――2025年は多くの家具関連企業にとって、厳しい一年だったと思います。そのような中でもナガノインテリア工業はミラノサローネに出展するなど、ブランディングの強化をより推進されています。この1年間の業績について、まずはお伺いできますか。
永野 当社は12月が決算期なのですが、2025年度の売上は昨年度よりも10%弱上向きで着地予定です。コロナ禍のステイホームによる需要以降、連続的な値上げなどによって売上のアップダウンは繰り返してきましたが、今年はそのアップの年だったと認識しています。
2022年までは、ステイホームによる需要で各社も業績が伸びていたと思いますが、その頃を境に値上げや働き方改革など、社会環境の変化も激しくなりました。その環境変化に対する施策の取り方で業績も変動しました。値上げはわかりやすい事例ですが、あとは工場の稼働日数についても、当社では休みの日を少し増やし、その結果少々業績に影響を及ぼしました。現在は受注を含めて徐々に回復基調にあるというフェーズだと思っています。
また今の家具業界は、どのように捉えればよいかわからないほど、販路が多様化してきています。当社においても、業績をどのチャネルで伸ばしているかと問われるとまずは直営店です。ほかに、ハウスメーカー経由での販売や、別ブランドの「SOLID」のパートナールートが実績を牽引しています。
「ビジョン30」という、売上高30億円に向けた目標も社内で設定しています。10年前、当社の販路はその95%以上が家具販売店様ルートでした。売上高20億円を超えたぐらいの時期でしたが、その時点で「人口減少局面にある中、このままいくとどこかで業績も落ちる、そしてそれは軌道修正をしにくいような落ち方になるだろう」と予期し、新たな販路開拓に取り組み始めました。リビングハウスさんと組んで、当社初の直営店である「WOODLAND」を開設したり、先ほども申した「SOLID」のブランドをミヤモト家具さんと展開を始めたりといったように、です。
――人口の減少に対応すべく、策を練られたということですね。
永野 人口が減少している、そして今後も減少していくのは事実です。そしてまた皆様の家具購入ルートは多様化してきています。これは社会のながれです。この業界で20億や30億の売上規模を目指すのであれば、エンドユーザー様以外に向けた販売チャネル、つまり法人向けなどの販売ルートも目指していかないといけません。
製造面でのカイゼンもそうですが、売り方のカイゼンにしっかりと取り組んでいかないと、状況は打開できないと考えていますし、社員にもこの考えをしっかり理解していただきたいと考えます。さきほどの「VISION30」を出したのが2017年でしたが、その当時はまだ社員にこの考え(販売チャネルの多様化)を提示しても、ピンときている人は少なかったように思います。今では当たり前のように受け入れられていますが、当時の認識ではまだその程度でした。
とはいえ、現在の主たる販売対象は、やはりエンドユーザー様です。販売店様、パートナー店様、ハウスメーカー様、そして直営、いずれをたどっても最終的な顧客はやはりエンドユーザー様ですので、相乗効果を生んでいくために、エンドユーザー市場に徹底的に取り組んでいくことにまず重きを置いて考えています。
――法人向けというお話もありました。コントラクト事業については、伸びはいかがでしょうか。
永野 当社は他社さんと比較すると、コントラクトの割合はまだ少ないです。その原因の1つは、近年OEM案件を請け負わなくなったことが挙げられます。もちろん、OEMによって売上を上げることはできるのですが、「ナガノインテリア」のロゴを貼ることにこだわりたい、「ナガノインテリア」としてのプレゼンスを重視したい、と考えるようになったのです。しかし当社の方向性やブランドコンセプトを表現できる、あるいは共鳴できるプロジェクトであれば、参画させていただく機会は度々あります。
この10年間で当社を知っていただくためのショールーム開設は全国主要都市に進めてきており、来年も新規開設計画があります。まだまだ課題は多くありますが、未来の種は蒔いているので、先々は主力販路の一つと言える状況に持っていきます。
――続いて、現在の家具業界の状況をどのように捉えていらっしゃいますか。
永野 家具の購入ルートが多様化していますから、どこからどこまでが我々の業界なのかということを、しっかりと認識することが大切だと思いますね。企業によってこれは異なると思いますが、その認識をしたうえで、どのルートを狙っていくのか。その点を明確にすることが、自社の強みにもなっていきますから。
家具メーカーは木工業にあたるわけですが、家具というものは木製品の中で粗利も含めて魅力的な製品で、付加価値の高いものです。家具より付加価値の高い、魅力的なビジネスはないとさえ思います。そして家具は造形物としても成立しています。これがフローリングや建材だと、それ一つだけでは造形物として成立せず、部品のような形ですよね。しかし家具、特に椅子やソファは、一つの形として成立していますから魅力がありますし、家具製造を手掛けている当社として、その魅力をさらに追求していきたいと考えます。
