【インタビュー2025:経営者の眼】セイアローズ 代表取締役 中野光之 氏 × 取締役副社長 中村貴之 氏

――業務用家具の販売を主に手掛けているセイアローズですが、まずはその主な販売先(納入先)について教えていただけますか。

中野 当社はオリジナル家具を販売する既製品メーカーではありますが、売上の約8割は特注家具が占めています。ホテル、オフィス、商業施設などがメインで、案件ごとの設計・製作が基本です。中でもホテル案件は規模が大きいため、1物件毎の売上インパクトも大きくなってきています。

中村 ホテルは1件で数億円規模になります。4~5億円クラスも珍しくありませんし、さらに大きい案件もあります。

中野 過去に売上が大きく伸びた期は、このようなホテルの大型案件に加え、オフィスなどのコントラクト案件も好調でした。とはいえ“実力の常態”というより、売上計上のタイミングが重なった結果でもあります。

――決算賞与を導入されているとのことですが、高いレベルで設定されているのでしょうか。

中野 個々の配分は役割と貢献度で差をつけますが、少額で終わることはありません。健全な利益構造の中で、社員の貢献にきちんと報いることを大切にしており、設計や管理など間接部門に対しても会社の質を高める大切なプロセスの一員と考え、しっかりと還元する仕組みを整えています。

――為替の影響についても伺います。ファブレスで海外生産を活用されていますが、直近の影響はいかがですか。

中野 ホテル向けの特注家具は中国での生産が多く、為替の影響は無視できません。

中村 とはいえ今期・前期は限定的でした。むしろコロナの期間中に見積もった長期案件のほうが悩ましかったです。当社は受注時に発注側と為替前提を合意し、変動が大きい場合は支払条件の再調整も含めて協議する運用にしています。

中野 加えて、受注確定後は為替予約で元建て・ドル建てのエクスポージャーを極力固定します。円安局面の負担を抑えるため、必要に応じてドル保有を厚めにするなど、財務面でもヘッジをかけています。リスクはゼロにできませんが、利益を毀損しない仕組みを先に作っておくのが肝心ですね。

――セイアローズは3月決算ですので、本日(2025年9月30日にインタビューを実施)はちょうど上期の締めですね。今期ここまでの業績はいかがでしょう。特に売上の重要な柱であるホテル案件についてもお伺いできますか。

中野 上期終了時点で、通期売上目標に対して既に達成見込みとしています。大型ホテルはリードタイムが長く、期首時点で10億円超の受注を確保してスタート、という年が続いています。来期や再来期も続きそうです。

中村 なお当社は事業部を「ホテル」と「コントラクト(オフィス・商業施設ほか)」に分け、どちらかに偏らない体制を維持しています。つまりホテルはおおよそ半分でコントロールしています。そして今期は現在、両部門ともに順調です。特にコントラクトではオフィスがコンスタントに伸びています。飲食はコロナ以降ゆっくり回復してきていると感じます。

中野 実際、この分散・コントロールがコロナ中に効果を発揮しました。ホテル案件が止まった分を改装需要の増えたオフィス案件でカバーし、赤字を避けられました。最初からリスクを割る設計にしていたのが奏功しました。

――受注が積み上がる原動力はどこにあると自己評価されていますか。銀座のショールームを見ると、営業だけでなくマーケティングの精度も高いと感じます。

中村 基本スタンスは「質を落とさない」。その結果、営業は“攻める”より“紹介でつながる”比率が高いですね。現場の納まりと仕上がりで次の案件をいただく循環ができています。

中野 同じ協力工場を使っている同業他社さんと比べても、「提案の精度」「図面の完成度」「進行のスムーズさ」で評価いただくことが多いです。プロセスと出来上がりの質に満足いただけ、次の案件をご紹介いただけるのです。その積み重ねで年商3億円弱の創業期から現在の規模まで伸びてきました。質の維持のため、人材の採用基準も厳格で、誰でも採ることはしません。新卒は4年に1度だけ。育成サイクルが回り、1人前になったタイミングで次の新卒が入る設計にしています。創業時から築いてきた当社の品質を落とさないための仕組みづくりを徹底しています。

