【インタビュー2025:経営者の眼】ウィドゥ・スタイル 代表取締役社長 丹治朋之 氏

――昨年に引き続き、今年もインタビューをお受けいただきありがとうございます。今回は WeDOStyle(ウィドゥ・スタイル)、そして丹治社長ご自身のお考えにフォーカスしたインタビューにしたいと考えています。さっそくですが、現在の家具業界をどのように見ておられますか。率直なお考えをお聞かせください。

丹治 初めて業界に接したときの印象は、業界内の結びつきが強く、業界内でのオーガニックな成長をしてきた足跡を感じたというものでした。高度経済成長期に市場が最も盛り上がった時代、地元の名士の方々がアグレッシブに新規事業を立ち上げ、卓越したバイタリティで拡大してこられた。日本の豊かさを牽引したその貢献は非常に大きかったと思います。当時は市場が右肩上がりでしたから、マーケットの伸長に乗って成功していく側面もありましたね。その成功体験が、オーナーや二代目の方々に蓄積され、業界を牽引してきたという認識です。

もっとも、ここ数年で状況は確実に変わりつつあります。市場は縮小傾向にあり、ユーザーの価値観は様々に分化しました。情報は容易に入手でき、家具店に行かずとも自分らしい暮らしを追求できる時代です。同じやり方では成果が出にくいのは明らかで、業界としてもその変化に気づき、各社が独自色を打ち出して転換を図ろうとしています。非常に厳しいですが、面白い局面だとも思います。一方で、淘汰や再編が進むのは避けられないとも見ています。

――他社の事例では、どのような独自色に注目されていますか。またそこからどのような変化の兆しを感じますか。

丹治 各社は「どの層で勝つか」を明確にし、強みを磨いている印象です。前提にあるのは、ユーザーの価値観の多様化です。居住環境の変化、商流に縛られない販売形態、世代や所得層による嗜好の違いなどが重なり、細分化が一段と進みました。たとえば、所有にこだわらずレンタルやサブスクリプションを取り入れる動きがあります。メーカー側では、日本の美意識や品質を前面に押し出す企業もあれば、欧州ブランドを選択的に導入して高付加価値を追求する企業もある。ハイエンドで勝負するのか、リーズナブルにコストパフォーマンスを徹底するのか、色分けがはっきりしてきました。さらに、日本の品質を国内にとどめず海外へ輸出する動きも、コロナ後に再び活発化しつつあると感じています。

――ウィドゥ・スタイルも、今回の万博でも日本ならではの良さ、洗練された文化の発信を意識しておられたと拝察します。海外展開についての現在のお考えをお聞かせください。

丹治 まず、大阪・関西万博への出展は大きな反響がありました。出展商品に加え、「こうした取り組みをしている」という点に注目していただけた実感があり、手ごたえを感じています。そして昨年のインタビューでも、成長戦略は二つの軸で進めると申しました。第一は、既存の家具に「もう一つの価値」を付加するクリエイティブな提案です。

第二が海外展開です。今までも限定的に海外取引先との取引はありましたが、エリアとしての本格的な展開に向けて、まずは日本との親和性が高く距離も近い東南アジアにおいて、現地でネットワークの構築、販路拡大を進めています。いきなり遠隔の巨大市場に挑むのはリスクが大きいので、近隣で知見を蓄積し、段階的にエリアを広げていきたいと考えています。万博でも「Furniture + One.」という当社の理念を未来の暮らしに接続する表現を行いました。日本の「間」や畳といった要素にセンシング技術を融合させ、心身の健康を支える“和の空間”を提示しています。こうした価値の拡張は、海外においても訴求可能であると見ています。

――海外展開についてですが、自社ショールームや他人資本の販売店、あるいは現地生産体制の構築など、どのようなモデルを想定されていますか。

丹治 まずは現地の販売店様と組むモデルを基本にします。当社はファブレスメーカーですので、国内でも取引の多くが家具専門店様との協業です。海外でも同様に、現地パートナーとのネットワークを広げ、当社商品の魅力を提案して商流を増やしていく考えです。その枠組みとして、当社は「JAPANITURE(ジャパニチャー)」というブランドを立ち上げています。これは“JAPAN + FURNITURE”を由来とする当社の商標で、日本の審美眼と品質を世界へ届けることを目的に展開しています。コロナ禍で一時停止しましたが、現在は再始動し、海外でのブランド認知を高めていきます。

