昭和木材 旭川工場にみる 日本の広葉樹需要への挑戦

 昭和木材(北海道旭川市、高橋範行社長)は、今年も旭川デザインウィークの開催期間中、旭川工場を開放し、自社取り組みについてメーカーや販売店、デザイナーにアピールした。

 同工場には、多くの家具メーカーが新商品制作に向けて見学や打ち合わせにくる他、デザイナーや建築設計事務所なども多く訪れる。木材の性質上伐採から出荷までに長い年月を要するため、建築計画に合わせて家具や建築材を用意する必要がある。また、短納期にも対応できる樹種やクオリティを確認する目的もあるという。記者は初めて同社工場を訪れたが、そこでは普段目にすることのできない、家具業界を支える企業の取り組みと工夫、市況への挑戦の様がみてとれた。

山積する北海道産材

 同工場では、北海道産材のみならず、北米などから仕入れた大量の広葉樹を保管、管理。主に家具業界や住宅業界に向けて木材や加工品を供給している。工場の屋外には大量の丸太が山と積まれている。品質を維持するために地下水をくみ上げ、定期的に丸太に向けて散水していた。木材がもつ品質・特性と美観を損なわないために、丸太を冷却する必要があるためだ。長い期間、湿度の高い状態におかれた丸太は緑色に苔むしていく。苔もまた、丸太の品質を守るのだという。広葉樹は内装や家具に多く用いられるものなので、強度や大きさがあるというだけでなく美観が大切になる。何もせずにただ蓄材すると割れや色が悪くなったり、最悪の場合腐ることもあるからだ。

 資材置き場にはミズナラ、ブラックウォルナット、カバ、ニレなどが山となって積まれていた。取り扱い樹種は15種にも及ぶという。インテリアの世界では品質もさることながら、外観が重要視される。そのニーズに応えるために、同社では可能な限り多くの樹種を取り扱っているという。

 丸太が家具へと生まれ変わるには、まず板に製材され、今度は乾燥させる必要がある。伐採直後は冷水で冷やし、今度は乾燥させるという全く逆のプロセスをたどらなければならないことからも、木材の扱いがデリケートなことを物語る。
 「北海道は一年の半分が寒冷で、丸太を冷却しておくのに最適です。非常に多くの木材を取り扱うので、広大な土地も必要です。さらにこのエリアは地下水が豊富で、くみ上げて散水して、やがて地面に吸収されてまた地下水に循環されるのです」と高橋専務は語る。置き場は見渡す限りの丸太が積み上げられ、遠くには加工された木材が置かれていた。

 苔むすほど長く置かれた丸太があるのは、広葉樹は11月から3月にかけての寒い時期に伐採されるのが一般的で、冬に伐採したものを保管するためだ。夏に切ってしまうと、表皮がはがれやすくなり、丸太が直射日光にさらされて品質が低下してしまうという。

 積まれた丸太は順番に製材場へ送られる。毎日40立米分の丸太が板材に加工されていく。40立米というのは、外国産の太い丸太で50~60本、北海道産材で120本に相当するという。ここでは木材のグレードや長さなど、人の目で選定した上で製材を行う。端材はチップとなって、パルプに変えられる。皮やチップを除くと、だいたい丸太の半分の分量が板材として残るという。また、一本の丸太の品質は均一でなく、家具に用いられる高品質の部位もあれば、単価の安いクラフト品などに利用される中程度の品質のものもある。家具やクラフト品に加え、酒樽やボートの骨組みなど、丸太をなるべく余すことなく使うために、同社の取引先は多岐にわたるという。

長期乾燥にかけられる製材

 丸太から板に製材して、実際に市場に送り出すまでにさらに1~2年近くかかる。板材を乾燥させるために1年以上かかるからだ。材が分厚いと2年を要する場合もあるという。板材は、丸太置き場の隣のエリアに置かれ、ここで長期にわたり出番を待つこととなる。そのため、毎日加工する丸太の量は、直近の販売に必要な量から計算されているわけではなく、1~2年後の需要量の見通しや飛び込み受注、樹種トレンド等を予測しながら決定されている。同社では各家具メーカーに2年後にどの樹種をどれくらい使うのか、調査をしているという。突然のニーズに対応しにくいのも悩ましい点だ。扱う樹種は多岐にわたるため、あらゆる樹種で在庫不足や機会損失を起こさないよう、緻密な計算が必要だという。

