【取材】ディスカッションレポート:アメリカ広葉樹輸出協会 「アメリカ広葉樹建築家パネルディスカッション」開催 「床」と「森」と「情報」の課題を議論

アメリカ広葉樹輸出協会(AHEC:日本代表、辻隆洋氏)が2025年11月20日、東京都港区のヒルトン東京お台場で「アメリカ広葉樹建築家パネルディスカッション」を開催した。会場には住宅設計を主軸とする建築家のほか、木材輸入業者、大手ハウスメーカー関係者らが集まり、ブラックチェリーやホワイトオークなどアメリカ広葉樹を内装材として使う意義と課題について意見を交わした。

基調講演として、坂本昭氏(設計工房CASA)と横内敏人氏(横内敏人建築設計事務所)が、自身の住宅・別荘・公共建築での活用事例を紹介し、その後、高橋隆博氏(株式会社アトリエ秀)、池田隆氏(株式会社design it)を加えた4人のパネルディスカッションに移った。


最初の講演「身体的建築」で登壇した坂本氏は、独学で建築を学び、100回以上海外の建築を見て歩いた経験を踏まえ、「身体で感じる建築」をテーマに事例を紹介した。大阪府ニュータウンの住宅では、道路側の眺望を一点に絞り込んだダイニングの開口部と、塗り壁と木の床の対比により、限られた予算のなかで空間の質を高めた。床材にはアメリカ広葉樹のブラックチェリーを採用。壁や天井はコストを抑えた仕上げとしながら、足裏が直接触れる部分に広葉樹を用いることで、生活の「身体感覚」を支える構成としている。

茨城県ひたちなか市の歯科診療所兼住宅では、木造の大空間の中に診療スペースを配置した。診療用チェアが激しく移動するフロアにブラックチェリーを用い、長年の使用にも耐えうる床材としての信頼性を強調した。兵庫県太子町の庁舎・交流棟では、議場や窓口カウンター、ロビーの床仕上げに同材を使用し、公共建築の中で住民が日常的に触れる素材としての位置づけを示した。

「古江台の家」では、同氏が好みこだわる漆喰の壁をふんだんに取り入れ、ブラックチェリーの赤みがかった床材と組み合わせた。同氏は「建築は家具のレイアウトが大切になってくる」と語り、空間は家具との調和により完成することにも言及した。同案件ではチェリーの床材に合う、特注家具が設えられた。既製品の場合は北欧家具やスチールの細い脚部を持つ、スタイリッシュなものが目立った。兵庫県の「緑ヶ丘の家」ではリビングに腰窓が設けられ、配置された家具はすべてそれよりも背の低い家具が選出された。


続く横内氏の講演「木造らしい家づくりについて」では、山梨県甲府市出身で、米国ボストンで大学院・設計事務所勤務を経験した経歴が語られた。海外生活を通じて、日本の自然や民家の良さに気づき、帰国後は「自然と共に暮らす」木造住宅を志向するようになったという。「日本の建築は畳を使ってきたため、家具を使ってこない文化だった。よって、杉やひのきなどの針葉樹が建築の中心だった。現代の生活に家具は欠かせず、最大限活かすためには硬い広葉樹のフローリングが必要だ。日本は広葉樹の供給が少なく、大量に使用する場合はアメリカに頼る必要がある」と、米国広葉樹活用の意義を語った。

事例として、山梨県北部の高台に建つ別荘では、南アルプスと森の景観を取り込んだ内部空間を紹介。滋賀県・琵琶湖西岸では、北側に広がる田んぼの景色を取り込むため、南北両面に大きな開口部を設け、田園風景と一体になったリビングを計画した。八ヶ岳西麓、蓼科の企業社宅では、唐松林の中に南北に長い建物を置き、奥行きのあるテラスを設けることで、「屋内にいながら外にいるような」空間を実現している。

床材には、ブラックチェリーやホワイトオークを多用する。日本は森林国でありながら広葉樹の供給量が限られ、スギやヒノキなど針葉樹が中心となるため、家具を置いた途端に傷が目立ってしまう。そこで、床暖房との相性を考慮し、3ミリ厚程度の挽き板を表層に貼った複合フローリングを標準とし、無垢材については隙間や反りのリスクを見極めながら使い分けていると説明した。
同氏の設計する住宅では、床がチェリーだと建具や家具もチェリーにするなど、統一を図るようにしている。また建築主はしばしば既存の家具は持ち込む傾向にあるが、同氏の考えでは家具も建物と調和させるべきとした。床や壁に調和した家具の提案パースを見せることで、大抵の施主は意匠に沿った買い替えを決断するという。


その後、パネルディスカッションに移行した。パネリストは坂本氏、横内氏に加えて、アトリエ秀の高橋隆博氏、design itの池田隆氏も加わり、4名で行われた。パネルディスカッションの第1議題は「日本の建築家の無垢内装材に対する考え方」。最初に発言した高橋氏は、輸入住宅の設計・施工にも携わってきた経験から、施主の間に根強い「無垢なら良い」という“無垢神話”が存在すると指摘した。自身はアメリカで育ったこともあり、「欧米では厚い突き板を貼った複合フローリングの方が、むしろ高級品として扱われる」と紹介。加工し欠点を取り除いた板を選別して貼り合わせることで、安定した品質と幅広材を実現できる点を評価し、現在の実務では無垢材より複合フローリングを採用するケースが多いと述べた。