銀座ショールームは、品質をご確認いただきたいという思いで期間限定のショールームをオープンしました。よりお客様に興味を持っていただけるようマーケティングにも力を入れ、家具ブランドとして認知していただけるよう努めています。

――中途採用で重視する「質」とは、具体的にどんなポイントでしょうか。

中村 最終的には人柄です。

中野 スキルも大切ではありますが、当社の社風に合う方を採用するように心がけています。実際の採用では、業界内から「入りたい」と言って来てくださる方を面接し、合致すればお迎えするケースが多いです。求人媒体を使うことは少なく、使うケースでもありがたいことに応募が驚くほど多く、良い出会いがありました。入社後は「ここで頑張らなきゃ」と自然に思える雰囲気ができているのも追い風ですね。モチベーションが高い社員が多いのは、創業期からの文化が受け継がれているからだと思います。

――企業文化を守る「水質管理」は、現場の接し方が鍵になります。幹部として心がけていることはなんでしょうか。

中村 とにかく対話です。週に2~3回は若手とも顔を合わせ、考えや悩みを細かく共有します。言葉にしないと伝わらないですからね。社員間のコミュニケーションは会社としても後押ししています。

中野 社内で起こった些細なトラブルも報告や相談がスムーズに行われる環境にはなっている気がします。小さな行き違いも、その場で解いてしまうのが一番です。社員同士でちょっとした火種があれば、当事者を誘って一緒に食事に行き、その場でお互いの言い分を聞くこともあります。結局組織は、人と人です。早めに向き合って、場を共有するのが一番の予防策だと思っています。

――創業当初から、いまのようなスタンスだったのでしょうか。

中野 そうですね。創業は6人で古民家を借りて始めました。資金も設備も乏しい分、結束は強かったですね。その空気を崩さないように少しずつ組織を大きくしてきたので、「管理する」という感覚はありません。社員が「これをやりたい」と言えば、まずは任せてみる。自由度は高いほうだと思います。

中村 各チームが自走しており、私たちからの指示は最小限です。人として成長してほしい、どこへ行っても評価される人材になってほしいという、その点だけは強く伝えています。

――業界変化が加速しています。現在の家具業界をどう見ていますか。

中野 実店舗での小売は確実に厳しくなると思います。数年前なら「現物を見ないと買えない」が常識でしたが、いまはネット購入が当たり前。残念ながら、ECを上手く併用出来ない小売店さんは苦しくなるのではないでしょうか。

中村 当社にもECサイトはありますが、主目的はアウトレット販売で、売上の柱にはしていません。本格的に伸ばすなら、ネットに強い専任チームと仕組みが不可欠だと思いますが、まずはそれ以前に自社カタログ品の新規販路や海外展開に注力しています。そのための第一段階として、海外のデザインアワードにエントリーをし、シカゴグッドデザイン賞やRed Dot、IDEAを受賞することが出来ています。創業時から掲げてきた「海外で売る」にようやく着手できる状況になりました。

――展開先はどの地域を想定していますか。

中村 ヨーロッパと東南アジアです。EU圏については具体的な計画が現在進んでおり、具現化していけることを楽しみにしています。一方で、提携を進めているベトナム工場での生産を起点に、来年は3月に、海外の見本市に当社ブランドを出展します。協力企業のブースをお借りする形ですが、日本企業の品質には注目が集まりますから、手応えを感じています。これを機にベトナム市場でインテリアに拘りのあるお客様への展開にも挑んできたいと考えています。

――ご経歴についてもお伺いします。創業の背景を教えてください。

中野 創業立ち上げは6名で行いました。リーマンショック後、当時勤務先は大きな混乱期を迎えており、「自分たちでやろう」と決めたのが出発点です。

創業時の社長は私たちの元上司ですが、すでに引退しており、私は2代目で来年には中村が3代目を引き継ぎます。当社は「役員は65歳で勇退」「一族承継はしない」というルールを明文化してきました。

