【特集:広がるホームステージャー(1)】暮らしく 福井栄里代表 資格を“武器”に空室課題へ ホームステージングを事業の柱に据える理由

滋賀・大津を拠点にインテリアの企画・設計を手がける暮らしく(滋賀県大津市、福井栄里代表)が、ホームステージャー資格を梃子に不動産領域へ踏み出し、事業の二本柱を確立している。

創業時は個人住宅のリノベーション設計とインテリア提案、家具・照明の仕入販売を中心に据えていたが、銀行主催の起業家交流会で出会った賃貸オーナーから「空室に困っている」と相談を受けたことが転機となった。福井氏は一般社団法人ホームステージング協会の講座で資格を取得。住み手目線の知見を不動産の現場に“スライド”させ、2020年にBtoBのホームステージング事業となる「CHOIRENO(チョイリノ)」を立ち上げた。

同氏は約2年、個人事業として活動したのち、現在は法人化し4期目だ。売上構成はリノベとステージングでおおむね拮抗するまでに育っている。

ホームステージングの核は「暮らし方を視覚化する」ことだ。同社はまず家具の配置で生活動線と滞在シーンを描き、暗部や陰影が印象を損ねないよう天井照明にフロアスタンド等を重ねて明るさを均し、フォーカルポイントにはペンダントライトやアートで視線の行き場を設ける。カーテンは物件と予算に応じて最小限のレースで窓まわりの“ノイズ”を整えるに留める場合もある。一方でグリーンは「丁寧な暮らし」を直感させる符号として重視。水回りやリビングに観葉植物を配し、生活感の温度を一段上げる演出が持ち味だ。

価格帯は幅広い。軽量のプラダン(プラスチック段ボール)什器と実物の家具・小物を組み合わせた低コスト案件から、家具販売を含む数百万円規模のハイエンド案件まで、レンタル初期費用で7万5千円台から物件次第で数百万円に達するケースもある。ボリュームゾーンは20万~40万円。対象エリアは拠点の滋賀にとどまらず、東京・名古屋・大阪へ広がる。不動産オーナーが複数都市に物件を保有するため、紹介経由での広域展開が可能になっている。

とはいえ、資格取得者の誰もがすぐ実務に移行できるわけではない。同代表は、従来の注文住宅でのBtoC提案と、匿名の“想定入居者”に向けて市場側から設計するホームステージングの思考法は本質的に異なると指摘する。必要なのは、物件の家賃帯や成約相場、オーナーが抱える課題を踏まえたペルソナ設計と、マーケティング/ブランディングの視座だ。さらに地域の賃貸・売買事情や契約慣行への理解が、適切な投資配分の判断に直結する。資格を入口にしつつも「不動産の文脈」を学び直すことが参入障壁になっているのが実情だという。

その壁をどう越えたのか、その答えは現場にあったと福井代表は語る。賃貸オーナーの勉強会や大家会に積極的に参加し、セミナー講師として登壇する一方で、オーナー同士のネットワークから実務の痛点を吸収。人脈と知見を蓄積することで、紹介案件が連鎖し、案件の難易度と単価も段階的に上がっていった。ホームステージングの現場で身につけた小物演出や集客導線の作り方は、モデルハウスや店舗のVMDにも横展開され、リノベ事業側の価値も底上げされた。

背景には住宅市場の地殻変動がある。新築減、人口減、資材高で「新築前提」のインテリア需要は構造的に伸びにくい。一方で中古・空き家の利活用は待ったなしで、空室対策と販売促進に資するホームステージングは、空間価値の翻訳者としてのインテリア職能を拡張する領域だ。同代表は協会の認定講師として人材育成にも関与しながら、コーディネーターの職能の社会的地位を高める契機になり得ると語る。居住者の体験価値を高めるだけでなく、地域の空き家問題や既存ストックの循環にも寄与する――ホームステージングを“社会に効く”事業へ磨き込む同社の歩みは、資格を実装し、学び直しと市場接続で成果に変える道筋を示している。

法人トップとして、人材・資金・事業拡張、三つ巴のかじ取り

法人化から4期目を迎えた同社は、受注拡大と組織づくり、資金計画を同時に進める局面にある。福井氏は「実務からマネジメントへの移行」を見据えつつも、人材育成と収益のバランスに課題感をにじませる。

運営体制は、案件ごとに動ける外部スタッフを含めた機動力が強みだ。主要コアは4名。雇用形態はパート1名と業務委託3名が中心で、案件に応じた増減にも対応している。

一方で、実務を手放して経営・企画に軸足を移したい思いはありつつ、「未経験者を育てる余裕がない」現実が前に立ちはだかる。経験者中心の体制に寄らざるを得ず、教育設計と時間投資の不足が採用のボトルネックになっているという。

現在の働き方はオンラインを活用する分散型が基本だ。育児中のスタッフも在宅で関与できるよう、情報共有を徹底。一方で、日次でオフィスに来られる正社員・パートの採用を模索しているが、「自立的に考えて動ける人材」に絞ると採用難度が高く、要件見直しと業務マニュアル整備を並行して進める。
資金面では、創業融資なしでも利益率の高さ(デザイン料・コーディネート料中心)を示す決算で金融機関から運転資金枠の提案を受け、資金繰りの安定度は増している。さらに、商工会議所経由の低金利融資枠の有効性も実感しており、与信の選択肢は広がる。

加えて、不動産の自社保有を視野に、ステージングと賃貸運用を連動させるモデルも検討段階に入った。調達設計は税理士と協議を進め、プロパー融資も選択肢に置く。

売上は体調不良の影響があった2期目を底に漸増傾向。金融機関からは「必要時に使える運転枠」の提案が続き、小売の仕入資金にも当面の不安はないという。経営の次の打ち手として、案件の質と単価の両立を意識した営業設計が鍵になる。

福井氏は、ホームステージングを「新築偏重から中古・空き家活用へ移る時代に、コーディネーターの社会的価値を引き上げる実装」と位置づけた。同社の次の一手は、地域に根ざす少数精鋭が「仕組み」でスケールする可能性を占う試金石となりそうだ。

(佐藤敬広)