【インタビュー2024】カリモク家具 取締役社長 加藤正俊 氏 キーワードは「多様化」。世界に通用するブランド力へ

マルチブランドでマルチチャネルへの対応を

――カリモクニュースタンダードやカリモクケースなど多くのブランドを展開されるようになりましたね、今日はまずその背景や、今後の展開についてお教え頂ければと思います。

加藤 もともと当社は、スタンダードな「カリモク」とハイグレードな「ドマーニ」という2ブランドで展開してきました。また、プライベートブランド向けでは「チターノ」や「ディレトーレ」なども開発を進めてきました。

2002年に「カリモク60」を立ち上げ、これまでと異なるブランドで、そしてこれまでと異なるチャネル展開を図ったところ、一定の成果をあげることができました。現在は、これに「カリモクニュースタンダード」や「カリモクケース」などを加え、マルチブランドの展開を行っております。

また、チャネル展開も多様化しております。海外についていえば、ヨーロッパはプロジェクト案件での納入が多数を占める一方、アメリカや東アジアでは当社製品の取扱店自体が拡大しています。マルチブランドをもって、多様化するチャンネルに対応していきたいと考えています。

――販売のチャネルは、時代とともに多様化してきたということですね。とりわけどのような業種がキープレイヤーとお考えで、また注力される予定でしょうか。

加藤 はい、多様化は進んでいますが、特定の業種にキープレイヤーを絞ることはできないと思います。現代は、家具店様が家具需要の大部分を供給されてきた時代から変化を遂げたと言えるでしょう。

今から約30年前、私がカリモク家具に入社した頃、人口15万人の都市には1000坪で年商10億円に達する家具店様が多くいらっしゃいました。しかし時代の流れ、変化とともに、残念ながら淘汰の傾向にあります。一方で新たなお取り扱い先として、IDC大塚家具様やニトリ様といったナショナルチェーン店様にも、PB製品を中心にお取り扱いを頂いています。

また、小規模・専門特化したインテリアショップ店様が登場し、中には坪100万円以上の売上をあげられる企業様もいらっしゃいます。そういった点からもプレイヤー自体が多様化してきたことがわかります。

また、これは当社製品の取扱店に限らずお話しますが、例えばECマーケットでも、コストに優れる商品の取り扱いに特化してご販売されている企業もありますし、国内ECシェアナンバーワンのアマゾンでも家具を取り扱っています。そして時代の流れとともにハウスメーカー様は、比較的高額な家具をお取り扱いされるようになりました。私たちはその中で一つの業種業態に注力しているわけではありません。このような市場状況を受けて、多面的に取り扱いチャネルを拡大していきたいと考えています。

――家具店様の存在は大きいながらも、ECやハウスメーカー様など、さまざまなチャンネルに対応すべきということですね。近年ではコントラクト市場に力を入れるメーカー様も見られるようになってきました。御社の同市場へのアプローチについてお教えください。

加藤 家具業界は円安と価格のインフレが起きている中で、同市場は比較的安定した数字を伸ばしているという評価です。コントラクト市場の中には、オフィス、ホテル、商業施設など様々な分野があります。

オフィスに関しては、昨今ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)も流行っておりますが、フリーアドレスが採用され、リビングのような空間が取り入れられるなど、これまた多様化の流れがあります。従来のデスク主体のオフィスづくりではなく、社員にもっとくつろいで仕事をして頂く、仕事の生産性を高める、というオフィスの新しい「狙い」が(コロナ以降も)継続して見受けられます。このような場では、私たちのカリモクニュースタンダードや、カリモクケースの採用が好調です。

一方商業施設では、某自動車メーカー様など、特定のお施主様に継続指名を頂けるようになりました。このようにコントラクト市場にもまた、多様なニーズがあるのです。温泉施設、旅館などもカリモクブランドを取り扱って頂けるようになってきました。これまで通り、決定権者は基本的にオーナー様ではありますが、近年は設計事務所様やコンサル会社様の影響力の高まりも感じるようになりました。

また、旅館に関して言えば今から20年ほど前から、団体旅行客の数が減少してきました。これにより、旅館も個室化、高級化、小型化するなど、改装を通じて専門特化の動きがみられるようになってきました。私たち家具メーカーも今、そのような施設の変化やコンセプトにあわせて、家具の提案を変えていくことが求められています。