――海外展開のロードマップはどの程度具体化していますか。

丹治 現時点では、ネットワーク構築に重点を置いており、数値を国別に細かく切った計画までは置いていません。まずは動いて商流を拡大する段階にあります。グループ全体の海外売上比率はおおむね5〜10%のレンジで推移しており、この比率を段階的に引き上げたいと考えています。一定の目途が立った段階で、「どの国でいくら」という水準まで数値計画を詳細化する方針です。

――二つの軸のうち、1つは海外でした。もう1つは機能でしたね。

丹治 海外に加えてもう一つの軸は“機能”です。異業種の技術や素材を家具に融合し、新しい価値を創ることを重視しています。当社は昨年、新たな企業理念の策定を行いましたが、スローガンは前述の「Furniture + One.」としたほか、理念自体も「多様なつながり」や「創造性」というワードを前面に押し出しています。今後も既存家具に別用途を付与する、あるいは新素材を導入するなど、従来と一線を画すプロダクトを仕込み続けています。家具に一つの価値を加える取り組みを、国内外で広げていく考えです。

少し内部的な話をさせていただくと、新企業理念の策定プロセスについて、トップダウンではない点が特徴的です。最初の叩き台づくりには専門家の知見も取り入れましたが、強みや弱み、将来像については社員でブレインストーミングを行い、「自分たちは何者で、どこを目指すのか」を議論しながら策定していきました。社員が当事者として関わったからこそ、腹落ち度が高いのだと思います。

一方で、理念は「作って終わり」ではありません。浸透フェーズこそ難しく、同時に最重要です。お客様に「当社はこういう価値を目指す会社です」と伝えるためには、社員一人ひとりがそれを日々の行動に落とし込み、「体験」として理解しなければなりません。言葉だけでは絵に描いた餅になってしまいますから、体験を通じて腑に落とす仕掛けを続けています。

具体例が前述の大阪・関西万博への出展です。積水グループ様と共同で、畳や「間」の感覚とセンシング技術を組み合わせたスツールや空間提案を行いました。審査資料を作り、プレゼンし、採択に至るまでを企業及び部門横断で進めました。会期には社員の希望者が会場で来場者をご案内し、「なぜこのプロダクトをつくったのか」「何を実現したいのか」を自分の言葉で説明しました。背景を理解し、他者に語ることで理念は自分事になるのです。

さらに今推進しているのが、「次世代人財プロジェクト」です。若手中心の部門横断チームが自らテーマを決めて、学習と実践を両輪で進めていくプロジェクトですが、今回新製品の企画にも挑戦しました。先日は、経理部所属の女性社員がリーダーとなり、チームが社内外のメンバーを巻き込みながらソファを開発したのですが、大川で行われた7月の展示会で発表したところ高い評価をいただきました。当社の企業理念に沿った“ウィドゥらしさ”と“商品の新しさ”を両立できたのです。役職や所属にとらわれず、理念を軸に挑戦できる環境づくりも、浸透に大切だと考えています。

――少し話題が変わりますが、人材についてお聞かせください。採用において「家具が好きかどうか」という点は重視されていますか。

丹治 全員が該当するというわけではないでしょうが、家具好きの社員は多いと思います。「家具好き」の方はやはりモチベーションが高いですよね。加えて近年は、「新しい挑戦を自ら仕掛けたい」「やりたいことを形にしたい」という志向を強く求めています。家具にとどまらず、生活空間や“暮らし”全体を射程に入れて積極的に動ける人材、そして仕事を通じて自己実現を目指す人材を登用したいと考えています。

――いまのお考えは、幹部層にも十分に共有されていますか。他社では若手には浸透しやすい一方、古参のメンバーには難しいという話もあります。

丹治 どの企業も同様だと思いますが、一般的にベテラン社員は経験値の高さや、そこから得た知見やスキルといった、若手にはない人的資本を有しています。一方で、経験豊富がゆえに過去の成功体験や価値観に引っ張られてしまう可能性もある。環境変化が激しい時代には、若い人がトレンドを作っていくことが多いので、単なる徒弟制度ではなく、双方の強みを融合するような世代間の化学反応が必要であり、全社員に愚直に浸透活動を続けることで、理想の組織を目指していきたいと考えています。

