパのドラマを見ても、インテリアが素敵だと思いますね。最近では中国や韓国も素敵なインテリアに様変わりし始めています。

 ――続いてデザインコンペについても、もう一つお聞きしたいことがあります。毎回、トレンドのようなものはあるのでしょうか。
 喜多 それは広い意味ではあります。サステナブル思考の時代に対して、応募者が敏感にそういうことを心掛けているという意味でも、大きな傾向でしょうね。

 ――デザイン的に斬新ということですか。
 喜多 そうですね。ですから日本の企業はそういうところにも注目して作品を見ていただきたい。そして、国内外のマーケットに、企業としてのブランドを掘り起こしていくという元気さが要る時代になっているのではないでしょうか。

 ――デザインコンペで世に出てきたものにインスパイアされて、自社製品の開発に活かしてほしいということですね。
 喜多 そうです。頼れる作品があると思います。

 ――次回はこういう人に応募してほしいとか、今後の方向はこうなるだろうという展望はありますか。
 喜多 既に10回近くコンペを開催してきました。後は生産者とのタイアップによる商品化とマーケットの開発です。応募する人もシビアな考えをもってエントリーされているということが、作品から伝わってきます。木材の可能性を見出し、世界オリジナルを作ろうという意気込みも感じられます。

大きな可能性をもつ家具業界

 ――最後に、リビング&デザインについてですが、今後どのようなメーカーに参加してほしいか、喜多さんからの要望を聞かせてください。
 喜多 先ほど、お話したように、この国際見本市、ギフトショーの中で、暮らしの中に素敵な家具を、もう少しポピュラーに愛用してもらおうと、そういう場ではないかと思い、共に開催することにいたしました。ギフトショー全体で来場者が20万人以上来られますからね。前回、ある企業が新製品を出展された途端に、「これ迄、名刺がこんなに集まったことはありません」と言われる程、内外の企業から関心を集めたこともありました。
 マーケットを掘り起こすということは重要です。そういう出展者、メーカーが出てきたのはとても喜ばしいことだと思っております。

 ――ギフトショーの出展は雑貨系が多いと思うのですが。
 喜多 共通しているのは素敵な暮らしです。ギフトショーもそうですし、リビング&デザインもそうです。その意味で家具業界は今後、大きな可能性を持っていると思います。関係する業界の皆さんで、暮らしの質を育てる見本市にしていただきたいと思っています。回を重ねるごとに素敵になりつつある傾向で、今後が楽しみです。
 一般の家庭では、長いこと住まいについては辛抱してきました。素敵に暮らすということが、次の世代に対しても大切です。そして家具産業界の役割は大きい。日本の経済産業や生活文化において、重要なキーワードになるのではないかと思い、インテリア、家具産業界の発展を期待して取り組んでおります。

 ――リビング&デザインについてのメッセージを語っていただきました。ありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)