リグナ カリモク家具とのコラボイベント「MAS NEW ITEM TALK & KARIMOKU MILAN REPORT 2024」開催 「MAS」デザインディレクターの熊野亘氏が語るミラノでの「MAS」

リグナ(東京都新宿区、山岸伸弘社長)が運営するリグナテラス東京(東京都中央区)で2024年5月16日、「MAS NEW ITEM TALK & KARIMOKU MILAN REPORT 2024」が開催された。カリモク家具の”MAS”シリーズの新色発売を記念したイベントで、”MAS”のデザインディレクターを務める熊野亘氏と、カリモク家具のKarimoku Commons主任を務める伊藤允彦氏が、4月に開催されたミラノデザインウィークの現地の様子、反響などを語った。

左から熊野亘氏、伊藤允彦氏、村野友明氏

イベントのモデレーターとして、リグナ家具事業部長の村野友明氏が進行役を務めた。冒頭でMASの概要、デザイナー陣について熊野氏が説明を行ったのち、村野氏と伊藤氏が今年のミラノサローネおよびミラノデザインウィークの様子などを概観した。カリモク家具は、今年のミラノサローネの本会場ではKarimoku Caseカリモクケース)を展示。このほかデザインウィークの会場では、Karimoku New Standard(KNS)やMAS、ザハ・ハディドデザインのSEYUNなどを展示した。


“MAS”ブランドディレクター 熊野亘氏の話

”MAS”の名前の由来は”升”からきており、日本人にとっては馴染みのあるものです。升にはきちんと木工の技術が組み込まれており、道具としてきちんと使用されています。したがって”MAS”も、生活の道具のような家具を目指したいというところが第一にあり、生活の中できちんと機能してほしいという思いと、日本人のアイデンティティを込めつつ、世界に発信していきたいという考えで、この名称になりました。

もう一つは“MAS PRODUCTION”、つまり量生産という言葉があるのですが、これはやはりブランドではなくデザインであり、きちんと工業技術が使われて作られている製品になるということです。曲木などのクラフトの部分は、もちろんカリモクさんの素晴らしい技術があるのですが、それを内包しつつきちんと工業製品にしているブランドということが重要な点です。その“MAS PRODUCTION”も名前に掛けあわせています。

“MAS”は、“針葉樹を使って作っていく”ことが、まずカリモクさんからいただいたお題でした。というのも、日本国土に対する森の割合、森林率が世界第2位です。フィンランドが1位なのですが、2位が日本で、森林率はほぼ70%。針葉樹は建築材として植樹され、そのような森が日本全土にあります。しかし戦後は次第に木造建築が減り、鉄筋コンクリート造りなどの需要に変わってきた中で、きちんと針葉樹が使われてきませんでした。

これだけ森林が多いにも関わらず、きちんと使われている国産材の割合が、日本は世界でもかなり低いのです。針葉樹というものが、サステナブルの要素がこれからのデザインの中でも重要になってきている中で、森の木をどうやって使っていくか。

木を使うということは、森の環境を良くしていくということでもあります。森が良くなれば、山が良くなり、そして水も良くなる、このようにいろいろな循環が生まれていく上で出てきた材料を使うことで、より良い循環が生んでいくことが、”MAS”のブランドの役割の一つです。

針葉樹は軽くて柔らかいので、基本的にはそのまま家具に使うと、構造的に保つことができないものです。スギなどを圧縮して使っていくという動きも、かつて日本の家具メーカーさんのいろいろなところが取り組まれていたことがあったのですが、焼けて色が変わってしまったり、プレスすることで木の繊維自体が傷んだりして、木が本来もっている良さを出せなかったりといったことがありました。

しかし、今回カリモクさんからいただいたヒノキの材は、とても木材の質が良かったのです。ヒノキは、奈良の東大寺など歴史的建造物にも使われている木材ですが、これだけ歴史の中で長く使われてきたことにはやはり理由があって、とても加工性が高く、リラックス効果をもたらすもの、ヒノキがそこにあることによって、生活が凛とする、空気が良くなるような作用があります。

また、ヒノキは切った後、どんどんと強度が増してくる木材です。しかし、昨今はこのヒノキの需要が減っているなかで、かつて植樹してきたヒノキは沢山あります。したがって、このようなヒノキを短いサイクルで使っていこうという動きが、日本の中では出てきています。そのような木材をきちんと使っていく取り組みをカリモクさんでは行われているのですが、その一つがこの”MAS”の家具コレクションです。

