![[写真①]JOIFA貫名専務理事](http://www.homeliving.co.jp/wp/wp-content/uploads/2025/05/写真①JOIFA貫名専務理事-1-678x381.jpg)
今年で第4回目を迎える「オルガテック東京」が6月3日から3日間、東京ビッグサイト(東京都・江東区)で開催される。大きな盛り上がりをみせた前回を受け、オルガテック東京はどのように進化していくのか。大型商業ビルの竣工ラッシュなどを背景として堅調にみえるオフィス家具市場の概況や今後の予測とあわせ、共催者である一般社団法人日本オフィス家具協会(JOIFA=事務局・東京都中央区、中村雅行会長)の貫名英一専務理事に話を聞いた。
24年は前年比1.6倍が来場。オフィス家具熱鮮明に
――今年のオルガテック東京は、大きな盛り上がり見せた前回を受けての開催となります。昨年は来場者数が(前年比)1.6倍の4万人強、出展社も(同)1.3倍の163社。関心の高さがうかがえます。
貫名 (昨年は)当初の想いを大幅に超えて4万人以上の方にご来場頂きました。出展社の皆様のご努力によって口コミが広がったことが大きいと思います。ただうれしい悲鳴といいますか、ちょっと過熱気味かなとは感じました。エンドユーザーとなる企業側の関心が高まっていることも確かで、オフィスへの投資に前向きになっているのが大きいと思います。
――JOIFAでは、企業の経営層自らが近年、オフィスのあり方に向き合うようになったと指摘しています。
貫名 そう思います。経営トップがオフィスづくりを戦略的投資と捉えているという意味です。オフィスの考え方は従来、コストセンターの側面が強かったのですが、それが投資対象へと変わってきました。コロナ禍を経る中で在宅勤務や「ハイブリッド・ワーク」が普及しました。
そうした中でアフターコロナの働き方についての議論が色々なところで始まりました。どうやって効率的な働き方を実現するのか、そのためにはどういうオフィスが必要か、そういったところに関心が高まり、実需もふくらみ始めました。
そういう意味で、現在のオフィス家具の伸びはリニューアル需要の反映ともいえます。従来オフィスは1回投資すると10~15年間は使い続け、引っ越しなどをきっかけに刷新する場合が多かったと思います。最近はもっと短いサイクルで、投資と回収といった観点でリニューアルを検討する動きが出てきました。
――いわゆる「アフターコロナ」の動きということでしょうか。
貫名 コロナ禍中の働き方を踏まえ、オフィスに再び人が集まって仕事をするうえで、その空間をどう設計すれば生産性が上がるのか、効率を追うだけでなくいかに創造性を向上できるか。日本や欧米、アジアでここ数年かなり研究が進み、企業の経営者が認識するようになりました。そういう流れが大きいと思います。もうひとつの側面としては、人材確保の点でもオフィス環境は重要な要素になってきています。
こうした背景を踏まえ、オルガテック東京を考えていくうえで、今、オフィスに求められていることは2つあると考えています。
ひとつはコミュニケーション。よりよい対話環境を実現するためには、オフィスは壁が少なく開放的な方がよいわけです。例えばラウンジのようなイメージ。もうひとつは、いかに仕事に集中できる空間を整えることができるか。実際、オフィスのリニューアルに際しては「コミュニケーションゾーン」と「集中ゾーン」という風に分けることが増えていると思います。
実現しようとすると、従来のオフィスでは難しく、リニューアルが必要になるわけです。いったん全部を撤去してレイアウトからやり直すことになりますし、そこに我々としては提案の機会があります。そのことを皆で集まって考えてみよう、というのがオルガテック東京、というように考えています。

経営マインド変化で短期化するオフィス投資周期
――こうした考え方がオルガテック東京に反映されているわけですね。
貫名 そうです。この展示会が始まった2022年は、日本における新型コロナの感染拡大から3年目。感染対策は引き続き必要ながら、徐々に関連する規制の緩和が進み出した頃です。
そうした中、我々としてはアフターコロナの働き方、そこで求められる環境を提案する場としてのオルガテック東京ということを意識しておりました。そして4回目となる「オルガテック東京2025」は、この考え方を基にしつつ、現在とこの先の環境変化を織り込んでいくために「BORDERLESS 〜オフィスは私へ〜」というキーワードを掲げました。
