「満足」を生むのは値引きではない。質の高い接客だ
――プライベートブランドやオリジナル品がますます充実してきているようにも思います。その背景をお教え頂けませんでしょうか。
利根川 これは前提のお話もあり、少し説明が長くなるのですが、お客様にとって良いものを満足して買っていただきたい、という願いが出発点にあります。
コロナが落ち着いて以降、お客様の消費は外を向くようになりました。このため同業他社も含めてみな売上が欲しくなり、値引き合戦が増えてきたのではないかと思います。私たちも値引きをしないわけではありません。例えばですが、まとめて家具を買っていただいたお客様に柔軟な対応を行っております。しかし私たちは常に、値引き・セールはある種の常習性を伴う薬のようなものであるという認識を置くようにしています。価値のある製品はしかるべき価格でお買い上げ頂けるよう努力しなければならないのです。そしてそれが当社の社風になっています。
私たちが目指すべき姿は、値引きでお買い上げいただくことではなく、商品の魅力をしっかり説明し、お客様に安心、満足して購入して頂くことです。また、ご来店されるたびに商品の値段が変わっていたら、お客様も安心して買えないのではないでしょうか。人によって価格が変わると、いくらが本当の値段なのか、それが高いのか安いのかもわからなくなります。そういう意味で私たちは値引きに対して、慎重な姿勢を崩せないのです。
しかし実情として、今、業界はなかなか厳しい状況です。どうしても売りたいので値引きをしてしまう、もしくは値引きを表に出して集客を図るのです。しかしそうすると、お客様の視点は家具の魅力から離れがちになり、値引きに引っ張られたお買い物になりがちです。「あの店はあんな値段だったけど、おたくはいくらまでいけるの」と。そうなってくると、時に必要のなかった値引きもせざるをえなくなります。オリジナル品やプライベートブランドの開発と発展が進んだのも、そもそもそういった価格の叩きあいの土俵に立たず、製品本来の良さを説明する機会を確保するためなのです。
――値引きではなく、商品自体の魅力を理解頂くことで、満足感を持って購入頂くことを目指しているということですね。
利根川 はい、値引きをしてお買い上げいただいたお客様と、値引きをしないでお買い上げいただいたお客様、一体どちらの満足度が高いでしょうか。結論を申しますと、後者のお客様だそうです。
振り返れば私も身をもって体験したことがあります。つい最近、5店ほど電気店、家電量販店をまわり、自宅用のテレビを探したことがあります。最終的に安く買えたわけですが、満足したかというと疑問でした。というのも買ってしばらくしたら、「もっと(安く)いけたんじゃないか」と思ってしまったのですよね。
一方その翌月、パソコンが壊れてしまって近所のとある家電量販店に行きました。買う予定はなく、ただの情報収集のつもりだったのですが、そこで受けた接客が本当に素晴らしかったのです。そのパソコンはちょっと高いなという印象だったのですが、店員さんの接客と説明があまりにも素晴らしくて、その日のうちに購入してしまいました。その販売員の方の接客と説明は私が求めていた基準以上のもので、結果として私はそのパソコンに価格以上の価値を感じることが出来たからなのですね。これこそ、私たちが手本にすべき販売の有りようだと思っています。
――「プライベートブランド」及び「オリジナル品」推進の背景がよくわかりました。そして
取扱量としても拡大しているのですね。
利根川 「オリジナル品」については、例えばメーカーさんによる定型品から、箱物で言えば取手が異なる、ソファで言えば形状が異なるものを指しており、相当数のメーカーさんがオリジナル品を推進しています。雑貨・小物はロットの問題もありオリジナルはまだまだ少ないですが、家具は受注生産の側面が強いためオリジナル化が進んでいます。
――雑貨についてお話がありましたが、andif(アンドイフ 同社雑貨・生活用品店)は今後拡大する予定なのでしょうか。
利根川 アンドイフはまだ試験運用の域を出ていません。アンドイフを立ち上げて特に知りたかったのは、接客を伴わない運用をしたときにどれくらい売上があがるのかという点です。そして次に、これに接客を行った場合どれくらい売上に変化が起きるのかも知りたいと思っています。
現状ですが、新所沢店は今年の3月に閉店しましたが、流山に新しくオープンし、上尾とあわせて2店舗運営しています。今の感想としては、なかなか簡単ではないなというものです。セルフだけ(接客なし)ですので、差別化も難しく、デコホームさんなどライバルも少なくありません。我々の雑貨、ホームファッションに何が求められているのかを模索するのもこの試験運用の目的の一つですが、まだ模索中と言えましょう。