元々当社は大塚製薬グループ(大塚化学)でしたので、ベテラン社員にも異業種発想のDNAが根づいていますし、スローガンの“プラスワン”にはその背景が息づいています。良いものは継承し、変えるべきところは大胆に変える、その両立こそが重要だと考えています。

――ファブレスメーカーとして、為替変動の影響をどのように見ていますか。

丹治 海外工場で生産する割合が多いので、為替変動の影響は大きいです。足元でも円安が継続しており、今後の為替市況も楽観できません。ただし、為替はコントロールできるものではないので、如何に柔軟に対応できるか次第だと考えています。ファブレスは大型設備を抱えないからこそ、環境変化に即応できる。価値観が多様化する時代において、感度を高く保てば、その時々のニーズやトレンドに合わせて最適なパートナーと組み、新しい商品を生み出せます。必要な技術は外部と連携して取り込んでいけることが、ファブレスメーカーの強みです。ただし柔軟性とフットワーク、そして高い情報感度が必要不可欠です。

――情報感度、アンテナ力、情報収集力を高めるために、日頃どのような行動をされていますか。

丹治 合言葉は「周囲を巻き込む」です。社内はもちろん、国内外のビジネスパートナーまで含めて関係を広げます。耳を澄ませ、どんな話題も遮断せずに、まずは聞く。そのうえで、何ができるかを素早く構想し、実装まで持ち込みます。当社のバリュー(行動指針)は、「トレンドを生む創造性、枠を超える柔軟さ、未来を拓くフットワークと勇気」です。まさにネットワークを増やし、情報収集力を高め、自身の引き出しを増やさなければ成立しません。

――経営者には様々なタイプがあると思いますが、丹治社長ご自身は「営業型」「財務型」などの区分でいえば、どの要素に重きを置いた経営をされているとお考えですか。

丹治 いずれの枠にもきれいには当てはまらないと思います。業界経験は決して長くない一方で、複数企業で役員を務めてきましたので、強いて言えばマネジメント全体を見渡す経験値に比重があると思っています。

ですので、営業か財務かといった二者択一という捉え方はしていません。営業が脆弱であれば、いずれ財務は痛みますからね。私が経営判断する際に最も意識しているのは常にボトムシナリオを持つということです。企業の持続的な成長が経営者の使命ですので、私自身は一世一代の大勝負で会社の命運を賭けるようなことは避けるべきだと考えます。経営としてリスクコントロールをしながら、新規事業や新規投資をチャレンジしていく。そのバランスを重視しています。リスク分散の観点からもアライアンスの取り組みなどは拡大していきたいところです。

――事業承継に関する悩みもよく耳にします。

丹治 家具業界に限ったことではないですが、時代的にもちょうど世代交代のタイミングであり、悩まれている経営者の方も多いと思います。変化の激しい時代に事業承継のタイミングが重なり、ますます再編やアライアンスがフォーカスされていきますね。当社はビジョンにもある通り「多様な繋がり」を重視しています。相互の強みを活かしたコラボ商品の開発や国内・海外販路開拓、生産性向上に向けたシェアードサービスなど、いつでも双方にとってプラスになるアライアンスを検討していきたいと考えています。

――お話を伺っていると、情報への感度や機会を捉える力が極めて重要だと伝わってきます。

丹治 そうですね。当社も決して現状でできているということではなく、重要性を理解しているからこそ、試行錯誤しながらも追い求めているということではあるのですが、第1段階として、新しい機会を発掘できなければその先もない。目の前にビジネスの種があるのに、アンテナの感度がなければ、目の前を通り過ぎるだけですしね。

一方でアンテナがあっても、第2段階として、機会を収益に変換できる胆力と遂行力がなければ、結局は企業の成長には繋がらない。やはりこのプロセスの再現性を高めることができる組織・人材を育てる、ということに尽きますよね。そのために、色々取り組んでいるといったところですし、これからも愚直に継続していきたいと思います。

――お忙しいなか、多岐にわたりお話しいただき、ありがとうございました。

(聞き手 長澤貴之)