西川産業社長 西川八一行氏 2016年インタビュー

西川産業・西川八一行社長に聞く
西川家15代目当主西川産業社長

西川 八一行

聞く人
長島貴好(本紙社長)

時代の求める寝具・寝装品を開発販売

長島 我々家具インテリアのマーケットで、寝装寝具が主力商品になってきました。今まで家具は家具屋、寝具は寝具店で販売していたのですが、その垣根を越えて、現在、30%から35%の売り上げ構成比率を占めてきました。収納家具の後、これという主力商品が持てない中で、核となる新たな暮らしの商品です。

また地方の地場の家具店が、今後どのような形態で大手の販売店と差別化していくかということが課題で、幅広い寝生活のスタイルへの取り組みが重視され、求められています。

高齢化社会への対応や、スポーツ分野への進出など西川創業の450周年の感謝の会で西川社長は産学協同、官民協同での技術革新など話されました。それらを踏まえて事業ビジョンをお話しいただければと思います。

西川 私は異業種出身ですが、先代の甚五郎会長の姪と結婚したことで当社に入りました。当時はまだ婚礼布団の売り上げが大きな時代でした。家具屋さんも昔は婚礼の道具としてたんすなどを販売し、新生活を始めることをきっかけとした商売が切り口の一つになっていました。しかし、婚礼セットというスタイルの販売がエスカレートして、結果、高額品を売り手目線でお客様に無理やり買わせているように見え、私はおかしいと感じました。

一つに西川というブランドではなく、借りてきた海外のブランドが立ってしまうことにも違和感を覚えましたし、販売するうえで「結婚するなら買うものだ」と決めつけることは、やはりお客様目線に立っていません。どうにも一生分をこの場で買ってもらうという風潮には違和感を持っていました。

西川八一行社長

長島 昨夜、御社の450年史を明治維新頃まで読み直しました。壮大な事業史、企業史であり、同時に時代々々の経済、社会状況など、生の日本史が必死の商売を通じて読みとれました。気の遠くなる史実でした。

西川 当社の歴史を見ていくと、豊臣秀吉の甥の秀次が作らせた八幡城が位置する城下町で、楽市楽座が始まったことに伴い、大工から転じた初代が商売を始めたのが、ルーツです。ところが秀吉に実子の秀頼ができると、10年足らずで謀反者の町とみなされて城は壊され、城下町も廃れてしまったのです。そのため近江の商売人は他の地域へ進出しなければ商売ができないという悲劇から始まりました。

そうして、我々の祖先はよそに出て商売をしなければならない中で、行った先で常に必要とされる存在になる、という理念を根幹に据えて励む宿命におかれ、それを基に励んだわけです。その考えのもと、その地域、場所にないもので必要とされるものを持って行って売り、帰りに商売を構える地域に必要なものを仕入れて販売しながら帰る、それが行商の原点でした。

近江商人の精神を持ちながら、時代の変化とお客様のニーズに合う改革対応を当社ではしてきました。また、かつてはまず商品ありきのプロダクトアウトによって、こちらの都合で商売を進めていたきらいがありました。

そうではなく、布団や枕という個別の道具にこだわらずに、お客様によい明日を迎えていただけるように快眠をご提供する会社に変わらなければならないと思います。明日をより良い日にするための仕事という姿勢で、仕事に取り組まなければなりません。商品の主軸は睡眠のための道具ではありますが、最近は音や香りなど、目に見えないものも含めて、トータルに提案できるよう、事業転換していく考えです。

スポーツの世界でアスリートと組んで、躍動感を表すこともその一つですし、もう一つ問題になっているのは、主に高齢者が病気になってから掛かる費用です。医療や介護費で40兆円へ拡大し、国の財政が圧迫されています。一方、寝具市場は1兆1,000億円といわれています。1兆円対40兆円です。この1兆円で快眠、健康が維持出来れば、大変な違いです。病気になってかかる費用というものは、悪い病気を治すことはあっても、そこからは何も生まれません。

