全国の商業施設を中心に家具・インテリアショップを展開するリビングハウス(大阪府大阪市 北村甲介社長)と、センプレデザイン(東京都目黒区 神原久康社長)は業務提携を発表した。
――本紙ではリビングハウス様についてしばしばインタビューをしていますが、センプレデザイン様とお会いしてからだいぶ期間が空きました。ですので、本日はまず御社について改めて簡単にお教え頂けますでしょうか。
神原 はい、私たちはライフスタイルショップが定着していなかった時代に、家具から雑貨を国内外からセレクトし、提案してきた会社です。五反田の東京デザインセンターに1号店を、その後青山の骨董通りに店舗を設け、プライベートブランドも含めてお客様の暮らしに沿った提案・販売を行ってきました。また、早くからカタログ販売にも着手してきました。そのインテリアのカタログが評価され、青山ブックセンターに陳列されたこともあります。このようにインテリアというライフスタイルを世の中に提案してきた企業とも言えます。
また今から22年前の2002年に、丸井さんから「インザルーム新宿店」新店オープンの際に感度を上げたいので手伝ってくれないかと依頼があり、インテリア雑貨の卸を承ったのが卸事業の始まりです。ちょうど先に述べたカタログ販売から、オンライン販売に移行していた時期と同じだと記憶しています。
そして、会社を立ち上げて約4年後の2000年に、ライトボックススタジオという名称でスタジオ業も中野でスタートしました。当時このような自然光に特化したハウススタジオは少なかったかと思います。
背景としまして、我々はグラフィックデザインの企画、制作並びにカタログ、広告制作の事業もあり、今の会長の田村が当時、ソファメーカーやベッドメーカーにデザインを提供していました。そして、デザインを提供しながら先方のカタログの撮影・コーディネート、そしてショールーム自体のデザインも併せて請け負っておりました。
しかしいざ撮影しようと思っても適切な場所がなかったため、我々でスタジオを作り、事業がスタートしました。同業他社さんも気軽にお使いいただきたかったので、「センプレ」という名前は使わず、「ライトボックススタジオ」としました。今は私たち自身でスタジオを使ってカタログをつくることは少なくなりましたが、家具メーカーさんや家電メーカーさんのカタログ撮影や、多業種のムービー撮影にご利用頂くことが多くなりました。また、青山にも4か所ライトボックス(スタジオ、アトリエ、ギャラリー、サテリテ)があります。青山は撮影というよりはファッションといった異業種や同職種の展示会として使っていただくことが多いです。
人々のライフスタイル・インテリアの感度を高める
――ありがとうございます。そのようなセンプレデザイン様が、リビングハウス様と提携されたのはどのような背景なのでしょうか。
北村 弊社のミッションである「日本を空間時間価値先進国へ」を更に伸ばしていく中で、お客様のターゲットの幅を広げる、あるいは業容を広げる必要があります。そのため同業他社さんの中でも、考え方、志の近い会社様と組んでいきたいという想いが以前からありました。センプレデザインさんとは何年も前からお付き合いがあったのですが、今から1年くらい前にそういったお話をしたところ、(お話が)前に進みました。
――具体的にはどういった点が近かったのでしょうか。
北村 当社と同様に、もっと多くの方に、自分らしい空間で豊かな時間を過ごしてもらえるように、日本のインテリア、暮らしのレベルを上げていきたいという想いが強いという点です。会社のカルチャーとして、そのような姿勢があるのを外部から見ていても感じていました。また、同社は卸としても取引がありましたので全く知らない会社さんだったわけでもなかったのです。
神原 実は北村社長からは6年前に一度そのようなお話がありました。そして1年前にも改めてお話があったのです。どうしたらもっと、私たちの提案する暮らしに対する感度を上げていけるのだろうか、というテーマは、もがきながら取り組んで参りました。リビングハウスさんが色々な取り組みをされているのは外から見ていても知っていましたし、それを見て、この会社も人々のインテリアやライフスタイルへの感度を高めていきたいのだなということがわかりました。
――日本のインテリア、暮らしの質を高めていきたいというお話がありました。北村社長は、そのためにどういったことが必要だと思いますか。
