――ホームステージングは、もはや単なる手法ではなく、“暮らしの質”を高める概念として定着しつつあります。不動産の売買や賃貸といった場面で、このホームステージングの手法が活用され、売買促進に役立てられるようになってきていますね。
杉之原 私たちが協会を立ち上げた当初は、ホームステージングという言葉すら誰も知らない状況でした。そこからこの考え方を広めようと活動を始めたのですが、最初に反応してくださったのが不動産業界、特に売買の分野でした。
これまで不動産業界では、空室のまま何も設えずに物件を販売するのが当たり前でした。モデルルームは新築に限られており、中古物件では簡単な清掃程度で売り出されることが多かったのです。ですが、家具や小物を配置して住空間を演出すると、「ここでどんな暮らしができるのか」が一目で伝わります。その結果、「ここに座ってみたい」「住んでみたい」という感情が生まれ、購入の決断につながるのです。
実際、販売期間が大幅に短縮されるといった効果も出てきました。私たち協会は直接販売を行っているわけではありませんが、こうした概念を普及させることで、不動産業界や中古住宅の流通促進に貢献することを目的としています。
また、ホームステージングを伝えるうえで直面した課題が、その効果の“見えにくさ”です。「それで本当に売れるのか?」という疑問を多くいただきました。そこで、2017年からホームステージングの実態調査を行い、その結果を『ホームステージング白書』としてまとめる取り組みを始めました。数値によって効果を可視化することで、企業や業界関係者が安心して導入できるよう後押ししたかったのです。
――家具業界との連携についての進捗などはいかがですか。
杉之原 活発になってきたと思います。ホームステージングを支援してくださる家具店も増えており、実際に家具店がホームステージングを自社で手がける事例も増加しています。これまで家具店はBtoCの形態で、店舗でお客様を待つスタイルが主流でした。しかし、ホームステージングの考え方を取り入れることで、自社の家具を不動産物件に設置し、モデルルームのように演出することで購買導線を創出できるようになったのです。
たとえば、地方の家具店では地元の不動産会社と協力し、物件に自社の家具を設置しています。その場で「この家具が気に入った」という内見者が店舗に誘導されるという流れができており、家具の色違いやカスタムオーダーの相談もその場で受けられます。購入特典として割引カードを提供するなど、販促施策も工夫されています。これは、家具の“売り方”そのものを大きく変える取り組みだと思います。外注ではなく、自社の社員がホームステージングを行っている家具店もあり、販売と空間提案を一体化する動きが出てきています。
もちろん、家具に関しては専門知識のある販売員が多く在籍していますが、ホームステージングではそれに加えてインテリア全体をトータルで演出するスキルが求められます。小物の選定や演出に必要な仕入れも従来とは異なるルートが必要になるため、家具店側にとっても新たな挑戦といえます。今の時代、イケアさんやニトリさんのように、空間全体でイメージを提示することが求められている中で、こうした変化は自然な流れだと感じています。ベッドが並ぶだけの売場から、暮らしの提案をする空間へと、家具業界も変わってきているのです。
このように家具店の意識が変われば、不動産会社との連携もさらに進むでしょうし、リフォーム会社など異業種との接点も生まれやすくなります。業界を越えたつながりの中で、ホームステージングを核としたビジネスの広がりに期待しています。
――ホームステージャー資格の受講者にホームステージング業の方が多いと伺いましたが、これはホームステージングを専業として手がける事業者ということでしょうか。
杉之原 その通りです。法人も個人事業主もいますが、特に個人の方が意外と多いです。現在はインテリアコーディネーターの方が多く受講されていて、自分のスキルを活かしてより多方面に活動したいという思いから、ホームステージングに関心を持たれる方が増えています。
インテリアコーディネーターは、主に個人のお客様に対して、その方のライフスタイルに合ったインテリアを提案する仕事が中心です。ただ、業界全体で人数も増えており、地域の不動産会社などに自分のスキルを提案するなど、活動の幅を広げようとする動きが見られます。また、整理収納アドバイザーの方々からもホームステージャーの資格は注目されています。片づけのスキルを持っていても、個人宅への訪問には心理的なハードルがありますよね。しかしホームステージングなら、不動産という第三者的なフィールドでそのスキルを活かせるため、活動しやすいのです。
