
2025年6月3日(火)から5日(木)の3日間、東京ビッグサイトの南展示棟で開催された、オルガテック東京2025。「SHIFT DESIGN」を継続的なテーマに掲げた同展は、今回4万4891人の来場者をみた。

今回の展示面積は南展示棟での開催により約2万㎡と、前回展よりもコンパクトに集約された。上下階に分かれた会場では、上階に大規模なブースを構えた出展社、下階には比較的中規模から小規模ブースの出展社、海外出展社が並んだ。

オカムラ、イトーキ、コクヨなど、2022年の第1回開催から連続出展している企業は上階にブースを構え、同フロアにエクスペリエンスエリアを設け、セミナーも開催。ケルンのオルガテック本展でも用いられている、ホール全体の照明を暗くして各企業独自の世界観を演出しやすくする手法も上階では採り入れるなど、上階と下階での差別化も図られていた。

展示スタイルも変化しており、単に製品を陳列するだけでなく、企業の理念や空間コンセプトを体現するブース設計が増加した。来場者の多くが建築家や空間デザイナーといったプロフェッショナルであるため、展示会では製品以上に、その背景にある思想や提案力が重視されるようになってきていることが見てとれる。

オルガテック東京は、今年も「SHIFT DESIGN」を継続的テーマとし、「BORDERLESS オフィスは私へ。」を新たな主軸に据えた。これは、単なる働く場所の拡張にとどまらず、オフィス空間そのものの構造的変化と多様化を示している。オフィスに居住的要素が取り入れられることで、働く場が「自分らしくいられる場所」へと進化しつつあるが、オフィスと住環境の境界が曖昧になっていく現代の傾向を象徴しているといってよいだろう。コロナ初期には自宅をオフィスライクに整える傾向があったが、現在は逆に、リビングのような柔らかな空間を備える「リビングライク・オフィス」が注目されつつある。出展社の中にも。実際に、ソファなど家庭的な要素を持つオフィス家具を出品する企業が多くみられた。

フリーアドレスが一般化した今、ワーカーは無意識に心地よい場所を選択する傾向にある。今後の空間設計では、目的や感覚に応じた多彩な選択肢を提示することが求められてきた。自由な選択だけでなく、働き方そのものに寄り添う空間は、重要性を高めている。コロナ禍を経て、“出社”の意味が再び問われるなか、集中や偶発的な対話の価値が再評価され、オフィスは思考と交流の場として見直されている。また、オフィス空間においては、個別の製品力だけでなく、空間全体との調和や過ごし方の提案力が求められるようになってきた。住宅的な柔らかさや温もりを取り込んだ空間設計が進み、製品と空間との関係性がより重視されている。

オフィス家具市場は現在、企業の投資対象としての注目が高まり、堅調に推移している。特に、経営層がオフィスを単なるコストではなく戦略的投資と捉えるようになったことが大きな転機であり、これによりオフィスのリニューアル需要が増加している。かつては10~15年に一度の更新が一般的であったが、近年では短い周期での見直しが進みつつある。コロナ禍を契機とした在宅勤務やハイブリッドワークの普及により、オフィスの在り方に対する再考が迫られ、アフターコロナの働き方を巡る議論が活発化した。この中で、オフィス空間には「コミュニケーション」と「集中」の両立が求められるようになっている。
このような日本のオフィス文化の進化に対応する各社の取り組みに対して、多くの来場者が高い関心を示した。年々増加する来場者数増は、その表れといってもよいだろう。また、海外からの来場者も目立つようになってきた。言語対応面ではバイリンガル表記、AI翻訳、リアルタイム音声などを用い、多言語環境の整備を進め、実務面での日本語対応も視野に入れながら実効性の高い言語支援体制を構築していることが、評価されているポイントの一つといえるだろう。

今後の国内市場においては、大都市圏での大型オフィスビルの竣工ラッシュや、官公庁を中心とした入替需要が見込まれ、少なくとも向こう数年間は堅調な成長が続くと見られている。空室率の低下やスタートアップの台頭も、需要を後押しする要因の一つだ。一方で国際的な側面では、主催者のケルンメッセと日本オフィス家具協会(JOIFA)が戦略的パートナーシップを2031年まで延長し、今後は海外出展社の拡大や、IT・建材・照明などオフィス空間に関わる幅広い業種の取り込みを目指すとしている。特に、ドイツで開催される家具部品展示会「インターツム」との連携を意識し、部材メーカーの出展も強化していく方針だ。
将来的には、オフィス空間の枠を超え、公共空間やホスピタリティ領域への展開も視野に入れ、人の動きや交わりを生み出す空間の設計を模索するオルガテック東京。オフィスを起点に空間と人の関係性を再定義しながら、企業がもつ独自の技術力や提案力を提示していくことが、今後の重要なテーマとなるだろう。