【LIVING&DESIGN2023 特別インタビュー】デザイナー 小泉誠 氏

暮らしにかかわるものはすべて家具

 ――小泉さんはリビング&デザインの家具デザインコンペを長きにわたって務めていらっしゃります。恒例の特別講演も「家づくりも家具作り」というテーマでお話しされると伺っていますが、この講演概要についてお話しいただけますか。
 小泉 今回お話しさせていただく「家づくりも家具作り」ですが、昨年秋の見本市における講演で「日本の家具デザイン」というお題でも話させていただいた、その続きになります。デザイナーは家具産業・メーカーと関わりながら家具をデザインしているわけですが、前回はそのメーカーとのかかわり方についてじっくりとお話しさせていただきました。家具というと一般的に思い浮かべることが多いのが「テーブル」や「チェア」になりますよね。しかし私自身は、空間や家の設計もしている中で「家具デザイナー」として仕事をさせていただいています。

 前回の講演でもその種明かしを少ししたのですが、今回もまずはその部分についてお話しする予定です。「家具デザイン」とは何かというなかで、「日本の家具」は実は独特なのです。日本の家具を掘り下げていくと、例えば「書院造」のような床の間のある部屋というものが、日本建築の基となっている空間になります。その空間にはやはり、畳が敷かれていて床の間があり、窓際に書院というものがあり、そして障子や違い棚があって、といったようにです。

 ――対して、欧米の家具は日本の家具とどのように概念が異なるのでしょうか。
 小泉 これはとても明快で、欧米における「家具」は「逆さにすると落ちるもの」です。日本でも建築工事と家具工事を分けると、「逆さまにすると落ちるもの」が「家具」といわれるのです。日本の「書院」は、逆さにしても落ちません。書院は現代で例えるとデスクなわけで、畳はベッドにもなる。座布団を敷けばチェアにもなるけれども、落ちない。そのように捉えると、日本の家具は欧米の家具とは全く異なるものだ、という話をいつもさせていただいているのです。

 家具は「家の道具」と書きます。つまり家具は、家の道具でもあり、「家自体も道具」だよね、と私は思っています。したがって今回の講演では「プロダクト的な家具の話」ではなく、「家づくりというのも、実は家具作りなのだよ」ということをまずお話しさせていただきます。私自身は、「暮らしにかかわるものはすべて家具」であり、家具=人が使っていく道具なのではないかと。こいずみ道具店で販売している鍋ややかんといったアイテムも家具である、という話を講演の初めにさせていただこうかなと考えています。

9月6日の講演「家づくりも家具作り」でとりあげる予定の「家」

 ――ただのものづくりではなく、家づくりの一部として取り組むことで、小泉さんの仕事が生まれてくる、ということでしょうか。
 小泉 よく聞かれるのは「小さな箸置きから家まで幅広く手掛けているけど、いつも異なる気持ちで考えているのですか?」と。しかし私自身は常に同じ気持ちで、「人が使っていく暮らしの道具を作っている」という感覚なのです。同じ気持ちをもってデザインに取り組む中でも、やはり「機能性」は大事であり、その次には、使い続けていくために「タフであること」も重要視しています。そして「情緒的であること」が大切です。特に最初に挙げた機能性は「十分」でなくてはいけません。「十二分」や「十八分」ではいけないのです。

 ――小泉さんが理想とする「家具」は、機能が多くありすぎてもいけない、ということですか。
 小泉 スマートフォンなどが典型的な例ですが、その機能は十二分どころか五十分あるのではないかと思うほど、多くの機能が備わっています。しかしながら、人間は普段の生活の中で、その全ての機能を使っているわけではありませんからね。したがって「十分」でいいのです。

 あとは、「タフである」ということは、それぞれ素材なりに長持ちできるかということです。「ずっと見た目が変わらないぐらい、丈夫すぎるほどに作るのではなく、例えば木の製品であれば「100年ぐらいは使用できるもの」として製作することが大事だとよく言われています。木の製品は、例えば千年もの長さまでは、もたせる必要はないのです。それぞれの素材なりの寿命を勘案しながら、プロダクトは作っていかなければならないものです。

