飛騨産業 「奥飛騨 栃尾工場」開設 奥飛騨の温泉熱利用で木材乾燥時間を大幅短縮へ 国産広葉樹の利用拡大推進

飛騨産業(岐阜県高山市、岡田明子社長)は、岐阜県・奥飛騨温泉郷に地域資源である温泉熱を利用した木材乾燥室を備えた「奥飛騨 栃尾工場」(岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾439―18―1および458―2―1)を新設。2023年11月21日に工場完成披露会を実施し、関係者約35人が出席した。

飛騨地域は、1970年代までは地域の豊富な広葉樹資源を活用してきたが、国産材が枯渇し木材使用量増加に伴い、輸入原料に頼ってきた。一方、近年は国産材を活用する動きがあり、また、国産広葉樹が山林に蓄積されていることが分かっている。しかし、物流が一度途切れてしまったことから、川下の家具メーカーに届いていないのが現状だ。同社は「森と歩む」企業として、国産材の流れを取り戻していきたい考えのもと、今回の新工場建設に至った。

「奥飛騨 栃尾工場」は、中学校の跡地を利用。敷地面積1360㎡に木造の乾燥装置90㎡が3棟、鉄骨造のストックヤード120㎡で構成されている。同工場ではナラ、ブナ、クリといった周辺地域の資源でもある国内産の広葉樹の乾燥を実施。乾燥期間は45日と通常の天然乾燥と比較し、大幅に短縮。国産広葉樹の利用拡大を推進する。

広葉樹材の乾燥は、割れ、狂いの発生を抑えるために、天然乾燥を10カ月程度実施したあとに人工乾燥を行うのが一般的だが、同社が開発した乾燥方法は、乾燥にかかる期間を大幅に短縮。さらに木材の含水率を8%程度まで下げることが可能となる。奥飛騨 栃尾工場において、この乾燥に熱源として使用するのが「温泉」だ。奥飛騨温泉郷で生み出される温泉熱で山水を温め、乾燥室へ循環。その温水で乾燥室の温度を管理する。これにより、従来の化石燃料を使用した乾燥と比較して、年間で灯油の使用量を67万8591L削減。二酸化炭素に換算すると1689t―CO2を削減できる。

温泉熱を熱源とする乾燥室は15室。3年後(2026年10月1日~2027年9月30日)には年間1000㎥の製材品の乾燥を計画している。製材は自社で使用するほか、飛騨地域のメーカーにも供給していく予定だ。

木材は樹種に関わらず、細胞壁に約30%の結合水(含水率)を含んでいる。結合水の蒸発が始まると、乾燥により、細胞収縮が起こる。木材乾燥時の収縮の速度や細胞壁の厚さによる収縮率が異なるため、急激な乾燥は、割れや反りが派生してしまう原因となる。同社では、割れない、狂わない広葉樹の乾燥を研究しており、低温かつ高湿度で緩やかに乾燥させると割れや収縮変形を抑える実証実験を行っていた。

温泉の湯に関しては、熱源を得るのみで何も加えず川へ放流するため、水質汚染の懸念はない。事前に近隣住民への説明会を開催しており、住民からの理解も得ている。

飛騨産業の岡田社長は「国産材利用が減少、林業が衰退していると言われているが、飛騨地域では森林資源利用が活発化している。当工場が稼働し注目される場所となり、地域材活用と木工の活性化につなげれば」と語った。