また現在の家具業界について、ということですが、業界のシェアを考えたときに、例えば某大手の企業さんは業界内で10%のシェアがあるとしましょう、それほどの規模の企業だと「業界が縮小すると企業も縮む」という論理は当てはまるかもしれません。しかし家具業界は本当にたくさんの企業が存在しますので、大多数の家具メーカー様がそれぞれ業界のシェアを何%占めているかと問われれば1%前後もしくは未満ではないでしょうか。
したがって、仮に業界全体が「10%減った」となっても、個々の企業が単純に直接10%のマイナスにはなりがたく、売上の増減はそれぞれの企業が取り組んだことによる影響のほうがはるかに大きいわけです。中小の家具製造業は、業界の景気に左右されるということよりも、「自社で何に取り組んで手掛けていったのか」、これによる影響の方がはるかに大きいと私は考えます。
――続いての質問ですが、今後の将来に向けた展望などについて、どのように描いていますか
永野 当社はメーカーですから、社員の中でも製造・ものづくりに携わっている従業員が多くを占めています。世の中の流れを見ていると、価格の上昇は避けられず、今後はより高付加価値の製品づくりに取り組んでいかなければ通用しなくなりますので品質を上げていかなければいけません。そのために当社では、品質管理の強化に取り組んでいます。メーカーとして基本の部分ですが、それを見直したく考えます。
当社では品質を「基本品質」「感性品質」「情報品質」の3つに定義しています。基本品質とは、製品そのもの、素材の質を指し、これを完成形態にした際に生まれる造形の美しさ、感性に訴えかけるクオリティを「感性品質」とします。そのような製品の品質を大切にしつつも、それを外に向けて正確に解像度高く伝えるのが「情報品質」で、当社はこのような会社ですという情報を伝えることですね。その手段としては直営店、そしてSNSの活用が挙げられます。「良いモノづくりさえしていればよい」という考えではダメで、やはり当社やその製品を知っていただくことが大切ですから。
情報発信の核となるのは直営店です。直営店を運営していくためには、そもそもお客様にご来店いただく必要があります。そのためにはそれだけの情報発信を行わないといけませんので、WEBやSNSの体制を構築していくことになります。そして当社は製品に付けているロゴに「Made in Asakura」と表記しています。当社がどこにあるのか、これを伝えていくことも重要だと考えています。
――特にユーザーさんがナガノインテリアを評価している点について、どのような要素だと認識されていますか。
永野 当社は国産メーカーとして福岡県の朝倉市に工場を構え、実際に工場をご覧いただくことが可能です。お客様は様々なメーカーさんを見て回られる方が多く、その中でクオリティと価格のバランスを考えつつ、実際に製品を見てその品質に触れて評価していただくことが多いです。当社の商品は木の種類や張地も沢山の種類から選んでいただけるうえ、サイズオーダーにも対応するなど、お客様がお求めになりたいものが見つかりやすいという点も、好評をいただいている要素です。
――永野社長は、商品のデザインなども手掛けていらっしゃるそうですね。
永野 最近は、直接は描かず、ラフスケッチぐらいですね。基本的に、デザインを手掛ける社員が在籍していますから、私が本格的に入ることはないです。ただ、開発のコンセプトなどには参加していますね。
――商品開発においては、マーケットイン型とプロダクトアウト型の考えがありますが、永野社長が開発コンセプトに携わられる際、どちらを重視されるのでしょうか。
永野 これは毎回葛藤しています。どちらに偏りすぎてもいけませんからね。例えば、マーケットイン型に偏りすぎると、それは結果的に類似品しか生み出せないことになります。対極のプロダクトアウト型においても、その良さが理解されないと意味がありません。したがって、最終的には「お客様に受け入れなければ意味がない」という意味で、その中でいかにナガノインテリアらしさを出していくか、「ナガノインテリアらしい製品」であるかを常に言葉に出しながら皆で考えていますね。
そのため、先の質問に答える形にもなりますが、当社の良さは、どちらにも偏りすぎていないバランス型であるところと思います。本音を言えば、プロダクトアウト型に振り切ってやっていければ、どんなに楽しい人生だろうとは思うのですが、それを続けていくと「この当社の製品はどうだ!すごいだろう」といった、誇示するような製品が生まれるわけです。しかしこのような製品は大抵、恐ろしいほどにずっこける。評価を得られないのです。
したがって、やはり常日頃から営業担当者やお取引先の声に対して、真摯に耳を傾けて開発していったものでないと、市場には受容してもらえないですね。そして、当社の社員が「好き」な商品ほど、売れ行きが好調です。「ナガノインテリアらしさ」をしっかりと出していかないと、なんだか生きている心地がしないのも事実です。そのためにも当社は、デザインやブランドコンセプトを言語化して表しています。