このような専門スキルを持つ方が、ホームステージングの手法を学び、不動産会社と連携して仕事を得るというケースが増えています。さらに、ホームステージングを専業とする企業も多数登場しており、業界として確実に広がりを見せています。

――インテリアコーディネーターの方が、ホームステージングを学ぶことで新たに得られる知見やスキルには、どのようなものがありますか。
杉之原 ホームステージングは、不動産の流通と深く結びついています。インテリアコーディネーターはBtoCが中心で、個人のお客様にインテリア提案をするのが主な仕事ですが、不動産業界と関わるには、そもそも業界の用語や感覚を理解していないとコミュニケーションが成り立ちません。
たとえば「専任媒介契約」などの用語や、その物件がどれくらいの期間で売れることを目標にしているのか、地域相場など、不動産の基本的な情報を理解していないと、適切なステージングはできません。販売価格帯によってステージングの内容や家具のランクも変わるため、物件価値に応じた提案力が求められるのです。
さらに、物流面の知識も必要です。家具の搬入経路やサイズの調整、エレベーターの有無など、現場での実務感覚を持っていなければ、適切なコーディネートはできません。釣り上げ搬入が必要な大型家具を誤って選んでしまうなど、現実に即していない提案は避けなければいけません。
そして、片づけや清掃も含めた空間整備のスキルが重要です。家具を置く以前に、空間が整っていなければ、魅力的なステージングは成り立ちません。そのため、当協会のホームステージャー2級講座では、片づけや清掃の技術もカリキュラムに含めています。
居住中物件の場合は、住人対応や遺品整理など、さらに高度なコミュニケーションスキルや対応力も求められます。これらは従来のインテリアコーディネートの範囲を超えたスキルですが、ホームステージングを実践するには欠かせない知識といえるでしょう。
――ホームステージャーの資格を持つインテリアコーディネーターは、やはり個人事業主の方が多いのでしょうか。
杉之原 そうですね。もちろん、企業に所属して活動されている方もいますが、個人で活動している方が非常に多い印象です。自分のスキルを活かして、地域に根差した仕事をしたいという方が、ホームステージングの資格を通じて新たな活躍の場を得ているというケースが増えています。
――ホームステージング白書2024では、東京でのホームステージング需要が増加したと報告されていますね。
杉之原 この背景として、不動産物件の価格が高騰していることが挙げられます。価格が上がったからこそ、その価格に見合ったホームステージングを施さなければ、購入希望者も納得しないという現実があります。つまり、価格に見合う価値を“見える化”する手段として、ホームステージングの重要性が増しているのです。
今回の白書にも記載していますが、2024年は東京に依頼が集中した点が特筆すべき特徴でした。これまで、東京だけが突出するという傾向は見られなかったのですが、今回は顕著でした。やはり物件価格の上昇が大きな要因だと考えています。
――現在、ホームステージングに関わる方々が特に求めている情報には、どのようなものがあると思われますか。
杉之原 最も求められているのは「他社との差別化の事例」だと思います。不動産会社がホームステージングを導入する目的は、何よりも“早く物件を売りたい”ということ。そのためには、他社よりも目立たせ、選ばれる物件になる必要があります。
例えば、同じ価格帯の物件が並ぶ中で、自社だけがホームステージングによって空間演出されていれば、明確な差別化になります。問い合わせ件数や内見者数を増やすには、“ここに住んでみたい”と感じてもらえる空間づくりが不可欠です。そのニーズを満たす情報として、他社事例や成功パターンへの関心は非常に高いと感じます。
とりわけ高価格帯の物件では、より高品質で洗練されたステージングが求められます。不動産会社としては「価格は高いが、それに見合う価値や世界観を提案できる」ことを証明したいのです。したがって、価格帯に応じた最適なホームステージングのあり方や、そこに付随するサービス内容も含めて、事例ベースで情報提供することが、今後ますます重要になってくるでしょう。
――お忙しいなか、多岐にわたりお話いただきまして、ありがとうございました。
(聞き手 佐藤敬広)