2022年の第1回は「The Rise of Hybrid Work(ザ・ライズ・オブ・ハイブリッド・ワーク)」がテーマでした。働く場所がオフィスから自宅、カフェへと広がっていく中、自宅とオフィス、生活と仕事をどう融合させるか、そのことが展示会のテーマの根底にありました。
今年第4回の開催を迎え、オフィス回帰志向が鮮明となる中、オフィス環境に家庭、つまり住環境の要素が入ってきました。これによりオフィスは現在、徐々にカジュアル志向になってきており、住環境との境目がどんどんなくなってきて、ボーダレスになってきています。これが今回、第4回のキーワードです。
2020年~2022年頃であればオフィスライクなリビングが志向されましたが、人々がオフィスへと戻っていく中で、今度はリビングライクなオフィスが増えてきた、そういうことです。今オフィス家具で売れているのはまさにこのあたりの流れを具現化したような製品です。自宅のリビングを想起させるような、例えばソファのようなやわらかい家具が売れています。
効率性・創造性向上が求められる空間づくり
――出展側もだんだん変化してきているのではないですか。2024年の展示会をみていても、単に製品を展示するのではなく、コンセプトにそって世界観を形成するというブースが増えたような印象があります。
貫名 そうですね。製品を見せるだけの展示会ではなく、各社の考え方をアピールするイベントにしていきましょう、と出展社の皆様にはお願いしています。重要なのは、この展示会の主な来場者が、クライアント企業の新しいオフィス空間を設計しつくるプロの方々だということです。
この方々に向けて、こういう考え方の会社とパートナーになって一緒にオフィスを創りたいと、そう思わせる見せ方をして欲しいとお話させて頂いています。製品を見るだけならウェブサイトはかなり参考になりますし、ショールームもあります。実際、コロナ禍の際はバーチャル展示会も流行りました。では、アフターコロナの時代にリアルの展示会を開催する意味合い、求められるものは何なのか、そこはかなり議論をしました。
そのひとつが、これからのオフィス環境に対する出展社自身の考え方を、リアルな空間を使って表現し、プロの皆様に提案するということです。もちろん出展社にはいろいろな考え方がありますので、それにそってご出展頂くのが一番良いことだと思います。そうした中で、特にメーカー大手を中心に出展の中身が大きく変わってきているということです。
もうひとつが、出展社がこれからのオフィス環境やその考え方をプレゼンテーションし、それを踏まえて来場者の方々とコミュニケーションをとること。我々からすれば、そういう環境をつくれるようバックアップすることが大事だと思っていますし、それが来場者の重要なニーズになっている気がします。新しいオフィス環境のコンセプトや世界観を考えた人、新たな製品を開発した人、その人達に直接話が聞きたい、ということです。
先ほどもお話しましたとおり、来場者の方々は、エンドユーザーであるクライアント企業に新しいオフィスを提案する立場にあるプロの方々です。コミュニケーションというのは、そういうプロの方が聞きたいことに対応できるように、そういう人たちと踏み込んだ話ができるように、という意味で、そういうお願いを出展社の皆様にはしており、浸透してきていると思います。
オルガテック東京ではオルガテックナイトというイベントも開催していますが、これも同じようにコミュニケーションの活発化をサポートする狙いで企画しました。単に出展社と来場者というだけではなく、出展社同士、来場者同士でも活発になされるとよいと思っています。そういった中で実際に新しいビジネス機会も産まれている、とうかがっています。

――ドイツ・ケルンのオルガテックも同じような考え方なのですか。
貫名 そういった流れはあったと思いますが、昨年(の開催)がひとつの節目になっているように思います。特定の展示ホールについては特に、製品だけでなくコンセプトや考え方、世界観を打ち出し、コミュニケーションを活性化できるように設計されていました。
私はドイツのオルガテックへは過去10回位行っていますが、昨年は来場者の方々の動きを見ていても、それぞれのブースへの滞在時間が長くなっているように感じ、とても印象的でした。ブース1ヵ所であれこれ話の花が咲き、時間が足りないのです。いろいろな話を聞くと詳しく返してくれますし、その内容が大変面白いわけです。そういう出展社が増えているという印象です。
――オルガテック東京に関連しては、共催社であるケルンメッセとの戦略的パートナーシップを2031年まで延長することを発表されました。