一方、池田氏は、公共建築、とりわけ劇場の客席フロアなど土足利用を前提とする空間では、音響面も考慮し無垢フローリングを用いることを紹介。後の研磨・再仕上げを想定して無垢フローリングを使ってきた経験を紹介した。住宅では、昨今は床暖房を前提に複合フローリングが主流だが、京都の築1町家リノベーションでは、既存の木部との調和を図るために無垢材を用いることで、歴史ある建物に対する敬意と連続性を意識したという。

第2議題は「アメリカ広葉樹の無垢内装材の良さと使い勝手」。坂本氏は、自邸で30年前にブラックチェリーを床材として採用して以来、多くの物件で同材を使用していることを紹介。床暖房を併用しても隙間や割れがほとんど生じていないことから、「床暖房と相性の良い無垢材」と評価した。また、チェリー特有の経年による濃色化については、事前に施主へ説明していると述べた。

横内氏は、ホワイトオークを床だけでなく建具や家具の天板にも用いる事例を示し、「品質・供給が安定している」と、設計側にとって扱いやすい樹種である点を強調した。その一方で、複合フローリングの初期製品では、表層板の剥離や端部のめくれ上がりにより足が引っかかるトラブルも経験しており、「素足で室内を歩く文化である日本においては、無垢材の方が向いているのでは」と述べた。

高橋氏は、床材に合わせて窓枠や笠木、造作家具を同じ樹種でまとめることができる点をアメリカ広葉樹の利点に挙げた。課題としては、無垢フローリングの幅が細くなりがちな点を挙げ、「もし100〜150ミリ程度の広幅材が安定供給されれば、積極的に使いたい」と話した。

議論は、アメリカ広葉樹の環境性にも及んだ。横内氏は、かつてAHECのプログラムを通じて米国の製材業者から直接話を聞いた経験を紹介。日本では原生林からの伐採イメージから広葉樹利用が森林破壊につながるとの懸念も根強いが、「アメリカの広葉樹林は平地に広がり、同じ樹種が一帯を占める森が多い。大径木だけを選木して伐採し、その跡地に日が差すことで、自然に次世代の木が更新される」と説明を受け、「むしろ適切に使うことが森林の更新につながる」との認識を示した。

辻氏も、アメリカ広葉樹の成長量が伐採量を大きく上回っていること、択伐方式により森林の若返りが図られていること、人工乾燥はコンピュータ化により、乾燥率や含水率をコントロールしていること、そして日本のクリーンウッド法に基づく合法性確認にも対応できると補足し、環境面からも安心して採用できる素材であると訴えた。

高橋氏は「広葉樹材は国内流通が少なく、アメリカ広葉樹を使うことが多い。国産の広葉樹を指定されることは稀だ」と述べた。横内氏も「ベテランの大工が言っていたが、アメリカ広葉樹は日本のナラよりも柔らかいため、加工はそれほど難しくないらしい」と語るなど、現場での問題は特にないという見解を示した。

第3議題は「建築家に対するアメリカ広葉樹内装材の情報提供方法」。池田氏は、これまで木材会社から産地や認証制度まで踏み込んだ説明を受ける機会は少なく、「色や木目といった意匠面から樹種を選び、その後は工務店任せになりがちだ」と現状を指摘した。木材に関する情報提供を受けたとしても、地方の物件が多いことから、それぞれの地域の工務店が用意しやすい材を使うケースが多く、材の産地まで追って採用を決めることは、現段階では難しいと述べた。

横内氏は、チェリーやレッドオーク、ホワイトオークを主に使用してきているものの、アメリカ広葉樹の樹種の情報提供があまりなく、アルダー材などに馴染みがないことを語った。そのうえで同氏は、「ロシアや中国産の木材は、違法伐採で入ってくるものもある。その点アメリカ広葉樹はしっかりとトレースできるため、環境問題の観点からも、しっかりと木材の情報を提供していただければ、多少コストが高くてもアメリカ広葉樹の採用検討につながるのでは」と述べた。

広葉樹専門業者は、国産広葉樹について「政策的には国産材利用が推奨されているが、樹種・サイズとも選択肢が限られ、良材を安定して供給するのが難しくなっている」と現状を報告。そのうえで、「乾燥や品質管理を徹底した輸入広葉樹を設計段階から組み込んでもらうことが重要」と訴えた。

別の輸入業者側からは、AHECの支援を受けて倉庫見学会や内装実証エコプロジェクトを継続的に行い、建築家と木材業界が直接対話できる場を増やしていきたいとの提案もあった。実物の木材を見て触れ、製材・乾燥・加工のプロセスを知ってもらうことで、アメリカ広葉樹の特性や環境性への理解を深めたい考えだ。

今回のパネルディスカッションでは、住宅から庁舎・劇場まで幅広い実例を通じて、アメリカ広葉樹が日本の「床文化」を支える素材としてすでに定着しつつある姿が浮かび上がった。床暖房との相性、土足利用に耐える強度、経年変化の表情。建築家たちは、それぞれの設計哲学の中でブラックチェリーやホワイトオークを位置づけ、無垢材と複合フローリングを使い分けている。

一方で、国産広葉樹の供給制約、地方での流通網の弱体化、産地情報の不足など、設計者が材を選ぶうえでの課題も明らかになった。AHECと木材業界、そして建築家が連携し、情報と実物の両面から対話を重ねられるかどうかが、日本の木造建築の質と森づくりの双方を支える鍵になりそうだ。

(長澤貴之)