――新所沢店はなぜ閉店したのでしょうか。また、実際運営してみていかがでしたか。
利根川 新所沢店は、2022年の12月から新所沢のパルコでスタートした店舗ですが、もともと新所沢パルコは2024年の3月で閉館が決まっており、1年ほどしかお店を開けないということがわかっていました。オープンしたのは、パルコさん側から良い条件で、オファーを受けたのがきっかけです。この新所沢店は約300坪で、上尾店と同じくらいの面積です。
その次に新しくオープンした流山店は約半分の大きさです。しかし、流山おおたかの森駅の目の前ということもあって、客数は圧倒的に多いです。このように、今後の展開における店舗のサイズに関しても検証を行っております。
――若い層のほうが雑貨を買うイメージがありますが。
利根川 そうですね。実は新所沢店のメイン顧客は50代~60代でした。そして上尾店は60代~70代がメインです。一方流山店は30代~50代のお客様が中心です。面積も半分ですが、年齢層の違いというよりも、来客数の差により比較的好調です。
アンドイフはアンテナショップ 東京インテリアを知ってほしい
――そのようにアンドイフの試験運用に乗り出した背景には、既存店舗の雑貨・生活用品の売上が無視できないほど増えてきたからなのでしょうか。
利根川 アンドイフの試験運用に乗り出したのは、我々がメインとする大型店を建造するにあたって、建築資材の高騰が背景にあります。建築コストが高くなっているため、多角的に経営を進めている結果だ、と言ってもよいでしょうか。
私たちは全国に店舗を展開していますが、まだまだ知名度は不十分だと認識しています。アンドイフはアンテナショップの役割も兼ねています。看板の下に、東京インテリアと記載しているため、都市部で来店したお客様にアンドイフを通じて東京インテリアを知っていただき、そして郊外に誘導していけたら良いと考えています。その逆もまた期待しています。東京インテリアをすでに知っている人が、アンドイフを見つけて興味を持ってもらえたら嬉しく思います。
――都内23区にも出していく予定なのでしょうか。
利根川 はい、そのような計画もあります。ただ、今は郊外から検証を行っている段階です。
今は店としての基本の型、つまり「フォーマット」を模索している段階でして、計画としては3~5店舗の出店を考えています。アンドイフについては少なくとも、5年間はチャレンジしていきたいと思っています。出店を通じて効率を含めたフォーマットを定めていきます。
従来の大型店とアンドイフとの決定的な違いは、店舗規模が小さいため、売上が順調であれば拡大もかなり早いということです。アンドイフの店舗運営は特殊なことをせず、シンプルにいこうと思っています。接客能力の向上や、オペレーションに向けて複雑な教育が必要となると展開速度も遅くなりますが、業務の標準化をすることで、水平展開のスピードもあがります。
――一方、消費者にもっと、東京インテリアについて知ってもらいたいことはなんでしょうか。
利根川 お客様の私たちに対するご認識は、やはり「家具屋」だと思います。そして皆様のお声を聴くと、多くの方は、「東京インテリアさんはちょっと高いのでは」と思っていらっしゃると自覚しております。そこで、皆様にお伝えしたいのは、実はそうでもないのですよということです。後ほどまた説明しますが、私たちはこの物価高に対応する、将来的な商品構想を持っております。
また、人生の中で、家具を買うタイミングは数回しかありません。すると来店の頻度は低くなりますが、私たちは雑貨・小物も扱っているので、もっとご来店いただけたら嬉しく思います。私たちの基本理念には、消費者の生活を豊かにしたいという考えがあります。家具だけでなく、消耗品や小物を通じてもそのことは実現可能ですので、これを訴えていきたいと思っています。
また、店舗にもよりますが、小さなお子様がいる場合、お子様が遊ぶスペースもあります。疲れたらくつろげるカフェもあります。購入しなくても、気軽にご来店頂きたいと思っています。気軽に来店できる店づくりこそ、私たちの目指すところなのです。
――SNSの投稿を持ってきて、こんな家具が欲しいという要望が多いという声も業界で聞かれます。また、お客様の声も多様化してきていますね。
利根川 まさにそうですね。私たち自身がインスタ等で家具の投稿もしますので、それを持参くださるお客様もいます。また、私たちはただ家具を並べて売っているだけではなく、販売員が積極的にご相談に乗らせて頂きます。お客様の住宅に家具を置く、3Dシミュレーションを行うなど、多角的な提案も可能です。
――今後の経営展開で、なにに力点を置かれる予定でしょうか。
利根川 5つのポイントで進めていきたいと思っています。
