【インタビュー2024】リビングハウス 代表取締役社長 北村甲介 氏

LIVING HOUSE. salone(リビングハウス サローネ)を訪ねて

 ――エドラの販売が開始されました。主にどのようなユーザーへの訴求を想定しているのでしょうか。アート性が際立ちますね。
 北村 富裕層のユーザー様の自宅、別荘を主に考えています。こちらのソファは、自分の態勢にあわせて自在に変化するのが特長です。そしてエドラは自社でウレタンまで開発・特許を取得しています。そのようなブランドはないと思います。

On the Rocks(オンザロックス)

 ――しっとりした座り心地ですね。高反発で、押し戻す力が優しい感触です。
 北村 ウレタンだけでなく、生地も自社で開発しています。そして、そのソファのみに使える専用の生地を開発しています。

 ――このテーブルもエドラのものですか。触り心地が大変すべすべですね。
 北村 そうです。トスカーナ地方だけで採れる特殊な天然大理石で作られています。下からライトをかざすと、光が透過してきれいです。このような石は他にありません。

 ――いずれも値段が記載されていませんが。
 北村 例えば、このソファはサイズや組み合わせるユニットの形状にもよりますが、この形で800万円ほど、天然大理石のテーブルは50万ほどです。しかし、エドラの方針もありあえて載せていません。決して安いものではないので、例えば値段だけで試しに座るのも敬遠してしまうかもしれません。そうすると、せっかくの家具との出会いをなくしてしまいかねません。値段からではなく、まずは試してみることで、製品の魅力から吟味してほしいのです。

Velmelha(ヴェルメイヤ)

 こちらは500メートルのロープを一人の職人が1週間かけて編み上げます。そしてこのロープからエドラで開発しています。普通のロープでは硬いので、自社開発したコットン製の芯が入ったアクリル製の特殊なロープを自社製造しているのです。こちらは300万円程ですが、アートの性質に近いと思っています。絵は壁に飾りますが、これは空間に置くアートです。もちろん座ることも可能です。

 これは、氷でできた椅子を再現したいと考え、ポリカーボネートで製作された椅子「ア・マーレ」です。すべて一本一本、手作りです。ポリカーボネートという素材は一般的に、ビスを打つことができません。しかし彼らは、打っても割れないビスを5年かけて開発したのです。このように、彼らは徹底的にものづくりにこだわるので、新製品も頻繁には登場しません。開発期間が長期にわたるため、年に1つあるかないかなのです。それだけこだわって作っています。そして廃番もほとんどありません。

 これは梅田正徳という日本人デザイナーの作品で、ローズチェアという椅子です。約30年前に開発されました。ハイブランドで使われる最高峰のベルベットが採用されています。ベルベッドをこのように曲線で張るのは、実は大変難しい。そこに職人技を見て取れるのです。

Pack(パック)

 これは流氷に横たわる白熊をイメージし流氷を再現するように、かすれた雪のようなファブリックが使われています。つまり、このファブリックもこのソファだけにしか使えないのです。

2023年より、イタリアのラグジュアリー家具ブランド「Edra(エドラ)」を取り扱い開始
ラグジュアリー市場×アート市場に着目

 ――どうしてエドラを取り扱おうと思ったのですか。
 北村 以前から知っていたブランドでした。当初は、変わったブランドだなという印象で、値段もデザインも日本には合わないだろうと思っていました。しかし2022年に改めてエドラを見たときに、2つの理由で今だったら日本で受け止めてもらえるのではないか、と思ったのです。1つは、ラグジュアリーマーケットの好況です。今、時計や車といったラグジュアリーブランドがとても好調です。ところが家具でそういったメーカーは日本で数えるほどしかありません。そのため参入にチャンスがあるのではないかと考えました。もう1つは、アートマーケットです。今、現代アートを含め、アートの市場は日本、世界ともに成長しています。そのトレンドを見越して決断しました。

 ――一般ユーザーの反応はどうですか。
 北村 皆さん値段に驚かれますが、ブランドの説明をして、座り心地を体感頂くことで納得くださるケースが多くみられるようになってきました。どこのブランドとも路線が違う、世界オンリーワンです。

 ――エンドユーザーだけでなく、コントラクト市場にも合致しそうですが。
 北村 はい、高級ホテルのロビーなどには当然合いますし、このソファは2024年の2月に、箱根のラグジュアリー旅館の玄関に採用いただく予定です。いずれの部屋も約100平米あり、そのうちの1部屋はエドラのアイテムを使った「エドラルーム」を設けます。

 ――以前、空間時間価値創造というお話を頂きました。その回答の一つかと感じました。
 北村 まさにその通りで、人間には様々な時間がありますが、そのうちの一つ「余暇の時間」にフォーカスしたものです。余暇に旅があり、旅に宿泊という空間があるのです。

 同じ建物の三階には、同社が展開するドイツのKAREブランドのエリア

 北村 このブランド(KARE)は取り扱いをスタートして10年弱になります。展示会ではじめて見て、衝撃を受けてリビングハウスのセレクト品として置くようになりました。想定より売れ行きがよく、こういったテイストの製品が受け入れられる潮流が日本にも訪れつつあるのだと感じました。すぐに利益の源泉にはなりませんが、先行投資だと考え、続けてきました。結果として今は、年間10億を超える売り上げに達しました。

