【インタビュー2025:経営者の眼】アルテジャパン 代表取締役社長 坂義臣 氏

――オーダーミラーやオーダーガラステーブルで知られるアルテジャパンですが、まずは直近の業績から教えてください。

坂 今期(第54期)は6月にスタートしました。前期は原材料の高騰と仕入れ値の上昇が直撃して、正直いちばん厳しかった時期だと振り返ります。売上に影響は及んだものの、営業利益・純利益とも額は大きくは変わっていない、そこは踏ん張れたと思っています。

創業者の矢野廣文が舵を取っていた15年ほど前と比べると、ガラストップテーブルは15~6年前の破損事故多発を機に、販売店を中心に取り扱いが止まりました。鏡は健闘していますが、テーブルの再販に向けて今もルートを掘り起こしているところです。製造側からのコスト圧は続き、ここ3~4年は正念場でした。

――業績を踏まえつつ、いまの家具・インテリア業界をどう見ていますか。

 顧客は二極化が進んでいると感じます。価格もデザインも、はっきり分かれてきました。生活様式の変化も大きい。たとえば着物の帯締めに使う“垂直の姿見”は、かつて当たり前の需要がありましたが、今はほぼ動きません。鏡の意匠も和風は厳しく、モダン寄りに振らないと響かない実感があります。

もちろんデザインは循環するので、いつか和に戻る局面もあるでしょう。ただ、中途半端に両取りを狙うと、どちらの顧客にも刺さらず伸びない。オールマイティに見えるデザインを広く並べるのか、それともあるテイストに徹底的に特化するのか。ここは振り切る覚悟が要ると思います。実店舗でも“何でも屋”よりコンセプトショップや専門性の高い店が伸びている印象です。

当社の商品も、実用一点張りではなく“インテリア性で選ばれる”比率がじわりと上がってきました。機能かデザインかの二者択一ではなく、「暮らしの景色をどう良くするか」で選んでいただけるよう、製品を磨き続けます。

――これを踏まえて、アルテジャパンの今後5年の事業戦略をお聞かせください。

 本筋はぶれません。ガラスを軸に据えることから外れるつもりはないですね。鏡はもちろん、ガラスを使ったコンソールやシェルフ、テーブルも継続して磨き込みます。

狙う価格帯ははっきりさせます。ミドル・ボトムレンジはフィールドと定めません。といっても、超ハイエンド一辺倒でもない。一定以上に“振り切った”価格とデザインで勝負しないと、差別化になりませんから。鏡のデザインだけを見ると、市場には他にも良いものはあります。ただ、実際に暮らしで使った時の安心感や精度に関して私たちは負けない、と自負しています。その信頼を土台に、選ばれるブランドでいきたいと思いますね。

顧客ターゲットも同じ発想です。二極化が進むなかで、当社はインテリア性や品質を重視するサイドのお客様を狙います。一度これがぶれると、元に戻るのは極めて難しいと感じます。

――人材面の方針も教えてください。

 当社の強みは一緒に働く仲間です。お取引先へのガラス・鏡のプロとしての知識と提案力は、当社の営業がいちばん持っている——ここは揺るぎません。もちろん、経験値や知識の個人差はありますが。商品力と知見、そしてネットワーク、取引先様に支えられたこの三本柱が当社の基礎ですね。

人員は増やしていきたいと考えています。この8月に1名採用し、11月にも1名採用予定です。営業とそれをサポートする部署で活躍頂きます。今後も人材を厚くして、営業が本来の活動に集中できる体制を強化します。私たちの強みである営業をさらに強化し、外で“攻める”時間を増やせるようにしたいと考えています。

――続いての質問ですが、坂社長が経営において、特に重視していることは何でしょうか。

 やはり営業です。まずは稼ぐ力をつけることで、経営の打ち手の選択肢が広がると考えます。売上が安定することで、会社として次の投資や挑戦にも余裕を持って踏み出せます。お取引先様との関係が良好で、営業でしっかり成果を出していれば、財務面での悩みも自然と減るのではないでしょうか。