――設計事務所様やコンサルタント会社様の影響力が高まっているということですが、御社の営業担当者はこの流れに対してどう対応しているのですか。

加藤 当社の営業担当が直接営業を行うケースもあれば、その間に私たちのお得意先様が入っているケースもあります。そういう意味では、こういったお得意様先の中身にもまた、近年変化がみられると言えましょう。

――お得意先様の変化についてもう少し詳しく教えてください。

加藤 はい、(コントラクトの案件で)ショップ系の企業様が間に入ることも増えましたし、デザイン系商品に特化したECでは、品揃えとページデザインのUIが優れていることもあり、設計事務所様との繋がりが強く、そちら経由でお声がかかるといった新しい動きがみられるようになりました。これもまた、「多様化」です。日本は人口減少の局面を迎えていますが、まだ1億人以上あり、大きなマーケットがあります。そのマーケットで、これまでにない色々なチャネルを通じて購入ルートが生まれてきました。

また、コントラクトから離れますと、例えば3年前からIDC大塚家具様とも取引を再開させて頂いているのですが、同社とは当初(同社の)オリジナル品のみのお取引でした。しかし、より幅広いお客様への販売を目指すべく、後年、弊社プロパー製品の取り扱いも開始頂くに至りました。結果、お互いにとってより売上が拡大しました。このように多様化するニーズに対応し、取り扱い品目を徐々に増やしていくのは、お互いのためになることだと考えます。

――今のインテリアのトレンドをどのようにとらえていますか。

加藤 私は、トレンドという捉え方がなかなか難しい時代だと思っています。価値観が多様化していることと、そもそもエンドユーザー様側で情報の入手が容易になっているため、トレンドを定めることは難しくなりました。しかし一方で、首都圏の不動産価格が上昇して住宅のサイズが縮小してきているので、リビングダイニングの概念が変わってきている側面はあると思います。

私たちの世代では、リビングにはテレビがあってソファがあるという固定観念がみられがちですが、もはや現代の若年層のご夫婦が、同じテレビで同じ番組を見るとはとても思えません。タブレットやスマホなどをそれぞれが持って、好きなものを見ている、そういう暮らし方をされている方がずいぶん増えたのではないでしょうか。

ちょうど2年前に発売した商品で、背もたれのないアイランドソファ「UW20モデル」があります。おかげさまで好調で、その現象をみていると、令和のこの時代は我々のこの20世紀の、平成の常識からずいぶん離れてきているのだなと実感する次第です。

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――御社は世の中の動きに対して敏感に思えます。どのように調査して、商品の構想に反映しているのでしょうか。

加藤 それは従業員の努力です。私たちも外部デザイナー様を多く起用していますが、この手の商品(UW20モデル)はインハウスデザイナー発であることがほとんどです。嬉しいことに当社には20代、30代の若手のデザイナーも在籍してくれています。若年層の生活に身近な仲間がいることで、そのような発想を商品に込めることができているのではないでしょうか。デザイナーだけでなく、営業や製造部門の若手層が厚くなって参りました。これは当社の強みと言えるでしょう。

――他の取り組みも時代を掴んでおられますね、山田常務は自らYouTubeに出演していますね。

加藤 彼の中には、私たちカリモクの反省が込められているのだと思います。世の中が、パソコン・インターネットが大々的に普及した時代を経て、今やスマートフォン、タブレットが情報収集手段において主流の時代に移り変わりました。私たちは、この移行期に乗り遅れたという失敗があるのです。

私たちが2002年にカリモク60をリリースした頃はまだ、20代のユーザーに情報が届いていました。新卒採用時の面接で、「当社のことをどうやって知りましたか」と聞くと、「カリモク60を通じて知りました」という方が一定数いらっしゃいましたし、若年層の購買も少なくありませんでした。そして当時の同ブランドの露出方法は、雑誌掲載がメインでした。

しかし、iPhoneの誕生から若年層の情報収集のやり方が急速に変化し、それまでの雑誌による情報発信が非常に難しくなりました。人々の情報収集手段が、スマートフォンに代わっていったのです。当時の私たちは、ネット発信においてもスマートフォンではなくパソコンからの閲覧を基準としていたため、結果として世の中での認知度が急速に低下していったのです。

