【インタビュー2023】タンスのゲン 代表取締役社長 橋爪裕和 氏 -tansu no gen-

60年の老舗企業、マインドはベンチャー

 ――社長就任おめでとうございます。就任の抱負及び、現在感じている課題と運営の目標についてお聞かせください。
 橋爪 創業してから約60年が経ちました。現会長は2代目で、21年前にネット通販事業を立ち上げました。これは第二創業とも言える取り組みで、ご存じのように今日まで続いております。就任して感じることは、今までやってきたこと、会社として大事にしてきたことを継承していくこと、そしてまた時代の波にあわせて変化していくことです。継承といっても、マインド面が大きいです。現会長がメーカー業から実店舗での対面接客による販売事業を経て、ネット通販事業に参入いたしました。その過程ではお客様との接し方などあらゆる面で実店舗との違いによる苦労があったようです。
 そして会社としてここまで成長できたのは、これまでの時代の変化に敏感に対応してきたという点が一番大きいと思います。約60年の歴史がある会社ですが、ベンチャー企業のマインドを持って運営をしています。ネット通販業界は力ある大手もいて、競争は常に激しいです。それゆえ安穏とした運営は許されません。運営について言えば、そういった大手がやれないような事業を意識しています。小回りをきかせて柔軟に対応できるのが私たちの強みで、そうやって成長してきました。今後もそのマインドを念頭に置きたいと思っております。

 ――現在感じている課題、今後の運営目標について教えてください。
 橋爪 課題は人材の育成です。今後は人材育成に一番注力していきたいと思っています。国内の労働人口減少に伴い、採用は今後一層難しくなっていくでしょう。そこで新卒入社の社員の成長をカギとして、新人教育に力を入れています。
 社会人としての一般教養に始まり、当社の事業に関連するノウハウについてもOJTに留まらず各種研修プログラムの整備を進めています。
また、そういったノウハウ・知識の教育だけに留まらず、マインドの部分、商売の在り方についても、浸透する機会を創ってまいります。
 従来、当社の組織体系としてはトップダウン型だったのですが、ボトムアップ型に徐々にシフトしていきたいと考えています。売上について言えば、扱う商材、カテゴリを拡大させてネット通販事業をさらに強化していきます。これまで国内での販売が中心でしたが、海外販売も加速させていきたいと考えます。

2040年に売上1000億円達成を目指す

 ――海外市場は現在もある程度の売上比率があるのでしょうか。
 橋爪 約5年前から中国でもネット通販事業をスタートし、海外販売事業の足掛かりを構築していたところで、まだ売上比率としては大きくありません。これからGDPの拡大が期待できる国には積極参入していきたいと思います。私たちは2040年には売上1,000億円の目標を掲げています。それまでには海外の売上も一定比率まで成長を図って参ります。
 ――中国のECと日本はどう違いますか。
 橋爪 実際、経験してみると全く違う印象があります。当初日本のやり方をそのまま持っていったのですが、全く見向きもされませんでした。現地で地道にマーケティングをしてようやく芽がでてきました。例えば日本では当社は幅広いジャンルの商品を扱っていますが、中国で同じように、1つの店舗で様々なカテゴリの商品を販売しても、売れません。中国では専門店化が好まれるようです。マットレスならマットレスだけを売る、という特化型のスタイルのほうが一般的に受け入れられる印象があります。
 ――家具の販売の比率はどれくらいですか。
 橋爪 2割程度ですね。寝具が3割程度あります.。現在は家具にとどまらず、家電、アウトドアなどいろいろ取扱商品の幅が広がっています。家具もそうなのですが、大型の商品は物流問題が常にあります。そのため、小型で高単価の商品を念頭に商品化することを重視しています。
 ――どういうことをボトムアップさせていきたいですか。
 橋爪 2040年まで目標を高く掲げており、達成する上でも、社員全員の意見、アイデアを活かしていく必要を感じています。その為にも実現にはボトムアップの組織体制がベースになると思っています。

 ――インテリアにおけるEC販売の位置づけ、消費者のマインドはどのように変化したと思いますか。
 橋爪 最近では、徐々に人々も外出されるようになりました。ネット通販におけるコロナ特需は2022年で終わりを迎えたと言ってよいでしょう。しかし、今までネット通販を活用してなかった多くの人がコロナ禍を通じて活用するようになり、一度体験したことにより理解を深めたなという実感はあります。事実、ネット通販の利用者はだいぶ増えました。今、人々は外に出ていますが、これまでの経験を通じて、ネット購買の比率は落ちることなくゆるやかに上がっていくと思います。
 BtoC全体でのEC販売は約9%程度に対して、インテリア商材については現時点で既に3割近くありネット通販との相性がよいと見ています。
 ネット通販事業においては実際に商品をさわって検討したいという声もないわけではありませんが、そこは戦略上、手を出しません。デジタルの領域でどのようにお客様のショッピング体験を実現するかが私たちの課題です。
 ――2024年問題についてどういう課題を感じ、どう備えていますか。
 橋爪 各地域に拠点を増やすことで、配送距離を短くするという取り組みはかねてよりやっておりました。また、この問題に備えてなるべく取り扱い商品の小型化も意識しています。既に物流企業から2024年問題に向けた様々な打診を受けておりますが、協議は終わっておらず、現在進行中です。物流問題は私たちにとっても密接で、今年の暮れまでには、ある程度の着地点を見出したいと考えています。

 ――最後になりますが、家具、インテリア業界をより魅力的なものにするためには、どのような取り組みが必要だと思いますか。
 橋爪 当社は「大川インテリアバレー構想」という企業プロジェクトを掲げています。アメリカの「シリコンバレー」からとってきた造語で、シリコンバレーには人、物、金が集まりますね。大川は古くから今でも日本有数の家具の産地であり、トップクラスの生産量を誇ります。大川に人・物・金が集まるようにできないかという考えのもと、大川市と協調しながら進めています。
 具体的なレベルで取り組みを紹介すると、ネットde大川木工まつりへの協力があります。大川のメーカー様の拡販に貢献できているのではないかと思います。お客様も、どこにいけば家具を見られるのかという疑問を持つ人が多い為、ネットで見てから、実際に見に行けるようウェブから誘導をしています。ネット、ECを介してこの家具の産地大川を盛り上げていき、業界も活性化したいと考えています。
 ――EC企業ならではの取り組みで業界を盛り上げていくということですね。タンスのゲン社のマインド、今後の展望など貴重な話を伺うことができました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(聞き手 長澤記者)