――少し話題は変わりますが、永野社長は経営を手掛けていく上で、特にどのような面を重視しながら経営に臨んでいらっしゃいますか。
永野 販路戦略、カイゼン・環境整備と財務ですね。そしてそのバランスを考えています。販路戦略を重視するという観点ですと、「VISION30」に経営方針やどのような企業にしていきたいかといった、当社の向かうべき先を表しています。ビジョンを設定していなければ、社員をしっかりと導いて動かすことはできません。
そして、私自身は「開発型」の人間だと思っています。私自身、最初は商品開発からスタートしましたが、今は社長として「会社」の開発に力を入れています。社長の仕事とは、会社を開発することにあると思っていますからね。
カイゼン・環境整備という視点では、当社はメーカーであり、モノづくりを通じて商品を供給できることが当社の強み・価値です。ゆえに、企業の隆盛は、工場の隆盛と連動すると捉えています。ゆえに、日頃のカイゼン・環境整備で力を磨きながら、魅力ある工場を作り上げていくことが、お客さまに魅力ある商品・サービスを提供できることになると考えています。
財務の視点では、家具はライフサイクルの長い商材でお客さまと長いお付き合いをさせていただく業種であること、当社が内製重視のメーカーのため相応の設備投資の機会が定期的にある業態であることを背景に、長期的な視点をもつ経営のための指標として重要視しています。そうでないと、挑戦を続けることは難しいですからね。成功するには目標に向かって諦めずにやり抜く信念が必要です。しかし資金が続かない経営ではやり抜けないとう現実がありますので、堅実な経営を大前提として、利益とキャッシュの創出のための経営を手掛けていきます。
――最後に、社員がモチベーションを高くもって仕事に取り組めるようにするために、企業としてどのような取り組みをされているのかをお教えください。
永野 先ほども申したように、ブランドコンセプトなどを言語化していますから、それをしっかりと社員が共有できるよう「NAGANO MIND BOOK」というものを製作しています。そして1年に1回は、「NAGANO MIND VISION発表会」を開催し、当社の方針などを発表する場を設けています。
ビジョンの中には「社員が誇りを持って仕事のできる会社にする」ということも言葉として示しています。自らの仕事について、どのようにすれば誇りに思えるのかというと、これはやはり周りからの評価なのです。仕事に打ち込むというだけで、誇りを持つことはできません。周りから褒められて初めて、誇りを持つことができる。現実的には、社員が最も誇りに思えるのは、家族や友人から褒められたときではないでしょうか。
私がまだ若かった頃、個人の目標は「友人に認められる家具をつくる」でした。当時私の友人からは「ナガノインテイアの商品はダサいよね」と言われていた。これが悔しかったのです。だから先ほどのような目標をもったのです。そしてその後10年ほどで、その友人が当社の商品を買ってくれるようになったのです。したがって、友人や親などから、自らが手掛けている仕事を評価してもらえること。「何かかっこいい仕事をしているね、面白いことをやっている企業だね」と言われることが、嬉しさと誇りを持つことにつながるのではないか、と思うようになりました。
当社は地域や社員の家族に参加していただけるイベント(NAGANOTE DEPARTMENT)を開催しています。あとは、「世界で通用するメーカーになる」と表明していますので、その意思表示としてミラノサローネへの出展も行っています。この出展自体が「情報品質」でもあると捉えています。気持ちだけではなく、行動のカタチとして表しているということですね。
家具製造業というものは隠れた仕事ではないだけに、企業の存在を知られていないと誇りは持てないし、生き甲斐も感じられないと私は思います。古くからだったら、例えば「大川のナガノインテリア」とか「日田のナガノインテリア」とか、何回も間違えられたことがあります。このような認知しかされていないので、「Made in Asakura」という言葉を商品に付けるロゴにも示しているわけです。
「朝倉市」という地名が少し有名になったのは、2017年の北部豪雨で集中的に被害を受けたことがきっかけでした。しかし、ネガティブな事象で自分の町を認知してもらうということに、私自身悲しくもありました。何かできることはないかと考えると、私たちの商品が1日200個ほど、全国に運ばれているわけですから、年に250日稼働したとしたら5万個です。その5万個に「Made in Asakura」と書いてあれば、少しは朝倉市の存在も認知が広まるだろうという発想です。「知られていない」という欲求不満から来るものですね。そのためにも当社は、しっかりと情報発信して認知していただく環境をより整備していきたいと考えています。
――お忙しい中、多岐にわたりお話いただき、ありがとうございました。
(聞き手 長澤貴之)