北村 人々のインテリアに対する興味が高まることが大切ですが、そのためには供給側にもまだまだ出来ることがあると考えています。インスタグラムなどのSNSが一般的になって、昔よりはスマホ上で人々がインテリアを身近に感じられるようにはなりました。でもそれだけでは不十分で、実際の店舗を用意して、接客を通じて製品の価値やブランドストーリーを丁寧にお伝えし、お客様に製品に対する理解と愛着を持ってもらうことが重要です。そのような供給側の企業が増えていかなければインテリアへの関心の高まり、暮らしの質のさらなる向上にはつながっていかないと思います。
――センプレデザイン様と協業する上で、世の中のインテリアの意識を高めていく、というさらなるアイデアや具体例があれば教えてください。
北村 今回資本業務提携を通じて、我々の横浜店で「スラッシュセンプレ」というショップインショップの業態をつくりました。両社のもつテイストが合わさることで、今回の横浜ベイクォーター店での展開が自分らしい豊かな暮らしを叶えられる場所になるように試行錯誤していきたいと考えています。そして、ゆくゆくは他店舗への横展開もしていきたいと考えています。ショップインショップという枠組みを超えて新規出店という形もあるかもしれません。リビングハウスとセンプレデザインは、商品のマーチャンダイジングがかなり異なります。すなわち、お客様の幅がどちらの会社にとっても広げられるということです。
――対象の層が広がるということですが、センプレデザインさんはどのような層にファンが多いとお考えですが。
神原 年齢層はリビングハウスさんとそんなに離れていないと思いますが、私たちの顧客はデザインのことを知っている方、学んでいる方が多いという印象です。今活躍されている、30代、40代の若手デザイナーの方々が、骨董通りにできたばかりの青山店に頻繁に来てくださいました。当時はイデーさんも近くにあり、新しいデザインを見るにはいい立地だったかと思いますので、そういった客層が多かったと思います。また当時は六本木ヒルズもなく、日本に住む海外の方もよく来店くださいました。こういった方々の多くは、暮らしのスタイリングのセンスが抜群で、強く印象に残っています。
――協業により、そういった層の来場が増えることを期待しているということでしょうか。
神原 それもありますし、同時に、我々の扱う製品を買えることも知らない人がまだまだ多いと思っています。まだまだ認知向上の余地があるブランドだと思っています。暮らしにはいろいろなスタイルがあります。家具のブランド・デザインも様々なものがあります。人によって選ぶものが違うからこそ(インテリアは)面白いのです。そういったものを見つけるきっかけとなる拠点になっていけばいいなと思っています。
生花をいけるようにインテリアを見せる
――日本の暮らし、インテリアの感度を高めていくお取り組みについてもう少しお考えを聞かせてください。
神原 私はやはりお客様にとって見る機会をつくることが大切だと思います。
例えばですが、私たちは横浜のショップでもフラワーベースを扱っています。私たちはここに造花ではなくて、あえて生花をいけてお見せしています。しかし生花は生ものですので、こまめに水を替えることや、花を挿しかえる必要も出てきます。企業ですので、多店舗運営を行うとどうしても効率が求められます。その考えからすると(生花を活けるという行為は)経営効率と逆行する取り組みですが、あえて行っています。こういうディティールにこだわる姿勢を他のインテリア製品の提案にも反映させ、多店舗運営でも日常の暮らしを表現していきたいと思っています。
それは簡単なことではありませんが、僕らとしてはいかにこのような制約の中、実生活で使われている様を、製品を通して見せられるか、ということを目指しています。そのような拠点が増えることによってお客様の心も動き、感度も上がっていくのではないかと思います。ですので、我々はもっとお客様に認知して頂ける場所に出ていかなければならないと思っています。
北村 お客様とのリアルの接点を増やすこと(認知を高めること)についていえば、路面店だけではなしえないと思っています。路面店は、目的のある方のご来店が中心だからです。一方私たちの店舗の9割は、商業施設に入っています。商業施設ですから、月間40万人近くのお客様にご来店頂けています。このようなお店では、『目的をもって買いに来たわけではないけどふらっと入ってきた』といったお客様が大変多いのです。買いに来たわけではないのですが、私たちのお店に何か興味を感じてくださった方なのだと思っています。そういった方々に、ビジュアルによる訴求や接客による提案機会が増えれば増えるほど私はインテリアの認知、皆様の興味の高まりに貢献できると思っているのですよね、ですから私たちは商業施設に出店を続けるのです。そして極端なゴールを言えば、『買うつもりはなかったけど(欲しくなって)買って良かった』と、喜んでくださる方が増えればよりよいと思っています。