 ――こういう今までと違うテイストは、どういう層に受け入れられると分析していますか。
 北村 これが一概にくくれないのです。若い人向けかと思われるのですが、年齢層も幅広い。若い人から年配の人までこのブランドを拾ってくれるのです。「素敵」と思う感度は年代を問わずいらっしゃるということです。かつ、このブランドは比較的お求めやすい値段ですし、テイストも幅広いです。この店はエレガント系に寄せていますが、他店舗では木製品もあります。広範囲のテイストに応えられるブランドです。

 ――エドラやKAREといったブランドが目立ちますが、近年、御社の販売の柱は海外ブランドが中心なのでしょうか。
 北村 このような海外ブランドは確かに売り上げ比率を伸ばし、3割以上となりました。しかし、メインは変わらず自社企画製品、残りは家具や雑貨などのセレクト品です。

 ――セラミックのテーブルの展示が目立ちますね。このような製品は機能面(耐熱性など)で売れるのですか、それとも見た目ですか。
 北村 入口はビジュアルでしょう。それに、世界のインテリアの潮流は異素材の組み合わせと考えます。ミラノサローネに行くと、日本でみるようなウォルナットだけで作られた家具は見られません。一階に展示されているボナルドも、まったく木は使っていません。このような潮流もあって日本も少しずつ変わっていくような気がします。ただ、日本ではウォルナットの人気が根強く、すなわち独自の文化があるように思います。

 また本店舗は、エディオンと提携して家電も販売しています。そのため家電はエディオン保証を受けることもできます。デザイン軸で家電をセレクトしています。空間のテイストに合わせるためには、家具と同時にお求め頂くのが一番確実です。

 ――しかし家電も変化が早いですよね、それらの情報収集や売り場への反映はどうされているのですか。
 北村 そのために私たちは家電専任担当者を店舗においています。この取り組みは4年前からスタートしましたが、家電の売上も堅調に推移しています。また、お客様のテイストにあわせて展示している製品以外も提案しています。金額ベースで好調なのはテレビとエアコンです。特に、引っ越しをするとエアコンは必ず必要になります。エアコンの中でも好調なのはダイキンのrisoraシリーズですね。フロントパネルを変更でき、弊社オリジナルデザインも用意しています。多くのお客様はフロントパネルを変更できるエアコンが存在することを知りませんので、提案を受け入れやすいのです。

2022年より、ホテル&レストランショー(HCJ)にも出展

 ――家具店の不調が叫ばれますが、御社の業績や計画はいかがでしょうか。
 北村 2023年の既存店売上は春から夏までは少し苦戦したものの、11月以降の前年対比は100%を超えました。また、リビングハウスアルファという新サービスも好調です。これは月額798円の有料会員サービスで、色々な特典を提供するサブスクサービスです。会員様に家具やインテリアで使えるクーポン券を配布したり、延長保証サービスや、ベネフィット・ワンの提供などを行っており、年間1万円以上のサービスを享受できるようにしています。

 店舗に話を戻しますと、私たちは36店舗展開していますが、直営店舗の路面店は3つのみです。商業施設に入っている店は来店者数がほぼ減りません。家具の需要が減っているのは確かですが、店内を見て需要を喚起できるかが大切です。新規出店も行います。今年は5~7店を計画しており、既に3店は決定しています。

 ――エドラも新たに加わり、来年、展示会にご出展の予定はありますか。
 北村 国際ホテル・レストランショーを予定しています。2022年に初めて出展したのですが、ホテル側からの反響が大きかったのです。弊社はソファなどの家具のほかにアートも扱っていますので、こういった製品も評価されました。2022年の時は、そこから引き合いが発生し、あるリゾートホテルに数千万円の受注を獲得することもありました。オーナーとのつながりもできますし、デザイン会社や建築事務所の方々とも繋がれます。後者の方々が実質的な意思決定権者であることも少なくありません。そのような人たちと出会えるのも魅力だと感じています。

 ――2024年はどんな年になると思っていますか。
 北村 2021年、2022年はコロナの影響で訪れた需要があり、業界全体がこれら需要を取り込むことができたと思います。しかし、それらは降って湧いた需要であり、今年はなくなりました。人々の消費は外に向かい、その上、景況感は物価高の影響で向かい風です。家電でも同じ状況です。2023年は先食い後の初年度でした。そこを考えると来年(2024年)は少しだけよくなるのではないかとも思います。

 しかし一方、円安がさらに進行したらインフレが加速し、全体の景況感が悪化して人々の財布の紐は一層強まる可能性もあります。また、世界情勢も決して楽観視できません。中国との関係が悪化した場合、業界にも大きな影響があるでしょう。このように良い要素と悪い要素を足した結果、どうなるかはわかりません。わかりませんが、いずれの結果にも対応できるよう備えようと思っています。

 ――本日はお忙しい中、エドラ、KAREのご紹介、そしてインタビューにお答えいただきありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)