 「情緒的である」というのは、使い心地が良い、住んでいて風が気持ち良い、美しいなどの要素を含めたものです。素材感、触り心地などもですね。経年変化していく要素などもそうです。今述べてきた三つのエッセンスが、私の中でのキーワードになります。これは細かなプロダクトでも家づくりでも、全く変わることはありません。

誇りをもった製品づくりのために

 ――続いて、デザインコンペについてお伺いします。これまでのコンペの歴史を振り返りながら、今回の応募作品等についての感想についてお伺いできますか。
 小泉 デザインコンペは、年々応募者も増えていて良い試みだと思っています。初期はテーマが「椅子」だったと思うのですが、それが途中から「家具」全体になりました。「木を使った」ことを趣旨としていることが、長くこのコンペが続いている要素であると考えています。

 いま振り返ると、初期の応募作品は「趣味的」な要素・「デザインされていないもの」が多くあったかなと思います。いわゆる、「ただのアイデア」などですね。もちろんそれもとても大切な要素ではあるのですが、とにかく初期はただ単に、「工芸家がものを作りました、この手仕事でのデザインすごいでしょう」といったような応募作が多かったのです。しかしやはり「デザインコンペ」ですから、何らかのしっかりとした意図をもってデザインし、応募することが非常に大切だと私は思っています。そして、先ほど話したような「趣味的」な応募作が、回を重ねるごとに淘汰されて、デザインコンペとしての形ができてきました。

 しかしその後、デザインコンペとして、やや「行き過ぎたかな」となった時期もありました。どういうことかというと、「木のことを知らずにデザインをしている」といった応募作も増えてきたのです。「これはデザインとして面白いけれども、”木”じゃなくてもいいのでは?」といったものですね。

 ただそれも、回を重ねるうちに新たな応募者が、受賞作を見て、「木のデザインはこういうことなのだな」と学んだ結果、廃材を生かしたり木で染めたりといった、サステナブルなものづくりを意識した作品が増えてきましたね。社会に対して敏感に反応しながらデザインするということは、デザインではとても大切なことですから、非常に良い傾向だと思っています。今年もそうですが、ここ何年かはそのような発想での応募がとても多くなりました。

 ――製品化できるか、などの観点についてはいかがですか。
 小泉 その評価軸については、個々の審査員に委ねられていると思います。私の中では、応募作について製品化を意識しての視点ではあまり考えていません。しかし先ほど申したように「”木”であるべきか」は重視しますし、その視点で選んでいますから、仮に実製品化となったとしてもきちんと製品化できると思います。家具製造の現場に入り込んでいると、製品化が難しそうだと思っていたものでも、意外と「できるのでは?」と思うようになってくるのです。

 私は、評価軸が個々の審査員に委ねられていることが非常に良いと思っています。総合プロデューサーの喜多俊之さんは、それぞれの審査員なりの評価軸・見方があることをしっかりと把握されていますし、その上で審査のディレクションをされていると思います。

小泉氏も参画している、大雪木工の「大雪の大切プロジェクト」

 ――最後に、小泉さんにとって家具デザインのトレンドは、どのようになっていくとお考えですか。
 小泉 実はそれに関しては、メーカーさんに「トレンドに向けて製品開発をする必要はない」と意見しています。私自身は「メーカーが持続していくために、デザインを手掛けていきたい」と考えているデザイナーです。そのために、ただ目先のための製品開発ではなく、「みんなで作りたいものを、誇りをもって作ろうよ」というものづくりを手掛けています。

 ――本日は多岐にわたりお話しいただき、ありがとうございました。9月6日、11時開始のリビング&デザイン特別講演、楽しみにしております。

(聞き手 長澤貴之)