そして、そういったふらっと来てくださったお客様に向けて、センプレデザインさんの持っているマーチャンダイジングを加えることの意義は大きいのです。例えばセンプレさんの商品には、『インテリア大好きの人は知っているけど、そうでない人には知られていない良いもの』が本当にたくさんあります。より多くのお客様に新しい気づき、発見をご提供できるようになるのは間違いありません。
――すでに既存顧客やサブスク会員様に向けた発信はありますか。
北村 関東全域のLINE会員様に今回のお取り組みについてご連絡をしています。また、センプレデザインさんも以前、横浜のそごうに出店していたことがあり、その当時のお客様や、インスタグラムでの発信も行っています。また、センプレニュースというタブロイドを制作されており、そこでもアナウンスをしています。
世界観が違うから、組み合わせも面白い
――いろいろなテイストのインテリアが集結することになりそうですが、協業されることでコントラクト市場へも新たなアプローチができそうですね。
北村 はい、我々には法人部門がありまして、今まで自分たちの商品を中心にやってきましたが、センプレデザインさんが扱っているブランドも一緒に提案できるということになります。それによる強化は図っていきたいと思っています。
神原 池尻大橋にお店がありまして、現時点で当社もインテリアコーディネーター様やデザイナー様にも同店で勉強会を開催するなどして、スペックイン活動を行っています。リビングハウスさんと協業をすることで結果的に、当社のコントラクトについても強化できるだろう、という狙いもあります。
また、リビングハウスさんが持っている製品と我々が持っている製品は背景、世界観が違います。違うから面白いと思っています。我々が楽しめる部分も非常に多く、プロが組み合わせを楽しめる協業になっています。その楽しさがお客様皆様に伝わることで、一層魅力的な拠点になっていくのではないかと思っています。
空間ビジネスにスタジオ活用も視野
――その他にも現段階で計画をしている、協業による取り組みなどあればお教えください。
神原 コロナ前から弊社は大型の合同展示会出展を控え、弊社主催の業界を跨いだクローズドの展示会「THE BOX」に注力し、お取引先様とのコミュニケーションを深めて参りました。
今回の協業を受けて、リビングハウスさんとホテルアンドレストランショーへ一緒に出展することも考えています。お互いに取り扱い製品の幅が広がったことで、宿泊施設や飲食店といった新たな市場に対して、より効果的に提案していけると考えているためです。もし実現すれば、このような大型の展示会には5年ぶりの出展となりそうです。
――センプレデザイン様も雑貨をやられていますが、協業により雑貨についてのお取り組みも増えているのでしょうか。
北村 近年、商業施設側からも大きな店舗面積での出店をご依頼いただいており、その影響もあって雑貨の強化、面積拡大は進んでいます。雑貨はこれまで多かったわけではないので、センプレデザインさんが持っている雑貨の部分は、我々の強化したかった部分を補ってくださると思っています。これからも雑貨は増やしていくと思いますし、もし雑貨がより人気になってきたら雑貨専門の出店もあるかもしれません。
――最後に、センプレデザインさんのお持ちのスタジオの活用について何かビジョンがあればお教えください。
北村 我々も、家具インテリアショップの小売以外の事業がいくつかあります。そのうちの1つが空間ビジネスです。わかりやすい例としては、高級旅館に出資をして、旅行をする人が心地いい時間を過ごせるように、客室を素敵なインテリア空間にする事業もおこなっています。人間が過ごす時間には、睡眠や学習、移動、余暇などがありますがそれぞれ「空間」が必ず存在していますので、今後もっといろいろな空間にアプローチしたいと思っています。センプレデザインさんがやられてきたBtoBが主体のスタジオビジネスについても、更なるシナジーの可能性を感じていますね。
――本日はお忙しい中、貴重なお話をお聞かせ頂きありがとうございました。
(聞き手 長澤貴之)