【インタビュー2026:経営者の眼】アンビエンテック 代表取締役社長 久野義憲 氏

ポータブル照明のパイオニアである、アンビエンテック。2025年の5月に、実機を体験できるショールーム「Ambientec Gallery Tokyo」を六本木にオープンし、家具・インテリア業界にその存在感をますます高めている。同社の代表取締役社長、久野義憲氏にインタビューを行った。

――ミラノサローネへの出展を重ね、国内外から注目が高まっているアンビエンテックですが、現在の主な販路はどのようなルートが多いのでしょうか。

久野 当社は、自社工場は持っていませんが、設計開発は全て自社で手掛けています。現在展開している商品数は13種類で、全てがUSB充電による蓄電タイプのものです。展開し始めた当初は、コードレスやワイヤレスと呼ばれていたものですが、今は一般的に「ポータブル照明」と呼ばれています。当社は、その専業メーカーになります。

アンビエンテックは当初からグローバルブランドを目指し、国内のみならず海外へも積極的に展開しようと考えていました。昨今は新作発表をミラノサローネの時期に合わせて行っています。現在は28か国、海外だけで60社の取引先があります。海外は、特にホスピタリティのマーケット、ホテルやレストランでご使用いただくケースが多いです。

――企業としての成り立ちについて、順を追ってお伺いできますか。

久野 アンビエンテックは2009年に設立した会社ですが、1999年に私が最初に設立した会社、エーオーアイ・ジャパンという会社が母体となっています。そこでは、大手カメラメーカーのOEMを請負っていて、コンパクトデジタルカメラを水中で使うためのハウジングなどの水中撮影機材を開発し製造していました。したがって当時は、照明というのは全く未知の領域だったのです。

2009年に、なぜこのアンビエンテックを設立したかというと、「これからはスマートフォンで当たり前のように写真を撮るようになり、カメラの市場性は失われていくのでは」という懸念からでした。自分たちの強みを活かして何かやっていくことはできないかと考えていたとき、私自身が照明に関心があったことや、当時我々が進めていた水中撮影用ライトの技術を応用することを考えました。

2011年に初めてミラノサローネを視察したのですが、そこでは見たこともない照明ブランドが何百社も出ており、日本とのギャップに衝撃を受けたのと同時に自分も彼らと同じようにこの場に立ちたいという欲求も生まれました。先ほど「グローバルブランドを目指したい」とお伝えしましたが、そのミラノの場を体験したからという側面が大きいのです。

2013年からミラノデザインウィークでアンビエンテックの処女作「Bottled」を展示する機会があり、それから市内の有名ギャラリーで展示を行うチャンスもいただけるようになっていきます。2019年にアンビエンテックの代表作「Turn」を展示したころからミラノサローネ本会場へのチャレンジを本気で考えるようになります。

その後、幸運にも2021年の本会場への出展が認められたのですが喜びも束の間でした。その年はCOVID-19の影響で海外への渡航自体が大変厳しくなってしまいました。初めてのチャンスということもあり、その状況下でもキャンセルという選択肢はありませんでした。結果的には、海外からの出展者がほとんど出展を見合わせる中、その姿勢、商品についても現地のVIPから高い評価も得ることができました。

さらに、翌年2022年のミラノサローネ60周年を記念したパーティー(ガラディナー)が、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」があるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会のルーフトップで行われたのですが、そのテーブル上に当社の照明120灯が採用されたことで、さらにアンビエンテックを知ってもらうきっかけとなります。2023年にはコロナ禍が終わって初めて、正常開催の本会場への出展を果たします。

ミラノサローネへは、国内のいい小売店さんも必ず訪問されます。また、ミラノサローネを訪れる方はある程度決裁権を持っている方も多く、話が素早くまとまりやすいのです。

その後、デザイナートTOKYOでも、センプレデザインさんのライトボックススタジオを一棟お借りしてインスタレーションを行いました。イタリアでブランドが認知されると自然と日本でも認知されるので、そのような流れで徐々に日本国内の方にも知っていただけるようになりましたね。その後ミラノサローネには、コロナ禍が終わって初めて本会場で開催できることとなった2023年に、100平米の自前のブースを初めて出せたという流れになります。