1つは、これまで通り大型店の出店です。しかし、昨今の建築資材の高騰が課題として立ちはだかります。ですので現在、店舗をいかにローコストで建築できるかを検証しています。
もう1つは、居ぬきの活用です。我々のフォーマットに合う店舗であれば居ぬきで入ることも積極的に検討していきたいと考えています。
もう1つは先ほどお話したアンドイフのテナント型店舗の推進です。また、アウトレット(MAX)でも同じような展開をしたいとも考えており、今後はMAXについてもテナント型として出店を進めて参ります。MAXは現在4店舗ですが、店舗としてのフォーマットをしっかり作りこんで展開に落とし込みたいと思います。
4つ目は、介護用のレンタルであるメディカル事業の推進、そして最後の5つ目がBtoB分野です。東京デザインセンターという部署が鹿沼本部にあり、ショールームもあります。ここに百貨店のお客様や、提携している住宅メーカーのお客様を対象にご招待し、営業につなげています。こういった動きを全国的に広げていこうとしています。このようなBtoBの拠点は現在、栃木県の鹿沼の他に千葉県の幕張、仙台、そして大阪の4か所にあり、住宅メーカー様との提携、そして非住宅を中心に営業活動をスタートさせました。
――(BtoB分野は)御社のプライベートブランドのスペックインが中心なのでしょうか。
利根川 そういうわけではありません。住宅メーカー様のお客様優待について申しますと、鹿沼の本部はショールームがありここでご覧頂けるのですが、その他のエリアは全国の店舗にご招待して家具・雑貨をご覧頂くスタイルです。お客様にも特別価格でご提供するわけですが、プライベートブランドのみというわけではなく、全商品が対象です。このような営業活動を今後さらに拡大していこうとしています。
またあくまで構想ですが、いずれはハウスメーカー様のオリジナル品を私たちが作りたいとも考えています。それも私たちならではのやり方で進めたいと思っています。一方、非住宅案件についてですが、お取引のある家具メーカーさんもすでにコントラクトをやられていますので、慎重に見極めながら取り組みを進めたいと思っています。
オフィスも、住宅との垣根がなくなってきており、我々の商品を提供しやすい環境が生まれています。しかし一方で、ホームとコントラクトでは強度の検査基準が異なりますので、両方の基準を満たせるような商品開発も進めています。
――非住宅案件において御社ならではの強みについてお教えください。
利根川 私たちの一番の武器は、「幅広い商品を扱う」ということだと思っています。
一般的に、「高価で良い製品」というのは探しやすいものです。特注でつくってもらうこともできます。しかし、手ごろな価格で良いものを見つけるというのは非常に難しいものです。そして現場は予算が限られることが往々にしてあります。そういったケースにおいて、私たちがご提供できれば良いと思っています。製品をご覧になりたいお客様が店舗に来られれば、非常に多数の家具や雑貨を実際に手にとって選べます。
オフィスならオカムラさんをはじめ、各メーカー様はショールームを都市部の中心に据えておられます。一方私たちはほとんどすべての店舗が郊外にありますので、郊外案件のBtoBにも対応しやすいのではないかと思います。
――ありがとうございます。先ほど物価高に対応する商品構想について少し言及されていましたが、明かせる範囲で教えてください。
利根川 昨今の家具の値上がりにより、消費者の方々にとって手が出にくい価格の家具も多くなってきているように思います。賃上げが行われていても、実質賃金は下がっているとも言われています。そのような状況で、私たちはもっとお客様に寄り添っていかなければいけないのではないでしょうか。とはいえ、国内メーカー様の事情も無視できません。材料も高くなり、人件費も高騰して参りました。
現段階では具体的に明かすことは難しいのですが、将来的に取引様とより密接な連携を図り、お客様にとって購入しやすい製品づくりを構想しています。この構想の目指す姿は、お客様にとって良し、取引先様もまた良し、そして従業員にとっても良し、というものです。
どうしても数字が悪化すると、私たちは数字ばかりを見るようになります。売上をあげよう、粗利を確保しよう、といった具合です。消費者の皆様が、これを使ったら快適になる、暮らしがこんなに良くなるというビジョンが後回しになりがちです。しかし、本来これこそが大切ですし、私としては原点に戻る必要があると考えています。お手頃な価格で、取引先様にも無理がなく、そして我々にもメリットがある。そういった三方良しのサイクルを構築していければと思っています。
――三方良しの構想など、興味深いお話をたくさんいただきました。本日はお忙しい中、誠にありがとうございました。
(聞き手 長澤貴之)