そこで山田とも会話し、ブランドの認知を向上するために何が必要かということを議論しました。販売促進の姿勢が変化しているのは、そのような出来事を経てのことなのです。アマゾンで取り扱いを開始したのも、このようなことを受けてのことです。もちろんデジタルだけでなく実店舗での露出も継続しています。カリモク60では直営店として大阪や名古屋でも出店致しました。

――ありがとうございます。話は変わりますが、外部デザイナーを積極的に採用していますね。これは売り上げに影響があるのでしょうか。

加藤 海外の外部デザイナーの方々は、自身が営業活動をするという文化があり、これが海外市場でのスペックインに繋がっています。その結果、国内より海外で売れている商品もあります。製品価格にデザイン料を上乗せしても、売れていくという背景があるのです。

しかしもちろん、そのことのみで外部デザイナーを起用しているわけではありません。カリモクニュースタンダードでは、デザイナー様の将来性に投資するという意味合いがありましたし、カリモクケースでは、純粋にご縁のあったデザイナー様に依頼することがありました。このようにいろいろなパターンがあります。

――デザイナーを使うことで、エンドユーザーへの販売促進という側面はあるのでしょうか。

加藤 これに関しては、ホームユースのエンドユーザー様への販売については、いかに有名なデザイナー様にデザインして頂いたとしても、効果が低いと思われます。一方でアップルの本社に採用された家具というような、有名な施設への採用事例は(販促の)効果があるように感じます。しかし、コントラクト市場では訴求効果があります。また外部デザイナーの起用は、社内、すなわちインハウスデザイナーへの刺激といった側面も無視できません。

――今後、家具・インテリア業界でどういう会社にしたいというビジョンをお持ちでしょうか。

加藤 世界に通用するブランド力を持ちたい、と思っています。ヨーロッパでは物件のスペックが進み、北米や韓国・中国では積極的に取り扱ってくださるディーラー様が増えてきました。今後、東南アジアでも成果に繋げていく見通しを立てています。

現在、海外の売上比率は卸ベースで約5%ですが、これを1割超えるようにしたいと思っています。最初に売上が安定したのは韓国でした。私たち日本人がヨーロッパで流行っているインテリアを国内市場に取り入れようとするのと同じ目線で、韓国の方々は日本で流行っている製品を探しておられます。そのような方々にカリモク60を提案し、受け入れていただけました。その後、カリモクニュースタンダードなど他ブランドの取り扱いも拡大していきました。

当初、韓国法人は日本人で運営していましたが、今は現地の人だけで運営ができるようになりました。海外展開でもサイズを変えるといったことはしていませんが、国によっては大きなサイズを求められることもあり、これは今後の課題としております。

このように申しますと海外一直線のように聞こえてしまいますが、もちろん国内市場についても引き続き注力して参ります。一般的には、国内で業界シェア4割を超えるとさらなる拡大に高い壁が立ちふさがると言われますが、我々はまだそこまでいっていないので、国内でやれることはまだまだある、という認識です。

――家具販売において、新築やリノベーションによるケースと、経年による入れ替えやライフイベントによるものを比較するとどちらが多いのでしょうか。その捉え方により企業のアプローチも異なると考えているのですが。

加藤 今は、私はまだ同じぐらいか、わずかに新築が多いのではないかと考えます。しかし新築着工戸数の減少は今後避けられないでしょう。私が入社したころ、新築住宅とブライダルは2大マーケットとされていました。2つの巨大なマーケットは当時、家具業界を大きく牽引してくれました。前述の1000坪・10億円の販売店様が多くいらっしゃったのもこのことが大きな要因です。

新築案件の売上単価は依然として大きいですが、かつてのような市場で推移は難しいと思われますので、買い替え促進の取り組みの重要性が増してきました。弊社でも中古商品を販売する業態と組んで、下取りキャンペーンを展開するなどして、買い替え需要のアプローチ、あるいは中古品をリサイクルして、リユース品展開といったことも行っています。

――インテリア業界に向けて発信したいメッセージがあればお教えください。

加藤 家具業界は現在、皆様インフレで苦闘しているさなかではありますが、寡占化のない業界でもあります。すなわち、あらゆるプレイヤーにとってチャンスがあると思っており、当社も前向きに取り組んでいきたいと思っております。

――本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)