【LIVING&DESIGN(リビング&デザイン) 2024 特別インタビュー】永山祐子建築設計 主宰 永山祐子 氏

「座っている人が綺麗に見える」という発想

――昨年夏に、インテリアズさん新製品となる「P sofa / ピー ソファ」をリリースされましたが、このデザインを永山さんが手掛けられました。

永山 建築家として家具を選ぶ際は、トータルコーディネート・空間全体の中で、「いい塩梅」であったり、スケール感であったり、あとは背の高さなどをどのようにするかという、空間のバランスの中で決めることが多いです。そうすると単体のデザインが立っているというよりは、トータルな空間性を考えているときのイメージから選んでいくことになります。

私が「Pソファ」を作った発想の原点ですが、旅館のリノベーションの案件などを手掛けた際、「和室に合うソファ」がないなと。昨今は足を曲げて座る、正座などの文化もなくなってきているので、基本的には和室をリノベーションしても「ソファを空間に入れたい」という発想になるのですが、しかしその空間に合うソファがあまりありませんでした。あったとしても、デザイン的に選択肢には入れられないものだったので、それならば自身でデザインしてみよう、というところが「Pソファ」の始まりでした。

――「背もたれの低さ」がポイントだそうですね。

永山 積善館という群馬の温泉宿をリノベーションした際の話ですが、部屋のモジュールが小さい場合、そこに大きなソファを置くと、ぐっと部屋が狭くなってしまうのです。背もたれの高さも高すぎるとバランスが悪くなるということで、自身でモジュールソファを設計しました。

昨今のニーズとしては、和モダン的なインテリアが求められているでしょうし、リノベーションなどがある中で、多分同じ悩みを持っていらっしゃる方もいるのではないかと考え、背もたれの低いソファとローテーブルをデザインしてみました。空間の中で、例えば眺望の良いホテルなどで、「ベッドがあり、ソファがあり、そして海が見える」といった室内空間だと、ソファの背が高すぎると眺望を邪魔してしまうかもしれません。背が低いソファであれば、様々なシチュエーションの中でも、空間を邪魔しなくて済むかなという考えでした。Pソファに関してはいくつかのサイズを展開して、今現在インテリアズさんから販売されています。

このときの発想も、やはり「眺望を邪魔しない」ことに重きを置きました。「座り心地」に加えてもう一つ大切にしたところは「座っている人が綺麗に見える」こと。ヨーロッパのブランドのソファなどは、特に日本人の女性が座った場合などは「深すぎてしまう」ため、収まりが悪いようなところがありました。ソファに背をつけると足が上がってしまい、「綺麗に座れない」のです。それと比較するとPソファのこのサイズは、クッションなしで肘をかけられ、置くことができるサイズでした。日本人のモジュールや体験の中で、「女性が綺麗に座れるソファ」といった要素も考えました。

このように、シチュエーションに合わせて「座っている人が綺麗に見える」といった発想は、意外と無いのではないでしょうか。大きなソファだと、ちょこんと前の方に座るといった感じで、例えば家の中ですと胡坐をかいて座ることも可能ですが、足をきちんとおろして座るとなると、意外と深すぎることがあります。そのようなことも考えながら設計していきました。

「モノ」の背景に「一貫したストーリー」を

――空間の邪魔にならないといった要素は、先ほどの温泉旅館の例に限らず、他に手掛けられる案件でもやはり意識されているのでしょうか。

永山 そうですね。建築家として、私が設計したような物件に合わせやすい、セレクトしやすいようにPソファもデザインしました。ソファは、物件に合わせて設計することはあるのですが、きちんと商品化したのは初めてでした。

プロダクトについては、YAMAGIWAさんからペンダント照明「FUWARI」も商品化させていただきました。とてもシンプルなデザインですが、三角形平面なので向きを変えただけで表情が変わります。内側にくるんと巻いた独特のカーブは、逐次成形という特殊な製法によって生まれたもの。真鍮とアルミ、マテリアル、個体によっても微妙に巻き方が変わります。単体で吊ってもよいし、多灯吊りで使用することも可能です。シチュエーションによっては、一灯だけで良い場合もあれば、高さを変えて多灯吊りにする方がよいというシチュエーションもあるので、そのようなケースで使えるようにと考えて設計しました。

もちろん、それ一つでデザイン性が高く、面白いものというのも魅力はあるのですが、全てそうである必要はありません。シンプルだけど何かちょっとこだわり感がある、といったアイテムを空間に欲しくなることが多いですね。「一個」として考えるよりは、例えば非常にデザイン性が強い椅子がその場に8脚並べば、その場が「濃く」なってしまわないか?といったように、これまで自分が手掛けてきた案件で考えながら、「あの場面にこのアイテムを入れたら」といったことを考えます。

あとはやはり「使う人で色を出せる」ことが大切ではないかと思いますね。建築家やデザイナーは、自分が作った空間は自分でアレンジしたくなります。先ほどのペンダント照明「FUWARI」にしても、吊り方に個性を出すことが可能です。同じアイテムでも、デザインの余地が残されている。Pソファも、革にしたり、ファブリックを変えたりするだけで、雰囲気も変えることができます。それは「余白」としてインテリアデザイナーさん側に委ねるという考え方ですね。私が空間も考えて建築設計を手掛けるときに、そのようなアイテムがあった方がセレクトする点でも良さそうだな、という思いで設計したのがこれらのアイテムなのです。

――昨今は、働き方にも変化が出てきており、多様性もより求められるようになりました。

永山 オフィスにも、ホームユース的なソファなどをあえて使うケースもあります。対称的に家で仕事される方が、自宅で使用するためにオフィスチェアを求められるシチュエーションもありますから、今はもう「ボーダーレス」な時代であると思っています。そのようななかで「フレキシブルさ」を訴求する製品も増えてきました。もちろんそれは大切な要素の一つではあると思うのですが、私としては、例えばテーブルの幅などについて多様なバリエーションから「選べる」ことよりは、きちんとしたデザインのもと「完成された」もののほうが美しく感じますので、物件の中に置かせていただく選択肢においても、「完成された美しいもの」を選びたいと思いますね。

――デザインも建築も、世代・年代によってそれぞれ異なる形での発想が浮かんでくることと思います。最後に、若年層・家具コンペ参加者に伝えたいことなど、メッセージをいただけますか。

永山 モノ単体としての魅力はもちろんのこと、素材のセレクト、作る過程、使われるシチュエーション、そしてさらに終わり方など、今の時代はモノの背景に一貫したストーリーが必要です。デザインの中にきちんとその辺りを込めていただければと思います。

(聞き手 佐藤敬広)