――飛騨の家具フェスティバルが「JAPAN FURNITURE MONTH」の開催に合わせ7月開催になるなど、家具業界は変革期ともいえる年でした。まずは昨今の国内家具業界について、どのように見ていらっしゃりますか。
北村 最近の話題では、11月1日から「JAPAN FURNITURE SHOW by IFFT」が開催されましたね。藤田哲也JapanFurniture委員長(カンディハウス会長)をはじめ、様々な方々に尽力していただきました。今回が初年度なので、今後育つイベントになっていきそうです。
昨今、日本の家具産地の盛り上げていく中で、その産地にしっかりとスポットを当てるイベントは意義のあることだと思います。これまでもデザイナートなどのイベントは開催されていましたが、我々のような国内メーカーとしては追随できていないところもありましたので、そのような意味でも我々がしっかりと様々な方に商品をお見せすることができる、日本の家具の認知拡大とブランド化を目指すという目的のために集えることは、有意義であると思っています。
現在の家具業界が置かれた状況についてですが、もともと日本の家具というのは中産階級の方々のニーズに沿うものでした。しかしながら時代が進むにつれ、日本国内でも相対的に中産階級があまり豊かになっていかない中で、ニトリさんやイケアさんが低価格帯のボリュームゾーンでの家具販売を始められたのを境に、寡占化が進んだなと思います。したがって、我々国産メーカーの立ち位置というものを、今一度改めて考えないといけません。業界の構造的なものも、かなり変化してきたなと感じますね。
――どのような層に向けて、昨今特にアプローチしていきたいとお考えですか。
北村 今までは、当社の家具をご購入いただく層は、60歳以上など比較的生活や資金に余裕のある方々が主でした。しかし今後はもう少し若い方々、これから住宅を購入するといった第一次取得層や買い替え層も含めて、若年層へしっかりと訴求していかなければならないと考えています。昨今の若年層の方々はSNSの影響を受けて購買意欲を持たれる方も多くいらっしゃいますので、そのような方々の感性に響く商品を打ち出して訴求していかなければならないでしょう。消費行動は変化してきていると感じます。
新築着工戸数の減少が目立ちますが、戸建て住宅が売れないと家具も売れないという事実をこの数年で非常に実感しています。その上で事業の多様性をもたせるためにも、家具以外にウイスキー樽の製造にも取り組んでいます。当社の工場の一画で製造しており、納入先はウイスキー蒸留所がメインです。
樽を製造しようとしたきっかけは、地元にウイスキー蒸溜所が立ち上がったこともありますが、現在日本国内に樽を製造している企業が単純に少なかったからです。もちろんサントリーさんやニッカウヰスキーさんなど、大手の企業は自前で製造拠点を持っているのですが、樽を製造して外部に販売している企業は、全国で数社程度なのです。当社が家具作りで培ってきた技術を樽づくりには活用できますし、使用する木材も同じという点も大きかったです。
そして、昨今はクラフトウイスキー蒸留所が増加しています。2014年頃はわずか9か所だったのが、去年の段階で114か所まで増えました。そしてウイスキーに欠かせないのが樽。樽がないとウイスキーは生産できません。そして日本の木材の一つであるミズナラは、この樽づくりに特に重宝されている材です。
――海外からの引き合いも増加しているとのことですね。販路の拡大についてはどのようにお考えですか。
北村 2025年に関しては海外からの注文が多くありました。当社ならではの、木材を自然乾燥させつつ曲木の強みを活かした精度の高い樽は高い評価をいただけています。2023年の製造初年度からメキシコから注文があり、2年目にはルーマニアや台湾、3年目はインドやオーストラリアからといったように広がりを見せています。口コミや人づての紹介などで知っていただく機会も多いので、ウイスキー関係のイベントにも積極的に出展したいと思います。樽の事業の売上は、今年は数千万円といった規模ですが、いずれは1億円以上に拡大を狙います。
蒸留所に販売後、ウイスキーは最低3年熟成させなければいけないのですが、そのようにして製造されたウイスキーが酒屋さんや商社さん、蒸留所さんが自社で販売するといったことを通して、徐々に販路が広がればと思っています。個人的に期待したいのは、岐阜県高山市は観光客の来訪が非常に多く、年間400万人以上の方が訪れます。外国人の方も75万人を突破しましたし、高山に来ていただいた方々に地元産のウイスキーを飲んでいただき、観光の一助に繋がればと思います。飛騨高山産の樽で造る飛騨高山産のウイスキーといったストーリーを生み出していきたいですね。
――家具のみならず樽といったように、木材を使ってできる多様性をより広げていかれる予定なのですね。
北村 家具や樽もそうですが、木で作れるものであればさらに事業を他にも立ち上げていきたいと思いますね。我々が製造している木の家具というのは、生活必需品からもう一歩上の、特別なカテゴリに入ってきている気がしています。家具は家具でも、「日本の木の家具」といった嗜好品といいますか、生活にやすらぎ・癒しを与えるものとしてですね。本来、家具というものは人間の生活を豊かにするべきものであると思っていますし、ウイスキー樽の事業もそれに通じるものがあると思っています。
――先ほど、マーケットインに寄った商品開発をしていきたいというお話をされましたが、そのような点も意識しつつ、やはり日進木工ならではの特長も打ち出すことを重要視されているのでしょうか。
北村 そうですね。飛騨の家具ならではの曲木の技術を用いたといった要素でしょうか。当社の商品デザインは、木の線が細くて軽やかな点が訴求ポイントです。なかなかこのような、線が細いデザインのチェアづくりというものは、他社さんではできないものだと自負しています。当社のフラッグシップモデルある「コーラス」についても、機械による工程ですべてを形作っているわけではなく、しっかりと職人の手で加工している箇所があります。それにより、人の手の温もりを感じることができる、手作り感のある商品をしっかりと作っていく。これが当社としてのポリシーです。