また、薬代は外国人の持ち株比率が高い製薬会社から海外へ吸収されてしまい、国内にお金が循環するということがありません。ですから病気になりにくい社会づくりの一環として、良い睡眠をとれば病気のリスクが低減するということを証明していかなければならないと思っています。お客様が健康でいるために自分たちに合った寝具を購入し、特に国産の製品であれば、そこでお金の循環も生じます。

ですから、我々が売りたいものを売るのではなく、将来に不安があり貯蓄を崩さないでいる国全体も含め、国民個々の明日のために、高品質な商品やサービスを提供していくべきだと思います。近江商人の言うように人様のお役に立つように事業展開をしていくということが、自分の中の信念です。

「三方よし」の基本をもとに世間に貢献

長島 同感です。政府も1億総活躍時代と言っていますが、健常高齢者でなければ実現しません。また我々も高度成長期までは、商品ありきの商売でやってきましたが今や通用しませんね。なにかそこに時代と市場状況の対応や「こうすればより良い暮らしができる」というシーンやソフトを含む住生活の提案が必要です。

もう一つ、450年周年を迎えた貴社がこれから500年、600年と歴史を重ねていくわけですが、いつの日か次に社を受け継ぐ第16代目の当主に、どういった事業イメージや企業グループ、社会性を持って成立する企業基盤をバトンタッチしていきたいとお考えでしょうか。

西川 「三方よし」はもとより近江商人の考え方を維持しながらも、提供する中身については変えていかねばなりませんね。守るべき伝統と変えるべきところがあるわけですが、私は近江商人の考えを守り、変革すべき点は変革しなければならないと思っています。

昔から風邪をひいたら寝ろとか、寝る子は育つといわれてきましたが、高度成長期には睡眠よりも仕事をとる風潮がありました。しかし、最近では医療分野でも、睡眠が健康に与える影響というものが見直されつつあります。免疫を強化してガンを治す薬が話題になっていますが、年間で3500万円もかかってしまい、そうした薬は一部の富裕層だけのものになるかと思います。

睡眠も免疫強化という面では同じ役割を担っています。日々の睡眠によって誰もが健康を維持することができるようにすることで社会に貢献していく、これこそが我々の使命です。そのためには、医学と同じ形でデータをとる必要があります。

現在、高機能寝具と一般的な寝具の対照実験を行っていますが、成長ホルモンの分泌など医学的にも有意な差が証明されて、昔から言われていた睡眠にまつわる言葉に意味があったことが解明されつつあります。また、記憶力の維持や認知症の防止といった効果も期待されます。ですので、サプリメントを飲むように毎日良い睡眠をとることが望ましいです。

また、日本では、一部の富裕層だけでなく普通の人であっても、高機能の携帯電話を皆所有しています。海外においては機能の落ちたものを持っている人が多いのですが、分割払いによって日本では高機能の電話を負担感が少なく手に入れることができ、普及率も高くなるわけです。では家具はそうならないのかということですが、購買頻度が少ないが大きな買い物となる商売は、分割払いなくしては厳しいと思います。

高級車であっても、月額ローンで購入できるのだから、我々としても「月にこれだけの価格でこんなに素晴らしい生活が送れる」ということを提案することができます。寝具を月額制で使用できるシステムも始めております。

このように快適な睡眠を送れるだけでなく、老化や病気を予防するということが証明されてくれば、皆さんが利用されると思います。また、オーダーメイドの枕も扱っており、知識と技術のある人がお客様に合った枕を作る仕組みです。質の高い接客が必要でインターネット販売や低価格の量販店ではできないことです。分割払いを終えた後も使用できますし、この機会にさらに新しい製品のご提案もできますから、お客様とのコミュニケーション構築に寄与します。このように毎月少額の出費で誰もが健康的な生活を送れるようにできれば、お客様だけでなく、国にとっても、企業としても喜ばしいことです。そうした状態で会社を引き継ぎたいというのが私の思いです。