――ブランドの認知度向上とともに、異業種とのコラボレーションも展開されているそうですね。

久野 この翌年の2024年は、ミラノを拠点とした香水のブランドとのコラボレーションも行いました。アンビエンテックの商品は照明器具ではあるわけですが、決して「空間を明るく照らす」という照明を作ろうとしているわけではなく、「雰囲気を作る」照明です。したがって音楽や香りの方が、我々が表現したいものと近しいわけです。そのような認識、印象付けをするためにも、このようなコラボレーションを今後展開していこうということで始めた年でもあります。

――ミラノ以外の展示会への出展も進めていらっしゃいますね。

久野 2024年には、デンマーク・コペンハーゲンで開かれる3daysofdesignにも出展しました。オーガナイザーや企画を若手が手掛けている北欧のブランドが中心に出ている展示会で、世界中からジャーナリストが来るという意味でも、かなり話題性・発信力のある展示会になっています。

そこでは、カリモク家具さんのKarimoku Caseのプロダクトデザインを手掛けているノームアーキテクツとのコラボレーションで生まれた、和紙を使った「N-TL01」を発表しました。ちょうどこの頃、日本に海外の人々が非常に多く来るようになり、ラグジュアリーホテルが都市部にはできました。しかし実際、海外からの来日客は、ジャパンディ、日本を感じられるものを欲していると思うのです。

そのところで言うと、「海外のデザイナーが考える日本の和風」に挑戦しても良いのかなと考えたのです。上部のシェードは京都の小嶋商店という、老舗提灯屋さんに作っていただいています。

また昨年は、松屋銀座7階・デザインギャラリー1953で企画展「Ambientec 構造にひそむ哲学」を開催、銀座駅から松屋銀座へつながる通路のショーウィンドーでの展示などグローバルブランドへの歩みを一段と強化しています。

――ここまで、ブランドの成長過程をお話いただきました。アンビエンテックとしての強みについて、さらにお聞かせください。

久野 技術的な面についてもお話させていただきますと、ポータブル照明と一般的な照明器具との大きな違いは、電源とバッテリーによる制御という根本的な相違点があります。コンセントの電源は、国内は100V、海外だと200V以上、ポータブル照明の電源はUSBからの充電でバッテリーという非常に弱い電圧で光源を制御する技術が求められます。

それは、我々が培ってきたカメラや撮影用ライトの技術がそのまま活かすことができ、さらに水深100Mでも使用可能な防水技術によってバスルームや屋外でも安心して使うことができる、どんな場所でも使える照明になるというのが我々の強みです。光源のLEDについても、我々が求めるベストなものをオリジナルでメーカーさんにつくってもらっていますので、独自性の極めて高いプロダクトになっています。

――先日はその技術力をさらに発展させた「マリングレード」モデルも新たに販売開始されました。

久野 「マリングレード」は持ち前の防水機能をさらに強化し、塩水にも耐えることができる仕様になっています。ステンレスに特殊な表面処理をしていて一般の生活範囲に加え、海沿いのリゾートや、大型クルーザーでの使用などに配慮した仕様になっています。実際に海外のリゾートなどからの要望によって開発した商品です。

あとは、部品交換ができることを前提に商品を設計しているので、仮に破損などのトラブルが起きても修理が可能です。質の高いものを提供するだけではなく「良いものをできるだけ長く使いたい」という志向の方に応えられるブランドでありたいと思っています。

――技術力とデザインの総合力の高さが持ち味というわけですね。

久野 明かりに関する思想と、ものづくりの本質ですね。「長く使える」「飽きが来ない」「質感を感じることができる」など、成熟したものづくりというところの考え方と、あとは「こんな空間を作りたいんだ」という明かりの考え方が、実は2つ合わさっているというところも我々の特徴ですね。

一般的に照明器具は、プロダクトのディティールが云々などといった考えは、なかったかもしれませんが、持ち運べるポータブルという使う人とプロダクトとの距離感が変わったことによって、新たに何が必要か?デザイン、ディティールや感触も同時に突き詰める、というのがアンビエンテックのスタイルです。

――カメラ業界から照明・インテリアの世界へということで、困難もあったかと思うのですが、異業界出身からみたインテリア業界というものを教えてください。

久野 10数年前の家電、カメラ業界は価格競争が激化していて、そのために必然性のないモデルチェンジが行われていました。そこには到底、商品を長く使うという考え方はなく、自身もそれには違和感を覚えていました。