そして消費者の方々も、メーカーがしっかりとものづくりに取り組んでいるかというところを、きちんと見抜いていらっしゃる方が多いと感じています。家具メーカーとしてこだわりを持ってものづくりをしているか、高い品質であるかといったところですね。ここはこれからも手を抜かず、しっかりと磨いていかなければいけない要素です。
――そのような中でも、日進木工としての業績について、今期はいかがですか。
北村 去年と同等といったところでしょうか。家具以外に樽製造の事業も行っており、そちらは徐々に売上は上がっています。ただ、2025年は厳しい年でした。
商品の値上げについて、直近では2025年の6月に実施しました。当社は木材の在庫をある程度持っているので、値上げ幅は他社さんよりは優しめに上げたつもりではあるのですが、全体的に物価が上がるなかで、なかなか家具を購入するためのお金にまわす余力がない、という消費者が増えている影響は大きいのではないでしょうか。
当社は地方の家具店さんや家具専門店、インテリアショップさんと多く取引させていただいています。全国で家具販売店さんが減少してはいるものの、今現在もしっかりと運営されている販売店さんは、やはりしっかりと地域に根差して商売をやっていらっしゃるところです。したがって、そのような各地のパートナーショップさんとの取り組みを強化したいと考えています。 また、コントラクトについてもかつてと異なり、ホテルや飲食店などにこれまで以上に良い家具を使いたいという意識が高まっているようです。当社の家具についても、施主さん、建築設計事務所からのスペックインで発注していただくケースもあります。
コントラクト案件については、商業物件は増えていますね。パソナさんとのつながりで淡路島方面での仕事もいただくことがあるなど、様々な案件があります。高山市内の小さな物件から、都市圏の大きな物件、様々な仕事が増えてきていますので、徐々に拡大をしています。
――続いての質問ですが、北村社長は経営者としてどのような点を重視されているのでしょうか。
北村 財務面です。父も祖父も、財務面には目を光らせていました。やはり企業というものは社会的に信頼を持った社会の器として見られるわけですから、財務面も公明正大にした経営をやっていかないといけません。企業経営は、良い時も悪い時もありますが金融機関さんとの連携や、長年取引いただいている仕入れ先様は大事にしていかなければいけません。
もちろん販売いただいている取引先様に合わせ、独自の強みを活かせる販売戦略を考えていくのが、私の今の使命と思っています。
私はピーター・ドラッカーが好きで、よくその読書会などにも参加しているのですが、第一に企業の使命は「顧客の創造だ」と言われています。顧客の創造を絶えずやっていくということ、自社の強みを活かせる方向を考えていくということを大切にしています。これが新規事業であるウイスキー樽事業にもつながっていきました。
経営者として特に心掛けていることのもう一つは、従業員の方々に良い人生を送っていただきたいですから、その満足度を上げていくことですね。世の中にこれだけたくさんの数の会社がある中で、当社を選んでくれたのですから。当社はここ10年のうちに入社した社員のなかで、約半分が岐阜県外の出身者なのです。県外から「ものづくりに携わりたい」という熱い思いをもち、高山市の日進木工に入社してもらっているわけですから、そのような従業員の期待を裏切らないよう、従業員に気持ちよく働いてもらえる環境整備を進めていきたいと思っています。
――企業としてのビジョンの共有など、社員に全力で仕事に取り組んでもらうために、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
北村 今は「2 S 3定活動」という取り組みを重点的に行っています。とにかく綺麗な職場づくりを行おうと。そこから見えてくるものもあるだろうということで、今はそれを徹底的に取り組んでいます。生産性も上がり、一人一人が自分の仕事に集中できるような良い職場環境を維持、改善していくための取り組みです。
社員行事も大切にはしていますが、何より日頃のコミュニケーションや社員さんへの声掛けですね。可能な限り工場はまわるようにしています。社員の顔をみる、ということを大切にしたいです。顔をみれば、作業をしながらも「何か訴えて」いますからね。その人の調子や、感情の波などを感じ取ることもできましょう。今のところ、現場の従業員も社長だからといって遠慮することなく話してくれていると思います。
また理想は、ある程度経営方針を掲げたうえで、従業員がそれを目指して自走してくれる組織になっていくことです。一から十まで細かなことを経営者が言わなければいけない状態では、結局のところ従業員は経営者に何か言われないと動けなくなってしまいます。それは放任主義とは異なりますが、従業員がいろいろ自ら考えて策定し、自走していくという組織を私は目指していきたいとは思います。何かやる前から細かく経営者が指示するというより、なるべく自ら新しいことに挑戦できる会社であってほしいと思います。その結果、ある試みが間違いだった、とわかればやめるか別のアプローチをすればいいのですから。
――最後に、日本の家具メーカーの経営者として、メッセージをいただけますか。
北村 私は30代の頃ずっと海外の取引先を新規開拓する営業をしていました。様々な国をまわりましたが、日本のように繊細なものづくりをしている国は見当たりません。しっかりと手が込んだ木製家具を作っているのは、北欧か日本ぐらいなのです。
そのような意味でも、日本で製造された家具というものは、やはり海外からもっと注目されてもおかしくないものだと思っていますし、日本で家具を造っているということに業界全体が誇りを持ってよいと思います。日本の家具はまだまだポテンシャルはあると思っているので、北欧家具に負けないブランディングをしっかりと行い、海外に打ち出して外資を稼いでいきたいですよね。
――お忙しいなか、多岐にわたりお話しいただき、ありがとうございました。
(聞き手 長澤貴之)