 工場内にはボイラー設備があった。同社は家具も製作しており、余剰として生まれた端材とともに燃やして、エネルギーとして利用するためだ。蒸気を取り出して発電、冬場は暖房の電力にも充てられる。しかし主目的は、木材の仕上げに使う人工乾燥機の動力として活用しているのだという。材木置き場で1~2年かけて乾燥させたあと、出荷前に2週間ほどさらに人工乾燥にかけて、ようやく市場に出荷する準備が整うわけだが、その最終段階の光熱費を自前で賄うという取り組みだ。丸太から家具まで手掛けている昭和木材ならではの有効活用といえそうだ。

人の目で木材の選定、判別を行う

伸び行く加工事業
家具関連企業は設備レス化が進展

 同社は乾燥した木材を売るのが事業のメインだが、家具メーカーの持つ設備や体制にも差があるためニーズも多様化してきているという。自社で加工場を持たないため、板材の厚みや幅を指定して特定のサイズへ加工してから納品を希望する家具関連企業も増えてきている。背景には、メーカーの生産合理化や、省人化がある。乾燥機など自社設備が寿命を迎えた際、機器更新ではなく同社に任せることを選ぶメーカーが増えているからだ。

 また、ファブレスメーカーや、オリジナル家具を求める家具店等との取引も広がった。そのためOEM提供をする機会が増えたという。加工場では、木材の加工だけでなく、金具を取り付ける作業場や、塗装場もあった。販売件数という観点でみると既に加工品が上回っているという。このような、加工外注の増加トレンドは10年ほど前から見られはじめ、現在も増え続けているそうだ。同社の営業の戦略もこの10年で変化した。以前は素材を中心とした販売推進が主だったが、家具店からの要望も強く、オリジナル品の製造は年々増えてきている。また家具だけでなく、住宅部材も取り扱い、ハウスメーカーや地場工務店による注文住宅向けに、ドアの枠や階段、手すりも製作していた。

 木材と加工品の売り上げを比較すると、木材が圧倒的に多いが、加工品は加工費が加わるため単価もあがる。売上高の観点でみると、加工品は全体の3割強にも及ぶと聞いた。少子化や家具市場の変容、外資の参入といった背景により、今日の家具販売数量、ひいては広葉樹の販売量はかつての我が国の水準を大きく下回った。昭和木材は時代の流れに対応すべく、加工品も担い、家具メーカーや販売店の設備投資リスクを引き受けることで、売り上げを伸ばしてきた。

 もちろん近年ではベトナムや中国からOEM家具を持ってくる向きもあるが、多品種を少量で対応できるところが昭和木材の強みだと高橋氏は語る。1台、2台の特注品、コントラクトにさえ対応できるのも特長だ。クレーム対応、修理も国内で完結させられる点も訴求ポイントだという。海外では製造できないような、丸太のふち、つまり天然木材の「耳」を活かした天板をつくれる点も、木材を熟知する同社ならではといえる。

加工場

広葉樹をもっと身近に
エンドユーザー向けDIY材「MOOQS」販売へ

 高橋専務によれば、広葉樹のマーケットは長い期間でみると漸減しているという。広葉樹は、内装、家具の中でも高級品に用いられる。物価の上昇に伴い、住宅価格も上がった結果、家のサイズが小型化、あるいは素材のダウングレードにより従来の価格と帳尻を合わせる動きがみられるようになった。これに伴い、内装に広葉樹が使われる機会も減っている。新しいマーケットの開拓が急務となる中、同社がはじめたのはエンドユーザーへの長期的なアプローチである、MOOQS(モークス)の販売だ。モークスとは同社がDIY向けにホームセンターやDIYショップ、家具店に卸している板材のこと。これは、同社による家具・住宅業界、そしてエンドユーザーに向けた広葉樹の啓蒙活動ともいえる。
 現在、エンドユーザーにとって広葉樹は身近な存在とは言えない。事実、何年かに一度家具を選ぶ際に製品の見た目や触り心地を確かめる以外に、日々の生活において広葉樹に触れ、吟味する機会はほとんどないからだ。自身で触り、加工の機会を通して広葉樹を身近に感じてもらう。そうすることで将来的に家具インテリアへの興味を喚起し、質の良い家具を作っている日本のメーカーが脚光を浴びるよう、ひいては新たに生まれた広葉樹の需要を取り込もうとする長期的な取り組みだ。すでに札幌や東北のホームセンターで取引がはじまっている。