ではどうすれば、商品が長く使ってもらえるのかと考え、行き着いたところがこのインテリアのマーケットでした。このマーケットの良いところは照明などでもそうですが、1960年代に作られたデザインのものが未だに製造され売られています。過去の名作がきちんとリスペクトされ、そこにちゃんと目利きの人がいて、それを理解して使おうとしているユーザーがこの世界にはいる。我々はカメラから照明という、それまで手掛けた経験のないものを作ったわけですが、全てリセットしてこのマーケットに飛び込んだのはこのような理由からです。

――アンビエンテックを展開し始めた当初から、まずメインの顧客は法人案件を想定されていたのでしょうか。

久野 いえ、逆ですね。BtoBのビジネスというものは、グローバルブランドに取り組もうとした時にブランドとして認知してもらいにくい。「業界の人しか知らない」となってしまいますから。したがって、やはり小売で一般の方にも使っていただくことで広がらないと、グローバルブランドとはなかなか言えないわけです。

ただ、一般のお客様に使っていただこうと思った時に、我々が作る商品を「最も格好良いシーン」で使われていることはとても効果があります。お客様がそのシーンに感動して、「私もこれが使いたい」と思ってくださるようになります。そう考えたときに理想のシーンの一つというのが、例えば上質なホテルやレストランのような場所になるわけです。したがってBtoBとBtoCできっちりと分けているというよりは、BtoBの空間を手本にして、そのような空間を自分でもやりたいと思ってくださる一般の方に使っていただければよいと考えています。

例えば、ファイブスターホテルが当社の商品を大量に採用してくださり、レセプションやレストランに置かれた商品に関して海外のメディアから取材を受けたこともありました。商品を裏返せば「アンビエンテック」のブランドロゴも記されていますし、そこからアクセスして一般の方がご購入していただいたことも多いです。

――あえてお伺いしたいのですが、ものづくりをされるにあたって、「トレンド」のようなものは意識されるのですか。

久野 家具や照明の名作は、まだものが十分になかった1920年代〜1960年代のミッドセンチュリー期を中心に当時の建築家によって多く商品化された背景があります。

ポータブル照明に関しては、技術革新が起きた今が、「ポータブル照明の名作」を作ることができるタイミングであり、トレンドや流行り廃りというよりも「将来的に名作になるようなもの」をどのようにすれば出せるか、といった考えをアンビエンテックでは持っています。

――そのようなものづくりの精神を経て生み出したプロダクトについて、昨今の海外の方々の反応はどのような声があるのでしょうか。

久野 とても好感触を得ています。アンビエンテックのように「暗がりを作って情緒的な光を見せる」ブランドは、ヨーロッパ市場においても少数派なのですが、とくに建築家、デザイナーなどのプロフェッショナルを中心に我々のつくりだす灯りの質やものづくりの姿勢に共感していただいています。

――個人のユーザーの方々がどのような照明を求めているか、といったマーケティングはされているのですか。

久野 マーケティングはほとんどしていないですね。新しいマーケットですから、人の意見を聞くというよりは、どのようなものをつくったら感動してもらえるかという想像力の方を優先としています。また、アンビエンテックの独自性はすでに世の中にある、ありそうなものであってはいけません。その姿勢がないとミラノサローネなどに訪れる方の心は動かせないと思っています。

――最後に、今後5年、10年後のビジョンなどをお伺いできますか。

久野 アンビエンテックはまだまだ「グローバルブランド」には到達できていませんから、まずそこにたどり着くことを目指していきます。そのためにはミラノで新作を発表することを続けていかなければとは思っていますが、どんどんと新作を増やしていくかというと、そうではありません。基本的には「手掛けていきたいもの」があって、まだ作ることができないことをやり残さないように、そこまでものづくりを進めていきます。

そしてその後は、それまでアンビエンテックが作ってきたものに対してのアップデートと、その時代で必然的に「こういったものもやりたい」というものを商品化していきたいですね。我々はマーケットを見ていないですから、コントロールもできません。基本的に、物の成熟に関する成長戦略は立てますが、売上の成長戦略は持っていませんし、会社の規模が維持できればという考えですね。企業の成長というのは、経済的なものの成長ではなくプロダクトを成熟させることにあると思っています。

――お忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手 佐藤敬広)