それから、営業は最前線で顧客の声と市場の変化を浴びています。だからこそ商品企画も営業が主導する——私はそう考えています。誰よりも現場を見て、声を聞き、ニーズやトレンドを感じている部門がプロデュースに関わるのが一番自然ですよね。

――少し視点を変えますが、坂社長は社長職そのものをどのように捉え、実践してきましたか。

 私は今58歳ですが、どんなに長く務めたとしても70歳前後までという感覚を持っています。そもそも自分が社長をやるとは思っていなかったタイプだったのです。

判断を誤れない立場ですし、プレッシャーは当然あります。幸い、当社は苦しい経営をしているわけではありませんが、それでも「軽やかに悩みを減らす運転」ができるよう、日々整えているつもりです。

――後継についてはお決めになられているのですか。

 まだ決めていません。社長になるのは誰にとっても怖いものというイメージが皆さんおありではないでしょうか。資金面の責任をはじめ、何かあれば最終責任を負う。その重みは想像以上です。最初から「自分がやる」と腹を決めている人なら別ですが、いざ役員になり、経営責任を実感した瞬間に躊躇する気持ちも、私には分かります。

私の場合は創業者が約2年間、共同代表として並走してくれたので、とても心強かったです。その後、創業者が相談役に移られたタイミングで、創業者の個人保証が外れました。銀行さんにも「会社に貸しているので問題ありません」とご理解いただけた。創業者の肩の荷を少しでも下ろしたかったのです。ただ、その分の責任は私が背負うことになりますので、当初は不安もありました。

――普段、経営の相談はどなたとされていますか。

 経営戦略の骨子は役員と詰めます。こちらの考えや進む方向を共有しつつ、最終判断は自分で下す、そんな運用ですね。ただ、もう10年以上つき合いのある異業種の経営者仲間が10人ほどいて、定期的にざっくばらんに話したり勉強会もしたりします。利害がない分、本音で意見が飛ぶのでヒントが多いのです。精神的にも助かりますね。

――営業の現場には、いまも出られるのですか。

 担当を持つことはしていませんが、営業のバックアップで動きます。難易度の高いOEMや海外生産の交渉を手伝うことがありますね。ただ、出過ぎると現場の達成感を奪いかねないので、あくまで“お手伝い”に留めます。そこは配慮しています。

――経営者には経営理念やビジョンがおありかと思います。役員、仲間、社員への浸透のため、社内ではどんな工夫をされていますか。

 当社は恵まれていて、理念の理解度は高いと感じます。毎年6月の経営方針発表会に向け、月次の営業会議で「今期の振り返り」と「来期の方針」を細かく共有します。私が大枠を示し、各自が自分の戦術に落とし込む。分からない点はその場でどんどん質問してくれるので、腹落ちが早いのです。

会議での合意形成に加えて、数字の目標感も明快にしています。長期での売り上げ目標も立てていますが、そのために何をしていくべきかについては、貸し出しスキームの導入など、新施策を検討しています。

――最後に、社員のモチベーションを高め、全力で仕事に向き合ってもらうために、日々どんな工夫や心がけをされていますか。

坂 モチベーションアップに最も効果的なのは、やはり「働きやすさ」ですよね。収入は大切ですが、それ以上に「ここは居心地がいい」「自分の力を出し切れる」と感じられる環境づくりが肝だと思います。当社は昭和47年創業で、どこかに“商店”的な空気も残っていますが、良いところはあえて残しつつ、ルールで整えていく。メリハリを利かせることで、結果的に働きやすさが増すようにという考えです。

理想は社是にもある「全員参加の経営」です。全員が経営者意識を持って、同じ船に乗って舵を取る感覚を共有する。“この船は沈めるわけにはいかないよね”と腹を合わせる。そこまで意識が揃えば、モチベーションは自然と上がっていくはずだと信じています。

そして、私たちはガラステーブルから始まった会社ですから、「国内でガラステーブルといえばアルテジャパン」と再び言っていただける状態にしていきたいですね。

――本日は多岐にわたりお話しいただき、ありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)