貫名 次の5年間の具体的な方策はこれから議論することになりますが、我々としては国際化をさらに進め、海外からの出展社を増やしたいと考えています。国内ではオフィス家具メーカー以外からの出展がもっと増えるようにしたいですね。
我々が考えるオルガテック東京というのは、突き詰めればワークプレイスをつくる展示会だと思います。オフィス環境には、家具だけでなく壁や床、天井を含めた空間とそのデザインがあるわけです。また、ITネットワークやウェブ会議といったようにいろいろな要素があり、関連製品やサービスを提供する企業にもっと参加して欲しいと考えています。
部品、素材メーカーなどが集まる「インターツム」のゾーンも今後、さらに拡大したいですね。実際、昨年の開催においても有難いことに高い評価を頂きました。ドイツ・ケルンには家具産業・木材加工見本市として「インターツム」という名称の展示会があり、オルガテックと1年ずつ交互に開催。今年は5月に「インターツム」があります。
部品や素材といったところまで含めた家具産業のすそ野は大きく、事実、ドイツのオルガテックの出展社数は大体700社ですが、「インターツム」は倍の約1500社位。そのくらい重要なイベントです。我々としても「インターツム」ゾーンに出展するような素材メーカー、部品メーカー、また、例えばITソリューション、照明器具メーカーやエクステリアの企業、そういうところをもっと増やしたいと考えています。
繰り返しになりますが、オルガテック東京の来場者のメーンターゲットが建築家とか空間デザイナーのようなオフィス空間をつくるプロの方々ですので、そういった方々が必要なすべての要素をワンストップで見ることができるようにするというのが我々の考え方です。実際、我々もケルンメッセもそういうところへアプローチしており、今回結構初出展の企業も多いと思います。

市場規模は今後も拡大基調を継続へ
――最後に今後のオフィス市場の予測について伺います。大都市圏に大きいオフィスビルが竣工した、あるいは官公庁に入れ替え需要が発生しているという話も聞いています。2025年、2026年あるいはその先オフィスの需要はどうなっていくとお考えですか。
貫名 少なくともここ数年、しばらくの間伸びていくのは間違いないのではないでしょうか。耐用年数に近づいているビルが結構多く、その建て替え需要の増加が背景にはあると考えています。それでこのところ建て替えがラッシュになっていて、従来よりも高層で床面積も大きくなっています。ただご多分に漏れず建築業界も人手不足で、この点は懸念事項です。
――昨秋には都内主要エリアの空室率が5%を切って話題になりました。需要はタイトですね。
貫名 建て替え需要の他、最近も引き続きスタートアップ企業に代表される新しいプレイヤーが増えているという背景もあります。ということでこの需要が当面続くという風には見ています。
経営者が関心を持ってくれているのも大きいと思います。コストではなく投資という風に企業のメンタリティも変わってきています。投資とその回収というサイクルが回りだすと、需要のサイクル自体もより短くなっていくと思います。
――協会が把握されている市場規模の数字も伸びています。
貫名 そうですね。我々は2つの統計を取っていますが、ひとつは経済産業省の生産動態統計で、これはメーカーによる供給ベースの数字です。もうひとつは我々が会員企業を対象にして独自に調査している、エンドユーザー渡し、需要ベースのものですが、これを見ていると、売り上げも、平均単価も伸びています。ただBtoCを含めた家具業界全体でみると単価は下がっています。
――24年度分の会員の数字はこれからとりまとめされると思いますが、右肩基調は変わらなさそうですね。
貫名 はい。主要な大手企業を中心にこれまでの業績推移を拝見したり、お話を伺っていると、業績が好調なところも多いようです。ただ、すべての企業が軒並み良いということではなく、まだら模様の部分があり、平均すると市場としては伸びているということです。数字は今後まとめますが、感触としては前年比プラス5%位という感じではないでしょうか。
――伸びているところに共通の傾向はありますか。
貫名 需要の動向を見ながら、それに合わせてサービスや商品を変えているところが伸びている印象があります。長年ずっと同じことをやり続けているところは、たまたまそれがトレンドと外れると苦戦する場合があるようです。そのくらいにここ数年間でオフィスが変わってきました。その意味でも、トレンドをどんどん先取りしていくというのがオルガテック東京のありかただと思います。
(聞き手 長澤貴之、縄田昌弘)