――同族承継を避ける理由はなんでしょうか。

中野 中小企業では“家督”でバトンが渡ることが多いですが、必ずしも最適とは限りません。加えて、経営者が高齢化して判断が鈍ってもポジションに居座り続けるということは避けたい。だからこそルールに則って事業承継を繰り返していく仕組みにしています。

――社長1人で立ち上げる会社が多いなか、6人でのスタートは珍しい印象です。創業初期の不安や資金面はどう乗り切りましたか。

中村 不安は意外と少なかったですね。メンバーは私も含め営業職ばかりでしたので、お客様や協力会社様との良好な関係が既に構築されていたこともあり、早い時期からお取引していただけたことにとても感謝しています。特注家具は「会社」よりも「担当者」次第で完成度が違ってきます。図面の詰め方やコストの落とし方、きれいに納めるノウハウで成果が変わるので、信頼できる営業マンであれば会社が変わっても取引は継続します。

とはいえ、当たり前ですが取引口座を開設して頂けなかった大手企業様も多く、まずは小口案件を積み重ねて実績づくりからスタートしました。ホテル案件の入札では落札しても「実績がないから」とお断りされるケースもありましたが、地道に前進を続けました。

中野 1期目は大変でした。創業3か月は全員無給でお金が無いので毎朝、会社のキッチンで中村が目玉焼きと魚肉ソーセージの朝食を作ってくれたのをよく覚えています。1年目は文字どおり這い上がる時期でしたが、ゼロから仕組みをつくる面白さのほうが勝っていました。初めてボーナスを支給できた時は、社員が泣いて喜んでくれました。あの瞬間は忘れられませんよね。

中村 朝食係は丸3年続けました。全員で同じテーブルを囲むのが日課だったのです。お金はなくても結束は強かったですね。

――創業メンバーが順にバトンを渡していく過程で、次世代にマインドをどう継承していくのか。日常のマネジメントで意識していることはありますか。

中野 とにかく会話の量ですね。将来の役割まで含めてよく話します。役員は65歳定年と決めているのでポストは循環しますし、自分の世代で最も貢献し求心力を持てば社長も狙えるという前提を日々共有して、当事者意識を育てています。

中村 上位職の背中を若手に見せるのも大事です。処遇は成果に応じて明快に上がる。「あれだけやれば、あそこまで行ける」と実感できるので、モチベーションの燃料になります。お金だけじゃなく、仕事ぶりが“かっこいい”先輩が多いのも効いていますね。

中野 働きやすい空気はかなりあると思います。中途採用の社員がそう言ってくれることも多く、離職率もほぼゼロといってよいでしょう。

――お二人が経営で担当している領域を教えてください。

中野 私は財務です。創業時からの役割です。

中村 私は営業ですね。先代社長は企画部門でしたが、その引継ぎ先はクリエイティブディレクション部という部門を作り専門化しています。

――しかし、そうなると来年に中野社長が退任された後、財務の要はどう引き継がれるのでしょうか。

中村 社長を降りても、中野には残ってもらう約束です。肩書は変わっても、しばらくは財務面で伴走してもらいます。

中野 財務と言えるほど難しいことはしていませんが、基本的なことについては、既に引継ぎを進めています。そして嬉しいことに社内には次の役員候補たちがたくさんいますので、そこで役割の引継ぎが完了すれば、社長が先代と同じことをやる必要はないと思っています。

――セイアローズは、社員のモチベーション設計が非常に手厚いと感じました。

中村 昔から“どうやって部下のやる気を上げるか”しか考えていません。結局そこが全てですからね。

中野 当社は「全員が一人分以上」を前提にしています。よく言われる「2:6:2の法則」には当てはまりません。全員が自分の役割を理解して、1人分以上の成果を出せば、会社の利益は大きくなりますし、実際にそうなっていると思います。

中村 社員はサラリーマン感覚というより“自分の食い扶持は自分で稼ぐ”という小さな経営者マインドで動いている。ここが他社と違うところかもしれませんね。自慢の社員たちです。

――多岐にわたりお話をいただき、ありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)