外来材、国産材共に価格は上昇トレンドへ

 丸太・資材置き場には、北海道産のタモ材も多く積まれていた。外国産材と比べるといささか小ぶりだ。北海道産材は国の管理する山林からの産出が主で、道路の脇などに生える支障木を早い段階で伐採したものが市場に出てくるからだ。家具等の用途に向けて育てられたわけではないので、いずれも直径が小さくなるという。
 一方海外では民間業者がビジネスとして山に植樹を行い、長い年月をかけて太く育った木が市場に出てくるため、国産材よりかなり径が太くなるのだという。森林資源国家として知られる日本だが、広葉樹に限って言えば、資源を有効活用しているとはまだまだいいがたいようだ。

 「外材の代替品としてではなく、国産材はその特徴を活かした使い方が大切です」と高橋専務は語る。例えば、テーブルの天板をつくるとき、径が太い外国産材は最適だ。しかし国産材で賄おうとすると相当数の板を張り合わせなければならなくなる。一方椅子のパーツであれば、国産の小径木でも十分用立てできる。用途に応じて使い分けて欲しいとした。

 外国産材、特に北米材はいずれも径が太く、商用に最適な材が多いが、売り主は民間であるため景気に左右されやすいのが欠点でもある。彼らにとって切る必要のないときは、特定の樹種の供給に制限が起きることがある。また為替の影響を強く受けるという側面もある。昨今の円安の影響もあり、北米材は値上がりトレンドとなっているが、その結果国産材が買い求められ、国産材も高騰している。

 国産材は外国産材に比べて産出する量は概ね一定である。しかし絶対量が少ないため、安定的に供給するためには北米含めて、外国産材にも頼らざるを得ないという。日本の木材をとりまく事情はこのように課題が多いが、同社ではケヤキを使った提案に乗り出している。

ケヤキ材

価格競争力のある国産材、ケヤキ材活用は次の段階へ

 今日ケヤキ材が家具で用いられることは少なくなった。社寺仏閣や和室に調和するような、昔のイメージに引きずられモダンなインテリアに合わないのではないか、という考えが浸透し、取り扱いが減ったのだという。しかし今日、多くのマンションや新築戸建てが和室を持たなくなったことから、床の間もなく、ケヤキそのものを目にする機会が減った。若い人の間で、ケヤキにネガティブなイメージはないという。「世代を超えてケヤキのイメージはリセットされたのではないかと思います」と、同社名古屋支店の伊藤亮営業部長は語る。

 同材は本州を中心に生え、強度もある優秀な木材。円安も再び進み、外国産材の調達に不安要素が残る中、国産のケヤキ材は新しい提案となりえるという。ケヤキ材を加工しようというメーカーもこれまで少なかった。かつて和家具に使われたが、いまは素材として安定供給する仕組みづくりが始まっている。北海道では採れない樹種だが、本州では豊富に自生しているため、業界を悩ませてきた安定供給についても道が開ける。

 これまで課題であった1年でケヤキ材の乾燥を終わらせる手法も確立できたため、本格的な流通に向けたスタート地点に立った。板材のサンプルを用意して各メーカーに提案したところ、使ってみたいという反応が多数あったという。強度面も問題がなく、なにより国産材である点が評価されているそうだ。現在では、ほとんど需要のなかった材であるため、流通価格も他の樹種より安くなる見通しだという。既に好感触を得ているケヤキ材ではあるが、認知を進めるために同社でもケヤキ材の家具を製作、展開を予定している。同社は既に相当量の丸太を集め、万全の供給体制を整えているようだ。

 ケヤキは日本人にとって一般的な樹木だが、アメリカなどにはなく、世界的にも珍しいようだ。長い歴史の中で、大黒柱としても使われてきたケヤキ。その昔、徳川家が東京の府中を中心に大量に植えたという歴史もある。ケヤキ材でつくられた家具が日本の家具としてのアイデンティティを獲得する日も遠くないかもしれない。

(長澤貴之)