ミラノで展示していても、このヒノキという材に関して、海外の方々は見たことがないため、まず驚かれるのです。これは去年のミラノでの話ですが、カリモクさん全体で一つの展示会場で展示したのですが、”MAS”としてダイニングセットや、今ここにあるような小さいコレクションの展示をしました。

その際、ヨーロッパの方々は皆さんこの木材に関して感動していらっしゃりました。そこに私は何か、「はっと」させられましたね。「これは、ヒノキという材を、きちんとまずは説明することから始めないと、MASというこのコレクション自体の理解度が上がらないな」と感じたのです。

そのような経緯があり、今年はまず、展示ブースを入ってすぐの場所に、”MAS”のデザインを務めているヴィッレ・コッコネン氏によるリサーチを掲示しました。これは、コッコネン氏から見たヒノキ材についてや、どのような文化が日本にきちんとあるのかということをきちんと伝えつつ、その延長線上に”MAS”というコレクションがあり、それをカリモクさんで開発しているということを来場者に伝えてきました。

ヒノキは針葉樹の中でもかなり硬い材料ではありますが、これを家具に使用する場合には、強度を求められます。しかも、カリモクさんが求めていらっしゃる強度のレベルは非常に高いのです。初めはヒノキ材のみでプロダクトを試作してみたのですが、カリモクさんの強度試験をクリアすることはできなかった。

しかし、そこでこのプロジェクト止めよう、ということではなく、「どうしていけばヒノキ材をきちんと使って製品にしていけるか」というところで、広葉樹のブナ材をフレームとして中に採り入れました。ブナ材とヒノキ材を圧着して、強度を担保したのです。

脚に関しても、薄いヒノキ材を柾目でとっていくことで、きれいな柾目の見える脚にしています。「張りぼて」という言葉があって、そのような目でみると「張りぼて」ではあるのだけど、昔であれば何かネガティブに捉えられていたかもしれませんが、しかし今はもうそのような時代ではないと思っています。ポジティブに捉え、もっと材を積極的に使っていくことに取り組んでいますし、私たちも”技術”としてきちんとお客様にお伝えしつつ、”MAS”の魅力を伝える努力をしています。

“MAS”は、これまでは「ヒノキキナリ」というカラー一色での展開でした。これはもちろん、ヒノキの魅力をしっかりと伝えられる色ではあったのですが、しかし”MAS”というブランドは、国産材を積極的に使いながら、日本の木の文化を伝えたいということがあります。したがってこのヒノキキナリだけではなく、他の色を出すことで、よりインテリアとしてコーディネートしやすくする、ブランドとしての厚みを出すための色の展開でもあります。

新色を開発するにあたっては、もちろんヒノキでも試作したのですが、しかしヒノキの材に由来する油分が多かった。一応、着色・塗装はできたのですが、カリモクさんの高いクオリティコントロールにおいては、製品としての条件としては満たせないとなったのです。ヒノキの油分がある箇所に塗料が入っていかず、多少ムラが生じてしまった。ですが、そこで諦めるのではなく、どのように開発していこうと皆でさらに考えてたどり着いたのが、このセンという材料でした。


カリモク家具 伊藤允彦氏の話

フォレストグリーン色
ソイルブラウン色

今年は新色を新たにラインナップに加えました。たくさん試作を作ったのですが、「フォレストグリーン」という、とても透明感のあるグリーンが特長のものと、「ソイルブラウン」の2色です。「自然」というところに”MAS”の文脈はあるので、カラーの名前にも森林などのイメージをもっていただけるようにしました。

新色の製品に用いる木材は、ヒノキではなく「セン」という材を使用しています。広葉樹ではあるのですが、白くてヒノキに近いような雰囲気ですので、ぜひ新色にはセンの材を使おうということになりました。木目が綺麗に出て、素敵な色だなと思っています。

100%ヒノキのみを使うのではなくて、「ヒノキを使うためには、このような木材も必要だ」ということで、日本という国をより俯瞰的に見たときに、きちんと国産材を使っていく必要がある、というところに立ち返って、このセンの木を選定しました。


今回のイベントには、約30名の来場者が駆け付け、MAS新色誕生のバックボーンなどのトークに聴き入った。リグナでは企業とコラボレーションした形でのトークイベントは初めてだといい、イベント終了後は来場者が思い思いに”MAS”のプロダクトに触れ、国産材とカリモク家具の技術が産み出す質感を体感した。

(佐藤敬広)